【インタビュー】niKu、切ない別れから踏み出していくエネルギッシュなポップナンバー

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VOCALOIDクリエイターだけでなく音楽作家としても活躍中のChinozo、ヴォーカリストの奏音、アニメーターのがちゃによるクリエイターユニットniKu。3人にとって2022年2作目となる楽曲「サクラメルト feat.さなり」は、ラップアーティストさなりを招いて制作された。春の終わりを舞台に、ちょっぴり切ない別れを思い出しながらも、そこから踏み出していくエネルギッシュなポップナンバー。これまでの桜ソングやラブソングとは異なる解釈で綴られたChinozoの楽曲センスとがちゃの柔軟なアイデア、より力強くなった奏音の歌声、ヒップホップシーンで培われたさなりのエッセンスが溶け合っている。そんな「サクラメルト feat.さなり」の完成を記念して、今回niKuの3人とさなりの対談インタビューが実現。楽曲の背景をじっくり探っていった。

■“別れ”や“伝えようとした気持ちが伝えられなかったこと”を
■“溶けたい”という言葉に落とし込んでいきました


――niKuとさなりさん、とても意外性のあるコラボレーションでした。

Chinozo(Composer):僕らにとっても意外なんです(笑)。さなりさんとはこれまでにまったく接点がなかったんですけど、niKuチームのなかで“さなりさんと一緒にやったら面白いんじゃない?”という話になって、お声掛けさせていただいて。

さなり:お声掛けいただいて、めちゃくちゃうれしかったですね。僕もVOCALOID楽曲を作っている方とはまったく縁がなかったので。

Chinozo:え、知り合いにも?

さなり:知り合いにもいないし、フィーチャリングの経験もないんです。でも僕は小学生の頃からVOCALOIDもめっちゃ聴いていて、中学生ぐらいの頃にVOCALOID楽曲のカヴァーや、VOCALOID楽曲にラップを足したものをYouTubeにアップしたりしていたんです。

Chinozo:へ~!! そうなんですね!

さなり:VOCALOIDシーンで活動する方と一緒に何かがやれたらという気持ちは大きかったので、お声掛けいただいてすごくびっくりしたし、うれしかったです。だってChinozoさんですよ? 「グッバイ宣言」なんて聴いたことない人がいないくらいの曲だし、メロディセンスがとんでもない。なんでこんなにキャッチーでありながら独特で、どこにもないメロディを書けるんだろうと疑問です(笑)。

Chinozo:それはお互い思っていることですね(笑)。僕はヒップホップを通っていないので、さなりさんとワードのルーツがまったく違うんです。「サクラメルト feat.さなり」の制作でそれを痛感したんですよね。


▲さなり

――と言いますと?

Chinozo:さなりさんとコミュニケーションを取るのが初めてだったので、さなりさんにお願いしたい箇所を完全に空白にしてしまうのは失礼かなと思いまして、最初に送ったデモにはさなりさんのパートに仮歌詞とAIの仮歌を入れたんです。“ここはさなりさんのパートです。このメロは参考にしてもらってもいいですし、基本的に自由に作ってください”と添えて送ったら、がっつり変わって戻ってきて(笑)。

さなり:いやいや(笑)。Chinozoさんの仮歌詞と仮メロが完璧すぎたんです。そのままでいいんじゃね?と思いつつ、まったく同じのまま返すのも違うんじゃないかなと。だから歌詞はChinozoさんの仮歌詞を参考にさせてもらいつつ、メロディは悩みつつ頑張って自分で作ったって感じですね。メロがいいぶん聴きすぎるとどうしても影響されちゃうから、2回ぐらいで聴くのやめました(笑)。

Chinozo:あははは、送らない方が良かったかなあ(笑)。

さなり:その後はひたすらトラックだけ聴いてメロディを作りました(笑)。Chinozoさんのメロディの移動の仕方が斬新で、そこにChinozoさんの色や個性があるんだと思います。この音からこういう音に持っていったらこういう雰囲気になるんだ~と学びになりました。


▲Chinozo

Chinozo:僕も僕で、さなりさんからめっちゃいいメロと歌詞が返ってきたので、あらためて“僕にないものをめちゃくちゃ持っている方だな”と思いました。さなりさんのメロの切り方めっちゃ好きでしたね。僕はああいう切り方をしないから。

さなり:マジですか。メロの切り方?

