【インタビュー】SiM、MAHが語る4年ぶり5thアルバム「自分に正直に、この時期の自分がそのまま」

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■今までの人生において闘ってきたという意味
■4年間何をしてきたかという意味でもある

そうしてあくまで本来の自分に忠実な歌い方に徹したMAHだが、彼は今作に至るまでの時間経過のなかで、新たな武器も手に入れている。表現者としての視点が増えているのだ。ハッキリと言えば、家庭人、父親としての視点。それが彼の発するメッセージをより広い視野と、より強い説得力を伴ったものにしているのだ。

「やっぱ、そこは避けて通れないですね(笑)。しかも俺の場合、結婚したこと、父親になったことを公表したので、それが結構やっぱデカくて。特に日本だと、芸の道に生きるものはそこを隠すべきだ、みたいなのが何故かあるじゃないですか。特に音楽とかの場合は。そこで隠しごとをせずに済んだことが、結果的には武器になったかなって。それによって、本当は歌いたいことがあるのに歌わない、みたいなことをせずに済んだわけで。やっぱ子供が生まれて、日々、ちょっとずつ人間らしくなっていくというか、言葉をおぼえたりするさまとか、仕草ひとつを見ても感じることってあるし、やっぱ、それはとてつもなく大きなもので。今これを歌わなかったら絶対に後で後悔するな、というのがある。もっとオブラートに包んで抽象的に書くことも多分できたはずだけど、俺は自分の子に向かって曲を書くわけで、べつに誰かの子供に対して歌うわけじゃない。俺と奥さんのDNAを継いだ子だからこそこれだけ愛情が湧くわけで。それはもうその時期に作ったアルバムのなかで正直に歌うのがいちばんいいな、と思って。多分、若い子とかが聴いて“MAHさん変わったな”とか言うんだろうなと思うけど(笑)、いずれそういう子にも子供ができたらこの気持ちはわかるはずだし、ストレートに書こう、と。
 とはいえ、そのことについては全然意識してなかったし、私生活が自分の創作に関わってくるなんて思ってもみなかったんですけど、実際にその影響も出てきて。「FATHERS」を作っていて3拍子で大サビのメロディが出てきた時に、どんな歌詞乗っけようかなと思った時に、やっぱ出てきちゃったんですよね。“stop the time”という言葉がまず出てきて、そこで“どんな場合に時を止めたいかな?”って考えた時に、やっぱできれば家にいたいよなあ、とか。そうやって自然にそういう言葉が出てきちゃうので、それを止める必要は感じなかったというか。やっぱ俺もべつに四六時中、誰かを殺したいって思ってるわけじゃないんで(笑)。しかもGODRiも同じ年に子供が生まれてたりとかするし、SiMのライヴ・チーム、スタッフのなかにも子供ができた人たちがいて、打ち上げとかでも結婚とか子供の話ばっかりですもん(笑)。対バンしててもそうなんですよね。みんなそういう年齢になってきたから。“やっぱ結婚っていいっすか?” “子供ってどうすか?”みたいな話になる(笑)。それを隠して“俺らマジでイケイケだから”みたいなことやってたら嘘でしょ、と思うし。だからそういうことも歌いながら、というのがいちばんリアルだし、なにしろ今しか作れないものだと思うので」


「FATHERS」についてはタイトルからもそのものズバリなのがわかるが、たとえば先行配信されている「BULLY」では、いじめが題材になっている。それはこの楽曲のミュージック・ビデオの内容からも明らかだ。この曲に限ったことではないが、SiMの音楽にはどこか、立場の弱い者たちに寄り添った視点が伴っているようにも感じられる。

「それはなんか一個、自分のなかで……ポリシーとまでは言わないけど大事にしてる部分で。たとえば俺、ヒップホップはすごく好きですけど“金とドラッグと女はすべて俺のものだ”みたいな感じのやつは超嫌いなんです(笑)。下品だな、と思っちゃうんですよね。そういうことを歌うんじゃなく、友達がいないとか、お金がないとか、そういうことで悩んでるやつに対して“そういうの関係ないよ。ロックはいつでもそういうやつの味方だぜ!”みたいな。それはやっぱ、自分が助けられたからでもあるのかな。思春期の頃に聴いてた音楽とかにも、歌詞とか見てみるとそういう感じのものが多かったんですよね。当時はパンク・ロックばっかり聴いてたけど、たとえば大好きなBLINK 182に「Stay Together For The Kids」って曲があるんですけど、離婚について歌った曲なんですね。俺も両親が離婚してるし、きつい時期もあって。だけどそういう音楽聴いて、なんとなく歌詞を理解してパワーをもらったりしてたんで。なんか俺、ハッピーになれる曲が書きたいとはあんまり思わないんですよ。みんな楽しもうぜ、みたいなのは。俺自身がそういう人間じゃないので。打ち上げとかでも全然“ウェ~イ!”って感じじゃないんですよ(笑)。やる時はやりますけど、基本このままだし、なんか真面目な話とか、ついついしちゃうほうなんで。だからパーティ・ピープル向けの音楽は余所様に任せて、俺は隅っこのほうで“そういうのダリぃな”とか、“もっとハジケたいな、ホントは”とか思ってるやつに“わかるよ!”って声を掛けたいかな」

