【コラム】文字で読む音楽~BARKS編集部の「おうち時間」Vol.45

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「本棚を見ればその人が分かる」という格言があるが、私の本棚の中身は6割がミステリ小説、3割が歴史小説、残りがその他ジャンル、という構成だ。とある心理テストによると、これは「非日常が好きなタイプ」ということらしい。私はおうち大好き人間なのだが、こうしてエンターテインメントに近い仕事をしているのだし、当たらずも遠からずと言ったところか。

今回はそんなミステリ小説が多めの我が家の本棚から、音楽が関わってくるミステリー小説を紹介しようと思う。自粛生活の長い夜を過ごす皆様のお供になれば……。

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■中山七里『さよならドビュッシー』

音楽ミステリ、といえば中山七里は外せない。彼の代表作に挙げられる、ピアニスト岬洋介が登場する「岬洋介シリーズ」の第1作目がこの「さよならドビュッシー」だ。『このミステリーがすごい!』大賞を受賞、映画化もされた作品なのでご存知の方も多いと思う。

あらすじ

ピアニストを目指す遥、16歳。祖父と従兄弟とともに火事に逢い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する──。
(裏表紙より)

この小説はミステリに分類されながらも、青春小説であり、スポ根小説であり、音楽小説でもありと、一冊でいろんな要素を楽しめる。実際に私も小説の中盤あたりはこれがミステリ小説だということを忘れ、「頑張れ!頑張れ!」と熱血気味に主人公を応援していた。そして気づいた頃にはもう遅し、この小説の仕掛けに「あああああ、そういうことだったのか!!!」と驚愕すること間違いなしだ。結末を知ってから思い返すとそこにもここにも伏線があったよな、と思わせてくれるので、本当に上手なミステリだと思う。

音楽的なポイントでいうと、演奏シーンの描写が素晴らしい。主人公がピアニストを目指しているため、ピアノを奏でるシーンも多々出てくるのだが、実際にその楽曲を知らなくても情景が目に浮かぶよう。ピアノコンクールでの手に汗握る緊張感もひしひしと伝わってくるし、文字が映像になって現れるパターンの小説だ。仮に音楽を全く知らなかったとしても楽しめる音楽ミステリだ。ポップな筆致でするすると読めるのもおすすめしたい点。

■奥泉 光『シューマンの指』

こちらも音楽ミステリといえば、でよく挙げられる小説。題名の如く、作曲家・シューマンだらけの一冊だ。本文中に何度「シューマン」という名前が出てきたのだろう……。ピアノの鍵盤に血のついた指の跡、というブックデザインも素敵だ。

あらすじ

音大のピアノ科を目指していた私は、後輩の天才ピアニスト永嶺修人が語るシューマンの音楽に傾倒していく。浪人が決まった春休みの夜、高校の音楽室で修人が演奏する「幻想曲」を偶然耳にした直後、プールで女子高生が殺された。その後、指を切断していたはずの修人が海外でピアノを弾いていたという噂が……。
(裏表紙より)

この作品では、何よりもまず作者の“シューマン愛”に脱帽。私は恥ずかしながらクラシック音楽に疎いため、大変勉強になった。ミステリー小説というよりは論文を読んでいるようにも思えるほど、微に入り細に入りシューマンについて書かれている。読む前にはシューマンのピアノ集を手元に準備しておくことをおすすめしたい。シューマンの音楽を知っているか知らないかで、大きく理解度が変わるだろう。

ストーリーとしては、後半の怒涛の展開に驚かされる。中盤まではほぼシューマン論なのだが、徐々にストーリーに陰影が現れ、後半に至る頃にはそれが二転三転、「え?」「……え?」の連続だ。冗長にも感じていたシューマン論も、全てはここに繋がる。ちょっと難易度の高い小説だが、まさに音楽ミステリな一冊だ。

■松本清張『砂の器』

上記2冊とはちょっと趣向が異なるが、こちらもピックアップ。30代前半女性(一応)としてはちょっと渋いかもしれないが、私はとにかく松本清張が好き。綿密な取材力、文章の表現力、圧倒的な作品数、極彩色で蘇る昭和モダニズム感と色々と好きなポイントはあるけれど、松本清張の文はすっと入ってくる感じがする。

あらすじ

東京・蒲田駅の操車場で男の扼殺死体が発見された。被害者の東北訛りと“カメダ”という言葉を唯一つの手がかりとした必死の操作も空しく捜査本部は解散するが、老練刑事の今西は他の事件の合間を縫って執拗に事件を追う。今西の寝食を忘れた捜査によって断片的だが貴重な事実が判明し始める。だが彼の努力を嘲笑するかのように第二、第三の殺人事件が発生する……。
(裏表紙より)

1960年に刊行された、松本清張の代表作のひとつ。前衛音楽を手がける新進気鋭の音楽家・和賀英良にまつわるミステリ小説だ。権力と名声と抗えない過去が、リアルに描かれている。犯人が見えそうなのに見えず、読んでいるうちにどんどん引き込まれていく。今の時代に読むとトリックはまさかと思うものだが、この小説は事件の犯人を暴くことが主題ではない。小説が書かれた当時も大きな社会問題であった、とある根深い背景を読み取らなければならない。

ちなみに読んだら絶対に映画も見て欲しい。小説とは違う視点で楽しめる。私は脚本家・橋本忍、俳優・加藤剛の追悼公演として行われた2018年のシネマ・コンサートで映画『砂の器』を見て、号泣した。現代風にアレンジされたドラマなども放映されていたが、もう絶対に加藤剛主演の『砂の器』が一番。あの、ピアノの音で語るシーンは忘れられない。



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と、1DKの部屋を圧迫する数百冊の本から3冊を紹介してみたが、世の中にはまだ未読の音楽ミステリーがたくさんある。まだ全然読めていない。もっといえば自粛生活に入る前に買い込んだ音楽ミステリー以外の本も大量に未読箱に積んである。これからも自粛期間は、というか一生、読書ライフは続いていく。

文◎服部容子(BARKS)

音楽ミステリに関係はないけれど、私のバイブルを挙げるとしたら新選組副長・土方歳三の生涯を描いた小説、司馬遼太郎『燃えよ剣』。生き様〜〜!


公開延期になってしまったけど、映画も楽しみ。

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