【コラム】布袋寅泰、更新し続ける“最新のHOTEIが最高のHOTEI”。そしてGメッセ群馬凱旋2DAYSに見た40年の歴史体験

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布袋寅泰のアーティスト活動40周年を記念した全国ツアー<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?">より、追加公演として10月23日および24日に彼の地元である群馬県高崎市のGメッセ群馬で開催された『Hometown GIGS』BLACK/WHITEの模様が、WOWOWで全曲ノーカットにて独占放送・配信される。そこで、オンエアを目の前に布袋寅泰の40周年イヤーと地元群馬凱旋公演を改めて振り返ってみたい。

◆布袋寅泰 画像

『Soul to Soul』。魂から魂へ。音楽で世界を繋ぐ。布袋のアニバーサリーイヤーである2021年の活動を振り返ると、どうしてもその先駆けとなったアルバムのタイトルを思い出してしまう。本人曰く、「国も世代もジャンルも異なる魂が共鳴するニュアンス」でつけたというこの名前。その距離を超えたパフォーマンスの精神はまさに、2021年の様々な場面で彼が見せたものだったからだ。

年頭の武道館2DAYS。<HOTEI 40th ANNIVERSARY Live “Message from Budokan”>と名付けられた同公演は、新型コロナウイルスの影響を受けて、無観客生配信ライヴという形で実施された。開演前はあの百戦錬磨の彼をして無観客ということになんとも言えぬ恐怖と孤独を感じたという。けれどもいざステージが始まってみると、「今までのライヴの記憶が重なり、空っぽの客席に満員のオーディエンスを思い描くことができた。配信で観てくれる人たちを何よりハッピーにしたかったし、最後まで気持ちはブレることなく2日間を無事終えるとことができた」(※BARKSインタビューより)という。実際、画面越しに見るそのステージは有観客としか思えない熱さに満ちていた。世界中が分断化される中で、生配信によるライヴが、音楽が、世界を繋いだ。



6月にリリースされたアニバーサリーシングル「Pegasus」。これは『Soul to Soul』同様、布袋自らの手による宅録作品だ。リモートレコーディングされたドラム以外の、歌も演奏も録音もすべて彼が行っている。「それは孤独な作業でした。いいテイクが録れても誰も反応してくれないわけだから」。まさに無観客ライヴと同じ状況。が、この作品から聴こえてくるのは布袋ならではのギターバンドの高揚感に満ちたタイトル曲であり、自作詞を弾き語りする「10年前の今日のこと」のように初めて耳にする類のダイレクト感だったりする。ここでも気持ちで乗り越え伝わる、という景色があった。

さらには8月のパラリンピック開会式。障害を持つトップアスリートが出場する世界最高峰の国際競技大会がパラリンピックだ。大会を通じて共生社会の実現を促進することを目的として行われるパラリンピックは、これもまたコロナの影響によって無観客であったわけだが、開会式で聴かせた布袋のギターは1音1音、渾身のトーンで画面の向こうから響いてきた。身体のハンディキャップという壁を乗り越えて、力強く演技するパフォーマーたちを音で包み、セッションしながら。40周年を迎えた今年、あらゆる壁を越えて、音楽で世界を繋いできた。


▲<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』BLACK>10月23日(土)@Gメッセ群馬

そして9月からスタートした40周年記念ツアー<〜Double Fantasy Tour〜 “BLACK or WHITE ?”>。本当にひさびさの有観客ライヴだったゆえに、ここでは自身の地元・群馬公演、10月23日および24日のGメッセ群馬での模様を少し詳しく触れてみたい。7月に<HOTEI 40th Anniversary Special GIGS>が行われる予定が、ワクチン接種センターに指定されたことで開催中止になり、しかしそのわずか3ヶ月後、不死鳥のように蘇った同所でのギグについて。

