【インタビュー】SLIDE MONSTERS 中川英二郎、無限の音の可能性を紡ぎ出す4つのトロンボーン

ツイート

トロンボーンのスライドを伸ばして縮める、それだけの動きから無限の音の可能性を紡ぎ出す4人のモンスターたち。世界でも類を見ないトロンボーン四重奏団としてセンセーションを巻き起こしたSLIDE MONSTERSが、2ndアルバム『Travelers』をリリースし、9月から4年振りの日本ツアーを開催する。日本が誇るトップ・トロンボニストの中川英二郎、ニューヨークフィルハーモニック主席奏者のジョゼフ・アレッシ、ニューヨークのジャズシーンで活躍するマーシャル・ジルクス、オランダをホームにしてヨーロッパで活躍するバス・トロンボーンの名手ブラント・アテマ。4人が生み出す音のマジック、そしてトロンボーンという楽器の知られざる魅力とは? 中川英二郎に話を聞いた。

■ざっくり言うと犬が好きなタイプはトロンボーンで
■猫が好きなタイプはトランペットみたいな(笑)


──3年越しの日本ツアーが、いよいよ間近に迫ってきました。

中川英二郎(以下、中川):2回延期になりまして、ついに開催できることになりました。この間、ジョー(ジョゼフ)・アレッシがちょうど日本に来ていたので、「曲をどうしようか?」とか、コンサートならではのことも盛り込もうとか、そんな話を直接していたところです。

──楽しみにしています。今日はせっかくの機会なので、英二郎さんとトロンボーンとの出会いの話から聞かせていただこうと思うのですが、英二郎さんは音楽一家の生まれで、幼い頃からたくさんの楽器に触れていて、その中でトロンボーンを選んだということなんですね。

中川:一番最初が何になるのかわからないですが、とにかく楽器が何でも家にあったんですね。父親がトランペット吹きで、家にバンドの練習ができるような場所があったので、幼稚園に入る前からドラムやベースで遊んだり、トランペットやピアノをやったりしていたんですが、トロンボーンだけがなかったんですよ。それがたまたま、父のバンドでトロンボーンを吹いてる人を見て、「あれやりたい」と言い出したのが6歳ぐらいですね。

──子供心に、トロンボーンの何がかっこいいと思ったんでしょう。

中川:まずあの、「伸びる縮む」というのがすごくかっこよかった。一番やりたかったのがベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」で、あれは最初にトロンボーンが出てくるんですけど、一番遠いポジションまで伸ばすんですよ。それがすごくかっこよくて、いまだに吹くたびに思い出すぐらい印象的。それでトロンボーンを始めたんですが、実際吹いてみると手が届かないんですね(笑)。だから一番やりたかったことが最初にはできなかったんですけど、それが何かの縁で今まで続いてるから、面白いもんだなあと思います。


──運命の出会いですね。しかもトロンボーンはクラシック、ジャズ、吹奏楽でも重要な楽器ですし、一度覚えてしまえばいろんなジャンルで応用が利くというか。

中川:そうですね。たまたまそういう楽器だったということと、あの音域が好きだったということもあったと思います。父がやっていたディキシーランドジャズは、編成としてはコンボスタイルで、トロンボーンは一人しかいないんですけど、スライドを使ってグリッサンドで“にゅーにゅー”吹くという特徴的な伴奏をするので、それも好きでした。本来のクラシックのアンサンブルや、ジャズのビッグバンドの場合は、縁の下の力持ちという役割が多いんですけど、たまたまディキシーランドジャズではメロディ楽器の一つとして使われていたのが自分にとってはかっこよかったし、いまだにコンボスタイルで自分がメロディを吹くことはすごく大切にしていますね。アンサンブルも好きなんですけど、それ以上に個人プレーをすることが性に合っていると思います。

──ちょっと変な質問ですが。トロンボーン吹きに共通した性格とか、あったりしますか。

中川:それはね、卵が先かにわとりが先かという話になるんですけど、楽器を始めたきっかけはいろいろあると思うんですが、残ってる人たちは、結果的にその楽器の性格に合ってる人たちだと思いますね。それが当てはまらない人になると、縁の下の力持ちの楽器なのに前に出たがる人もいれば、花形の楽器なのにサポートに回ることが好きな人ができあがったりするから、結果、その楽器とのご縁じゃないですかね。どの楽器を見ても。


