【レポート】2022年に味わった「いつも以上」のフジロック

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2022年7月29日(金)30日(土)31日(日)に新潟県 湯沢町 苗場スキー場にて、<FUJI ROCK FESTIVAL'22>が開催された。新型コロナウィルスの影響により2020年は開催延期、2021年はさまざまな制限付きの「特別なフジロック」として開催され、そして今年は遂に海外アーティストも招聘するとともに場内でのアルコール販売も解禁し、「いつものフジロック」が掲げられた。だが、苗場の地に広がっていたのは「いつも以上のフジロック」の光景であった。

▲前夜祭の様子

▲キャンプ・サイト

▲入場ゲート

初日。検温をし乗車した会場行きのシャトルバス内に設置された液晶モニターには、ライブの熱狂、川で遊ぶ子どもたち、大道芸に感嘆するおとなの笑顔といったコロナ禍前のフジロックの様子が映し出されていた。車内には忌野清志郎の「田舎へ行こう!」が流れている。自分でも意外だったが、早くも胸に迫るものがあった。3年ぶりのいつものフジロックがこれから待っているという嬉しい気持ちと共に、この2年半以上はどれほど鬱屈した思いを味わい続けているかを痛感したような気もした。もしくは、いまだ先行きが見えない現状に対して、ほんの3年前の光景をあまりに懐かしく輝かしく感じたのかもしれない。こんなふうに来場者によって、様々な感情を持ち寄っていたのだと思う。そして会場に着くと聞こえてきたのは「ごめん、さっきからブーブー言ってるの会社のSlack。通知切るわ」「Googleカレンダーに“音信不通”って入れてきた」という社会人らしき女性二人組の会話。便利さと引き換えに窮屈な感覚は加速していて、いかに多くの人がこの3日間を待ちわびていたかを実感した。

▲メインステージであるGREEN STAGE

いつ見ても壮大なGREEN STAGEのトップバッターを務めたモンゴルのバンドTHE HUのライブの前、MCのスマイリー原島氏が呼び掛けた言葉に、様々な感情の合点が行った気がした。『「いつもどおりのフジロック」ではなく、「いつも以上のフジロック」にしよう!」。会場にも一斉に拍手が起こった。実際、山や川といった自然、音楽、ライブ、エンターテイメントといったフジロックの魅力がいつも以上に人々を癒しエネルギーを与えたのが2022年のフジロックだったと思う。まるで参加者を祝福するように、晴わたる夏空の下フジロックはスタートし、それはウィズコロナ禍における夏フェスシーズンの到来を告げていた。

THE HUの地を揺らすようなホーミーの響き、ロウなビートがお腹に響くのを感じて、生のライブの醍醐味ものっけから味わった。モンゴルの民族音楽とメタルの折衷というユニークな音楽性も、フジロックならではのバラエティ。そして一気にFIELD OF HEAVENまで向かうと、踊ってばかりの国の歌心溢れるサイケデリックロックに「自由」を奪還したような気持ちになり、「おかえり、フジロック・エンジェルス達!」と下津光史はオーディエンスを包み込んだ。次にHEAVENに登場した幾何学模様は、年内で無期限の活動休止に入るという最初で最後のフジロックということもあり、多くの人を集めた。そんな会場を掌握するクールかつエモーショナルなサイケデリックロックで圧倒し続け、海外のフェスにも多数出演してきた百戦錬磨の実力を目の当たりにした。





▲THE HU

世界的ヒップポップアイコンのライブを、目の前で観ることができた感動も凄まじいものだった。ラップトップPCも自分で操作しながら、WHITE STAGEを駆け回りエモーショナルなラップを放ち続けたのはジェイペグマフィア。「くそ暑いぜ!」とか「アカペラで演ってもいいか? 曲は『Call Me Maybe』(!)だ」などとMCを日本人スタッフに都度通訳させ日本のオーディエンスとマメにコミュニケーションをとろうとする姿にも、また会いたいと願った人は多かっただろう。一方で、日本のヒップホップシーンを代表するフィメール・ラッパー、Awichはサウンドチェックから拍手が上がる期待感で溢れ、当然のようにRED MARQUEEは入場規制が敷かれた。「紙飛行機」でサンプリングされている「色彩のブルース」をEGO-WRAPPIN’の中納良恵が登場して歌唱するというサプライズまであり、やっぱりもっと大きなステージでやって欲しかった、というのが本音だったほどのステージであった。最終日のPUNPEEが登場したGREEN STAGEの光景は、ヒップホップ・フェス<POP YOURS>でもトリを務めた自身の立ち位置を物語りながら、2017年に超満員にさせたWHITE STAGEに登場した自身のそっくりさんはじめ、Zeebra、前日のCreativeDrugStoreのステージも盛況だったBIM、そして5lackらが次々とステージに登場し、フジロックヒストリーとしても、ジャパニーズ・ヒップホップを背負ったステージとしても見事だった。





