【インタビュー】Waive、日本武道館ワンマンをもって解散を宣言…その真意を語る「明確な大義名分を掲げない限り、僕らは燃やし尽くせない」

ポスト
no_ad_aritcle

■タイトルに入れた初期衝動という言葉
■我々はそれを失うとWaiveでなくなる


──あと、お二人にお聞きしたかったのが、ファンクラブWAVEについてです。支払いは20,000円の入会金だけという定額制(入会時から解散まで会員資格有効)ゆえ、“最初に入るのが一番お得”というシステムはユニークだなと思いました。一方で、幅広い人たちに訴求していこうとする動きとは逆行するようにも思えます。ファンクラブ創設に関して、田澤さんはどうお考えですか?

田澤:進めてくださっている皆さんから上がってきた「こういう風にやろうと思っているんだよ」という案に対して、異論はなかったです。入会金の金額が高いと思うのか安いと思うのか、人によって受ける印象もそれぞれ違うと思うし、ファンクラブとサロンとでは入った人が何を求めるのか?も違うだろうけど。ちゃんと“解散までの軌跡を共に歩みましょう!”という言葉に対する印象に適ってる気はするし、異論なしです。

──7月のライヴのMCで杉本さんは、「ファンクラブ会員は、日本武道館に辿り着くまでの道程をサポートしてくれた人、仲間である」という趣旨のお話をされていましたよね。

杉本:僕はそう思ってますね。入会していないからと言って咎めることはもちろんないけど、差別化はしたいので。僕もいろいろなものを好きになるほうで、たくさん作品を買ったりもするし、いっぱいクラウドファンディングのサポーターをするタイプだから、“成就したんだな”といううれしさがよくわかるんです。目に見える形での応援1つ1つに、少しでも、1ミリでもいいから差別化できるものがあるんだとしたら、ファンクラブの人だけに対して、例えば「ありがとうございました」というメールを送ってあげるとか、席種をつくるとしたら前方や見やすい席を工面するとか。実際に何ができるかはまだわからないですけど、終わらせる以上は、そういう差別化が必要なんじゃないのかなと。


▲田澤孝介(Vo)

──それがファンクラブでもありますし。

杉本:自分たちにとってその人たちが必要というのも当然あるけど、それだけではなくて。ちょっと乱暴な言い方になるんですけど、“自分の応援がWaiveをこうしたんだ”と思えるような、何があっても応援してくれるであろう人たち同士の共同体感を感じてもらうには、ファンクラブが必要なのかなと。“このマークを着けている人間は、明確にこの思想なんだ”というのと一緒で、“同じ記号のもとに集いし同志”みたいな感覚を持ちたいんです。それがファンクラブかなと思っているので。だから、二重構造という感じですかね。最初からすごく熱心に共同体的に応援してくれている方々を以前よりも一層強固に生み出しながら、その一方で、たくさんの人に知ってもらうために特定多数にもっと開いていくという。その両方をやっていかなきゃいけないから。誤解を生みそうな気もするけど、よく言われるものとして、やっぱりある種の“宗教”なんだと思うんですよ、バンドって。

──アーティストという“神”を信仰する構図ではありますよね。

杉本:その人のやっている音楽とかメッセージを好きかどうかは、イズムだから。それを大きくしていく時に、中心に近い幹部的な考え方の人たちと、外側で特に意味も知らずに理念や教えの有名な節だけを唱えているだけの人たちと、どっちも信者であることには変わりないですからね。思想や主義であるイズムを信仰してくれる人がいないと、中心の人間は広げられないので。

──熱狂を伝播させるコア層が鍵になってきそうですね。<Burn>ツアーは8月4日のファイナルが10月23日に延期となってしまったわけですが……。

杉本&田澤:貮方(孝司/G)のせいで(笑)!

──コロナ感染が当日発覚したそうで、心配しましたし非常に残念なことでした。10月22日から始まるツアー<爆ぜる初期衝動>に向けて、どんなテンションで進んでいかれますか?

杉本:やることは結局一緒な気がするんですよ。もちろん、その都度チューニングされるとはいえ、 根底にある“WaiveがWaiveとして活動する”というところは揺るがないので。悪い意味ではなく、同じことをするのかなって。例えばボクシングでも、どんな強い人もずっとボクシングをするわけで、世界チャンピオンになったら突然リングで刀を振り回すなんて奴はいないわけで。第三者から見たらわからないような微妙な変化をたぶんやっていくんだと思うんです。“前回のステージでこうだったから、次はこうしてみよう”とかね。僕らは他の活動もやってるから“こういう経験を得たからこうなんだな”みたいなこともありますし。


▲杉本善徳(G)

──なるほど。

杉本:僕はここ数年、舞台とかの業界に関わることが増えたから、そのなかで思っていることとして、さっきの話じゃないけどWaiveの田澤くんって、“クリエイター側ではない”という意識を持っているからこそ“役者なんだな”と思っているんです。ミュージシャンは本来、そう言われるのがたぶん嫌なんですよ。僕も嫌だったし。でも、渡された脚本をどう解釈して、与えられた役をどう演じるのか。同じ歌詞だけれど、“前回はこう歌ったけど、もしかしたら違うかもしれない”と次のライヴまでに考えたり。2DAYS公演だったら、初日で思ったことを2日目にチューニングして、また違った感じで歌う…僕であれば違った感じで弾く。そういうことの繰り返しなんだなと思っていて。“演じる”って、決められた台本の上にいるみたいな印象のある言葉だから、“ライヴと矛盾が生じるから嫌だな”と思ってしまうだけで。田澤くんのポテンシャル…それも歌唱力とかではなくて読解力みたいなものをいかに引き出せるか、それがストーリーを書く僕みたいな人間の役目なのかな、と最近はすごく思っていて。

