【インタビュー】Tani Yuukiの現在地を示す「最後の魔法」リリース「聴いてくれる人、周りの人たち……背負うものが増えたという感覚」

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昨年「W/X/Y」や「もう一度」が大きな話題となり、年末には「日本レコード大賞」の新人賞も受賞、大躍進を遂げたTani Yuuki。今年はアーティストとしての進化を刻んだセカンドアルバム『多面態』をリリースしZeppツアーを開催、さらに初のアニメ主題歌として『EDENS ZERO』に「械物」を提供するなど、その注目度はますます高まっている。その「械物」から3か月ぶりにリリースされる新曲「最後の魔法」は、スケールの大きなサウンドにのせて「あの日」の恋を歌う王道ロックバラードとなった。過去の記憶を掘り起こして歌うというマナーはTani Yuukiの真骨頂だが、そこに重厚なギターロックが掛け合わされることでこれまでの彼のどの曲とも違う、より普遍的で懐の大きな楽曲が誕生した。この曲を携えて11月からは初のホールツアー<Tani Yuuki Hall Tour 2023 “kotodama”>も廻る彼に、アーティストとしてのこれまでと現在地を語ってもらった。

  ◆  ◆  ◆

■「最後の魔法」は特段余白が多い

── 今年は『多面態』というすばらしいアルバムを出してツアーも完遂しましたが、ここまで振り返ってどんな手応えを感じていますか。

Tani Yuuki:来てくださった方たちにとって意味のあるものであってくれたらうれしいんですけど、“多面態”ツアーは僕にとってとても大きなツアーだったなと思います。僕らのライブのスタイルがちゃんとひとつ確立できたという意味合いもありますし、アルバムの中で語っている「自分とは何ぞや」という等身大の部分も叫べたかなと思っているので、無事走り終えられたっていうことが、僕と僕のチームにとってすごく大きな意味を持ったなと思っています。

── 『多面態』はTani Yuukiというアーティストのいろいろな部分を見せるような作品だったと思います。あのアルバムを作り上げたことはアーティストとしても自信になったんじゃないですか?

Tani:そうですね。セカンドアルバムということもあって、ファーストアルバムの手探り感よりも勝手を掴んだ後のアルバムではあったので、少しだけ心の余裕がありやりたいことが表現できた部分もありますし、でももう少し詰めたかったところもあって。まぁそれは先にとっておく楽しみとして、確実にあのアルバムを作ったことは僕の中でちゃんと糧になっていると思いますし、それはライブですごく還元されて帰ってきているような気がします。



── アルバム以後、Taniさんの中で新たに芽生えたビジョンなり目標なりというのはありますか?

Tani:漠然と「ドームに立ちたい」とか「スタジアムでライブをしたい」とかあるんですけど、まだまだライブのクオリティや表現する角度だったり、突き詰めるところはまだたくさんあるなと思っていて。もっといろいろできるなと思っています。フェスに行って他のアーティストさんやバンドさんのライブを観るとすごく叩きつけられるんですよね。Creepy Nutsのライブは煽りがうまいなと思ったり、フレデリックのライブは導入が自然だなあとか。ツアーでひとつ僕たちの答えは出せたんですけど、それが必ずしも正しいわけじゃないと思うので、それに縛られないで、またちょっと違うことをやりたいですし、それがやるのが課題だったりしますね。たくさんライブをやってきたことで、周りから吸収したこともあれば、「本当にこれでいいのか」というところも出てきて、そういう会話はよくしています。

── そもそものところで、ライブでお客さんの前で歌うということに対する意識も変わってきました?