「さらば青春の光」。新幹線が高崎駅に到着すると流れてきたのはあのメロディーだった。否が応でも布袋のホームタウン、という実感が湧き上がってくる。外に出ると広い視界と寒冷な風。東京から北西へ約100km、このロケーションがあの尖ったビートを生んだのか。

駅から徒歩15分ほどの距離にあるGメッセ群馬は、住宅地の中に忽然と、という形容がふさわしい巨大さで存在していた。場内に入ると早くも拍手が響いている。コロナになってから数少ない意思表示の手段として“お客さんの拍手”というものが注目を集めたが、はるか昔から布袋のライヴは開演前の拍手から始まっていたことを想う。幕が開く何十分も前から、渇望の度合いを示すかのように鳴ってきたそれを。そして本番。初日のそれはツアータイトルの<HOTEI 40th Anniversary>の部分をセトリの妙で体現していた。


▲<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』BLACK>10月23日(土)@Gメッセ群馬

開演。幕が開く途中から、堪えきれないかのように「BAD FEELING」がスタートする。続いて「Marionette」「ホンキー・トンキー・クレイジー」。さらには「RAMBLING MAN」と「NO MORE LIES」。BOØWYからCOMPLEXへ。これが1ブロック目の使われ方だった。同時に気になっていた“BLACK”と“WHITE”の色分け。例えば「ホンキー・トンキー・クレイジー」は往年のモータウンビートを基調としたブラックミュージックの気配もあることから、この初日=“BLACK”の日に選ばれたのか?などとも思った。

そういえば全メンバーが黒ずくめのその中に、武道館同様、サックスプレイヤーがいた。どういうパートのミュージシャンを加えるか、というのはライヴの方向性として非常に重要な部分だが、40周年を振り返るにあたってサックスという楽器ならではのムードを欠かせない、ということだったのだろうか?

MCを挟んでソロ時代の曲たちへ。『GUITARHYTHM ll』から「YOU」、『GUITARHYTHM IV』より「さらば青春の光」、『COME RAIN COME SHINE』から「PROMISE」と巧みに時代を追いながら、なおかつ同系の曲調でまとめていた。


▲<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』BLACK>10月23日(土)@Gメッセ群馬

中盤のアコースティックコーナーも選曲の妙だと感じた。最新シングルのカップリングである「10年前の今日のこと」、BOØWY時代の「MEMORY」、四年前の「ヒトコト」。単に明るいとか単に暗いとかではないニュアンスが弾き語りに近い形だと一言一句の単位で刺さってきた。

さらに新鮮な場面が続く。着席とスタンディングを繋ぐシーンとして、座ったままフルバンドでの「Stereocaster」。かつて布袋とCharはこんな感じでこの曲をレコーディングしたのでは?と思わせる光景でもあった。

本編後半は冒頭の時の流れを逆にしたようなセトリ。「Pegasus」からBOØWYへと回帰していく流れだ。この中で幻を見た。「TEENAGE EMOTION」の曲中、猛烈なカッティングを経て布袋の姿がみるみる若返っていくように錯覚したのだ。アンコールでTシャツで再登場したときも彼は20代のように見えた。そのアンコールは群馬公演だけのスペシャルナンバー「Great Messenger」。新幹線では上りホームで流れていた同曲は、その未来的な旋律でこれからを想起させる。そして「バンビーナ」をへてオーラスは「SURRENDER」だった。


▲<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』WHITE>10月24日(日)@Gメッセ群馬

そして同所での2日目“WHITE”サイド。セトリに関して言えば、この日は“黒”が“白”になった以上の変化を感じた。非常に時間軸を感じる内容だった初日に対して、この日は相当にシャッフルが入った感じだったからだ。たとえ同じ場所の公演であっても根本から変えてくる。それがツアーの公演回数分あるとしたら布袋のバンドのメンバーは生半可なことでは務まらないのだろうな、とつくづく思った。

