【社長インタビュー】「ミュージシャンってエンジニアに向いているんですよ」

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社長室には数本のギターが壁にかけられ、その下にはEVH5150IIIのスタックが鎮座、社内廊下の壁にもあちらこちらにギターが吊り下げられているというロックンロールな会社がある。楽器関連企業ではない。株式会社ブレイバンステクノロジーズという、通信ネットワークシステムのエンジニア集団を抱える会社だ。


そして今もなおロックバンドで音楽活動に勤しみながら、当会社の社長を務めるギタリストがいる。代表取締役の山田和則、この人だ。

社内イベントでは社内メンバーでロックコンサートを開いてしまうほど、音楽家出身者が集まっているというブレイバンステクノロジーズだが、山田社長は「エンジニアとミュージシャンは共通点が多い」と語る。いったいそれはどういうことなのか。


──「エンジニアとミュージシャンは親和性が高い」というのは、どういう意味ですか?

山田:特にギターとかベースを演っている人たちって、自分が求めている音を探していろんなものを試すじゃないですか。エフェクターひとつでだいぶ変わってきますし、なおかつ出音のアンプでも変わっていく。最終的にはスピーカーでも音が変わったりして、何万通りというものすごい掛け合わせですよね。天文学的数字になっちゃうと思うんですけど、それでも求めるサウンドを探求する。ずーっとやるじゃないですか。

──ええ、そういう性ですね。


株式会社ブレイバンステクノロジーズ代表取締役社長 山田和則氏

山田:エンジニアって、アプライアンスっていうネットワーク関連の機器の組み合わせが膨大にあるんです。構成とかも一種一様じゃなくて、お客さんが求めるシステムの中身によって、構成やつなぎ方・設計など全然変わってくるんです。この組み合わせの探求が音作りとそっくりなんですね。

──おお。

山田:音楽の場合は最終的には「音」ですけど、ネットワーク事業の世界は「つながる」ってことなんです。このつながるっていうのは技術的には結構大変なことで、ここも最終的な目的は別なんですけれど、中身のプロセスがすごく似ていてそれが楽しかったんですよね。もともと音楽で追究するのが好きでしたし、それがこっちの世界も同じ匂いというかすごく親和性が高いなと思ったんです。僕がエンジニアになったばかりの頃って、意外とギター好きだったとか音響マニアの人たちが結構いたんですよ。

──探究するという本質的な素養が共通しているのか。

山田:そう、多分脳がそういうことに対して喜んでいるんだと思うんです。サウンドエンジニアもレコーディングの設備とか、かなりこだわるじゃないですか。あれも結局は同じ方向性なんですよね。僕も趣味が嵩じて自宅で録音とかする設備を揃えたりとかやってましたけど、あのへんも共通項で。

──もともと音楽好きの山田さんがエンジニアリングに目を向けたのは、どういうきっかけだったんですか?

山田:僕、プー太郎になっちゃっていたんですよ。ろくに学校いかなかったので。

──いいお話です(笑)。

山田:留年したあげく、同級の友達もいなくなっちゃって情報も回って来ないんで単位を取るのも大変で、足りない単位を全部取るために、月曜から土曜まで朝から晩まで学校行って全部履修しないとダメな状態になりまして、就活どころの状況じゃなかったんです。で、卒業してみたはいいんですけど、音楽の世界ではなかなか食べられない。毎日のようにバイトをしていた頃、たまたまTVでネット関連のドキュメンタリー番組をぼーっと見ていたら、データセンターの映像が映ったんですね。それがラックマウントされたエフェクターにそっくりで、「何だこれ、かっけえ」と思っちゃったんですよ。

──むじゃきか(笑)。

山田:1980~1990年代の洋楽が大好きだったので、あの当時のミュージシャンのシステムってラックにマウントされたエフェクターがブワッとあって、なかなか手が出ない代物だったので憧れがすごくあったんです。ネットワーク機器がそれにそっくりで、LEDも光っているし、こんなの毎日触れたら楽しいじゃんみたいな。そこから興味を持ったんですけど、あの頃はネットワークに関する技術書が一般に売られている時代でもなかったので、本屋さんに教わって学術書みたいなものを読んでみたんですけど、まともに勉強してこなかったのでさっぱりわからない。でも人間って動機が不純だと頑張っちゃうんですよね(笑)。カッコいいとかそういう思いでやっていると、あきらめないんです。あれがわかんないんだったらまずはパソコン自体を作ることからやってみようと秋葉原に行ったり、いろんな取扱書を読んでいろいろやっていくうちに、ちらほらわかる部分も出てきた。おもしろかったし、そこから真剣にやりたいと思ったんですよね。


──実際エンジニアに必要とされる素養は、どういうものになりますか?

