【押し入れに眠るお宝楽器を再生させよう】第3回 アルトサックス編

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■ネックコルクの交換はクラリネットと同じ

ネックコルクやマウスピースについても説明してもらった。まずは、ネックコルクについてはそれほど頻繁に交換するものではない。数年に一度でよいとのこと。

「ネックコルクは古くなって、マウスピースが緩いとか、奥まで入りすぎるという時に部分的に交換します。この作業は時間がかかります。剥がして、きれいにして、15㎝×15㎝ぐらいのシートのコルクから長方形の形に切り取って巻いていきます。ただ巻くだけだと折れてしまったりするので、『なます』といって木の棒で擦りながら柔らかくして丸みをもたせて巻いていきます。」


▲ネックコルクは問題なかったので交換作業は割愛。手順は第1回を参照のこと。

作業については第1回のクラリネットのリペアと同じ手順となる。詳細はそちらを参照してほしい(https://www.barks.jp/news/?id=1000203582)。ただ、手順は同じだが、サックスのネックはクラリネットよりも径が小さいので作業はより大変だという。

「マウスピースはグリスを薄くつけて差し込んでいくのですが、基準として残り1㎝ぐらいをめどに差していきます。マウスピース自体はいろいろな種類が販売されていて、みなさん好みで付け替えていますね。

メーカーごとに違うのはもちろん、同じメーカーの中でもサイズがいろいろあります。吹くところの角度や、リードをつけた状態での幅、空き具合の角度がいろいろあるので。」


▲マウスピースは樹脂製の本体に金属製のリガチャーが巻かれている。このリガチャーでリードを挟み込んだら、リガチャーのネジを回して固定する。普段のお手入れではリガチャーを外したらリードとマウスピースは水洗いで清潔に。ただしリードは水につけっぱなしではふやけるので、水分を拭き取るのが重要とのこと。

「アルトサックスのネックのサイズは、メーカーによって穴の形状が少し違うこともありますが、ほぼ同じです。ただ、マウスピースのこの黒いところ、今回の楽器はエボナイトという樹脂の材質なのですが、メタル製のものもあります。ジャズやポップス系の方はメタルのマウスピースを使っている方も多いですね。メタル製は音がバリバリ、パキパキになります。」

「あとはこのリガチャーという金属の留め金、これもいろいろな種類が出ています。これはネジが2つですが、ネジが1本だったり、あとは材質が違ったり、メッキが違ったりで音色がかなり違ってきます。リードを止めている金具でリードが振動して音が鳴るので、振動した時にメッキのかかりによって振動が変わってきます。それでメッキの種類とマウスピースの種類は膨大にあるんです。」


▲マウスピースをネックに取り付けた状態。

──リードはどのくらいもつのですか。

「使う頻度にもよりますが、頻繁に使う方は1カ月くらいですね。サイズと厚さがいろいろあるので慣れてくると厚めのものを使ってちょっと太い音を出したり。」

──逆にリードはプレーヤーの皆さんが自分で取り替えるところなので普段のメンテナンスではマウスピースは触らないということですね。

「そうですね。作業するのはネックコルクから下の部分ですね。マウスピースはプレーヤーの方でいろいろ選んでいただいて、というところです。たとえはマウスピースを交換したり、違うメーカーのものにした場合、今まで入っていたコルクの厚さだと少しゆるいとか、きついということがあるので、その時はコルクを削って薄くしたり、緩すぎたら交換してきつくするという調整をします。」

「ネックコルクの交換は、比較的多く依頼があります。マウスピースを変えたいとか、長年使っていてそろそろコルクを交換したいという方がいらっしゃいます。逆に耐久性の問題で交換する頻度は多くないですね。」

■タンポの分解

今回はタンポを分解して、中を見せてもらうこともできた。


▲外周にカミソリを入れて中の素材を取り出して確認する。

▲左から底面、フェルト、革、一番右がブースター。

「外側の革を開けると中にフェルト、台座が入っています。中央部に穴を開けていて、金属やプラスチックの芯のようなもので貫通するように留められています。これは金属ですけどもともと純正のものはプラスチックのものでパカッと嵌めて留めてある感じですね。」

「外側の革は羊や豚、牛といった動物の革です。毛穴が多いものもありますね。たまに黒っぽいパッドでカンガルーの革を使っているものあります。この素材で音は変わります。」

──パッドの値段はいくらぐらいですか。

「200~600円くらい、大きくなると高くなります。たまにパッドだけ買っていきたいという方がいらっしゃいますが、買っていっても合わせるのが難しいのでお勧めはできません。ぜひ調整に出していただきたいですね。」

■手入れの基本は水分を取ること

──最後に読者の方にメンテナンスのメッセージをお願いします。

「管楽器は水分を嫌いますので、温度湿度の変化をなるべく避けていただきたいです。とは言っても温度管理は難しいので、通常使っている範囲でご自身が過ごされていて不快にならない場所に置いておく。たとえば夏は湿度の高い暑いところを嫌がりますし、寒い時はエアコンの効いた部屋や乾燥しているところも嫌がります。なるべく温度差、湿度の変化の少ないところに置いておいて、使っていて出し入れしていれば問題ないです。数カ月使わない場合は、たまにケースを開けて風通しをしてあげることが必要になります。」