さて。この日は時間軸という流れを意識しなかった分、もう一つの軸に耳がいった。それは布袋のギターの音色だ。ロックギター=歪んでいる、というのは楽器をやらない人でも持っているイメージだろう。が、それがどれほど歪んでいるのか?というのはあまり注目されない部分。筆者自身も今回、何気にそこに着目して、すごく驚いた。聴感上でいえば平均的なロックギタリストの1/2から1/3ぐらいしか歪ませて無いことに気づいたのだ。先日YouTubeを見ていたらサポートギタリストの黒田晃年さんがやはり「布袋さんは全然歪ませて無い」的な発言をしていたので間違いないところだろう。ただし、重要なのはその先。それでも時として十分に歪んで聴こえる、という部分だ。


▲<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』WHITE>10月24日(日)@Gメッセ群馬

その辺りは来るべきWOWOWの番組放送・配信で確認していただくとして、もう少しだけ群馬2日目のことに触れてみたい。たとえば中盤のアコースティックセット。この部分は初日と同じように時の経過を感じさせつつ、それでいて微妙に角度を変えてきているのが興味深かった。そのスタート地点は前日と同じ「10年前の今日のこと」でありながら、次曲はその名も「1990」。それをロンドンからの配信ライヴ時の超クールな弾き語りアレンジをベースに披露し、続いてギタリズム時代の聖歌ともいえる「LONELY★WILD」へ。前日は座ったままエレキで「Stereocaster」をプレイした部分が「FLY INTO YOUR DREAM」に変化していたのも魅せた。

また初日は「TEENAGE EMOTION」あたりで若き日の布袋が剥き出しになったが2日目も「NO.NEW YORK」ぐらいで同様の現象を見た気がした。そして最後にオッ!と思ったのはこの日のオーラスも前日同様「SURRENDER」だったこと。“BLACK”でも“WHITE”でもある曲として選ばれた同曲。そう思ってあの詞を思い起こすとなんとなく納得がいった。


▲<HOTEI 40th Anniversary 〜Double Fantasy Tour〜 "BLACK or WHITE ?"『Hometown GIGS』WHITE>10月24日(日)@Gメッセ群馬

ちなみにこのツアーに先立って彼は、BARKSのインタビューでこう語っていた。「とにかくいつも通り“最新のHOTEIが最高のHOTEI”を更新したいし、観にきてくれる全てのオーディエンスが元気になる、ハッピーで心温まるツアーにしたいと思います。お楽しみに!」

いつも通り“最新のHOTEIが最高のHOTEI”を更新したい。すごい言葉だと思う。アーティスト活動40周年でまだこう言い切れるなんて。年齢的には“いつも通り”であるだけでも驚異なのに、“最新が最高を更新したい”なのだから。が、言われてみれば2021年の彼の活動は、随所にこの言葉通りの軌跡をも残していた。

まず、観客がいなくてもいるかのような、歓声はなくてもあたかも発せられているかのようなステージ、ということからしてそうだ。ライヴの印象としては“いつも通り”だったし、それを実現するための難易度を考えれば最新の、40年という蓄積があるミュージシャンだからこそなし得た“最高のHOTEI”の姿でもあるだろう。

それからシングル「Pegasus」収録の新曲たち。タイトル曲は“楽曲を象徴するキャッチーなギターリフ”という王道を継続しつつ、これまで聴いたことなかったフレーズで更新していた。ギター弾き語り+本人のピアノというスタイルの「10年前の今日のこと」は、曲も詞もまったくの新境地。極限までシンプルなアレンジゆえ自作詞の内容が聴き間違えようのない直裁さで入ってくる。また納得がいくまで70回も弾き直したという坂本九の「上を向いて歩こう」にはギターが歌になる瞬間、「D.O.F. (Death or fight)」は『RIZIN』(テーマ曲を務める格闘技イベント)のオファーを面白いように汲み取ったコンポーザーの姿があった。

