【インタビュー】UNCHAINが選んだ、進化への道

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昨年2020年にメンバーが脱退、3人体制として改めてスタートを切ろうとするUNCHAINに待ち受けていたのは、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曾有の事態だった。

メンバー同士、会うこともままならない状況が続いたことで、「どうしたらいいんだろうと、ずっと悩んでいました」と明かした谷川正憲(Vo&G)。感じ方に個人差はあったものの、先行き不透明な状況に置かれた彼らの転換点となったのは、リモート環境で“兎にも角にも作ってみた”という楽曲「Choices」だ。3人での活動における自信につながった「Choices」を含む、新体制初のアルバム『Animal Effect』には、進化したUNCHAINが詰まっている。

  ◆  ◆  ◆

■ちゃんと始まった

──『Animal Effect』の制作はいつ頃から、どんなふうに始めたのでしょう?

谷川正憲(Vo&G):今回は、ちょっと特殊な状況だったんですよね。去年の春にコロナが流行してしまって、さらに僕達はメンバーが1人脱退することが決まっていたんです。それで、まず脱退をどうするのかという話になったんですよ。3人で新たなスタートを切りたいけど、脱退ライブができない状態になっていたからどうしようかと。それで、脱退ライブはひとまず無期限延期にさせてもらって、でも脱退はしてもらうということになったんです。そうやって3人で先へ進むことになったけど、当時は3人で音を合わせるどころか会うこともできなかったし、僕はコロナ禍でメンタルをやられて制作意欲が落ちてしまったんです。スタートを切りたいけど、なかなかヴィジョンが見えてこなかった。それで、どうしたらいいんだろうと、ずっと悩んでいました。
吉田昇吾(Dr):去年の春頃は新しい生活にとまどいを感じて、慣れるのにちょっと時間がかかりましたね。僕はデジタルとか、リモートとかは本当に苦手なんですよ(笑)。それに、メンバー脱退の件もあって、当時は気持ちが沈みがちでした。

谷浩彰(B&Cho):僕は本来ならライブをしている日に家にいるというのが、もう不思議すぎて。なんなんだろう……みたいな感じで、ネガティブになりかかったりもしたけど、でも開き直れたというか。一晩寝たら、開き直れていました(笑)。

谷川:早っ!(笑)

谷:アハハ(笑)。でも、本当にがんばろうという気持ちになれたんです。

谷川:僕は、なかなかそうはいかなかった。でも、バンドとしてなにもしないでいるわけにもいかないので、6月頃にUNCHAINのYouTubeチャンネルを作ったんです。YouTubeの番組内で(メンバーの1人が)「今日で、脱退です」ということを告げて、リモートで演奏して……という。そうやって、形だけでも脱退のケジメをつけて3人で曲作りを始めたんですけど、スタジオには入らずにリモートでの作業という形になったんですよね。そういう中で『Animal Effect』の2曲目に入っている「Choices」を兎にも角にも作ってみようとなって、そこからようやく新体制のUNCHAINがちゃんと始まったという感じでした。でも、そのときは、まだアルバムという話は出ていなかったよね?

吉田:うん。でも、「Choices」ができたのは僕らにとって大きかったです。いい曲ができて、3人でもやっていけるんじゃないかなという自信を持てたから。

谷:そうだね。

谷川:「Choices」自体は、4人だったときに作った曲です。脱退が決まった後にアルバムを作る予定だったけど、その話は1回流れたんですよ。それで、「Choices」はずっと燻った状態になっていて、3人でスタートするにあたって、この曲がふさわしいんじゃないかと思ったんです。7月くらいに「Choices」ができたけど、僕はまだ気持ちが乗っていかなかった。結局去年はもうずっとフワフワしていて、本当に曲が揃って“よっしゃ、アルバム作ろう!”となったのは、今年に入ってからでした。

