【ライブレポート】Dios、ツアー<&疾走>ファイナルに強力な正三角形「正しいフォームで生きているか?」

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9月6日に2ndアルバム『&疾走』をリリースしたDiosが、10月7日から全国7カ所を巡る2度目のリリースツアー<Dios Tour 2023 “&疾走”>を敢行。そのファイナル公演が、10月23日に東京・Zepp DiverCityで開催された。

◆Dios (ディオス) 画像

ブラウン管風テレビでビデオテープの再生をスタートさせる──そんなCGアニメーションがステージ奥のスクリーンに映し出されると、アルバム『&疾走』のオープニング曲と同様に「自由」でライブの幕が上がる。今回の全国ツアーは、ベース&ドラムのサポートを従えた5人バンド編成だ。たなか(Vo)がいきなりエネルギッシュなパフォーマンスを披露すると、否応なしに上昇していく観客のボルテージを加速させるように、Ichika Nito(G)が自身のシグネチャーモデルIbanez ICHI10を手に、テクニカルなタッピングやスラップ奏法を織り交ぜギターをかき鳴らす。するとヤマハYC61をプレイするササノマリイ(Key)は、冷静さを保ちながらも、静かに、しかし確実に膨大なエネルギーをZepp DiverCityの空間に放出していった。




2曲目の「アンダーグラウンド」を演奏し終えると、たなかが「東京、踊れますか!?」と観客を煽り、「Bloom」「裏切りについて」を立て続けに演奏。ここで短いMCを挟み、「王」ではダークながらもメロディアスなササノのピアノをバックに、たなかのドラマチックなボーカルが響き、続いて攻撃性を増したビートの「紙飛行機」では中間部で一転、Ichikaがジャジーなソロを聴かせてくれた。その後も、「鬼よ」「渦」「ダークルーム」「逃避行」と新旧作品を織り交ぜたセットリストが並び、あっという間に10曲が演奏された。

ここで長めのMCを入れ、たなかは、最新作『&疾走』は前作『CASTLE』(2022年発表)と気持ちを大きく変えて制作し、3人それぞれの強みをあえて整理せず、そのままリスナーに届けようと作り上げたことを観客に伝えた。



「今までは自分のために音楽を作っていたけど、それが『CASTLE』でひとつ、自分の中で満足できた。だから今回は、みんなのために音楽を作りたいと思ったんです。アルバムのタイトル通り、みんなが人生において疾走していくシーンの隣にいて、僕らも音楽で一緒に走れる存在になれたらいいなという気持ちで作りました」──たなか

すると続けて、「“正しいフォーム”の話もしていいですか?」と彼は観客に訊ねた。リスナーに音楽でどう寄り添いたいかを熟考した際、カッコよさや美しさだけでなく、みんなの人生を前に進めるために機能する言葉と音を作りたいと考え、“正しいフォーム”を念頭にタイトル曲を作ったという胸の内を明かした。その“正しいフォーム”とは、たなかがIchikaの音楽に対する姿勢に触れ、見つけ出したものだったと言う。




「Ichikaって今や世界的ギタリストだけど、元々はごく普通のギター大好き高校生で。そこから“こう練習したら、こうなるはず”という、自分の中での“正しいフォーム(=明確な価値観)”を見つけ出したんだと思う。日々自分たちが何で不安になるかと言うと、自分が正しいフォームで生きているかどうかがわからなくなるから。だからみんなにも、日々の暮らしの中でひとつの指標として“いま、正しいフォームかな?”と思い出してもらえたら、みんなの人生と並走できるんじゃないか。そういう想いでこのアルバムを作りました」──たなか

こんなエピソードに耳を傾けつつ、3人のパフォーマンスをじっくりと観ながら改めてわかったことがある。Diosの一番の面白さは、何と言ってもこのバンドにはフロントマンが3人いるという点だ。




もちろん、ラップやリリックを含め、メインのボーカルはたなかが担っている。だが、時にIchikaのギターはボーカル以上の強烈な存在感を放ち、楽曲全体のサウンドを彩るササノのキーボードプレイとトラックメイクは、Diosに欠かせないアイデンティティと言える。つまりDiosは、誰が主役で誰が脇役とかではなく、音楽的にも個性的にも3人が等しいパワーバランスできれいな正三角形を形成しているのだ。そして正三角形は、構造的に最も強力だ。

さすが、三者三様にソロ活動を展開しているバンドだけあって(正確に言えば、そもそもがソロで活動する3アーティストが一堂に会したバンドがDiosである)、サッカーで言えば3人のFWがゴールを狙う3トップ攻撃のように、観客に音の波状攻撃を仕掛けてくる。そのフォーメーションの妙を存分に味あわせてくれたのが、サポートメンバーが一旦ステージ袖に下がり、1stアルバム『CASTLE』リリースツアー時と同じように3人のみで演奏が行われたライブ中盤のコーナーだ。




