【インタビュー】RED ORCAの「始まり」

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3月上旬のある日、RED ORCAの面々に話を聞いた。そもそもは金子ノブアキのソロ・プロジェクトの発展形という形でのスタートを切った彼らだが、待望の1stアルバムを完成させた現在は、完全にその枠を超えた別次元の生命体へと進化を遂げていると言っていい。今回は『WILD TOKYO』と銘打たれたそのアルバムの全貌を解き明かすと同時に、このバンドの成り立ちのユニークさや、個性派揃いのメンバーたちの素顔、そして音を鳴らしていない時でもバンド内に発生する化学反応のあり方を探っていく。

  ◆  ◆  ◆

■やっぱライヴハウスでやりたいんだよね

──こうして5人揃った状態でお話を聞けるのは貴重な機会といえそうですね。まずは首謀者の口から、ここまでの流れを説明していただければと思います。

金子ノブアキ(Dr):そうですね。ライヴハウスで自分の得意とするスタイルで盛り上がりたいな、と思いまして。それでみんなに声を掛けました。

──意外と短い説明で驚きました(笑)。

来門(Vo):2行ぐらいで終わった(笑)。

金子ノブアキ:この3人(=金子、PABLO、草間)は僕のソロ活動からの継続でもあるわけです。その流れのなかで映画のために「MANRIKI」という曲を作って、そこにラップを入れたいな、と思って来門に声をかけて、それがRED ORCAの始まりになったんです。その時点ではまだベースの京ちゃん(葛城京太郎)には話をしてなかったんだけど、それから2週間ぐらいの間にどこに行っても彼と出くわす、みたいなことがあって。ライヴハウスに何かを観に行ったらそこにいたり、飲みに行ったらその店に突然入ってきたり。そこで“どういうことだ?”と思いつつも、人の縁みたいなものも感じて。

──もしかして葛城さんは金子さんのストーカーだったんですか?

金子ノブアキ:ちょっとその疑いはありました(笑)。

葛城京太郎(B):実はちょっと狙ってましたね、無意識のうちに(笑)。

金子ノブアキ:で、その時点から「セッションしましょう」って誘ってもらってはいたんだけど、“ああ、これはホントに一緒にやったら面白いかもな”と思いながら、その図を想像し始めて。僕、ドラムだから、いつもバンドを後ろから見てるわけで、そういう光景を妄想するのは得意なんですよ。それを思い浮かべながら“ああ、これは観てみたいな”と自分でも思って。だから自分自身が言い出しっぺであると同時に、すごくユーザーのような感覚も根本のところにあるというか。実際、後ろからバンドを観られるのはドラマーの特権のひとつでもあるわけですけど、この顔ぶれで演奏してる図がちゃんと思い描けたし、いい感じの風を起こせるだろうってことが想像できたんで。

▲金子ノブアキ(Dr)

──「MANRIKI」にラップを入れたいと考えたのは、先にバンドとしての設計図があったというよりも、あくまで楽曲に呼ばれた感じだったわけですか?

金子ノブアキ:そうですね。これはラップが入ったらカッコいいだろうな、と単純に思って。ちょっと前にRIZEのツアーで(来門が籍を置いている)ROSに一緒に廻ってもらってたりとか、そこでのがっちり現場に戻ってきた彼のスタンスとかにもすごく感銘を受けてましたし、やっぱり素晴らしいなと思ってて。「MANRIKI」のレコーディングの時には(ROSのベーシストであり元RIZEの)u:zoにも来てもらって。実は彼、ヴォーカルのディレクションとか、すごく上手かったりするんで。

──なるほど。来門さんは声を掛けられた時、率直なところどんな感触を?

来門:いやあ、めちゃくちゃ嬉しいですよね。金子ノブアキのビートでラップできるなんて、それだけで最高じゃないですか。あっくん(金子ノブアキ)のビート、間違いないから。緻密かつ、すごくグルーヴィなんで、ラップがめちゃくちゃ乗せやすい。これはもう絶対やりたい、と思いましたね。だから「MANRIKI」の話が来た時も3日ぐらいですぐリリックを書いて「できたよ!」と連絡して。もう、全速力でした。

▲来門(Vo)



