【インタビュー】百足、『Episode Ⅲ』は過去の清算か、未来へのスタートラインか?

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■ずっと交互にブースに入って止まらないんですよ。
■向こうがリリック書けて自分が書けない状況がお互い悔しいから


──そして韻マンと共作のもう1曲、「夢物語」はどんなふうに?

百足:タイプさんが、韻マンと俺が乗れるちょうどいい真ん中くらいのビートを持ってきてくれて、「やってみなよ」と言ってくれたのが始まりです。まず韻マンがブースに入って、鼻歌を歌いながらリリックを書いてて、メロディが外から聴こえてたんですけど、「こういうメロディか」と思って、韻マンがフックのメロディを半分蹴ってブースから出てきた時に、「俺も入るわ」って、ずっと交互に入って止まらないんですよ。二人とも競争心が高すぎて、向こうが書けて自分が書けない状況がお互い悔しいから、韻マンがニコニコしてブースから出てきたら、こっちもさっと入って、3時間とかで完成しましたね。

──この曲は百足が《調子良いように見えるけどそんなことない》とか、韻マンが《決して薔薇色のような日々でない》とか。有名になった裏側のリアルみたいなことを歌ってるでしょう。

百足:俺と韻マンは、バトルのコメント欄と音源のコメント欄でひとくくりにされて言われることが多いんで、「いや、そんな華やかな生活じゃないよ」と。楽して稼いでるふうに見られてるらしくて、「バトルでちやほやされていいよね」みたいな言い方されるけど、「全然そんなことないよ。でも楽しんでるよ」ということを、軽いノリで言いたかったんですよ。この曲に関しては、変に二人がストーリー性を付けてじっくり作るというよりは、「ノリで作ったほうがいい」とタイプさんからも言われていたし、フリースタイルじゃないけど、二人がノリでパッと出してくる言葉をみんな面白がってくれると思うから、「そんなに考え込まないほうがいいよ」って、それがお題でした。じっくりスピーカーの前で聴くとかじゃなくて、ドライブに行った時に流れてて楽しめるような、キャッチーな曲って感じです。

──あらためて、百足と韻マンって、なんでそんなにフィーリングが合うんだろう。

百足:俺も韻マンも普通の家の子というか、別にヤバいバックボーンがあるわけでもなく(笑)。普通の人たちの、一般層の気持ちが理解できるからじゃないですかね。「特別なものは何もなかったけど、でも…」という言い方ができるというか、韻マンも同じ感じですね。

──ラッパーに限らないけど、逆境自慢みたいなことってあるでしょう。でも二人はそうじゃない。

百足:家が借金まみれで、母親はヤク中でとか、そんなリリック書けないから。しかも、俺や韻マンが好きで聴いてくれてる高校生とかも、それがヒップホップだという頭が多少はあると思うんですよ。悪い育ちで、ヤバい環境で、みたいな。でもそういう人たちに「それだけじゃないよ」ということを、俺と韻マンがこれから体現できればいいかなと。だから「Life is」みたいに「普通の人生だけど、でも…」という曲も入れつつ、ノリで書いた「夢物語」が際立てばいいと思うし、逆に「夢物語」のおかげで、ストーリー性のある曲が際立てばいいし、という感じです。

──そんなアルバムタイトルは『Episode Ⅲ』。これまでになくシンプルな。

百足:超シンプルです。1st、2nd、3rdは1枚ごとに別人だと思ってるし、アルバムの曲を揃えるたびに新たな人格が形成されるというか、たとえば1stだったら、明るいラブソングが3、4曲できたら、もうそのマインドの百足になって、そのままアルバムを完成させて終わらす。2ndはまた違う感じのものを何曲か作って、そこでまた人格が変わる。それに区切りを付けたいんで、「百足の新しい章が始まるよ」と教える意味でも、『Episode Ⅲ』はわかりやすいし、新しい第三章が始まったんだなと思ってくれればいいなって感じです。

▲百足/『Episode Ⅲ』

──ラップのスキルは、1st、2nd、3rdと、確実にアップしてる自覚はある?

