【インタビュー】minus(-)、2年ぶり新作『C』完成「僕が編んだ世界に石川さんが色を染めた」

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■楽理的には凝ったことをやっているんです
■誰も指摘してくれないんですが(笑)

──「ツバメ」以外は、石川さんに対して「こういうイメージの曲です」ということは、歌詞に関して全くおっしゃらずですか?

藤井:はい、「ツバメ」以外は一切。「ツバメ」も別に、「蛇足ですけど」というぐらいの説明でしたから。僕のほうからの石川さんへの注文は、「日本語詞ならば、絶対英語は混ぜないでください」ということだけ。そうしたら石川さんも、「あ、そのつもりはないです」とおっしゃっていたから。その時に「“アンインストール”とか、そういうのも無しですよ?」と言ったら、「あぁ、あれはカタカナなんです」と言われて。「おー! なるほど」って。「じゃあ、ご自由に」って。

──たしかに、潔く日本語詞が貫かれていて、英語は“ガラス”とか“グリフィン”とかぐらいしか入っていないですね。

藤井:そうですね、そういった外来語は入っていますけど。

──minus(-)では、ライヴで日本語ヴァージョンを歌われることはあっても、音源に残っている日本語詞はこれまで無かったですかね?

藤井:はい、日本語の詞はminus(-)ではないんですよ。

──日本語詞に踏み切られたのは、どうしてなんですか?

藤井:いや、石川さんが日本語で歌いたいとおっしゃるなら、と(笑)。単純にそれだけです。

──そうなんですね。「内側に向かう」では、2つの歌詞が並行して歌われるパートがあり、すごい技だな、と唸りました。

藤井:あれは、例えば前作『R』で言ったら「drop」だったり、SUILENで言ったら「鶏頭」だったり。まぁ、結構SUILEN的な手法なんですけど。メロディーを複数同時に成立させて絡むところで絡む、という。

──すごく難しいことですよね。

藤井:難しかったと思いますよ。この曲に限らず、石川さんは全体的にとにかく「難しい」とおっしゃっていました。

──藤井さんのそういった多旋律的な作曲方法は、オーケストラ的と言えますかね?

藤井:うん、楽理的には実は結構凝ったことをやっているんですけどね。誰も指摘してくれないんですが(笑)。“どうせずっとF♯の1コードだろ?”みたいなイメージがあるかもしれませんけど、実はいろいろと。

──藤井さんの曲は、このキーの中でこのコードが鳴っているのは気持ちいいとか、思いがけない組み合わせの発見がたくさんありますよね。

藤井:そのはずなんですけどね~。“今日は音がデカかった”とか“ちっちゃかった”とか、“右手がエロかった”とか(笑)。そういう感想はチラホラ見ますけど。音楽的な“この曲はこうだった”みたいな感想を聴きたくて生きてるのに……だからもっと言ってください! 他は何ですか?

▲『C』

──ええと(笑)、「この話の続きを聞きたいか」は、呪文のような、言語とは思えないような、人ならざるものの呻きのような……合間に入っている歌声が耳に残りました。

藤井:あ、あれは石川さんの十八番ですね。夜中のTVアニメでは聴かない日はない、というぐらいの。石川さんはそういったものをちゃんと勉強なさっていた方みたいなので。

──ミステリアスで、心がザワザワしました。石川さんが自主的に入れて来られたものだったんですか?

藤井:あれは、デモで入ってたかな? たぶん石川さんに自発的に入れていただいたような気がします。

──「ヨハネインザダーク」に、私は一番心惹かれたのですが……。

藤井:へ~。たぶんうちのファンが一番好きなのは「ヨハネインザダーク」だと思います。これも古いですよ、最初のデモは2004年とか。

──そもそもはどういう心情、気分の時に生まれた曲だったんですか?

藤井:オリジナルはすごくエロティックな曲だったんですよね。アレンジも今とは全然違った。このヴァージョンのアレンジになったのはいつだっけな? 去年5月ぐらいにはもうこうなっていたような……まぁ、ほぼほぼこんな感じでした。

──終盤向かうにつれ、昂っていく感じがすさまじいですよね。

藤井:はい、“やめてくれ~!”って感じの詰まり方してきますね。

──切迫感に満ちていて、ひたひたと追い詰められていくようで怖いというか。

藤井:うん、あれは危険です。僕でもイヤです。

──この曲をライヴで体感したらどうなるだろうな?と、今からドキドキします。

藤井:結構ヤバいと思いますよ? ライヴではあそこまでの圧迫感は出してないけど、こういった音楽に不慣れな人がライヴで聴くと、“すごいな”とは思うかもしれない。

──でも、この曲は『R』の時にあったんですよね。

藤井:はい。『R』の時にデモで1回出して、誰も何も言ってくれなかった曲なんですよ(笑)。“いやあ、これはちょっと……”とか、そういう意見が聴きたくて出したんですけど、無反応だったので引っ込めました。突貫で、「Spell」を書いたら「これいい曲ですね!」と言われて、「あぁ、そうですか」って。

──「Spell」はメロディアスでしたものね。「ヨハネインザダーク」はとりわけ歌詞が印象的で示唆に富んでいると感じるのですが、“人生は独り言の数とその質にある”と序盤で歌い、“これは私が編んだ世界だ”と結びます。

藤井:そう、“私が編んだ世界だ”というのは、すごーく僕も共感していて。僕が編んだ世界に石川さんが色を染めた、という感じがしていたので、“あぁうれしいなぁ、この詞は”と思いましたね、たしかに。

──石川さんが書かれた詞ですが、藤井さんがこの『C』という作品を紡いだことそのものを書き表しているような気がしました。

藤井:うん。だからやっぱり“彼女で良かったな”と思いましたよ、その詞を見た時。

──通底するものがある、ということですよね。私が編んだ世界だから“恐れるな”と歌っているのもすごく面白くて。迫り来る音が身体に響いてくるライヴでも、それで実際に命を奪われることはないわけじゃないですか? でも、そのぐらいの圧倒的な体験をできるということ。そういった音楽の魅力そのものを書き表している詞でもあるし。象徴的な曲で締め括られる作品だな、と思うんです。この視点も共感なさる部分ですか?

藤井:うん、たぶん石川さんだからこそ出て来た詞だと思うし、同じことを彼女以外に書けたり歌えたりするか?と言ったら、できないかもしれないですね。

──このお2人の組み合わせだからこそ生まれたものだ、と?

藤井:そう思いますね。僕はすごく満足してるから。

──すごい曲だと思います!

藤井:ありがとうございます。でも一押しは「Glass work」なんですけど(笑)。

──最後にお訊きしようと思っていました(笑)。

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