Tani:そうですね。もともと、ライブのステージに立つこと自体がそんなに好きじゃなかったんです。でももしかしたらどこかで自分の中で感情がひっくり返るところがあるかもしれないと思って去年1年を通してライブを重ねきて。それでちゃんと無事「ライブが楽しい」になれたんですよね。なれたんですけど……昔はどこか「自分が作ったものを届けたい」という結構自分中心な思いが強かった気がしていて。でも今はどちらかというと自分以外の人たちに向けての思いを持ってステージに立つことが増えたなと思います。聴いてくれる人、周りの人たち……背負うものが増えたというか、そんな感覚でいます。

── 今回の「最後の魔法」という曲はまさに背負うものが大きくなったからこそ生まれた曲なのかなと思ったんです。抽象的な言い方ですけど、曲としての「飛距離」が伸びたという感じがして。

Tani:僕が曲を作る時は僕の過去の実体験を振り返って作るんですけど、振り返りをした時に、当時のシチュエーションは思い出せるんですけど、「どんな会話をした」とか「あの時引っかかっていた言葉は何だった」とか、目元は? 輪郭は? みたいな細かいところがぼやけているような気がして。それでまさに〈思い出せないんだ〉というサビから作っていったんですよね。なので昔のラブソングたちの一番最新に位置する楽曲、当時からいちばん遠い楽曲だと思うので、そういう意味でも遠いといえば遠い楽曲ではあって。それに、僕も24歳とはいえ歳を重ねてきた中で、僕よりちょっと上の人とかでもこういう感覚はあるのではないだろうかと思いながら作った楽曲ではあるので、その距離は確かにちょっと長いかもしれないですね。

── 描かれる情景も、隙間というか想像できる余白が大きいですよね。

Tani:そうですね。ただでさえ僕の曲は余白が多いんですけど、これは特段余白が多いような気がしています。かと思えば急に具体的になったりとかもするんですけど、そこには葛藤みたいなものも垣間見えて、いい表現になった気がしています。

── サビから作り始めて、どういうふうにできていったんですか?

Tani:〈思い出せないんだ〉から作っていったので、タイトルも最初は「思い出せないんだ」だったんですよ。で、振り返っていったときに……ジャケットで描いていただいてるんですけど、「髪型が思い出せない」とか「輪郭が思い出せない」とか、身長差がどんなもんだったか、ヒールが履けたんだっけ履けなかったんだっけ、みたいなことを考えていって。そうやって肉付けをしていく中で「魔法」という言葉が出てきたんですけど、記憶をたどる行為っていうのが、実際に目で見えてるわけでも聞こえてるわけでもないんですけど、自分の体のどこかで再生されてるような、それ自体がちょっと魔法っぽいな、と。でもそうやって思い出すのを最後にしよう、というところで「最後の魔法」っていうタイトルがいいかなと思ってつけました。

▲「最後の魔法」ジャケット


── 「最後の魔法」って曲名はすごくファンタジーな感じもするし、ポジティブな感じもするし、ネガティブな感じもする。実際にどちらも込められているんだと思うんですけど、すごく複雑な感情を歌っている曲ですよね。思い出したいわけじゃないけど、思い出せないことに切なくなるっていう。

Tani:そうなんですよね。それが別に嬉しいわけでもなくて、かといって特別悲しいわけでもなくてっていう、すごく宙ぶらりんな。この曲のイメージが僕の中ではすごく朝日っぽくて。水色やすごく霞んだ青、ちょっとグレーっぽいイメージだったりして。そういうところに複雑な感情が出ていたらいいなと思います。

── Taniさんってそういう微妙な心模様を描くのが得意ですよね。100%ポジティブで明るいとか、100%沈んでいて暗いじゃなくて、そのちょうど真ん中になるような感情をすごく丁寧に歌にされる方だなと思います。

Tani:真ん中っていうのは的を射ているかもしれないです。基本的に僕が曲を書く原動力はネガティブの方が強かったりもするんですけど、それもポジティブに向かうためのネガティブだったりする。この曲も最終的に前を向きたい、新しい一歩を踏み出したい、という気持ちがある上でのネガティブだったりもするので、真ん中です。

── 自分の記憶から掘り起こして歌詞を書いて、それにメロディーをつけて歌って、しかも今はたくさんの人の前で届けるという。それ自体、自分の記憶をポジティブに未来に繋げていくような行為なのかなと思うんですよね。

Tani:そうですね。その結果として聴いてくれた人から「救われました」とか「これをきっかけに頑張れました」みたいなメッセージをいただくんですけどと、自分以外のどこかでそれがポジティブに変わっている瞬間ががあるといいですよね。不思議ですけど自分も救われるというか。それも魔法みたいですよね。

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