【インタビュー】ReN、「何より効いた痛み止めが音楽だった」

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元レーサーというキャリアを持つシンガー・ソングライターReNが、2019年初のシングル「HURRICANE」をリリースする。ReNにとって初の海外レコーディング作であり、現地ミュージシャンとのセッションでアイディアをラリーしながら生まれレコーディングをしたこの曲は、セッションならではの高い熱量やグルーヴがパッケージされた。また一方で、内なる感情や葛藤をゴスペル的に昇華するようなカタルシスも持つ、美しい曲でもある。新たな感触での曲作りや試みで、ReNというシンガー・ソングライターの可能性を切り開いた1曲だ。

20歳で、音楽の世界に飛び込んでいったReN。2015年には、<百戦蓮磨2015>と銘打って年間100本を超える武者修行的なライブを行ない、また<FUJI ROCK FESTIVAL ‘15>への出演やONE OK ROCKのツアーに出演を果たすなど、大きな舞台も経験した。そのライブスタイルは、ギター1本とループステーションを使って、オーバーダブをしながらひとり多重演奏をし、自らのサウンドスケープを作り上げていくものだ。歌心ある弾き語りから、繊細なアレンジが効いたソウルタッチの曲、あるいはプレイフルな曲までその聴かせ方はさまざま。エド・シーランを筆頭に、国内外のさまざまなアーティストの音楽に触れてきたというReN。そこから自分の音楽にたどり着いていった経緯、ReNの音楽世界の背景について話を聞いた。

◆ReN画像ページ

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■ エド・シーランというミニマムな音楽の世界にある熱さ

── 今回はBARKS初登場となりますので、ReNさんの音楽的なルーツなども含めてじっくりお話をお聞きしていきたいと思っています。音楽を志したのは、どんなことがきっかけでしたか。

ReN:これは自分のなかでは大きな出来事だったんですけど、もともと自分は10代の頃からプロのF1ドライバーを目指していて、レーサーとして活動をしていたんです。でもレース中の事故でケガをしてしまったことで、音楽というものにたどり着いて。ケガをしてレーサーを引退した後に相当な葛藤があって、そのときに自分の好きなアーティストの音楽をずっと聴いていました。ケガをして身体がすごく痛いときとかに、何よりいちばん効いた痛み止めが音楽だったというか、音楽というものにそういうことを感じたときに、音楽に自分の思いを乗せてみたらすごいものになるのかなって思ったんです。それが最初のきっかけですね。

── そうだったんですね。

ReN:音楽の世界ってすごいなと思わせてくれたんですよね。自分の身に起きた出来事と、そのタイミングに起きた自分が感じた音楽とがスパークした。自分も音楽をやりたいって思うようになりました。

── 以前からギターを弾いたりしていたんですか?

ReN:ギターは、小学校2年生のときに初めて触ったんです。そのときに「スタンド・バイ・ミー」を弾くために4つのコードを覚えたんですけど、この4つのコードを覚えれば、その組み合わせで世の中のほとんどの音楽ができるよって教わったから、その4つを覚えたことで満足しちゃったんです。それでそのあとはまったく楽器を触らずに、車の世界に入っていったので。自分の精神を鼓舞してもらったりとか、完全に音楽は“聴くため”のものでした。だから、プレイヤーではまったくなかったですね。……ただ、自分にとっての武器と言えるものがなくなってしまったとき、昔触ったことがあるギターの4つのコードがものすごい可能性だと感じて。それは自分が何か高いところに行くためのものではなくて、自分の今の感情みたいなものを吐き出すための最高なキャンバスだと思ったんです。僕は当時日記を書いたりしていたんですけど、日記をただ書いていてもしょうがなから、それを歌にしました。