山田:僕、思うんですけど、ミュージシャンがデモテープを作るときには、自分でシーケンサーで打ち込んでドラムトラックを録ったりとか、そういう作業をやっているんですよ。操作を覚えなきゃいけないわけで、単に音を奏でているだけじゃないはずなんです。理解が深まると幅も広がるので「楽しい」って思っている。昔みたいにシーケンサーなんて買わなくても、今はソフトやアプリで簡単にできちゃう時代ですから、それをいじるだけでもいろんな操作方法を覚えていくわけです。音楽をやっている人ってみんなオタク気質だと思うので、ハマって追究していくという意味では、あまり苦にならないんじゃないかなと思うんですよね。

──もともとエンジニアという人たちも、おもしろいと思って勝手に突き進んじゃうような輩ということですね。

山田:そうです。だから音楽系をやっている人は親和性が高いなって思うんです。うちの社員でも、やっぱりそういう人がいます。モヤモヤしていて何をやりたいかわかんないという人に、この話をすると、急に目を輝かせてどハマりしていったり。

──ミュージシャンみたいな人種はどうにも信用できない…みたいな価値観は、とうの昔に消え去っていたと。

山田:むしろ、好きなことに熱中してやっていっちゃう人って、ハマるものがあると徹底的にやっていくじゃないですか。エンジニアという仕事にはめちゃくちゃ合っていると思います。当社でも、手に職を付けたいという目的で来る人は、まあなかなか続かないんですよ。探求する気概がなくて、いやいや勉強している生徒みたいになって脱落していくんです。好きでもないし興味もないけど無理にやっている人たちは伸びない。とにかく探求していかないとダメですし、常に新しい仕組みとかテクノロジーが発達していくので、常にキャッチアップしていく感じですよね。

──なるほど、真理ですね。音楽は好きだけど探究には興味ない人もいると思いますが、そういう人はどうでしょう。

山田:僕はこの世界でやっていこうと覚悟を決めたので、一時は音楽を一切封印していたんです。全部売っ払って全部コンピュータ系の機材にあてがった。それが楽しかったので。なので、練習嫌いな人は厳しいかもしれないですね。音楽好きと自分では言っていて格好だけはミュージシャンでも、全然練習しないで上達しない人は厳しいと思います。でも上達する人って、別に練習しようと思って弾いているんじゃなくて、好きだから触ってるわけですよね。だから練習していることも苦じゃなくて自然な流れでできちゃうんですよ。そういう本を読んでいても楽しいって思える。日経Linuxみたいなオタクが読む雑誌も読んでて楽しかったですもんね。

──ギタリストがギタマガやヤンギを読むように。

山田:それと同じです。音楽やっている人はみんな読んで、そこに出てくるミュージシャンの言っていることを学ぼうと思ったり、機材のことを知ったりしますよね。

──「正解がなく常に進化し探究し続けていくもの」という点においても、音楽とネットワークテクノロジーは同じなんですね。

山田:同じなんですよ。限界がない。そこがおもしろいんです。弊社が事業として行っている領域は、戦争が始まったりするとますます必要になっていく分野でもあります。社内でも言っていたんですけど「戦争が起きたとき、今までのノルマンディー上陸作戦のように、大艦隊がやってきてそこから上陸してくる戦争はないよ。まずはインフラを麻痺させて、そこから一気に行くんだよ」って話をしていたんです。本当にそうなっていますよね。みんなが普通に使えている電気や水道・ガスも、みんな民間企業のシステムが管理をしているので、実はそこをやられちゃったら終わりなんです。

──インフラのインフラを支えているのか。

山田:社会的意義という意味でも大きなことですし、そういう思いで新しいテクノロジーを探求できるというのは、最高な世界と思うんですよね。


──山田社長は、今でも音楽は演っているんですよね。

山田:はい。音楽は別に仕事の邪魔をしないですからね。

──ブレイバンステクノロジーズで求人するときは、どんなスペックの方を求めますか?