本作について「独りだからこそ、よりパーソナルな音や言葉を紡げた部分もあると思います」と答えていた布袋。この、どんな状況も〇〇だからこそ、と考え克服してゆく部分も彼の特質であり、それ自体が重要なメッセージになっていると感じる。40周年イヤーとなった今年中に目撃できた様々なことは、コロナという状況が逆に彼の真価を見せたと言えるかもしれない。



いかなる環境でも力を発揮できる男を証明した2021年の布袋。年末にはNHK『紅白歌合戦』に初出場、そして60歳の誕生日である2022年2月1日に20枚目のオリジナルアルバム『Still Dreamin’』をリリースする。ツアーでのMCによればライヴのメンバーで録音されたものなのだとか。この部分だけでもまた新たな展開だ。さらには、“常に果てしない夢を追い求め、それを体現し続けてきた布袋からのポジティブなメッセージに溢れたロックアルバム”という情報も伝わってきた。そのアルバム発売直後の2月4日には、初のドキュメンタリー映画『Still Dreamin’ −布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム−』が劇場公開される。「“布袋寅泰”という唯一無二のアーティスト、人間がどのような気持ちを軸に40年という長い年月を旅してきたか。単なる過去の映像やインタビューを繋ぎ合わせただけではない、ファンタジーとリアルが絶妙に絡み合う、ファンのみならず多くの人々に楽しんでもらえる映画にしたいと思っています」とのことだ。魂のこもった“最新のHOTEIが最高のHOTEI”はさらに更新されてゆく。

なお、前述したようにWOWOWでは、12月26日(日) 夜8:00から「『Hometown GIGS』 BLACK」、2022年1月23日(日) 午後5:30から「『Hometown GIGS』 WHITE」が全曲ノーカットで独占放送・配信される。

取材・文◎今津甲
撮影◎山本倫子

■WOWOW番組『布袋寅泰 HOTEI 40th Anniversary ~Double Fantasy Tour~ “BLACK or WHITE ?”』

▼『Hometown GIGS』BLACK
放送日程:2021年12月26日(日) 夜8:00
<WOWOWライブ><WOWOオンデマンド>

▼『Hometown GIGS』WHITE
放送日程:2022年1月23日(日) 午後5:30
<WOWOWプライム><WOWOWオンデマンド>

番組サイト:https://www.wowow.co.jp/hotei/

※全番組、放送終了後~2週間、WOWOWオンデマンドでのアーカイブ配信があります
※WOWOWオンデマンドでは、スマホやタブレット・PCなどで見られる無料トライアル実施中です

■20thアルバム『Still Dreamin’』

2022年2月1日(火)発売
【初回生産限定 60th Celebration Edition (3CD+60Pフォトブックレット+グッズ)】
※3面デジパック+スリーブケース仕様
TYCT-69229 ¥6,600 (税込)
【通常盤 (CD)】TYCT-60190 ¥3,300 (税込)
※初回生産限定60th Celebration Editionと通常盤初回プレス分には、応募抽選特典企画シリアルナンバーを封入。
予約リンク:https://hotei.lnk.to/StillDreaminPR

■映画『Still Dreamin’ -布袋寅泰 情熱と栄光のギタリズム-』

2022年2月4日(金)より2週間限定全国ロードショー
監督・脚本:石田雄介
企画・プロデュース:戸田和也
プロデューサー:伊達 毅 撮影:古長真也 照明:高橋謙太 録音:石寺健一 美術:寺尾 淳
ヘアメイク:原田 忠 牧瀬浩子 衣裳:高橋 毅 編集:松本雅憲
VFXスーパーバイザー:荻島秀明 VFXプロデューサー:侭田日吉
助監督:大場嵩之 制作担当:田中麻美 宣伝プロデューサー:菊地智男
制作:東北新社 配給:東宝映像事業部 (C)2022「Still Dreamin'」製作委員会
映画公式サイト:https://umusic.jp/hotei_moviePR
映画公式Twitter:https://twitter.com/hotei_40thMovie

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