── 日記を書いていたのは、自分の心を和らげるような作用もあったんですか。

ReN:僕は小さい頃からスポーツをやっていて、そのときの精神が今も引き継がれていて。「悔しかったことを忘れちゃダメだ」みたいなことをすごい言われてきたんですよね。その悔しさが次の大会につながるんだという、スポーツ的な考えなんですけど。だから、自分は起きた出来事とかよりも、自分はこう思ったとか、こうだったとか、この人にこんなことを言われたとか、感情の面を日記に書いていたんです。それで自分的にはある種スッキリするというのもあるし、自分が今どういう状況に置かれているのかを冷静に見ることもできる。自分自身プレッシャーに強いタイプではなかったんですけど、そのなかで目指したいポイントがあったから、そこに到達するために、自分が今どういう状況にあるのかを書くクセみたいなものがあって。その目的が以前はレースだったんですけど、それがなくなったときに、この書いた言葉たちがただの紙くずになるなら歌にしようって思ったんです。

── そこで自分のギターの原点になった人はいますか。

ReN:それがエド・シーランというアーティストで。僕がケガをしたのが2014年で、19歳のときだったんですけど、ずっとレースしかやってこなかったから、この先どうしようかな、高校も辞めちゃったし、やべえなって思って。なんか、ちっちゃくなっちゃったな自分、っていう。レースをやっていたときからずっと聴いていたのがエド・シーランだったんですけど、胸を張ってたものが何もなくなってしまったときに、彼の音楽が全然ちがう聴こえ方をしたんです。いつもは自分を鼓舞してもらっていたけど、そのときは自分の痛い感情を語ってくれている気がして、初めて音楽に寄り添ってもらえた感覚があった。音楽に感謝をしたし、これが自分にとって響いたということは、自分は音楽っていうものにプラスアルファを感じとれる人間なんだなって思えたんです。こういう思いをした自分なら“音楽ってやばいでしょ?”ってみんなに伝えることができると思うし、みんなにもそういう思いを感じてもらえる曲をいつか作りたいなと思って、今に至ります。



── エド・シーランはレースをしていた頃から聴いていたということなんですが、レースのときってもっと高揚する音楽というか、アグレッシヴなものを聴いているのかと思ってました。

ReN:みんな言うんですよね。僕は逆で、落ち着きたいんです。クラシックを聴く人もいるかもしれないし、アップビートな曲を聴くとたしかに興奮状態に陥るんだけど、僕がいたレースの世界っていうのは極限の状態でいかに冷静にいるかが大切だったから。黙っていてもアドレナリンが出てきて、その次は恐怖心が出てきて、その恐怖心を取るためにアップテンポな曲を聴くと、どんどんその世界に入っていけるというのもあるんですけど。でも自分は、エド・シーランというミニマムな音楽の世界にある熱さみたいなものが、強いビートのものよりも合っていたんです。時間帯によって、聴く音楽はいろいろありましたけどね。朝イチとかはアップテンポな曲を聴くんですけど、レースの時間に近づいて行くに連れて、スローテンポの曲にしていったり。車に乗り込んで走り出して行くまでイヤホンをつけて音楽を聴いて、っていう感じでした。

── 10代にしてそういう精神状態のなかで闘っていくことって、なかなか想像できないんですが、かなりタフなものですよね。

ReN:自分は、学校に行ってこのまま順調に進んでいって、例えばクラスでいちばん頭が良かったとしても全然嬉しくないなって思っちゃったんです。小学校4年生、初めてギターを触った同じタイミングで、初めてF1レースを見るんですけど、そのときに見た景色が自分的には猛烈に、どんなおもちゃよりも欲しいものだった。そこに到達した自分に早く会ってみたいっていう気持ちが先行して。欲しいものを手に入れるためだったら頑張ろうっていう気持ちでやっていたんです。それがタイミングと出来事によって、音楽に変わった。レーサーから音楽、やっていることが20歳でまったく変わったんですけど、自分としてはずっと同じようにやってきているというか。車を降りてから音楽に辿りつくまでも1年経っていないんです。半年間、自分はどん底にいたけど、これだ!って思ってからはまた走ってこれたし。

── では、そこからギターの鍛錬の時間になるんですか?

ReN:そうなんです。そこから毎日、ずーっとギターばっかり弾いていて。4つのコードだけだと表現できる幅が限られているっていうことに初めて気づいてからは、自分の表現したいものを広げるために、曲を作りながらギターを学んでいきました。曲を作りながら自分のライブもイメージしたり、自分が表現するために必要なものを── それは今もですけど、常にフレッシュな気持ちで新しいものを探さなきゃっていう思いがありますね。

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