「普段使っている時は、スワブをこまめに通していただくのと、クリーニングペーパーというあぶらとり紙みたいなペーパーでパッドの表面の水分をこまめに取っていただければと思います。サックスは特に閉まっているところに水分が溜まりやすいので、たとえば上のハイキー、常に閉まっているところですね。あとはG#キイ、ここも常に閉まっているところですね。あとは先ほどのLow Esキイ、あとはCis(チス/C#)キイも常に閉まっているので、水分が溜まってくるとベタつきやすくなってきて、ひどいと開かなくなったりするので、こまめにペーパーを使って水分を取っていただくのが重要です。」

「練習が終わったあとだけではなくて、練習の途中でももし水分が取れるようであればこまめに取っていただいて、水分が下に行かないようにしてあげるのが重要です。なかなか練習の途中でスワブを通したりペーパーを使ったりという時間もないかと思うのですが、休憩の時間や、学生さんであれば他のパートが当てられているときなど少しでも時間があればペーパーで水分を取っていただいて……。どうしても練習が終わったころは水分が下まで行ってしまいますので。」


「特に学生さんに多いのですが、練習が終わると『すぐに片付けなさい』と言われることが多くて、『家に帰ってからクリーニングすればいいや』となりがちです。教室でレッスンをされている方だと、次の生徒さんが来るのですぐ片付けて『お家に帰ったらクリーニングしよう』という方もいらっしゃいます。その時点ではタンポが水分を吸ってしまって、中にはもう水分がなくなってしまっていることもありますが、その時にはもう遅いです。なるべく使い終わった後すぐ、途中もしくはレッスンが終わってすぐ水分を取っていただいて、なるべく水分を残さないことが重要です。そういうところに気を使っていただくと長く使っていただけるし、タンポのもちも良くなってきます。」

「これは修理の代金にも関わってきます。お手入れが足りなかったり、怠ってしまうと修理代金が上がってきますよ、ということを心に留めておいていただけるといいかなと思います。なるべくこまめに水分を取ってお手入れしていただくと長持ちしますので。」

──半年なり1年のメンテの代金はいくらぐらいですか。

「半年に1回だと、全分解しなくても部分的な分解とパッドの合わせ、バランスの調整でいけると思うので、だいたい15,000円ぐらいあれば十分かなと思います。

1年に1回はできるだけ全部分解してクリーニングとオイルの差し直しとパッドの調整、バランスの調整が必要になってきますので、20,000円から25,000円ぐらいを目安にみていただければと思います。パッドの交換が必要になってくるとプラスかかってきます。その都度見積もりはお出しできます。1年に1回は20,000円から25,000円ぐらいをめどに調整に出していただければいいですね。」


▲クリーニングでピカピカになった状態。リペアでは目には見えないところ、音に直結するキイやタンポのの調整もしっかり行ってくれる。

──最後に、10年押し入れに入れっぱなしだった場合はどうしましょう?

「まずはお持ちいただいて状態を見させていただければと思いますが、たいていパッド、タンポと呼ばれる部分にカビが生えていることが多いです。吹けるかな?とそのまま使うとカビを吸い込んでしまって身体に影響することにもなるので、まずは使わずにお持ちいただいて楽器の状態をみさせていただくのが重要かと思います。」

「その時点で特にカビなどが見当たらなくても、やはり10年ぐらい経つとタンポは使っていてもいなくても傷んできます。使っていなくて一見きれいでもフェルトが固くなってきます。おそらく5、6年以上使っていないとパッドの全交換が必要になってくるので、だいたい80,000円前後かかります。全タンポ交換とクリーニングですね。ちょっと高価に思えるかも知れませんが、新しい楽器を買うと150,000円を超えます。入門者用でなければ、お持ちいただいて修理していただくのがいいですね。」

「何年も使っていないものは、やはりカビが生えていることが多いですね。カビも見えればいいのですが、見えないところにもあったりして、やはりこわいので……。白い綿状のモヤモヤっとしたものがあれば相当な確率でカビです。演奏上使うことはできてしまうので、押し入れから出してきてそのまま使う方が多いですが、やはり危険です。まずは一度お持ちいただいて、チェックさせていだければと思います。」


▲管弦打楽器のリペア作業を行う4Fリペアセンターはガラス張り。外からリペアの様子を見ることが可能だ。ヤマハ銀座店に訪れた際はぜひこちらもチェックしてほしい。

取材に協力してもらったヤマハ銀座店 管弦楽器リペアセンターでは、直接持ち込むだけでなく、オンラインでの楽器診断も行っている。自分の楽器に不調なところ、不安なところがあれば、気軽に相談してみよう。またヤマハ銀座店だけでなく全国の特約店にはヤマハのリペアグレードを持った技術者がいて、こうしたリペアに対応してもらえる。自宅の近くの対応店を探して相談してみよう。


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