【インタビュー】甲田まひる、ファッションアイコン、ジャズピアニスト、そしてシンガーという多様性に漲る想い「言葉で伝えるって難しい。だからこそ表現している」

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■映像やライブでヴォーギングを踊りたいから
■そのための曲を作ろうとピンと来て

──前作『California』は好きなものを詰め込んだ作品だったということですが、今回の『夢うらら』は、サウンド的にはよりポップで曲調的にも明るさが出ていますね。と言っても、どこか毒っぽさや一筋縄でいかない感じも含まれている独自のポップに仕上がっています。

甲田:今回、歌ものということは意識しました。『California』のときよりもJ-POPがいいなとか、メロディが聴きやすいものがいいと思って作ったので。

──ジャズのコード進行の特徴でもある7thやsus4、add9thなどテンションノートは今回あまり使ってないようですね。

甲田:わかりますか(笑)。あえてテンションノートはあまり使わないようにしたんです。低音やビート感が尖った部分をサウンド面に残しながら、歌ものとして聴きやすい感じにしたいと思っていたので。今回作るにあたって「アレンジャーを迎えたいね」という話をしていて、スタッフさんに成田ハネダさん(パスピエ)を紹介していただき、一緒に仕上げていきました。もともと自分のデモ段階から、“ここでラップが入る”とかの構成やコード進行とかベースとなるものを作っていて。ゴールの形は最初から自分の頭のなかにあったので、“ここはこういう音がいいです”とか細かくオーダーしたり、やりたいことをどうにか説明しながら一緒に曲を作っていくんですけど。

──自分の中ではっきりと“こういう音がいい”というヴィジョンがあって、それを具現化していく感じですね。

甲田:そうですね。今回はそこに、ナリハネさんが私の想像していなかったアイデアや音色をアレンジで追加してくれたのもあって。それはこれまでにない経験で、こういうふうに曲が広がっていくんだなという感覚がありましたね。こだわって自分で思い描いたものと、そういったアレンジでのスパイスとかを混ぜてこの形になったという感じがします。


──成田さんのアレンジで、こうくるか!と思った部分はどんなところでしたか?

甲田:最初、全体を通してメジャーキー感が強かったんですが、私の作ったラップセクションの音を拾って4つ打ちっぽいテイストのベースラインをメインにしたバージョンのデモを送ってくださって。色がガラッと変わっていいなと思ったので、そこを私のほうで自分のデモと組み合わせる作業をしました。ナリハネさんが、そういういいところをピックアップしてくれて、全体の雰囲気に散りばめる作業をしてくれたおかげで、フックができたと思います。

──曲の流れも面白いですよね。キャッチーでポップだし、J-POP的なんですけど、“いきなりこの展開になるんだ!? ”というアップダウンがあって。

甲田:後半に出てくるVOGUEパートは、もともとそこだけ別の曲のセクションとして存在していたんです。というのも、ダンスレッスンの中でヴォーギング(マドンナの“Vogue”のMVで世界的に知られるようになったダンサーの腕の動きが特徴的なダンススタイル)を教えていただく機会があったんですね。ヴォーギング自体は知っていたものの踊ってみるのは初めてで、“私もいつか映像やライブでこれを踊りたいから、そのための曲を作ろう”とピンと来て、すぐに制作したんです。でも、たまたまBPM120という部分が一致していたし、「夢うらら」のデモに手を加えていく前に、“合体させてみたら面白いかも”となりました。耳に残る部分が一ヵ所あれば、どういう展開になっても成立するし、そのくらい振り回されるほうが聴いていても楽しいなって、個人的に思うので。

──それは、ジャズが根底にあるからということも関係しています?

甲田:どちらかというと性格だと思います。じっと同じことをやるのが苦手で、ハプニングがあったほうが面白いって思っちゃうタイプなので。こうしていろんな人と現場で会って、毎日違う場所で仕事をして、というほうが楽しいんです。だから、そういう感覚的なところや性格的なところで、音楽を作っているときも“このままじゃつまらないからこっちにいってみよう”とか“どうやったら驚くかな”とか、驚かせたり笑わせたりするのが昔から好きなんです。そういうところが影響しているのかなとは思いますね。


──「夢うらら」というタイトルですが、“夢うつつ”とか“春うらら”という言葉はありますが、この「夢うらら」というタイトルはどんなイメージからですか?

甲田:メロディ先行だったので、歌のテーマをあらかじめ決めていたわけではなかったんですけど。やっぱり “夢”とか“目標”とか、そういう存在が大きいと、“自分で自分の背中を押したいな”っていうのが自分のなかであるんですね。“うらら”はメロディに合うということから、まず浮かんだんですけど、その言葉と今思っていることがリンクする感じがしたので、“夢うらら”というワードが生まれたんです。季節が変わるときとか、環境が変わるときとか、新生活とかって、キラキラした世界っていうイメージがあると思うし、“夢うらら”という言葉にもそういうイメージが浮かんで、いいんじゃないかなと思ってタイトルに。

──キラキラとした躍動感があって、“誰かと違う 違わない 気にしてる 暇はない 1秒も” “運命なんてなくても 叶えてみせるから”など、私はこう思っているという強さがある曲ですね。歌詞に“役に立たないアドバイス”なんていうフレーズもありますが、甲田さん自身、自分のやりたいこと、貫きたいことに対して何か横槍が入ったり、惑わされてしまうことを感じたことはありますか?

甲田:自分がやっていることに対して、実際にそう感じたことはないですね。どちらかというと、自分のなかに戦いがあるというか。自分が今やっていることは合ってるのかな?とか、葛藤がめちゃめちゃあって。たとえば、人がやっていることが羨ましいって感情があるじゃないですか。でも、そういうのって自分には影響してないって思いたいというか。だから人のアドバイスよりも、自分を信じないと夢も叶わないかもなっていう。そういう反骨的なところがはじまりなんですけどね。それが原動力になったらいいなと思って書いた曲ですね。

──ちなみに、甲田さんが音楽を作る上で、いわゆるロールモデルのような存在はいるんですか?

甲田:甲本ヒロトさんが好きっていうのは、小学校の頃から変わらないんです。甲本さん以外に大きな存在はそんなにいなかったかもしれないですね。スタイルは全然違いますけど、子どもながらに、ジャズに出会ったときと同じくらいの衝撃を受けちゃったので。目指すとか、そういうレベルじゃないですよね。自分が自分に対して“こんなんじゃダメだよな”ってときに思い浮かべると、立ち直れるみたいな存在なので。人間性も音楽もファッションも、アーティストとして本物だなって思っているんです。遠い存在ですけど、そういう存在に日々感化されて。少なからず影響は受けていますね。

──甲本ヒロトさんって、ご自身がブランドになっているような方ですよね。発するものすべてに、自分の印がつくような。

甲田:それを意図してやっていないですよね。そこがカッコいいなって(笑)。

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