【インタビュー】嘘とカメレオン、「小難しいこと」を取っ払った最新作『JUGEM』

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1年7ヶ月振りのフルアルバム『JUGEM』をリリースする嘘とカメレオン。今年1月に発表したテレビアニメ『虚構推理』オープニングテーマである「モノノケ・イン・ザ・フィクション」も好評を得ている中で(先日、Spotifyでの同曲の再生数が、バンドの代表曲である「されど奇術師は賽を振る」を上回ったことは、これまで“嘘カメ”を知らなかった層にもしっかりと届き、支持を得ている証左と言えるだろう)、世に放たれる本作は、様々な音楽を咀嚼し、ハードもポップも巧みに操る変幻自在ぶりを洗練。その出来栄えは、聴き終わった直後に“めっちゃいい!”と快哉をあげずにはいられないものになっている。そしてそれと同時に、嘘とカメレオンの新たな表情……というよりも、バンドのコンポーザーである渡辺壮亮(G)と、歌詞を手がけているチャム(.△)(Vo)の核となる部分が、より強く表出したものになった。大充実作を完成させたメンバー全員に話を訊く。

  ◆  ◆  ◆

■小難しいことを考えずに

──アルバム『JUGEM』、めっちゃくちゃかっこよかったです。最後まで聴いたときに、“めっちゃいい!”っていう言葉が自然と出てきて……すみません、ちゃんとした説明になってないんですけど(苦笑)。

渡辺壮亮(G/以下、渡辺):いえいえ! それこそ今の言葉がすべてというか。今回は、聴いた人を語彙がなくなる状態にしたかったんですよ。今までは、こだわるところはこだわっていたけど、こだわりすぎると音楽的な良い/悪いよりも、そっちが目立ってしまうというか。たとえば、関係者に聴かせた第一声が“めっちゃ音いいね”みたいな。いや、もちろんこだわってるんだけど、そこは別にいいんだよな……っていう。じゃあ、そこにこだわりすぎるのをやめて、聴いたときにどう思ってもらいたいかをもっと明確に出そうと。

──なるほど。

渡辺:だから、“何々がどういい”っていう感じよりも、最終的に“うわ! めっちゃかっこいい! すげえ!”って、拳を握って走り出したくなるみたいな。それぐらい語彙力がなくなるようなアルバムにできたらいいなと思ってました。そういう意味では、初期衝動を取り戻した……というより、今まであまりそういうものを出してこなかったんですよ。だから、ようやく初めて初期衝動が出たアルバムになったかなと思ってます。そこは作曲者である僕だけが思っているところではあるんですけど。

──初期衝動を出してこなかったのは、バンドの見え方みたいなものを考えながら活動していたところが大きかったからでしょうか。

渡辺:そうですね。ビジネス面の話でいうと、やっぱりバンドって色が明確にないと聴いてもらえないと思うんですよ。でも、その色を決めるのが僕は大嫌いなタイプで。そこは最終的にバンド名に帰属する感じもあるんですけど、好きな音楽は片っ端から全部やりたいんです。その中で“嘘とカメレオンらしい”と言ってもらえるような音楽性を模索してきたつもりだったけど、今回はそういうものを、壊すというほど攻撃的でもなく、シンプルに気にしないようにするというか、一回置いておこうと。その上で出てきた嘘カメらしさは、嘘カメらしさとして確固たるものになると思うし、そこから外れたところは、自分が本来やってみたかったものとして浮き彫りになってくるかなと思って。なので、いろいろ言いましたけど、一言にまとめると、小難しいことを考えずに作ってました。

▲渡辺壮亮(G)

──チャム(.△)さんは、渡辺さんがアルバムの曲を出してくる中で、今までとはちょっと違うところを感じましたか?

チャム(.△)(Vo):新曲ってこれまでやってきた曲とまったく同じものではないじゃないですか。当たり前のことではあるんですけど。だから、私の中では“全部が等しく前とまったく違うもの”なんですよ。なので“新曲だ!”っていう感じでした。

渡辺:あなたは生まれてこのかたずっと初期衝動だしね。細かい計算とか苦手でしょ?

チャム(.△):そうかも。生き方と、音楽として出しているものが違うタイプの人もいると思うんですけど、私はまったく一緒なんですよ。周りからどう見られるか、どういう商品なのか考えることが大事な面もあると思うんですけど、それが本当にわからないというか。一例でいうと、“普通”がよくわからないんです。“普通”って人それぞれ違うんじゃない?って思っちゃうから、大衆にとっての“普通”が、感覚としてあまり理解できなくて。