──そうなんですか? だとすると、『Animal Effect』は短期間で一気に作ったことになりますね。

谷川:始めてからは早かったです。

吉田:僕らはいつも「今回はめちゃめちゃ短期間で作りました」と言いますけど、『Animal Effect』は本当に早かった(笑)。集中して、一気に作りました。




──上質な楽曲が揃っていますし、新機軸も含めて曲調の幅も広くて、短期間で作ったアルバムという感じはしないです。

谷:ありがとうございます。『Animal Effect』はいろんな曲を入れることができたなと自分達でも思っています。僕の中で特に印象が強いのは、8曲目の「Dark Horse」ですね。この曲はギターのカッティングから始まって“ソウルミュージックきたぁ! R&Bきたぁ!”みたいに思わせて、サビはロックという(笑)。ビックリさせるような展開をするというのは昔のUNCHAINがよくやっていた手法で、この曲も全然違うものをうまく纏められたんじゃないかなと思います。

谷川:「Dark Horse」は、今回のアルバムの最後のピースになった曲です。アルバムに向けて曲が揃ったけど、最後にもう一声、もう一声みたいな感じになっていて、去年の12月頃に出てきたのがこの曲だった。黒っぽい歌中とロックなサビというアイディアが浮かんで、形にしたら“これだ!”というものになりました。あと、谷君から“昔のUNCHAIN”という言葉が出たけど、僕らは’96年に結成して2001年くらいまでは今の3人でやっていて、谷君と僕のツインボーカルスタイルだったんですよ。その復活というのも今回僕がやりたかったことで、特に「Dark Horse」は谷君にラップをやってもらいました。それも、“3の線”ではなくて“2の線”のヤツ(笑)。それが、うまくはまったなというのもありますね。

吉田:僕は谷君が歌っているのが好きで、もうそれだけで嬉しいんですよ。昔は歌っていたけど、しばらくなかったんですよね。今回それが復活したのが嬉しいし、昔のUNCHAINを知らない人は新鮮に感じると思う。「Dark Horse」も含めて、谷川と谷のツインボーカルは『Animal Effect』の聴きどころのひとつになっていると思います。

──同感です。さらに、谷さんは「Dark Horse」の歌詞も書かれていますね。

谷:今回僕が歌詞を書いたのは3曲目の「Wait For The Sun」と「Dark Horse」で、どっちも今の状況がテーマになっています。3人になったUNCHAINの状況だったり、コロナ禍の世の中だったり、僕の周りの友達の状況といったとこですね。「Dark Horse」は昔を振り返ったという感じで、“会いたい人にも会えない状態になってしまったけど、がんばろう”という気持ちや、“このバンドで、どこまでもやっていこう”というようなポジティブな感情を書きました。あとは、「Wait For The Sun」は日本語で書いて「Dark Horse」は英語にしようと決めていたので、「Dark Horse」は自分が日本詩では絶対に言わないであろう言葉をあえてチョイスしたりしたんです。それが楽しかったし、いい結果につながったかなという気がしますね。

吉田:今回のアルバムで、僕の中で特に印象が強い曲をあげるとしたら……「Choices」かな。さっき話が出たように、この3人になって初めて作った曲というのもあるし、この曲は結構凝ったことをしているんだよね?

谷川:うん。3人だった頃を思わせる大きな展開を“バン・バン・バン”とつけたし、間奏後のパートはドラムがシャッフルだけどギターが8分弾きで、ベースは4分でいくというリズムアレンジになっています。初期の3人時代は、そういう遊びを結構やっていたんです。だから、この曲は当時を彷彿とさせるところはあるかなと思う。ただ、昔の3人時代にはできなかった転調を駆使しました。1度1音半転調したあとにシャッフルのパートがきて、そこからさらに転調を繰り返して落ちサビにいくんですけど、落ちサビはそれまでのサビよりも半音低いキーなんですよ。その後のサビ頭で半音上がるから聴いている人はキーが上がったと思うだろうけど、実は最初のキーに戻っているんです。

吉田:マニアック過ぎる(笑)。

一同:アハハ(笑)。

谷川:そういう転調の使い方をしたのは初めてだよね?

