【インタビュー】soLi、ただのインストゥルメンタルに終わらない。新しい要素が加わったアルバム『Rebellion』完成

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◾️こういうのが自然に浮かぶようになったのは、自分を鍛えてくださった違うジャンルの人たちのおかげ

──ヘヴィメタルにおけるヴァイオリンを考えたとき、例えばクラシックがルーツとなるようなネオクラシカル・メタルなどは、すごく相性がいいと思うんです。soLiの場合はそれとはアプローチが異なりますよね。ISAOくんにとっても、これは難しいチャレンジなんでしょうね。

ISAO:そうですね。おっしゃった通り、いわゆるネオクラシカルなことに合うのは当たり前なんですけど、そうじゃないという部分を何とか自分なりに今回の「Sky」という楽曲ではできたんじゃないかなとは思いますね。

星野:ネオクラシカルだったら、soLiでやる必要はないですからね。すでに世の中にたくさんいいバンドがいらっしゃるので。

──ヴァイオリンとギターの掛け合いもまた聴きどころの一つですね。次の「Night Lurkers」もイントロからしてISAOくんらしさが表れていますよね。

ISAO:何かひねくれてますよね。自分で思うんですよ。これはいわゆる跳ねものですけど、今までsoLiにはなかったね。

星野:なかったですね。ISAOさんのソロプロジェクトのSpark7とかを好きでお聴きになっている方は、ISAOさんだなぁって感じる色がすごく出てる楽曲だなと思われるのではないでしょうか。私もsoLiの前からSpark7で演奏させていただいたりしてたので、余計にそれは思いました。Spark7にありそうな曲だなって。

ISAO:この曲が本来の自分っていうか(笑)、そういったものが一番出てる感じですよね。決め打ちじゃない、遊び心が持てそうな楽曲。

──何気なく出てくるようなフレーズなんですね。

ISAO:そうです。だから、自然体に……このラインはこれにしようとかあんまり決めずにね。だから、ライブであれば、もっともっと毎回違うアプローチしてもいいのかなとか思ったり。

星野:セッション曲としてもできそうですよね。

──ギターフレーズが不思議で、やはり一筋縄ではいかない。それがISAOくんならではと思わせるところですが、普通のスケール演習だけをやっていたら、こうは弾かないだろうなと。

ISAO:それはあるよね。こういうのが自然に浮かぶようになったのは、六本木ピットインだったり、ロックだけじゃなくフュージョン/ジャズなどもいろいろ一緒に演奏してくださった先輩方を始め、今まで自分を鍛えてくださった違うジャンルの人たちのおかげかなとは思います。だから、しっくりくるんですよ。すごく気持ちがラクなんですね。

──聴きながら次の音を予想しても、そこを必ず外していくんですよね(笑)。心地よい裏切りがずっと続いていく感じが面白い。

ISAO:かもしれない。でも、こういうのを続けてると、売れないギタリストになっている可能性があるのでほどほどに(笑)。この曲はヴァイオリンがシビアだと思いますよ。

星野:ずっと同じことを繰り返した挙げ句に出てくるサビがすごく高くて、跳躍もあり。レコーディングしながら、「殺してくれ!」って思ってました(笑)。しかもユニゾンだし。

ISAO:同じことをずっと繰り返すって、本当に神経を使いますからね。

星野:でも、ちょっとずつ微妙に違うんですよね。ちゃんとわかってないとマジで間違えちゃう。後々に出てくる「Hidden Formula」でも同じものを繰り返し続けるってことをやらされていますけど(笑)、こういう曲こそ、ライブの前にちゃんと練習しておかないと奈落に落とされるので気をつけないと。

ISAO:難しいよね、そういうマラソンフレーズをずっと続けるって。

星野:ゲシュタルト崩壊していきますね。

──ただ、それがカタルシスに繋がっていく……いや、狂気かもしれませんが。

ISAO:そうですね。拷問の方法とかでも、同じことをずっと繰り返してくると、人間って気が狂ってくるっていうじゃないですか。だから、この曲を演奏していても、気が狂ってくるんじゃないですかね(笑)。夜、散歩してると目だけが光ってたりすることがあるじゃないですか。悪魔とかゾンビじゃないけど、そういうものが潜んでいるイメージなんですね、この楽曲としては。だから、最初はアーバン・シティーなピアノの旋律から始まるんですけど、途中ではちょっとヘヴィなリフが来たり、かと思えば、爽快なサビが来たりする。そんな何が起こるかわからない夜の道をイメージした楽曲ですね。

──“Lurkers”という言葉を使ったのが、すごく意味深げだなと思います。

ISAO:そうですね。ネタバレさせると、イメージとしては(ゲーム版の)『ウォーキング・デッド』なんですよ。『ウォーキング・デッド』では、コミュニティによってゾンビたちの呼び名が違うんですよね、ウォーカーといったり、ウィスパーだったり。その一つのコミュニティがラーカーっていうんです。“Lurker”というのは潜むものという意味ですけど、僕的にはそれが一番しっくりきてて。やっぱ潜んでるものって一番怖いですから。さっきおっしゃっていたような、こう来るでしょうって思うメロディにならなかったり、全部音が当たってきたりっていうのも、エンカウントじゃないですけど、何が起こるかわからないみたいなことを表しているんですね。