渡辺:日本人的大衆迎合の感覚が一切ないよね。“周りが帰っていないから”っていう理由で残業とかしないタイプ。

チャム(.△):しないね(笑)。だから、大衆が言っていることとか、周りが思っていることを意識して歌詞を書いたことがないし、毎回デモから引き出される言葉しか歌詞になっていないんです。“デモから受けた印象:50”と“そのとき自分が考えていること:50”が混ざり合うのが私の歌詞なので、喜びだったり悲しみだったり、普段日常で考えていることが包まれていたり、剥き出しになっていたり、すごくリアルに出るんですよね。一見言葉遊びをしているように見えるけど、よくよく読んでみたら、自分の怒りがすごく入っていたり。ただ、それを単なる言葉遊びと思ってもらっても正解なんです。歌詞はどれも好きなように受け取ってほしいと思っているので、今回もそこは同じように、デモから受けた色とか匂いとか、自分が普段考えていることが歌詞になりました。

▲チャム(.△)(Vo)

──歌詞については気になることがかなりあるので、また後ほどよろしくお願いします。菅野さんとしては、渡辺さんが上げてきた曲にどんな印象を持ちましたか?

菅野悠太(G/以下、菅野):いつもより自由にのびのびと曲を作っている印象がありましたね。常日頃ではないんですけど、好きな音楽を共有しているので、この曲のこの感じはあのアーティストから来たんだろうなっていうのがすぐにわかるというか。だから、自分の好きなテイストを入れているんだなって。

──収録曲の中で特に感じた曲を挙げるとすると?

菅野:「リトル・ジャーニー」ですかね。パワー・ポップから展開が変わって、サンボマスターがモロに入ってるなと思って。その感じって前は出せなかったというか。

渡辺:それこそ気にしちゃってたんだよ、たぶん。

菅野:うん。バンドのことを気にして出していなかったニュアンスだと思うんですけど、それを自由に出してのびのび作っているから、曲も活き活きしているというか。初期衝動っていうのも伝わってきたし、無理をしていない感じがすごくいいなと思いました。

▲菅野悠太(G)

──渡辺さんとしては、ご自身のルーツをどんどん出してしまっていいんじゃないかと。

渡辺:そうですね。種明かしをすると、シンプルに時間がなかったというのもあるんですけど、小難しいことを考えずに好きなものをバンバン出していこうというところもありました。僕が曲を作る上で考えているのは、曲のジャンルとか方向性によってまちまちではあるんですけど、大別すると、それこそ「リトル・ジャーニー」とか「タイムラプス」みたいなポップ要素を挟んでいる曲は、誰かのために書いているというよりは、過去の自分を救ってあげたい気持ちで書いている意識がすごく強くて。「リトル・ジャーニー」なんかは、高校生の頃の自分に聴かせたら泣いて喜ぶと思いますね。

──「過去の自分を救ってあげたい気持ち」というのを、もう少し掘り下げてお聞きしてもいいですか?

渡辺:今もそうではあるんですけど、僕が高校生のときってものすごく鬱屈していたというか。友達が0人っていうわけでもなかったし、不遇な生活を送っていたわけでもないけど、物心がついた頃から集団生活に対する乖離みたいなものがずっとあって。そのピークが高校時代だったんですけど、自分が心の支えにしていた音楽の良さを、自分と同じように感じている人間が周りにひとりもいなかったんですよ。友達に自分の好きな曲を聴かせても、あんまりピンときてなくて。そのことに対して、すごく悪い意味で“俺だけ違う”みたいな感じがして、自分と同じようなセンスを持っている人間が周りに誰もいないつらさをずっと抱えていたんですよね。だから、未来からタイムスリップしてきた自分が、高校生の自分に“俺、いまこれをやってるよ”って聴かせたら、“うわー! 最高!”って言ってくれるんじゃないかなって。だから満足感というか、充足感がすごくあります。

──過去にもポップ要素を持った曲はありましたが、より洗練されている感じもありました。

渡辺:僕が思うポップなものって、色や匂いだけじゃなくて、記憶も付随してくるというか。曲を聴いた瞬間に、普段全然忘れていたのに、小さい頃に家族でお出かけしたときの帰り道をすごく思い出す、とか。そのメカニズムはいまだにわからないんですけど、たまに作れるんですよ。ポップネスを攻めたときに、その感覚を突ける瞬間があって。なので、「BIG FISH」とか「タイムラプス」とかは、自分の記憶を刺激するかしないかを頼りに構築していたところはありますね。

──そういったポップな曲も、ポピュラリティはすごくあるんだけど、さらっと流れていかないものになってますよね。ひねりが効いていて、引っ掛かりが多いというか。

渡辺:僕はポップを“みんなが聴けるもの”とは別軸で考えているというか。僕としては“引っ掛かるところこそがポップ”だと思うんですよ。曲のタッチ自体は大衆的だとしても、そこで語られていることが自分の中でのポップネスっていう感じなので。むしろ、ポップな曲にしたいと思ったときに、引っ掛かりを作れないとやらないと思います。思っている以上に、往年のポップって引っ掛けるところにこだわっているじゃないですか。子供の頃に何気なく聴いていたヒットソングを大人になって聴いたときに気づくことって結構あったりして。そういうところに感化されて、自分のポップの概念は構築されているなと思います。結局、そこは激しい曲も同じではあるんですけどね。

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