【鼎談】林ゆうき×高梨康治×宮崎誠、劇伴音楽フェス<東京伴祭>で創造する“感動の掛け算“

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「日本で世界初の劇伴音楽フェスティバルを開催したい!」という林ゆうきの一声をきっかけに、2022年9月に開催された劇伴音楽祭<京伴祭(きょうばんさい)>。世界で圧倒的な人気を誇る日本のアニメーション作品を彩る上で、重要な役割を果たす「劇伴音楽」というものにフォーカスし、日本のアニメの第一線で活躍する作曲家たちを集め実施された音楽フェスだ。会場は1300年以上の歴史を誇る、京都の“世界文化遺産 上賀茂神社”。

エピソード0と題し、無観客・配信限定で実験的に行われたこの京伴祭だったが、満を持して2023年4月29日(土・祝)に、東京にて有観客で開催される。その名も<東京伴祭(とうきょうばんさい)>。会場は国立代々木競技場第二体育館だ。

今回は、発起人である林ゆうきと、企画に賛同し、<京伴祭>から引き続き<東京伴祭>にも出演する高梨康治、宮崎誠の対談が実現した。モデレーターは本イベントのエグゼクティブプロデューサーの島津真太郎が務める。

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■本企画への想い <京伴祭>エピソード0の開催に至るまで

島津:まずは本企画の基盤となる、昨年京都で開催した<京伴祭>エピソード0についてお話ししましょうか。

林:ちょうど3年前、コロナが流行り始めて、ライブや収録、ドラマなど、エンタメ周りのものが軒並み延期になったり中止になったりしましたよね。僕のお仕事も例にもれずで、それまでずっと走ってきたのに、ふと時間ができて、生まれ育った京都に帰ったんです。そして京都駅に降り立った瞬間びっくりしました。まるでゴーストタウンのようで。国内からも海外からも観光客がたくさん来て賑わっているはずの京都に人がいない。京都駅から実家に向かうタクシーの中で運転手さんがボソッと「こんな京都はじめてだ」って呟いていたのがすごく印象的でした。そこから少しずつ街の様子も戻ってきてはいるけれど、やっぱり元の京都の姿ではないんですよね。そこで何か自分にできないかって考えたのが昨年の<京伴祭>の企画の発端でした。

島津:当時は本当に今まで見たことのない風景が広がっていましたよね。

▲林ゆうき

林:僕はアニメなどの劇伴作曲家として活動させていただいていますが、幸いなことに、日本のアニメは世界中で観ていただいていて愛されている。それなら自分がやってきたアニメ音楽のお仕事で京都にお客さんを呼べないかなと思ったんですね。そこからいろいろ考えて、思いついたのが劇伴音楽祭。僕と同じようなアニメの音楽をやっている方たちと一緒に、いわゆる“フジロックとかサマソニの劇伴バージョン”みたいなフェスを開催できないかって思ったんです。場所はまずは生まれ故郷の京都。しかも小さいころから毎日のように足を運んでいた上賀茂神社で。さらに、僕のこだわりとしては、演奏する音楽に紐づいたシーンのアニメ映像も同時に観せられたらなと思って、大きなモニターも用意したいなと。イベントに来てくれた方たちには、音楽も聴きつつ、映像も観つつ、その帰りに観光もして、いろんな面から京都を楽しんでいただけるような企画が作れないかと考えました。

島津:そこから各所に交渉、相談に行きましたよね。会場となる神社の方々や、地域のみなさん、版元さん、ステージ制作の方などなど…そして出演者として、まずは高梨さんに声をかけたと。

林:最初にぱっと頭に浮かんだのが高梨さんでした。高梨さんは『NARUTO』などのような海外にも人気が高い作品の音楽を数多く手掛けているし、何よりもすごく熱い方。一緒にこの挑戦に乗ってくれないかなあと、お寿司屋さんに誘い出して、勧誘しました(笑)

高梨:想いを持って企画し、第一人者として立ち上がった林くんは本当にすごいと思いますよ! お話をいただいた当時はまだすごく深く面識があるって程ではなかったけれど、林くんが新しい扉を開こうとしている姿を見て、二つ返事で引き受けました。不安は微塵もなかったですね。