「The Room」では、たなかがハイトーンとファルセットを絶妙に織り交ぜたリリックで観客を魅了するなか、Ichikaとササノはアイコンタクトを交わしながら呼吸を合わせ、メカニカルかつメロディアスなフレーズで楽曲の景色を彩っていく。続く「試作機」を、ササノの幻想的なピアノとたなかの歌だけで演奏すると、バトンタッチするがごとく、今後はIchikaがテクニカルなタッピングを駆使した超絶ソロを披露。すると、たなかが「スゲェいい! オレもIchikaと何かやりたい」とつぶやき、ギターとボーカリストが火花を散らすようなバトルを繰り広げ「Struggle」が歌われた。

これら3曲(+ギターソロ)を聴いていて、ふと気がついた。3人で繰り広げられた同コーナーがより説得力のある深みをもって輝くことが出来たのは、逆説的に言えば、ライブ冒頭からステージをサポートしていたオオツカマナミ(B)と山本晃紀(Dr / LITE)の強力なリズム隊あってこそ、なのだ。この2人の力量を見逃してはならない。



オオツカは5弦ベースを操りながら、グルーヴィかつソリッドなベースラインでボトムを支え、一方の山本は、Ichikaに「マスロックのレジェンド」と言わしめた通りに、エモーショナルでタイトなビートを刻んでいく。このベース&ドラムによって、プログラミングで構築されているアルバム『&疾走』の楽曲たちに動と陰影が加わり、彼らの音楽に有機的な生命を与えていたのだった。

それだけではない。まるで2人のグルーヴに触発されたかのように、たなかとIchika、そしてササノのプレイも次第に熱を帯びていき、3人バンドDiosとして魅力だけでなく、5人編成バンドDiosとしての新たなアンサンブルを今回のツアーで見事に創造していた。音源、3人バンド、5人編成と、シチュエーションによって自在に音楽表現を変化させていく“自由”さ。これこそが、まさにDios最大の強みであることを思い知らされたステージであった。



そこから再びオオツカと山本をステージに呼び込むとライブも終盤。「天国」でミラーボールがきらめき、「花束」の冒頭、ササノが弾くプラック音のリズムに合わせて手拍子が沸き起こる。ファンクテイストの「ラブレス」から「Virtual Castle」、そしてアルバムのタイトル曲「&疾走」が怒涛の勢いで演奏されると、大歓声の中、ライブ本編が終了した。

そしてアンコール。11月15日に新曲「スタンダロン」がリリースされることが告知され、「Diosとして、これまでやらなかったことをやろうと作った曲」というたなかの曲紹介で、たなか&ササノのツインボーカルという新曲が初披露された。軽快な16分音符のシーケンス(リズム)が印象的なトラックに、たなか&ササノのボーカルが重なっていく。同時に、Ichikaのギターからは、バッキングと言うよりも、まるで歌っているかのようなオブリ的フレーズが全編に渡って奏でられ、一瞬、まるでトリプルボーカルと錯覚しそうになるくらいの歌心を感じた実にユニークな新曲であった。ササノの歌はたなかの声色とのコンビネーションもよく、ボーカルというササノの新たな魅力を開花させただけでなく、Ichikaのギターさえも歌になり得ることを改めて感じさせるDiosの次なる挑戦が、そこにあった。



「最高のファイナルだったね」──Ichika

「また、すぐに次をやりたいね」──たなか

「やりましょうよ!」──ササノ

興奮気味に、そしてフィナーレの時間が近づくことを惜しむかのように3人が語ると、最後に「また来世」が歌われ、意欲的な試みに満ちたDiosのツアーは幕を閉じた。ミュージシャンとして際立つ3つの個性を、あえて融合させず、ぶつけ合わせることで生み出したDiosならではの音楽性と、“人”として3人がそれぞれ持っている人柄やお互いの関係性が音と言葉の端々に滲み出た一夜。今後のDiosの展開がますます楽しみになるツアーファイナルであった。


取材・文◎布施雄一郎
撮影◎Yukitaka Amemiya

■<Dios Tour 2023 “&疾走”>10月23日@Zepp DiverCity(TOKYO)セットリスト

01. 自由
02. アンダーグラウンド
03. Bloom
04. 裏切りについて
05. 王
06. 紙飛行機
07. 鬼よ
08. 渦
09. ダークルーム
10. 逃避行
11. The Room
12. 試作機
13. Struggle
14. 天国
15. 花束
16. ラブレス
17. Virtual Castle
18. &疾走
encore
19. スタンダロン
20. また来世


■<Dios CHINA Tour 2023>

11月19日(日) 深圳 NUBOND LIVE HOUSE
open18:40 / start20:00
11月21日(火) 広州 太空間 LIVE HOUSE
open18:40 / start20:00
11月23日(木) 北京 EAST LIVE HOUSE
open18:40 / start20:00
11月24日(金) 上海 MODERN SKY LAB
open18:40 / start20:00
▼チケット
https://wap.showstart.com/event/list?type=1&tag=42378&ssfrom=user-99853
※上海会場のみ後日販売


■配信シングル「スタンダロン」

2023年11月15日(水)配信開始

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