がちゃ(Animator):Chinozoさんの言っていることわかります。「サクラメルト feat.さなり」のMVを作っている時に、VOCALOIDとヒップホップではリズムの取り方や韻の踏み方が全然違うなとすごく思ったんですよね。どちらかというとVOCALOIDは音が先取りでヒップホップは後取りなので、どうやってこのふたつのタイミングを合わせるか悩みましたけど、リズムの取り方にもいろいろあるんだなという発見があって楽しかったです。


▲奏音

――Chinozoさんはさなりさんとのフィーチャリング曲を作るうえで、どんなことを意識しましたか?

Chinozo:さなりさんと奏音さんが歌うことを意識して作りましたね。昔聴いていた男女ヴォーカル曲――HYなどのアーティストを想像していたと思います。イメージがはっきりしていたぶん作りやすかったですけど、やっぱり初めてのことも多かったぶんそういう難しさはあって。

――たくさん曲を作ってらっしゃるChinozoさんでも、まだまだ初めてのことがたくさんあったと。

Chinozo:そうなんですよ。だから「サクラメルト feat.さなり」の制作は本当に楽しかったです。さなりさんのような人と交流が全然なかったし、やる機会もなかったのですごくうれしかったですね。


▲「サクラメルト feat.さなり」

――おふたりが歌うことを考えたうえで、曲の方向性や詞のテーマを膨らませていったということでしょうか?

Chinozo:そうですね。まずniKuの中で“春の曲を作りたい”というざっくりとしたテーマがあって。僕はメロと歌詞を一緒に考えるんですけど、まず最初に思い浮かんだのが《サクラに溶けたい I love you》だったんです。自分で思いついたくせに最初は“サクラに溶けたいってなんやねん”って感じだったんですけど(笑)、そこから“別れ”や“伝えようとした気持ちが伝えられなかったこと”を“溶けたい”という言葉に落とし込んでいきました。

――よくある桜ソングとはまったく違う桜の解釈の詞世界で、特に象徴的なのは“川”や“波”など、水の描写が多く使われているところだと思います。これにはどんな意図が?

Chinozo:がちゃさんのイラストがきっかけなんですよ。なんせ僕がなかなか曲作りを進められないので……(笑)。僕の制作が滞っている間に、がちゃさんがイラストのイメージをぽんぽん送ってくれるんですよね。そのなかのひとつに魚が描かれているものがあって、それがすごくいいなと思ったんです。でも僕の頭では魚と桜を結び付けられなくて、“川”にしたら結び付けられるかも……ということでああなりました。あの歌詞はがちゃさんのおかげですね。


▲がちゃ

――がちゃさんはなぜ魚を描いたのでしょう?

がちゃ:Chinozoさんが春の曲、青春を感じさせる曲を書いていることは共有していたので、そこから自分なりにイラスト案を出していくことにしました。そのなかで漫画の『ROOKIES』の作中の、学生時代のもがきを井伏鱒二さんの『山椒魚』と重ねて描いているシーンが思い浮かんで。そういう“もがき”みたいなのがあると春っぽくて青春っぽいかなと思ったんです。けど山椒魚のビジュアルをそのまま描くと奏音さんとさなりさんの雰囲気とはちょっと違うかなって(笑)。可愛い感じにしたのがあのイラストです。

Chinozo:曲の世界を全部僕が作ってしまうと僕だけの曲になってしまうので、こうやって制作のアイデアをもらえるのは本当にありがたいし、niKuというユニットの意味があるなと思いますね。



――がちゃさん作のMVにはどのような印象をお持ちになりましたか?

Chinozo:わあ、ぬめぬめ動くなあ~って。

がちゃ:ぬめぬめ(笑)。山椒魚っぽいですね(笑)。

Chinozo:いつも以上に動きがあって、本当にアニメーションが来たなあと思いました。歌の躍動感がMVからも出ていたので、何の要望もなく即OKでした。

奏音(Vo):色合いも季節感が出ているし、今回は特に細かいところにもすごくこだわられているなと思います。背景のすごく小さなところまで、がちゃさんの良さが出ていて。

さなり:僕もこういうアニメーションはめちゃ好きですね。歌の色が動画で強調されて、色合いもすごい音にあっていてすごくいいなと思います。自分の書いた歌詞が大々的にフィーチャーされるのはちょっと恥ずかしいですけど(笑)、歌詞もめっちゃかっこよく、より良いものに見せてくれていてありがたいです。

Chizono:ヒップホップアーティストのMVで、リリックを動画内であんなふうに扱うことはないですもんね。

さなり:そうですね。言葉が重要なシーンではあるんですけど、映像であんなふうに使われることは稀だと思います。

がちゃ:バンバン出しました(笑)。

さなり:あははは。歌詞がより良い感じになってて良かったです。

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