島津:そして次に声をかけたのが宮崎さんですね。

林:宮崎さんとの関係は“パパ友”って言うんですかね。

宮崎:僕の娘と林さんの息子さんが同じ学校の同じクラスの同じ班で(笑)

林:はじめ、学校で奥さんとお会いしたんですけど、なんとなく「どんなお仕事されてるんですか」みたいな話になって。「えっと…音楽系で…」「え?うちの主人もですよ」「ご存じないかもですけど僕は劇伴っていうサントラとかみたいな音楽を…」「え、うちの主人も劇伴作ってますよ」「え?宮崎さん…あ!あのワンパンマンとかスパイファミリーの宮崎さん!」みたいなところから(笑)

宮崎:その話を奥さんから聞いて、僕も「え!あの林さん?」ってなりました(笑)で、初めて直接お会いしたのは授業参観の日ですね。

林:ご挨拶をして、そのあと帰ってから早速TwitterのDMで<京伴祭>の勧誘をしました(笑)

島津:すごい出会いですよね。宮崎さんは“勧誘”を受けてどうでしたか?

▲宮崎誠

宮崎:もともとバンドマンだったところから今のお仕事をしているので、ライブとかはもちろん好きだったんですけど、劇伴だけで音楽フェスをやるっていうイメージがなかなか湧かなくて、少し不安はありました。歌がない曲が大半だし、観る人も気軽に楽しみづらいんじゃないかって思ってしまって。でも林さんの熱い想いは十分すぎるくらい受け取れましたし、面白い試みだということには疑いはなかったので、ぜひ一緒にやらせていただこうと。

林:そんな奇跡的な流れもあり、素晴らしいアニメの音楽を担当されているお二人にご賛同いただけて、京伴祭を開催することができました。お二人がいなかったら実現できませんでしたよ。

高梨:僕らが参加したこともそうかもしれないけれど、実現に至るまでのすべてのことが、林くんの想いと人柄が引き寄せたものですよね。当日、台風が来るっていう予報だったのに何とか免れたしね。



■実感した手応え <東京伴祭>への想い

島津:でもまだ<京伴祭>は、時勢柄、有観客にはできなかった。直前まで神社の方、地域の方、スタッフとも何度も話した上で、やはり情勢を鑑みて「今回は配信限定にしよう」と苦渋の決断をしたんですよね。

林:エピソード0として実施した<京伴祭>は、京都で、屋外で、無観客でっていう実験的な試みになってしまった部分もあるけれど、それでも配信を観てくださっている方たちのコメントを見て、手ごたえは感じました! お二人のライブを観て、僕も感動しましたし!

宮崎:僕もお二人のステージを見て鳥肌が立ちました。はじめはどんなイベントになるんだろうって若干心配な部分もあったのですが、「林さんがやりたかったのはこういうことか!」って。

島津:そして今回、満を持して、4月29日(土・祝)、東京で、屋内で、有観客で実施することになりましたね! 今回も<京伴祭>から引き続き、高梨さん、宮崎さんにもご出演いただけるということで、よろしくお願いします!

全員:お願いします!

林:まだまだ試行錯誤中で、今回もエピソード0に引き続きテストケースになる部分もあるかと思いますが、東京で、屋内で…と<京伴祭>に比べて足を運びやすいようにはできたんじゃないかと思っています。今回も例にもれず、(自身が演奏する)ステージのモニターで流れるアニメ映像も僕が選んでいます。ぜひ会場で、生の演奏と映像が絡み合って作り出す、感動の掛け算を楽しんでいただきたいなと思っているので、有観客ライブ、たくさんの方に遊びに来ていただきたいですね!