山田:スペックは見ていません。やっぱり情熱があるかどうかだけなんですよ。音楽をやっている人で、バカだなって人はあまりいないと思っているんです。結構理解力がある。だって、音を聴いてそれで何をしているかを感じ取れる能力を持っているわけですから。それなりにみんな洞察力も持っているし、本気な気持ちさえあれば絶対ものになると思いますね。

──なるほど、それもまた真理ですね。

山田:この業界で言えば、ハマれば絶対ものになると思うんですけど、他の会社に行っても当然その部分がハマれば絶対に伸びると思います。音楽の話もできるほうが僕は楽しいと思いますしね。

──知識やスキルなんかより情熱か。

山田:そうです。もっと言えば、おそらくこういう業界の人たちって、資格の勉強がうんぬんではなく、興味を持ったらやり始めちゃう人たちだと思うんです。僕はギター始めてヴァン・ヘイレンをスゲーと思ったんですけど、音楽理論の本からは入らないですよね?とりあえずボロいギターでもいいから手に入れて触るってことからやるでしょう?そこからだと思うんです。サッカー選手になりたいと思った子どもはルールブックから入らないじゃないですか。まずはボールを蹴りますよね。そういうことだと思っています。

──何か自分でも行けそうな気がしてきました(笑)。

山田:うちの会社も、みんな楽しそうにやっていますよ。その上で社内でバンドを組んでみたりとかやってますね。人によってはそれを聞きつけて「俺もバンドやれるんだったらこんな最高な環境ねえじゃん」って入ってくる人もいます。

──TVに映ったラックマウントの機器をみてカッコいいと思っちゃった人が代表を務める会社ですもんね(笑)。

山田:あれは衝撃でしたよ。ヴァン・ヘイレンの「Hot for Teacher」のビデオクリップを見たのと同じくらいの衝撃だった(笑)。それで気が付いたら自分で会社をやっていましたからね。


──音楽しか取り柄がないと思っていた人には心強く嬉しいお話でした。

山田:ITだけじゃなくて、こういう技術を追求する世界は色々あるんじゃないかなと思いますよ。

──ちなみに山田社長はこれまでどういう楽器を?

山田:いろいろ買っちゃ売ってを繰り返してきましたね。アンプなんかもいろんなのを使っていました。未だに定まっていないですけどね(笑)。今のアンプって歪みやすくなっているので、どんどんはまっちゃいますし、かといって昔のアンプがダメかと言ったら、あれはあれで良さがあって欲求が止まらないですね。

──最近手に入れた楽器はありますか?

山田:昔はハードロックとかメタルばっかりだったので、どちらかというとストラトシェイプでフロイド・ローズ乗っかって1ハムっていうのが好きだったんですけど、最近手に入れたのは全然趣味が違うんですけどES-335なんですよ。カスタムショップ製なんですけど、ビグスビー付きってやつ(笑)。最近ブラック・クロウズにハマっちゃって、それで。彼らはグレッチとかも使っていましたよね。ああいうのを見ると、どんどんオーセンティックな古い方にいっちゃうんですよね。あそこ行くとさらなる沼にはまっちゃって、いくら稼いでも間に合わない(笑)。そそられちゃうんですよね。


   ◆   ◆   ◆

株式会社ブレイバンステクノロジーズでも、山田社長の人柄もあって、個人の音楽活動を支援する社風の元、今もなお音楽を楽しんでいる社員が多いという。世の中では働き方改革が求められるなか、仕事と趣味の両立に理解のある組織は有り難い。

プロミュージシャンの世界においては、音楽だけで食っていくことが極めて困難な昨今のエンタメ事情となり、音楽が専業と成り得る時代は極めて非現実的な世界となった。音楽活動の多様化はそのような背景からも加速が進み、新しい音楽活動のあり方は音楽以外の才能をどのように引き出し切磋琢磨すれば道が開けるのか…このインタビューは、その生き方のヒントになるであろう希望に満ちた話でもある。音楽に人生を注ぐ人々にとって、ここから学べることがあれば幸いだ。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)

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