谷:そう。だから、どう聴こえるんだろうと思ったけど、全然違和感はないんですよね。あと、僕は普段はベースで和音を弾かないんですけど、「Choices」はAメロ/Bメロで和音を弾きました。すごくきれいにはまったし、3人でもコード感を深めることができた。ギター1本でもいい和音が出せるんだなということが勉強になりました。

──「Choices」は普通に聴いていると心地よさに溢れた曲でいながら、実はマニアックな要素がいっぱいあるというのが最高です。「Choices」の歌詞についても話していただけますか。

谷川:この曲の歌詞は“Choices=選ぶ、選択する”ということがテーマになっているんですけど、新体制になった1発目ということで、3人になるという道を選んだ僕達についての曲でもあって。選ぶということは、それ以外の道を捨てるということだと思うんですよ。人というのは実はもう毎日、毎分のように、それをしているんですよね。朝ご飯をパンにするのか、ご飯にするのかとか、どんな服を着るのか、空いた時間に音楽を聴くのか、映画を観るのか……という感じで。なにかを選んで、なにかを捨てるということを繰り返して人間は生きているんだなと思う。これはある人の受け売りですけど、“捨てる”という行為を繰り返すことで人は成長していく、進化するんじゃないかなということを言った人がいるんです。その言葉のイメージと、今の自分達の状況をもとにして「Choices」という歌を書きました。

──選択を繰り返すことで強くなると同時に、より自分らしさが深まっていくような気がします。では、谷川さんの中で特に印象の強い曲をあげるとしたら?

谷川:迷いますね……。本当に強いて言うとですけど、1曲目の「Elephant Ship」かな。この曲は、いい曲を書きたいけど、なかなか作れないなという時期があって。マンネリしてきてしまうというのは毎度のこととしてあって、今回もそこに陥ったんです(笑)。最近はそうなったときにピアノ1本で作ってみることが多いんですけど、僕はピアノは簡単なコードくらいしか弾けないんですよ。右手はずっと同じコードで、左手のベース音だけ変わる……みたいな(笑)。でも、弾けないからこそシンプル化できて、僕にとってピアノはいい楽器だなというのがあって、「Elephant Ship」はそうやって作りました。それに、いつもはAメロ、Bメロ、サビ、Cメロみたいなことを意識して作っているけど、この曲はそういうことに捉われずに“ダァーッ”とできてしまった。それで、“あれ? サビはどこだ? Aメロはどうだっけ?”みたいな感じになったけど、別にそんなことは関係ないやと思って。これで、いいんじゃないかなと思って、そのまま活かすことにしました。




──「Elephant Ship」はネイティブな雰囲気や“アース感”のようなものが香っていて、UNCHAINのまた新たな魅力を味わえる1曲です。

谷川:僕もできたときに、今までにない感じのものだなと思いました。でも、これも1年間くらい燻っていた曲なんですよ。この曲はいつ手をつけられるんだとずっと思っていたから、今回のアルバムに入れることができてよかったです。

谷:「Elephant Ship」は、本当に新しいところにいけたなと思いますね。この曲はベースもほとんど8分(音符)弾きで、今までなかったんじゃないかなというくらいシンプルなんですよ。

谷川:コードも“D→A→G→A”だしね(笑)。

谷:そう(笑)。コードもすごくシンプルだし、メロディーもストレートなので、ベースもストレートなほうがいいのかなと思って、敢えてそういうアプローチでいきました。それも新しさを感じてもらえる要因のひとつになっていると思います。

吉田:「Elephant Ship」は、やっぱりコーラスが聴きどころですよね。BRADIOの真行寺(貴秋)君とか、中ノ森文子さんとか、沢山の方に参加していただきました。僕は歌っていないんですけど(笑)。

──あれ? そうなんですか?

吉田:はい(笑)。

谷川:最初に真行寺に歌ってもらったんですけど、彼がかなり難しいと言ったんです。この曲の合唱は僕の中では船乗りの掛け声をイメージしていて、誰でも気軽に歌えると思っていたんですよ。でも、真行寺が苦戦しているのを見て、そういう感じじゃないんだと思って、それで吉田は……ちょっと……ね……みたいな(笑)。

吉田:ハハハッ!! 

谷川:男性が多過ぎると“野郎感”が強くなってしまうというのもあったし。中ノ森さんには10人分くらいの声を入れてもらったんです。全部違う声色で歌ってくれて、すごいなと思いました。

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