▲高梨康治

高梨:そうですね。有観客、とっても楽しみです! もともと僕自身、劇伴作曲家というよりはメタラーが劇伴を書いているだけで(笑)。年間200本くらいライブをやっていた時期もあったので、ライブはすごくテンションが上がります。コロナ渦で無観客での実施になってしまった<京伴祭>でも、ステージに立った瞬間「ああ帰ってきたー!」っていう気持ちになれたので、有観客の今回はさらに盛り上がれそうです。コロナ渦で少し盛り下がってしまっていたエンタメ業界ですが、東京伴祭では、エンターテイナーとして、最高のエンターテインメントをお届けできたらと思っています!

宮崎:劇伴っていう一つのカテゴリーはあるかもしれないけど、その中には高梨さんみたいなメタルもあれば、ジャズ、エレクトリック、クラシックなど、ジャンルの垣根を超えた音楽であふれかえっていますよね。そんな多種多様な音楽を一つのイベントの中で楽しめるのって、なかなかレアな機会だと思うんです。今回は僕は一つの新しい試みとして、ボーカリストを呼んで、歌ものの曲を一曲演奏してみたいなと考えています。そんな挑戦もしつつ、<京伴祭>よりさらにパワーアップしたステージをお観せしたいと思っているので、当初の僕みたいに、劇伴のライブは楽しみづらいんじゃないかって思っている方も、ぜひ一度、観てみていただければと思っています!



■今後の展望

島津:<東京伴祭>とっても楽しみですね! そしてそれを経て、さらにどんどん進化していけたらいいなと思っています。

林:そうだ! あと今回はこの3名に加え、新たに1名、小畑貴裕という後輩の作曲家にも少し演奏してもらおうと思っています。彼は『約束のネバーランド』などのアニメ音楽も担当しているので、そのあたりの曲も聴けちゃったりするんじゃないでしょうか!?

宮崎:お!いいですね。僕の周りにも参加したいって言ってくれている後輩とかもいるので、徐々にいろんな方を巻き込んで、さらに盛り上げていけたらいいですよね!

林:<京伴祭><東京伴祭>を経て、“劇伴音楽祭”“劇伴フェス”というスタイルを一人でも多くの方に知ってもらって、5年10年かけてどんどん仲間を増やして、日本各地、さらには世界各国に持っていけるコンテンツにできたらいいですよね!

高梨:その中心に、“林ゆうき”という、ぶれない発起人がいることが、素晴らしいコンテンツを作るための大きな求心力になると思うよ!

取材・文◎大木由佳子
撮影◎安藤美奈子

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鼎談メンバー プロフィール


■高梨康治
ロックを音楽的原点とし、ハードロックとオーケストラを融合した重厚かつ華麗なサウンドを得意とする音楽家。音楽制作集団『Team-MAX』主宰、和楽器をフィーチャーしたロックユニット『刃-yaiba-』のリーダーでもある。




■林ゆうき
元男子新体操選手、競技者としての音楽の選曲から伴奏音楽の世界へ傾倒していく。音楽経験は無かったが、大学在学中に独学で作曲活動を始める。卒業後、hideo kobayashiにトラックメイキングの基礎を学び、競技系ダンス全般の伴奏音楽制作を本格的に開始。さまざまなジャンルの音楽を取り込み、元踊り手としての感覚から映像との一体感に重きを置く、独自の音楽性を築く。




■宮崎誠
13歳でギターを始め、22歳から本格的にギターリストとして活動を開始。その後、ロック、ポップスを中心に様々なジャンルの楽曲を精力的に手掛け、作曲家としての活動を本格化する。バンド系から打ち込み系まで流行を押さえたサウンドで幅広く対応し、O.S.T.ではロックをベースに壮大かつ繊細なオーケストレーションを得意とする。




■島津真太郎
懐刀株式会社 取締役 チーフプロデューサー
株式会社グラウンディングラボ 代表取締役社長
「ドラゴンクエスト」シリーズや『モンスターストライク』などのイベント制作をはじめ、様々なゲームやアニメ、音楽などのイベント制作、PR、番組制作などを担当。
劇伴作曲家・林ゆうきのチーフプロデューサーを務め劇伴音楽制作を担当している。

<東京伴祭 -TOKYO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023>

2023年4月29日(土・祝) 国立代々木競技場 第二体育館
13:00開場 ∕ 14:00開演

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