──演出家ですね。

杉本:さっき質問があった「歌詞を先にもらったりしますか?」という話もそう。僕からすると、書き直してフィックスしたものを渡したほうが正しい…要するに僕の迷いなんてものは伝わらないほうがいいと思う時もあれば、今回の新曲のように、本来は必要ないのに「これとこれとで迷ってる」というものを先に田澤くんに送る時もあって。「“君”と言うか、“僕”と言うかを悩んでる」みたいなところって、傍から見ればほぼ一緒なんですよ。でも、「どっちの目線なんだろうって、悩んだよ」という事実を伝えておくと、フィックスした歌詞を見た田澤くんが“これを悩んでこうなったんだ”と思いながら歌うわけじゃないですか。田澤くんの葛藤とか考える行為を引き出すべき時と、考えずに歌ってほしい時、あるいは考えて歌ってほしいけど、そこに至った僕の過程は僕だけが知っていて、これをまっすぐ歌って解釈してもらいたいという時、それらを分けないとダメだなって。

──杉本さんの胸中で、様々な想いが複雑に入り組みながら蠢いているわけですね。

杉本:テクニカルな話に聞こえてしまうかもしれないけど、もちろん、ほとんどのことをアドリブでやっているバンドだから、リアルタイムで思ったことに過ぎないんです。とはいえ、2DAYS公演とかツアーとか、活動を密にしていく時、“この話が先に出ちゃうと、たぶんその後、物語が変わってしまうな”みたいな言葉だけはグッと飲み込んで、“このターンの最終公演でしか、これは言っちゃいけない”と意識したり。あるいは“これはステージでは言わずに、楽屋に戻ってからの会話の中でしか散りばめちゃダメなんじゃないのかな”とか。結構そういうことは考えてるし、裏側では無茶苦茶マニアックなことやっているつもりでいるんです。だけどやっぱり、ステージ上でやることは、勝手に進んでいってしまう1秒1秒の中で咄嗟に出ることなんですね。こういう話をすると、熟練してしまったんだなと思う。


──今のWaiveだからこそですか。

杉本:そんなこと若い頃は絶対に考えずにやってましたから。だからこそ、次のツアータイトルに<初期衝動>という言葉を入れたところがあって。やっぱり我々はそれを失うとWaiveでなくなるから。もちろんメンバー全員にとって人生で初めてのバンドが、Waiveなわけではないんだけど、プロミュージシャンとしての経験を一歩踏み出したのは、全員がWaive だと思っているだろうから。その失ってはいけない感覚を取り戻すためにやる。だけど、それを取り戻すためには、自分たちが得てきた経験を裏では全部注ぎ込むぐらいの気持ちでやっていかないと、幼稚なライヴになってしまうのでね。そんなこと、お客さんも含めてもう誰も求めてないし、気持ちいいライヴやったなって我々も楽屋で思えるわけがない。なので、満足をブラッシュアップしていって最高のものをつくっていくんだけれども、そこにそういう活力、若さみたいなものを載せるのって…我々もうアラフィフですから、簡単じゃないですからね(笑)。

──歌舞伎とかクラシックバレエとか、伝統的な型のある舞台芸術において、歳を重ねた演者が若者を演じ、それが時に尊さを生んだりもしますよね。実年齢が若いバンドのリアルな若さとは違う、普遍的な青春感みたいなものをWaiveは表現できるのかもしれないなと、今お話を聞きながらふと思いました。

杉本:我々の年齢がまた中途半端で。これが50代後半とかだったら、“伝統芸能”的な呼び方をしたほうが正しいけど…まぁ、僕らが若い頃に思っていた40代と今の40代って全然違って、若いじゃないですか。そう考えると、僕らって“30代がやっている伝統感のあるもの”のほうが近いというか、意識するべきものはそこなのかなと近年思っていて。先日も早乙女兄弟がいる劇団朱雀の公演を観てきたんですけど。あの人たちは幼少期から舞台を経験しているから、30歳前後だけどキャリアの長さでいうと、僕らとあまり変わらない。お客さんもそういう若さとか活力のあるものを求めていて、シーンに対して新しい風を吹かせている。だけど大衆演劇という長く続いている伝統は守っているみたいな。それを観ていると、“あ、これをやった時が本人たちも一番楽しいだろうし、お客さんも、めちゃくちゃクオリティーが高いものを観たのに、若い気持ちになって帰れるんじゃないか”と感じるんですよ。“私らもこんなん観るようになったんか。歳取ったなぁ”じゃなくてね。

──そのパターンがWaive のライヴに転用できると?

杉本:うん。そういった音楽とは違うものから得たことや解釈があって。それらをバンドとかロックに変形させたり、意識して言葉をつくったり曲を書いたりするようになってきたなと思います。本当にこの1〜2年ぐらいのことですけど。“すごくちゃんとしたロックバンドを観て、10歳若返った気持ちで帰れる。けれども、エンタメとしては熟練したものを観られたんだな”みたいな。

◆インタビュー【4】へ
◆インタビュー【2】へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報