──そうすると、トロンボニストはどんな性格の人が続けているということになるんでしょう。

中川:トロンボニストはね、協調性のある人が多いと思います。基本的にハーモニーの楽器で、アンサンブルをすることを徹底的に学んでいくので、つるむことに慣れていて、一緒に食事をするとか、どこかへ行くとか、同じ楽屋でぺちゃくちゃしゃべってるとか、仲が良いタイプが多いかもしれない。犬が好きなタイプはトロンボーンで、猫が好きなタイプはトランペットみたいな(笑)。ざっくり言うとそんな感じがしますね。

──面白いです。ということはSLIDE MONSTERSのメンバーも、年齢も国籍もバラバラですけど、トロンボニストとして共通点を感じるところがあるわけですか。

中川:めちゃめちゃありますね。世界中どこへ行っても、トロンボーンの人たちが集まると共通の話題というものがあって、たとえば「ボレロ」という曲があって、クラシックのトロンボーン吹きは避けて通れない曲なんですね。必ずオーディションで吹かされる曲で、高い音もあるし、技術的にも精神的にもすごくコントロールしなきゃいけない曲なんです。なのでみんなその話をして、どれだけ間違えたかというジョークみたいな話もあれば、有名な話で、大ミスをして自殺した人がいたとか、それぐらいメンタルをやられやすい、逆に言えばそれを勝ち取ってきた人たちが名手と呼ばれていくんですね。ジョーさんも、ニューヨークフィルで30何年やってる中で、「ボレロ」を演奏する時の自分の話や、先輩の話を、楽屋ネタみたいにしゃべって笑ったりとか、そんなこともあったりします。

──楽しそうですけど、怖い世界です。

中川:トロンボーンの人たちというくくりで言うと、いろんな雑多な話をすることがすごく多いですね。特にSLIDE MONSTERSの4人は、楽屋に入ると和気あいあいで、みんな一緒に食事もするし、ホテルの朝食も一緒にとったりするんですね。そこで朝ミーティングみたいになって、「今日はこういうことをしよう」という話になったりして。一緒に集うことが苦じゃないというか、そこにはアンサンブルをすごく重んじる楽器の性格があるのかもしれないですね。


──そんなSLIDE MONSTERSですけれど、もともとは英二郎さんとジョーさんが始めたグループですよね。

中川:そうですね。僕はSLIDE MONSTERSをやる前に、侍BRASSというグループをやっていたり、自分が育ったジャズと、勉強してきたクラシックと、その間に垣根がない音楽というか、どちらにも行けるボーダーレスな音楽をやるというスタイルだったんです。それをトロンボーンに特化してやってみたいというところから、ジョーさんに声をかけたのが始まりです。彼は家族がみんなジャズプレイヤーだったという生い立ちもあって、ジャズのレジェンドと言われるミュージシャンたちともたくさん時間を共有して、ライブハウスでジャズメンの演奏を聴いたり、レッスンを受けたり、それぐらいジャズに精通しているプレイヤーなので、僕がそういう話をしたら、喜んで「やろうよ」と言ってくれた。そこから始まって、ジョーさんがブラントとマーシャルを紹介してくれて、ブラントはバス・トロンボーンの第一人者で、マーシャルはニューヨークジャズシーンのトッププレイヤー。世代的にも僕ら3人は似たような年齢だから、ジョーさんもそこを考えてくれて、「楽しいメンバーでやろうよ」ということでやり始めたグループだったんです。


▲ジョゼフ・アレッシ

──そして2018年の1stアルバム『Slide Monsters』でセンセーショナルにデビュー。トロンボーンだけのアンサンブルで表現する、クラシックやジャズのカバーにオリジナル曲も加えた、素晴らしいアルバムでした。

中川:ありがとうございます。これがまたね、ホールに行くと良いんですよ。トロンボーンは音の大きな楽器なので、2000人ぐらいのホールだとフルボリュームで鳴るんですよ。小さなところでも大きなところでも迫力があって、4人しかいないのに4人に聴こえないみたいな、そこが聴きどころだと思うので、ぜひコンサートに足を運んでほしいなと思っている次第です。

◆インタビュー(2)へ
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス