<第一回改造エフェクターコンテスト>、BARKS賞は「Cry Bear」に決定

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単なる筐体のお絵描きから大掛かりな改造/製作に至るまで、幅広く応募作品が募られたTC楽器主催<第一回改造エフェクターコンテスト>の結果が発表された。「とにかくエフェクターをもっともっと楽しもう」という趣旨のもとで開催されたコンテストだったが、グランプリ作品はもとより各協賛企業から選出を受けた受賞作品はどれも独創的で、奇想天外なアイディアあふれる個性満載のコンテストとなっていた。

数多くの応募の中から一次審査を通過した30エントリー作品の中で、我らがBARKS賞を受賞したのは、一瞥して「こいつアホやなー(笑)」と世のギタリストたちを脱力させたエントリーナンバー5の「Cry Bear」である。


なにより違和感満載のルックスがステキすぎた。ギターのピックアップが筐体トップにひょっこり鎮座しているエフェクターなんて、見たことがない(あたりまえ)。このピックアップの近くにモーターを設置し、フットスイッチを踏むだけで電動ドリルのモーターサウンドのお出ましですよというわけである。ドリルサウンドといえば、エディやTak Matsumotoあたりを思い起こすが(ポールはモータ音よりドリルピックだからね)、「Cry Bear」さえあればマキタも不要、カバンが異様に重たくなることもない(笑)。

「Cry Bear」を製作したのは東京都に住む40代のlenheyvanさん。こんな奇怪なブツを生み出したlenheyvanさんとは、どんな妖術使いなのか、本人に話を聞いてみた。


──<第一回改造エフェクターコンテスト>の開催を知り、最初に考えたことは?

lenheyvan:「またなんか面白そうなのがあるな、これは出したい」と思って、まず最初にお問い合わせしたんです。「改造エフェクター」ってことだったので「改造に限るのかな」とかいろいろ気になったので。でも、そういう制約はなく「エフェクターって楽しいよね」っていうところを大事にしているとのことだったので、「じゃあオリジナルでもいいんですね?」っていうお話をさせていただいて。

──なるほど。

lenheyvan:どうせであれば、既製品を改造するよりオリジナルで面白い方が、自分としても楽しめるかなと思ったんで、そういう方向で考えてみました。

──もともと改造や製作をやっていたんですね?

lenheyvan:やってました。自分の理想のサウンドになかなか辿り着けなくて、アンプもそう買い換えるわけにもいかないし、エフェクターも試すんですけど「なんかちょっとローが多いな」とか「ハイの抜けが弱いな」とかいろいろ思うところがあって、であれば「自分で改造して近づけてみればいいんじゃないか」とネットで調べ始めたのが、エフェクターを自分で作り出すきっかけでした。

──真面目なサウンドを追求したものも、手元にはあるんですね

lenheyvan:あります。

──なのに、応募は「Cry Bear」(笑)。

lenheyvan:今回はちょっとインパクト勝負だっていう(笑)。まずは普通の人がやらない度肝を抜くようなものはないかなと考えたんです。案はふたつあって、ひとつは今回応募したやつ。もうひとつは、学生の時にバンドメンバーのギターがたまたまラジオの電波を拾っちゃってアンプがしゃべり出すことがあって。

──ありますね。トラックやタクシーの無線を拾って、いきなりギターが喋り出すんですよね。

lenheyvan:そのときは「あいつ、スティーヴ・ヴァイになってるぞ」って(笑)。エフェクターでもブレッドボードでやってるとラジオの電波を拾うことがよくあるので、それを面白い感じに加工して出すのもいいかなって思ったんです。

──それは面白そう。

lenheyvan:ただ、電波がうまく拾えるかは環境に左右されるので、提出した時にうまく効果が出ないと意味がないからちょっと難しいかな…とそっちはやめて、モーター音でドリル音を模倣する方向で考えました。

──なるほど、実際「Cry Bear」の製作はスムーズでしたか?

lenheyvan:いや、すんなりとはいかなかったんですよね。ピックアップにモーター音を拾わせて、それをインプットと混ぜて出してあげるだけですごく簡単と思っていたんですけど、私の知識不足もあって取り寄せたモニターが電力不足で回らないっていう(笑)。時間もなかったんで諦めて電池でやることにしました。なのでACアダプターはLEDを光らせるだけなんです(笑)。



──サウンド自体は、イメージ通りでしたか?

lenheyvan:やっぱりちょっと野太さが少ないっていうか、甲高い音になり過ぎちゃう。モーター音も大きすぎるというのがあって、ボリュームを付けたりトーンフィルターをつけたりとかも考えたんですけど、外観にゴチャゴチャ付けるのもインパクトから外れちゃうんでここは割り切って。今思えば、内部で取り巻けばよかったのかなと思うんですけど(笑)。