──なるほど。ピアノ始まりでしんみりと聴ける「Tender Rain」は沙織さんの曲ですね。
星野:この数年って、日本でも雨による被害が各地でたくさんありましたよね。これを制作しているときにも、ちょうどISAOさんが大雨の影響で新幹線に閉じ込められて、浜松で夜を明かしたことがあって。

ISAO:浜松に20何時間いたんですよね。

──ツイッターでも状況を報告されていましたよね。

星野:そうそう。30年前ぐらいの関東の大雨のときに、祖父母の家が床上浸水して、家財道具一式すべて駄目になったりっていう被害に遭ったこともあるんですけど、その頃の私はまだちいちゃかったから、あんまり身近に感じてなかったですし、最近の被害に関しても、大変だなとは感じつつ、傍観しているような立場だったんですよね。だから、ISAOさんの件は、最も身近に起こった被害でもあったんです。お水がないと人間も生きられないですし、雨が降るから、作物も育つわけですけど、大雨をネガティヴなものとして捉えてる方も、おそらく今は結構な割合でいらっしゃるだろうなと思ったんですね。そんなときに、そういう傷を負った方々の中で、降ってくる雨がいつか優しいものに変わる瞬間が、これからの人生の中で一瞬でもあればいいなっていうような気持ちで作ったんです。

ISAO:これは本当にいい曲ですね。

──ええ。純粋にいい曲だなと聴いてしまいますね。

ISAO:これを1曲目にする案もあったんですよ。レコーディングしてるときにも、この曲は凄いなと思いましたね。拍子が変わっている曲の場合、たとえば、「ここで5(拍子)から7(拍子)になるの!? 5のままでいいじゃん」といったこともよくあるんですけど、すべてが自然に流れていってるんですね。だから、録り終えて確認して聴いてみたときに、感動っていう気持ちが残るんですよ、いい曲だったなぁみたいな。しかも、僕がちょいちょい共演させていただいてる、PRISMの岡田治郎さんという凄いベーシストの方がいらっしゃるんですけど……。

──この曲のベースがまた素晴らしいんですよね。

ISAO:ヤバい。これはもう治郎さん以外には考えられないです。ソロなども含めて楽曲を壊さない。治郎さんからも「めちゃくちゃいい曲ですね」「録音してて感動しました」ってコメントと一緒に、録音したトラックが返ってきたんですけど、そのときは俺が書いた曲だと思われていたんですよね。だから、違うんです、沙織ちゃんが書いたんですよって伝えて。

星野:自分の楽曲に岡田治郎さんがベースを入れてくださる世界線が存在してたんだっていうのは、自分にとってはすごく大きな喜びで。一度、ご一緒させていただいたことがあったんですけど、そのときにもまろやかでお優しくて、ロマンスグレーの素敵な方で、しかもベースがこれだけ凄いというので驚かされてたんですけど、そんな方に入れてもらえたんだなぁって。

ISAO:治郎さんって、ベース1本と歌だけとかでライブをやれちゃう人なんですよね。その中でソロを取るわ、コードワークはするわ。

星野:平原綾香さんとかとも活動されてますよね。

──ええ。楽曲において際立たせるべきものを確実に踏まえながら、存在感のある音を出しているんですよね。

ISAO:そう。だから、こういう楽曲の中に入っても、何をやれば一番しっくりくるのか、自分の立ち位置が考えられている。僕が一緒にやらせていただいてるベーシストの中ではトップクラスって言うのもおこがましいぐらい、ベースという楽器だけ見た場合、別次元でいらっしゃるなとは思いますね。実際にその通りのテイクが来ましたし。こういう楽曲って、音価とかもすごく大事なんですけど、長すぎず短すぎず、一番いいところで収められているんですね。

星野:ソロも素晴らしいですよね。治郎さんからISAOさんへの流れ方とか、お二人とも、セッションとかでやってるような雰囲気なんですね。バチバチに作り込んでいるというよりは、軒から流れる水の流れみたいな自然な流れで。両方のソロをいただいて拝聴したときには、この二人にやっていただけて本当によかったと思いました。

ISAO:これはア・バオア・クー(『機動戦士ガンダム』に登場する要塞)の戦いを生き抜いた男たちのフレーズですね(笑)。治郎さんのベース・ソロを聴いたうえで録ってるんですけど、僕はいつも何も決めずにまずインプロで録るんですね。そこでよかった部分を残しつつ、他の部分を埋めていく。この楽曲の僕のギター・ソロのところはほとんど休符がないんですよ。それも流れなんですよね。別に意識はしてないんだけど、そういうのが出てくるのは、曲そのものもそうですし、治郎さんのベース・ラインがあるからだと思うんですよ。

──ドラムにしても細かくリクエストしたんでしょうね。

ISAO:この楽曲に関しては、沙織ちゃんが現場で細かく言ってたね。

星野:うん。でも、私は全然ドラム・パターンの語彙がないから、「これとこれぐらいでいかがですか」「ちょっと違うかもしれない」みたいな不毛なやり取りをしながら、(原澤)秀樹さんにはめちゃめちゃ時間かけてやっていただいて。

ISAO:曲のイメージを言いながら、音数も減らす……減らさないと伝わらないことがあるので。こだわりがある分、時間はかかりましたね。ということで、ライブの1曲目これにしましょうか(笑)。レコ発のツアーでは、ベースは「Sky」でも弾いている瀧田(イサム)さんにお願いするんですけど、オール・ジャンルをちゃんとわかってる方なので、この楽曲もすごくいい感じの瀧田さん節で弾いてくれると思います。

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