▲Awich





▲PUNPEE

思い起こすと、今回のフジロックは特段アーティスト同士のコミュニケーションが充実していたと言える。GREEN STAGEのスカパラのステージにはハナレグミが登場し、フィッシュマンズ「いかれたBABY」を演奏。最終日のFIELD OF HEAVENのトリとして登場したハナレグミのバックバンドは、なんとスカパラが務めた。全てのアーティストが、フジロックの開催を心待ちにしていたのだろう。







▲TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA





▲ハナレグミ

コロナ前はまったくもって当たり前だと思っていたこと、ライブでただ踊ることの尊さも、今回のフジロックで蘇った。夜がすっかり更けたWHITE STAGEでスパークしたジョナス・ブルーの夏全開のセットでは、全てのドロップでオーディエンスが満場一致でバウンスした。コラボ曲「Don't Wake Me Up feat. BE:FIRST」を世界初披露したBE:FIRSTの姿に、目を輝かせた人も多かった。今回のフジロックの盛り上げ役として、グループ自身も自覚的だったのがORANGE RANGE。「花」「ロコローション」「上海ハニー」「イケナイ太陽」etc…いくつキラーチューンがあるんだろうと改めて驚愕さえした。沖縄の本土復帰50周年番組のテーマソング「Melody」を演奏したり、またクライマックスではカチャーシーをみんなで踊った。







▲ジョナス・ブルー

1997年に初開催されたフジロックは、ことし25周年を迎えた。“ロック”のタフなマインドを高く掲げながら、音楽の多様化に沿うように出演アーティストもどんどん多彩になったのが、フジロック四半世紀の歴史でもある。ORANGE RANGEもそうだが、ずっと真夜中でいいのに。のような動画投稿から火がついたアーティストも大喝采を浴び、さらに鈴木雅之のような大御所も異彩を放った。「め組のひと」「違う、そうじゃない」などヒットチューンを連発し、ドゥーワップのスタイルもキマってた。その一方で、ロックシーンを牽引し続けているベンジーをフジで観ると、苗場にまた来れたという実感が個人的には湧く。今年はWHITE STAGEにSHERBETSとして出演し、「朝まで騒ごうぜ」と言い放った。







▲ずっと真夜中でいいのに。

▲WHITE STAGE

今年も、世界的アーティストがたくさん登場しハイライト続きのフジロックとなった。初日のヘッドライナーとして登場したヴァンパイア・ウィークエンドの音楽を星空のもと味わっていると、とてもプリミティブなレベルで音楽ライブの素晴らしさに浸ることができた。とびきりの腕前のギターともにロックの圧倒的なカッコよさを2日目のヘッドライナーとして堂々見せてくれたジャック・ホワイト、また、ヘッドライナーの発表があった際は予想外だった新世代ディーバ、ホールジーも、ハイパーなファッションを纏い覚醒感のあるパワフルなステージを披露した。さらに現行のシーンを代表し、3日目のGREEN STAGEに登場したトム・ミッシュ、3日目のWHITE STAGEのトリを務めたムラ・マサが時代のムードを表現する好演を見せた。活動再開後初のライブにフジロックの舞台を選んだCorneliusは、ステージに没入させるハイレベルなパフォーマンスと楽曲が「さすが」としか言いようがなかった。個人的には、疲れた身体に染み渡るようだったのが、ひまわりの花が咲くステージでスウィートなムードのなか初来日公演を踏んだアーロ・パークス、アーバンかつセンチメンタルなシドのステージだった。





▲ヴァンパイア・ウィークエンド





▲ジャック・ホワイト









▲ホールジー





▲トム・ミッシュ





▲ムラ・マサ





▲Cornelius





▲アーロ・パークス





▲シド

対して、日本の音楽シーンの未来に光を感じたほど鮮烈だったのが、ROOKIE A GO GOに出演した鋭児だ。AM11:30からの新人の登竜門的ステージにもかかわらず若者中心にたくさんの人が駆けつけていて、過去最高の4,000組の応募から選ばれた9組のうちの1組という注目度の高さを物語っていた。Vo.御厨響一、Gt.及川千春、Ba.菅原寛人、Key.藤田聖史、Dr.市原太郎によるブラックミュージックやオルタナティブロックを軸としたバンドのアンサンブルは全然ルーキーらしからぬグルーブで、日本の未来とともに世界も見据えたMCも現実味を帯びていた。求心力のかたまりのようなクルーなので早くみんなにも出会ってほしい。