──いや、そもそもマジメに音色を追求すること自体、ナンセンスな気も(笑)。

lenheyvan:元々はエフェクターのオンの時だけピックアップから音を拾うようにトゥルーバイパス仕様にしていたんですけど、そうすると、オフにしたときに醍醐味であるウイーンていうモーター音が、余韻なくブツって切れちゃうんですよね。

──あ、それはいかん。

lenheyvan:はい。これはさすがにもったいないなと思ったんで、常時回路を通すようにしたので、実用面を考えるんだったらスイッチャーで切り替えれば良いかなって感じにしました。



──モーターを回すスイッチはモーメンタリーなので、踏んでいる間だけギャオーンとクマが鳴く(Cry Bear)のも使いやすくていいですね。

lenheyvan:スティーヴ・スティーヴンスがよく光線銃を使っていましたけど、あれをボーカルの人がCry Bearの近くでビロビローってやってあげるとか(笑)、そんな使い方もあると面白いかなって。

──今回のコンテストには30作品がエントリーされましたが、他の作品はチェックされました?

lenheyvan:見ました。フォロワーさん界隈でも盛り上がっていて、みんなでこのコンテストを楽しもうという雰囲気がすごくありました。

──<第一回改造エフェクターコンテスト>がアホな連中を引き寄せたんですね(笑)。

lenheyvan:そうですね(笑)。みんなイカれた作品を出していて、ひとつの箱の中にものすごいたくさんのエフェクター回路を搭載している方もいましたし、なんかみんなすごい個性豊かだなあと思って、埋もれちゃってないかな?と思って心配しました。

──かなりヤバい世界ですね。

lenheyvan:これからもこういうのがあったら応募したいと思いますし、こういう機会があると普通はあんまり考えないような、ちょっとぶっ飛んだものを考えますよね。いつもは歪みを追求しがちなので、ちょっと違う方向のことを考えたりすることが、日常にフィードバックしていく好循環が作れそうな気がして、とてもいい機会をいただいたなと思っているんです。

──そもそも誰からも頼まれてないものを一生懸命作っちゃうバカバカしさも大事ですね。

lenheyvan:そうですそうです(笑)。何かを作ってヤフオクで売るにしても「…これは需要ないな」と思うと、作らなくなっちゃいますから。

──そんな作品だからこその、BARKS賞であります。

lenheyvan:ありがとうございます(笑)。昔、モーメンタリースイッチを使って「踏んでいる時だけ、センド&リターンに繋がったエフェクトがオンになる」っていうラインセレクターを作ったことがあるんです。ヴァン・ヘイレンの「アンチェインド」とかを弾くときに便利だと思って。

──確かに。あのフランジャーのオン/オフは慌ただしいですからね。

lenheyvan:そうなんです。モーメンタリーでできるといいなと思って作ってみたんですけど、エフェクターによって相性があるみたいで、うまくいくやつといかないのがあって、結局売っちゃったんですけど、あんまり注目はされなかったですよね(笑)。

──実用的でイイと思うけど、現実はそうなのか…。

lenheyvan:探したんですけど、そういうのが世の中になくて、誰か作ってても良さそうなのになあって思って、ないのなら作ってみようかって作ったんです。そういうのは自分では楽しいなあって思っています。

──lenheyvanさんの作品が、若い人たちへの刺激になればいいですね。

lenheyvan:私、最近はアンプもいじり始めていて、David Bray Ampsというアンプを海外から購入したんですけど、ハンドワイヤーなので好きにいじれるんです。アンプのことって全然知らなかったんですけど、林正樹さんという方の『真空管ギターアンプの工作・原理・設計』っていう本があって、それを読みながら「なるほど、真空管ってこういう原理で動いてるんだ」って調べていったんですね。自分の頭の中で鳴っている音にどうやったら近づけるんだろうといろいろやっているんですけど、アンプやエフェクターをいじるのって日本だと盛り上がりに欠けるかなと思っているんです。特にアンプの情報って、日本で調べようと思っても林さんの本くらいしかないんですけど、海外ではいろんなフォーラムでものすごく盛り上がっているんです。「カソードバイアスのとこをこういじったらこんな音するで」とか「ここにLED付けるとこんな風になる」とか、活発にディスカッションされているんですよね。

──ほう。

lenheyvan:日本でも敷居が低くなって、みんな気軽にいろんな楽しいことを生み出していって、それが他の人にとって価値のあるものになったり、新たに生まれてくるきっかけになると嬉しいので、そういう文化を創って行ければいいなあとも思います。日本では、「エフェクターって難しい」とか「アンプは自分で触っちゃいけない」って固定観念がありますよね。「みんな普通にいじれるんだよ」っていう風になれるといいなあとも思っています。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


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