金子ノブアキ:ライヴを初めてやった時に思ったんだけど、僕自身、これまでいわゆるラウド系というのをやったことがなかった気がするんですよ。で、ある曲の演奏中、京ちゃん(葛城京太郎)と来門とPABLOがこっちに来てみんな頭をガンガン振ってるのを見て“うぉーっ!”と思って。あれはめちゃくちゃフレッシュでしたね。ライヴをやるまでそこに気付かずにいるのもアレだけど(笑)、そういえばこういうのやったことなかったな、と。それこそ来門のことは10代の頃から知ってるけど、同じステージで一緒に何かしっかりやるというのは初めてだったし。一緒にツアーした時に何曲かやったこととかはあったけど。なんか、そういう巡り合わせもすごく尊い感じがしましたね。あと、そもそも漠然と僕のなかにそういうのをやりたいというのがあったわけですけど、それはやっぱり、そういうアウトプットがちょっと足りない時期でもあったからで。

──溜め込んだものが自分のなかにあって、それを吐き出したくてたまらない状態にあった。

金子ノブアキ:うん。ソロワークでアンビエントっぽいものをやるのももちろん面白いんだけど、やっぱライヴハウスでやりたいんだよね、ということでみんなに相談して。それでトラックを作って聴いてもらうところから始めたんですけどね。あらかじめ2人(=PABLO、草間)と一緒にやった「ORCA FORCE」とかがあったから、それを送って聴いてもらったり。みんなを口説く手前、そういうのがあったほうがいいのかな、と思って。



──PABLOさんはソロワークの時点から一緒だったわけですけど、あっさり口説き落とされましたか?

PABLO(G):ごく自然な流れでしたね。なんか経緯をよく憶えてないくらいなんだけど(笑)、その「MANRIKI」の流れもあったので、「サントラ用に曲を作るんだけど」「オッケー」「来門に歌ってもらおうと思ってて」「オッケー」という流れから……なんでバンドをやるって話になったんだっけ(笑)?

──こっちが聞きたいです(笑)。

金子ノブアキ:ははは! そこで「やろうよ!」って話になって、旧山手通り沿いのモンスーンカフェで来門との顔合わせみたいなことがあって。

PABLO:ああ、そうだった。そこで食べながら話をして。

金子ノブアキ:その3人とマネージャーだけでね。その時、草間さんは来られなくて。

草間敬(Syn):なんで行けなかったんだろう? 何か他の仕事が入ってたんでしょうね。でも、この話を聞いた時は面白そうだなと思いましたよ。元々、“あっくんがソロでひとりでやる。どうしようか?”というところから始まっていて。じゃあ僕が一緒にやろうか、と。で、2人だけだとアレだよねという話になった時、PABLO君の名前が出たんだけど、その時もすごい偶然があって。

金子ノブアキ:そうでしたね。ちょうどその時、僕はPABLOの連絡先がわかんなくなっちゃってて、うちのマネージャーに「自分でも調べてみるけど、ちょっと連絡先を誰かに聞いといてもらえない?」と頼んでたんだけど、そのマネージャーがThe BONEZの現場かなんかに向かったら、隣のスタジオにPABLOがいたんですよ。その場から連絡が来て「いましたよ」「電話代わって」みたいなやりとりがあって。

──そこでいきなり捕獲された、と。

PABLO:うん、まあ。そこから、あっくんのソロプロジェクトが続いてきて、お互い結構踏み込まないとできないことをやっていたので、ソロとはいえわりと深い形で関わることができて。その流れから、あっくんが新しいプロジェクトを立ち上げるとなった時に、そこに自分がいるのはごく自然な流れではあったんですよね。

▲PABLO(G)

──改めて確認します。たとえばRED ORCAの誕生を映画にするとなったら、まず金子さんがいて、以降の人物の登場順は、草間さん、PABLOさん、来門さん、そして葛城さんということになるわけですね。ベーシストについては当初、頭のなかに候補はいたんですか?

金子ノブアキ:いや、あんまり考えてなくて。でもまあ、京ちゃんがいなかったら全然違うものになってただろうな、と思うんですよね。そもそもはKenKenを通じての繋がりなんだけど。彼が連れてきた若いベーシストで、結構ツアー中とかにも観に来てもらってたしね。

葛城京太郎:何度かお邪魔させてもらって。

金子ノブアキ:リハの時に一緒に音を出してみたりとかね。その時点でもう、間違いないプレイヤーなのはわかってたから。それまでも「セッションやりましょうよ」「いいね」みたいなやりとりはしてたから、「じゃあ一緒にやろうよ」と。