▲ROOKIE A GO GO

もちろん、このコロナ第7波の影響は、もれなくフジロックにもあった。7月29日(金)に出演予定だったYOASOBIは、ボーカルのikuraが陽性と判定されたため出演キャンセルに。この枠に登場したフジロック常連アーティストでもあるclammbonは、開催5日前に連絡を受けたというタイトなオファーにもかかわらず、オルタナな楽曲とエモーショナルな演奏で見事にやり遂げた。さらにYOASOBIの「優しい彗星」を、ワンコーラスのみカバーすると、「フルコーラスは彼らがここに戻ってきた時に、とっておきましょう」とミトは語った。他にも、7月31日(日)に出演予定だった思い出野郎Aチームのキャンセルに対して、レーベルメイトでもあるYOUR SONG IS GOODが代役を務めるなど、ミュージシャンならではのエールが送られた。





▲clammbon

「いつも以上」に心に響いたのは、「Gypsy Avalon」のステージもそうだった。フィールド全体の電力はバイオディーゼル、太陽光などのソフトエネルギーを使用しており、80年代から継承される反核・脱原発イベント「アトミック・カフェ」にこのステージの一部を提供している。今年の「アトミック・カフェ」のテーマは、初日が「戦争と平和」、2日目が「気候クライシスと原発」、最終日が「反戦、平和、ウクライナ」。ダブポエトリーのユニット、「アトミック・カフェ いとうせいこう is the poet with 満島ひかり」のいとうせいこうのソリッドなポエトリーも、ひまわりのように可憐で凛とした満島ひかりの歌声も、そのほかのトークで聞いた言葉も、今年はいつも以上に重く心に響き、いまだに思考し続けている自分がいる。フジロックは、日頃の鬱憤をただ晴らすだけの音楽イベントではなく、むしろ根源的なことや世界の課題に立ち返ったり逡巡する機会をくれる。それが音楽のパワーであるし、人々の日々の営みの延長線上にある祝祭空間、つまり「お祭り」として、このフェスがここまで浸透している所以だと理解した。

▲Gypsy Avalon

こうしたアクトの合間には、「フジ来てる?」とフジ好きの友人と久々に連絡を取り合ったり、さらには、ごみゼロステーションのスタッフの「ありがとうございます!」のなんとも明るい発声が起こすポジティブなバイブスにまで、フジロックに来ている実感が湧く。フジロックの打ち上げとも位置付けられる<朝霧JAM>の出演者が場内でアナウンスされるのも、恒例の楽しみである。また今年は昼前からハイネケンの紙コップを持つ人も多く、乾杯して再会を喜ぶ人々の姿も多かったが、筆者がハメを外している人を見かけることはなかった。ライブアクト以外にも、昨年と比べると今年は大道芸の姿も多く、パントマイムやマジック、知る人ぞ知る「仮面舞踏会」、スタンドアップコメディなどのパフォーマンスを楽しむ老若男女の笑顔がマスク越しにあった。今年は、サーカス団なども登場するエリア「THE PALACE OF WONDER」は設けられなかったものの、アウトドア・シアター「富士映劇」の上映、川べりのチルエリア「ところ天国」での寄席など、全長4kmにわたる会場は多様なたのしみで溢れていた。



▲ボードウォーク

そしてやはり、都会から離れて、大自然の中に身を置く機会を与えてくれるフジロックの「自然との共生」という精神の尊さを、窮屈なこの2年半を経て尚更感じた。緑の香りに包まれ、川の水は冷たく、太陽の日差しが降り注ぎ、肌に当たる風に癒された。1997年に富士山麓ではじまったフジロックは98年の東京の豊洲での開催を経て、99年から苗場に定着し、もはやフジロックと共存共栄の関係。今や音楽ファンの第二の田舎のような存在だ。最終日、深夜のアクトが復活したRED MARQUEEでトリを飾ったTAKKYU ISHINOまで、ウィズコロナ禍で開催されたフジロックは、いつも以上に人々の心に作用したように思う。なお、フジロック・フェスティバルの事務局からは、7月28日(木)の前夜祭からのべ4日間で69,000人が来場したと終了報告があった。




▲Pyramid Garden

▲OASIS

▲KIDS LAND





▲TAKKYU ISHINO

最終日の入場ゲートの背面には、「SEE YOU IN 2023!!」のメッセージが掲げられ2023年の開催が告知された。もちろん今から心待ちにしている。

文:堺 涼子


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