【ライブレポート】スカートの音楽で、グルーヴがひとつに溶け合う幸せな時間を…

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実に4年振り、スカートのワンマンツアー<スカート ライヴツアー2023 "SONGS">が素晴らしいフィナーレを迎えた。この4年間にスカートは2枚のアルバム、『アナザー・ストーリー』と『SONGS』を出した。特に『SONGS』は、コロナ禍のミュージシャンの苦悩をまともに引き受けながら、すべてをポジティブに昇華したとてもエモーショナルなポップアルバムだった。辛い時はひとまず去った。再会の喜びに溢れたツアーファイナル、渋谷クラブクアトロでのスカートを振り返ろう。

◆ライブ写真

「こんばんは、スカートです!」

オープニングを飾るのは『SONGS』から「架空の帰り道」。さあこれから走り出すぞと、慣らし運転のような大らかなミドルテンポでバンドの調子を確かめると、一気に加速して「さよなら!さよなら!」へ。満員の観客が手を上げ踊るのを見ながら、再び低速に落とし、ヘヴィなギターリフでドライブする「駆ける」へ。バンドは絶好調で、音楽は自由だ。スカートのライブは、音源よりもずっとワイルドでエネルギッシュで、何よりもバンドだ。この体感をみんなが4年間待っていた。

「4年振りのツアーです。ずいぶんやっていなかったんですが、楽しいです」

今までは抵抗があったんですが、最近は諦めがつきました。笑顔でそんなことを言いながら、ライブ中の写真や動画撮影を許可する澤部。4年という時間が、彼の中で何かを変えたようだ。よく歌い、よく笑い、ドラム・佐久間裕太をまじえたMCは掛け合い漫談のように面白い。ひとことで言えば、開けている。


『SONGS』からの「十月(いちおう捨てるけどとっておく)」「Aを弾け」、『アナザー・ストーリー』からの「セブンスター」と、ノスタルジーをたたえたオーセンティックなロックナンバーが続く。澤部の弾くエレクトリックギターは、ガレージロックを感じさせるほどアタックが強い。パーカッションのシマダボーイが八面六臂の活躍で、多種多様なパーカッションを操って目と耳を楽しませる。みずみずしいロックバンドだ。

「おばけのピアノ」と「標識の影・鉄塔の影」。センチメンタルなミドルロックバラードと、切なく爽やかなフォークロック。そして「粗悪な月あかり」。スカートを語る時に欠かせない「切なさ」「孤独」「親密さ」をたっぷりとたたえた美しい3曲が、歌詞にはならない叫びのような歌声と共にずっしりと胸に響く。なんという豊かなエモーション。そこから岩崎なおみの骨太なベースがリードする「CALL」を経て、明るく弾む「トワイライト」でほっと一息。リズムの緩急と感情のアップダウン、シフトチェンジのタイミングが絶妙だ。

「さすがに東京は盛り上がりますね」(佐久間)
「やっぱり東京のローカルバンドですね。うれしいです。こんなに楽しい日はないです」(澤部)

ここからは、アコースティックギターに持ち替えて3曲。映画『窓辺にて』主題歌「窓辺にて」は、訥々ともの悲しいピアノの音色を添えて。「ともす灯 やどす灯」は、スキップするような溌剌としたリズムに乗せ、口笛の響きも軽やかに。「視界良好」は、ファンキーなサウンドの上でどこまでも晴れやかに。アコースティックな音像の中で、あらためて澤部の歌には余分な癖やコブシがまったくない心地よさに気づく。純朴でまっすぐだからこそ伝わるものがある。


「あの頃の気持ちを思い出して、メドレー形式でガンガンやろうと思います」

 佐久間と澤部が、かつてカーネーションのサポートアクトをした際、MC一切無しでアッパーチューンを畳みかけるスパルタンな演奏をやらかして、「あんなライブじゃ駄目だ」とゲストの大谷能生に説教されたという昔話で盛り上がってる。若さゆえに尖っていた時代を回想しながら、「これでも柔和になったんです」と笑ってる。それを受けてのこのセクションは、MCどころか曲間もゼロのアッパーチューン5連発。メンバー紹介を兼ねた「静かな夜がいい」、澤部が体を揺らして叫び、ギターを振り上げ、いかついロッカーな一面を見せつける「スウィッチ」、ミラーボールと七色のライトが気分を盛り上げる「わるふざけ」。さらにエレクトリックピアノとワウギター、ラテンパーカッションが絡み合う「返信」と、初期スカートを代表する名曲「ストーリー」。演奏を終えた佐久間が「尖ってたでしょ?」と突っ込みを入れる。このツアーは『SONGS』のリリースツアーでありつつ、スカートの10年間をたどり直す意味もある。さあライブはいよいよクライマックス。


「PUNPEEさんが参加した『ODDTAXI』をどうやるか。フィーチャリングは共有財産だから一人でやっていいよとPUNPEEさんに言われたので、やらせてもらいます」

そんな前振りをしておきながら、歌い出すといきなり「スペシャルゲスト、PUNPEE!」と叫んでPUNPEEを呼び込み、大歓声を巻き起こす。「尖っていた」時代にはきっとできなかっただろう、心憎いライブの演出。PUNPEEの持つ華やかな空気とキレのいいラップ、澤部の切ないハイトーン、洗練されたファンキーなグルーヴが一つに溶け合うハッピータイム。意外な組み合わせにも思えるが、二人の地元は東京都板橋区の同じエリア。同じヴァイブスを共有する、これが東京ローカルミュージックの新たな形。


「この盛り上がりのまま最後まで行きましょう」

ラスト2曲「海岸線再訪」と「月光密造の夜」は、ステージもフロアも一体となって明るく楽しく爽やかに。ここまで触れるのを忘れそうになっていたが、キーボードはもちろん盟友・佐藤優介。ステージ上にいるのに存在感を消しながら、音だけでサウンドの色付けを一手にこなす達人。鉄壁のバンドグルーヴの上で、伸びやかに歌う澤部。手を振り上げ体を揺らし全身で応えるオーディエンス。それは幸せしかない大団円。


「ありがとうございました」と言ってから、30秒ちょっとですぐに出てきた澤部。歌いたくてたまらないのだろう。新しいツアーグッズを自慢する。5月に大阪と東京で開催される、大好きだという漫談家・街裏ぴんくとのツーマンライブ決定を喜ぶ。曲は「この夜に向け」、そして再度PUNPEEを迎え入れ、ラップパートを加えた「回想」でもうひと盛り上がり。山手通り、高島平など、二人の地元ワードが出てくるラップがいい感じだ。そして本当のラストチューンは、エイトビートでガンガン盛り上がる「ガール」。歌い終えて手を振る。場内が明るくなる。

しかし鳴りやまない拍手と帰らない観客に応え、澤部再登場。「聴きたい曲あります?」と、リクエストに応えてエレクトリックギター1本で歌った「あの娘が暮らす街(まであとどのくらい?)」の、歪み切ったギターに乗せた胸いっぱいの哀感。「どうもありがとう。スカートでした」。25曲+1曲を100分で歌い切り、颯爽と去る澤部の背中に送られる愛がいっぱいの拍手。なんという幸せな空間。だからまたここに来ようと思う。

取材・文◎宮本英夫
写真◎タマイシンゴ


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