葛城京太郎:僕、猛アタックしたら逆にプロポーズしてもらえた、みたいな感じだったんですよ。「付き合おう!」って言い続けてた相手から突然「結婚しよう」って言われたみたいな。「えっ、マジですか! しますします」っていう感じで(笑)。こっちからすれば本当に憧れの対象だし、一緒にやりたいって言ってもきっと「嫌だよ」とは言わないだろうな、とは思ってたんですよ。そしたらホントに「いいよ」って言ってもらえたんで「俺、結構しつこいんで、今日から毎日LINEしてもいいっすか?」って聞いて。

金子ノブアキ:そしたらホントに毎日来るようになりました。

葛城京太郎:「俺ホントにしつこいんですよ。怒んないでくださいね」って。そこから毎日連絡し続けてたら、ある時、「その件なんだけどさ」っていう文面が届いて。「ああ、これはきっと断られるんだろうな」と思ってたら「こういうプロジェクトがあって、こういうメンツなんだけど、一緒にやらない?」っていう内容で「いいんすか、ホントにいいんすか」って。俺、携帯に向かって「やります! お願いします!」って叫んでました(笑)。

▲葛城京太郎(B)

──ハタから見たら単なる危ない人じゃないですか(笑)。

葛城京太郎:で、その時期、ちょうどPABLOさんから仕事を振ってもらったことがあったりとか、そういう流れも実はあって。

PABLO:こいつ(=葛城)は僕にもすごくアプローチしてきてたんですよ。「付き合ってください!」ってアピールがすごくて、僕も現場には呼んだことがあるんです。結婚にまでは至らなかったけど(笑)。

──葛城さん、手当たり次第ですか(笑)!

葛城京太郎:そ、そんな(笑)。

PABLO:でも実際、そういう京太郎の前のめりな姿勢というか、そういう気持ちというのがすごくRED ORCAにとってプラスになってるな、というのを僕はすごく感じてて。もちろん音的にはいちばん最後に入ってきた形にはなるんだけども、そこで京太郎が入れてくるベースというのに、僕もすごく影響を受けてるし。逆に彼がいなかったら僕はどうしてたんだろうなって思うぐらい、今のRED ORCAの音のなかでひとつの柱になってる部分というのがあって。そこはやっぱりすごいなと思う。

──なんか葛城さん、赤面しつつ何かを言いたがってるようですけど。

(ここでPABLOが笑顔でパシッと葛城の頬を軽く平手打ち/一同爆笑)

PABLO:だからなんか必然的なものも感じつつ。そこでやっぱり京太郎にしか出せないもの、彼の人柄や音も含めて、そういうものがRED ORCAに喰い込んできてるなって感じますね。

葛城京太郎:いやー、感激です!

PABLO:なんかある種、京太郎のベースがこのバンドの音をすごくバンド然としたものにしてるというか、このベースが入ったことによってバンドサウンドになったな、と思ってて。

金子ノブアキ:間違いないね、そこは。

PABLO:今の僕はそれに乗っかる形でやれてるので、すごく助けられてるという部分もあるし、刺激を受けてるというのもあるし。

──皆さん頷いてますけど、そういう感覚はありますか?

草間敬:そうですね。最初にあっくんが作ってきた曲に、僕がコードとかを付けていくんだけど、それに対してさらに京太郎君がリハとかでやることによって、いろいろ逸脱していくところもあるんですね。でも、そこでなんか新しくメロディみたいなものを作ってきたりするから、それがすごく面白いんです。

▲草間敬(マニピュレート、Syn)

──逸脱しているようでいて、そこにケミストリーが生まれている、と。

来門:それは……(突然大きな声で)あります!

PABLO:ははは! なんかすごく“無い”寄りの“あります!”だったけども(笑)。

来門:いや、ありますあります(笑)。ラップをするにあたっていちばん大切なのはやっぱりリズムなわけなんで。このバンドのメンバーって、天才的なリズム感の持ち主ばかりなんですよ。逆に言うと、リズムだけでみんな音楽をやってるようなところさえある。だから、そこはものすごく反応しやすいというか。頭で音楽をやってるわけじゃないんです。ホントに自分たちの感覚で、血でやってる人たちだから。それこそ僕も楽譜なんか読めないし、音楽を血でやりたいほうだから、そういう意味でもこの4人と一緒にやれるのは嬉しいし、そこで化学反応みたいなものが起きて、俺もうまくそこに乗れてるのかな、という気がしますね。

──ビートで重なっているわけですね。鼓動を重ねるかのごとく。

金子ノブアキ:そうなる確信がありましたね。絶対間違いないっていう。開始2秒で「はい、オッケー」みたいな感じ。そうなるはずだってわかってたし、そう思えてなければ逆に僕も誘わないしね。

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