しかもMAHが口にするのはあくまで“わかるよ!”までであって“立ち上がって一緒に踊ろうぜ”といった具合に何かを具体的に提案するわけではない。「BULLY」の主人公に対しても“負けるな!”とか“今すぐそこから逃げ出せ!”と焚きつけるのではなく、“自分が変わる必要はない”というメッセージを送るところまでで留めているのだ。

「同調を呼びかけるようなことを言う気は全然ないですね。だから「BULLY」の場合も、実はあの歌のなかではまだ何も問題が解決してないわけです。ビデオでもそう。ただ、いじめはまだ続いていくかもしれないけど、そこでいちばん良くないのは、いじめる側の言葉とかによって自分が変わってしまうこと。それがいちばん悲しいことだから、“そのままでいいんだよ、おまえは”みたいな。俺も実際そうだったし。俺、他人に何を言われても“ああ、そう”みたいな感じなんですよ。わりと聞き上手だとは思う。ただ、それを実は全然受け入れてないだけで。それによって今まで強く生きてこられたと思ってるし、“MAHさんは芯が強いんですね”とか言われることもあるけど、芯が強いというよりは、自分に正直に、自分を変えずにいるだけのことで。それだけで解決することって結構あると思うんですよ。まず、相手を否定しない。その代わり自分も、受け入れてもらえることを過度に期待しない。相手を受け入れないんだから自分も受け入れてもらえないってことを覚悟したうえで、お互い共存していきましょうね、というのが俺はいちばん平和だと思ってて。それはある種、諦めてる部分もあるんだろうけど」

みんなが同じになろうとすることではなく、それぞれ違った者同士がひとつになれるということ。それが本当の意味での連帯ではないだろうか。だからこそMAHは、“みんな一緒だ。だからひとつになろう”と呼び掛けるわけではない。

「もう反吐が出ますね、そういうのは(笑)。何を言っとんねん、それは仲間がいるやつの台詞だよ、という感じで。しかもなんか、変わらないやつって、みんなをいつか振り向かせる気がしてて。たとえば俺、先輩とかから“じゃあ酒呑みに行こうぜ!”とか言われても、平気で“あ、今日は嫌です”って言えるんですよ。で、そうやってハッキリ言うから逆に気に入られたりもする。なびかないからこそ。そういう意味では、今が大変だったとしても結果的に仲間はできるはずだし、自分を強く持つこと、それがやっぱいちばんだなと思うんで。今、いじめられてる子のところに行って解決してあげることなんて俺には無理だから、どうやって生きていくかってこと、俺はこうしてきたよってことを言うことしかできないし。しかもやっぱ、嘘は嘘を呼ぶと思うんで。正直にいたほうが、やっぱいいと思うんですよね」


そんなMAH自身、そしてSiMというバンドの正直さが詰まったこのアルバムが皆さんの手元へと届く日が、今、こうして間近に迫りつつあるというわけだ。取材者特権でこのアルバムの音源にいち早く触れさせてもらった者として言わせてもらうならば、これはまさしくSiMの現時点における最高傑作であり、新たな物語の起点となるはずのものだと確信できている。だからこそ、現在の世の状況が恨めしく感じられもするわけだが、こんな事態にあっても彼らは然るべき時期の到来に向けて闘っている。そして実際、ここに至るまでの経過というのも彼らにとっては闘いのプロセスだった。アルバムの幕開けを飾る「No One Knows」では“人知れず自分がこれまでどれほど立ち向かってきたか”が歌われている。この曲について尋ねると、MAHは次のように答えていた。

「これは結構、考えずに出てきた言葉というか。やっぱ歌詞を書く時って、まずパーンと浮かんできた言葉に対しての“いや、待てよ”ってところから始まるんですけど、この曲の場合はもうホントに、出てきた言葉をそのまま歌詞として採用してるんで、多分本心なんですよね、自分の。まあ、今までの人生において闘ってきたっていう意味でもあるし、CDを出してなかったこの4年間に何をしてきたか、みたいな意味でもある。どちらにしても自分のことですね、これは。しかもそういった内容の曲でアルバムが始まって、最後は「FATHER」で終わるわけです。12曲目の「BULLY」は“俺は俺だ。決して変わらない”と言い切って終わってて、次の「FATHERS」で“君が俺を変えた”って歌ってるんですよ。そこもすごく気に入ってるんです。べつに曲順考えながら作ったわけじゃないんですけど、最終的にそういうメッセージでまとまったのは、この時期の自分がそのまま出てるからだと思う」

敵すらも味方に変えてしまう力を持ったこのアルバム。その楽しみ方は、聴き手の数と同じだけ存在しているはずである。

取材・文◎増田勇一



■5thフルアルバム『THANK GOD, THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES』

2020年6月17日(水)発売
【初回限定盤 (Disc 1 / Disc 2 / MAHによる2万字全曲解説書 / 特殊仕様パッケージ)】UPCH-29358 ¥3,600+税
【通常盤 (CD [Disc 1])】UPCH-20546 ¥2,500+税


▼初回限定盤DISC1、通常盤収録曲
01. No One Knows
02. SiCK
03. Devil in Your Heart
04. HEADS UP
05. BASEBALL BAT
06. Smoke in the Sky
07. BLACK & WHiTE
08. Crying for the Moon
09. YO HO
10. CAPTAiN HOOK
11. SAND CASTLE feat. あっこゴリラ
12. BULLY
13. FATHERS
▼初回限定盤DISC2収録曲
1. DiAMOND
2. NO SOLUTiON
3. LET iT END
4. LiON’S DEN


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