百足:めっちゃあります。逆にもうバトルができなくなっちゃってるんですよ。バトルだけやってた時は、相手を負かす言葉や、8小節の中だから成り立つクサいセリフとかも考えられたんですけど、ちゃんと歌詞を書くようになると、等身大のことしか言えなくなっちゃう。前回の<凱旋MC Battle>(2月23日@ぴあアリーナMM)も、韻マンとの一回戦は良かったんですけど、二回戦は「俺、どうやってバトルやってたっけ?」みたいになっちゃって。相手の音源のことをディスるようになっちゃって、自分が一番嫌いだったスタンスになっちゃってるというか、「バトルのステージで音源のこと言ってくんなよ」と思ってたのが、自分が言う側になっちゃった(苦笑)。音源に力を入れすぎて、バトルだけやってる奴らを下に見ちゃうようになるというか、そんな自分も嫌で、「それは自分が変わったんだな」と思いますね。だから今後はバトルの回数も減らしていこうと思ったんですよ。今は1曲で物語のある曲を書いてるから、相手を刺しに行くワードが思いつかなくなっちゃって。

──書き方がまったく違いますからね。

百足:自分の、前のバトル動画を見るとこっ恥ずかしくなっちゃう。今は等身大であることが大事だと思ってるから、エンタテインメント性みたいなものが薄くなっちゃってるかもしれない。それを話したら、韻マンも同じことを言ってるんですよ。「バトルは難しい」って。だから今考えると、俺らが2、3年前にむかついてた上の人たちもこういう気持ちだったんだろうなって、再認識してるところはあります。たぶん今バトルの最前に出てる子たちも、曲をちゃんと書き始めたらそうなるし、そういうことなんだって感じです。結局どっちが正しいのか、わかんないですけど。

──正しい正しくないではないでしょう。優劣でもないと思う。

百足:バトルに出てたラッパーはみんな、同じ悩みを抱えてたんじゃないかなと思います。T-Pablowも、OZworldも、ちゃんみなも、みんなこういう気持ちでバトルを離れていったのかなとか。高校生ラップ選手権に出てた人たちが、音源が売れてくにつれてバトルから離れていくのは、何でかわかってなかったんですけど、2年越しにやっとわかった気がします。


──百足は、信じた道を歩んでいると思います。

百足:で、みんなが俺のバトルを見たくてそわそわしだした頃に、年イチとかで出て、エンタテインメントとして、フライヤーにバーンと名前が載る、そこがすべてだと思ってるんで。バトルどうこうじゃなく、出るってことに意味があるのかなという感じです。

──出るというアナウンスだけで湧き上がる。そうなったら最高でしょう。

百足:バトルと音源の数字は、全然違うんですよ。ヒップホップのミュージックビデオは50万回行けばすごいほうで、100万行けば全国のクラブでかかってる感じだけど、<凱旋MC Battle>の俺と韻マンのバトルは240万回ぐらいで、ケタが違うんで、だからバトルに出れる理由もそこにあるというか。

──これからは、バトルと音源の反響をうまく融合して、さらにステップアップしてほしいです。

百足:そうっすね。8月、9月に短いツアーをやるんですけど、名古屋、京都、大阪、広島、東京。ほかのクラブイベントは断って、そこに集中しようと思います。東京には韻マンが来てくれるので、一緒に盛り上げたいと思います。

取材・文◎宮本英夫

   ◆   ◆   ◆

百足はカラオケの第一興商が強力プッシュする8月度D-PUSH!アーティストに決定しており、『Episode III』に収録されている「夢物語(百足&韻マン)」が8月1日よりカラオケDAMにて楽曲配信され、歌唱が可能だ。また『Episode III』他収録曲も順次カラオケ楽曲として配信される。さらに、カラオケ演奏の合間に放映される音楽情報コンテンツ「DAM CHANNEL」内のD-PUSH!コーナーには百足&韻マンがゲスト出演し、パーソナリティとのトークを楽しませてくれる。ぜひカラオケ店やWEBで百足との出会いを楽しんでほしい。

3rd album 『Episode III』

2021年8月1日発売
1.restart
2.LINE
3.Freefall
4.夢物語(百足&韻マン)
5.Life is
6.Nervous
7.邪魔しないでよ
8.一人じゃない(百足&韻マン)

ライブ情報

『Episode III』リリースツアー
2021年8月8日 広島MUGEN5610
2021年8月9日 京都チャンバーズ
2021年8月21日 名古屋YABAI
※大阪・東京での追加日程あり

エントランスは3000円+1D
未成年入場可能

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