【ライブレポート】シキドロップの新たな挑戦

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6月27日土曜日、シキドロップ初の配信ライブが電子チケット販売プラットフォーム「ZAIKO」で放送された。これは所属事務所の創立29周年イベント<ONLINE LIVE 2020〜NEW WORLD PRODUCTIONS 29th Anniversary〜>の一環として行われたもので、シキドロップの出演は17時20分からの1時間。5月30日に開催予定で、延期になってしまったセカンドワンマンライブをフォローする場でもあり、未だ先の見えないコロナ禍の中での活動を模索する意味もある、シキドロップの新たな挑戦。そのステージを再現レポートしよう。

青い闇に沈むステージを、ぼんやり照らすスポットライト。スツールに腰掛け、マイクを握った宇野悠人がさりげなく歌い出すと、平牧仁のキーボードが後を追うようにそっと寄り添う。1曲目は「おぼろ桜」だ。無観客ゆえの静けさと緊張感の中に、独特の透明感と悲しみと優しさをブレンドした悠人の美しい声が響きわたり、LEDスクリーンに花びらが舞う。続く「ホタル花火」は打ち込みのビートを使い、ゆったり流れるリズムの上で仁の繊細でリリカルなピアノがよく映える。スクリーンには大輪の花火と、ホタル群れ飛ぶ幻想的な光。シキドロップのコンセプトである「四季」の風景の中へ、冒頭2曲で一気に引き込む流れは実にスムーズだ。


「今日は最後まで楽しんで僕らも歌いますので、みなさんも画面の前でぜひ楽しんで僕らの曲を聴いていただきたいと思います」

悠人の挨拶の後は、シキドロップの世界観を代表する1曲「シキハメグル」。春はあけぼの、夏は夜…ではなく「春は絶望」「夏は郷愁」と、斬新かつきわめて個人的な感受性で報われぬ恋心を描く仁の歌詞。無垢な悠人の歌はもはや悲しみを越え、遥か人生の彼岸を見ているかのよう。サビで二人寄り添うハーモニーがいい。配信ライブだからこそ、細やかな息遣いもはっきり聴こえるクリアな音響がうれしい。

と、緊張感高めの歌の世界をしっかり聴かせた後、MCタイムになると途端にくだけた自然体へと変身するのがシキドロップのライブの楽しさ。カメラに囲まれて「気分は音楽番組!」とおどけながら、タブレットを取り出してリアルタイムで届くファンからのコメントをチェックしたり、自粛期間中のお互いの生活を報告しあったり。ちなみに悠人は自家製梅干しとぬか漬けを始めたらしく、その楽しさについて熱く語りすぎ、「みんな、そろそろ曲行けって思ってるよ(笑)」と仁に突っ込まれたり。生ライブも配信も、プライベートでもたぶん変わらない、和やかな二人の人柄が画面越しに伝わってくる。

「次はアップテンポの曲を」と悠人が紹介した「優しい君が嫌い」は、現在ライブでのみ聴ける曲。仁の弾くリズミックなピアノに合わせ、緩急自在に軽やかに歌う悠人。アップテンポだが十分にせつなく、ほんのり優しく、シキドロップらしい1曲を、歌い終えた悠人が「泣けるけどポップ」と表現した。シキドロップの曲はいつも、いくつもの感情の複合体になっているから聴くたびに新たな発見がある。



再びの、タブレットを見ながらのコメントチェック。「思ったより繋がってる感じがある」と仁が言えば、「俺も!」と悠人が応える。ゆっくりじっくり聴き込むタイプのシキドロップのライブは、配信との相性がいいのかもしれない。これからの僕らの生活について「このまま前向きにやっていれば、必ず道がみつかると思います。一緒に乗り越えましょう」と仁。「この状況がなくなるのはだいぶ先だと思います。みんなで考えていきましょう」と悠人。二人の考えていることは、たぶん一緒だ。

「SNSにコメントを書き込む時は、その向こうに感情を持った人間が必ずいることを忘れないで。この曲を聴いて何か思うことがあれば、みなさんの中でぜひ変わっていただけたらと思います」

悠人の真摯な言葉に続いては、今年のシキドロップの活動の指針になったミュージックビデオ三部作の3曲。スクリーンに映像を流しながら、エレクトロファンク調の「行進する怪物」では不穏な赤いライトがぐるぐる回り、悠人が手を伸ばしてアクティブなパフォーマンスを見せる。「先生の言うとおり」は、間奏で仁が気合のこもったピアノソロを聴かせ、ラストは悠人の振り絞るようなシャウトで締めくくる。「そして物語は終わりを迎えます」──そんな紹介で歌われた「涙タイムカプセル」は、ドラムンベース調のクールなトラックに乗せて、悠人がファルセットを多用した技巧的な歌を聴かせる。SNS時代の心の病み(闇)を描くのが「行進する怪物」「先生の言うとおり」だとすれば、「涙タイムカプセル」はその向こうに見えるかすかな光と希望に手を伸ばす歌。印象深いアニメの映像と共に、シキドロップのメッセージがしっかりとリスナーの胸に刻まれてゆく。


そしてこの特別な配信ライブの最後に歌われたのは、最新アルバムのタイトル曲であり、結成3年を迎えたシキドロップの新たなアンセムと言える「ケモノアガリ」だった。仁の弾くピアノと悠人の歌だけで、しっとりとしかし決然と、新しい自分への生まれ変わりを宣言する力強いミドルバラード。「はじめまして」「よろしくね」。くしくもコロナ禍を経た新しい生活とシンクロするように、シキドロップの歌は2020年初夏の今こそとてもリアルに響いてくる。

「今日はありがとうございました」

深々と礼をして二人がステージを去るまでの、8曲1時間の濃密パフォーマンス。予期せぬ出来事が頻発した数か月を経て、しかし二人は相変わらず自然体だった。延期になってしまったセカンドワンマンライブ<ケモノアガリ>も、11月28日代官山SPACE ODDへの振替が決まった。その時世界はどうなっているのかまったくわからないが、二人はきっと変わらないだろう。シキドロップの新たな季節の始まりを、今はただ楽しみに静かに待とう。

文◎宮本英夫
撮影◎Tetsu Nishigori

セットリスト

1.おぼろ桜
2.ホタル花火
-MC-
3.シキハメグル
-MC-
4.優しい君が嫌い
-MC-
5.行進する怪物
6.先生の言うとおり
7.涙タイムカプセル
-MC-
8.ケモノアガリ

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