【ライブレポート】新山詩織、恒例のデビュー記念日公演に未来「何がどうあれ前に進んでいかなきゃいけない」

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新山詩織が12月12日、東京・渋谷WWWにて<新山詩織 Live 2023『NEXT PAGE』>を開催した。12月12日は新山のデビュー記念日であり、活動休止を経て2021年に活動を再開したのも、この日この場所だった。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。

◆新山詩織 画像

「この場所はオーディションを受けた会場でもあり、デビューライブを行った思い出の場所です。その場所に、アーティストデビューの日に再び立たせてもらえて、本当に光栄です。懐かしい曲もたくさん詰め込んだので、皆さんに“あの曲がきた!”と思ってもらえる曲も、たくさんあると思います。ぜひ一緒に楽しくいい時間を作りましょう」──新山詩織


思い入れのある日付と場所で行う<NEXT PAGE>は、タイトルどおり新たな一歩を踏み出すライブであり、彼女にとっていかに特別なものであるかがうかがえるもの。また、この日のライブは2023年夏、約7年ぶりにリリースされたアルバム『何者 〜十年十色〜』収録曲や、2022年リリースのミニアルバム『I'm Here』収録曲を中心に、「今ここにいる」「あたしはあたしのままで」「分かってるよ」など、懐かしい楽曲も多数披露され、新山の過去・現在・未来が表現された。

ライブは最新アルバム『何者 〜十年十色〜』リード曲「何者」で幕を開けた。自分の内面と外からの言葉が軋轢となって心を乱すようなソリッドなサウンド。途中で聴かせるラップ的なリーディングが、暗闇にアイデンティティを模索しているかのよう。続く「Spotlight」では、R&B調のサウンドに乗せて自分のネガティヴをつぶやくように歌い、誰か自分に光を当ててくれと願う。


そしてアコースティックギターへと持ち替え、切ないメロディが印象的な4thシングル「今ここにいる」(2014年発表)、9thシングル「さよなら私の恋心」(2017年発表)のカップリング曲で爽やかな風が流れる青春ソング「らくがきちょう」を披露した。

かつて10代だった新山詩織は、人見知りでどちらかと言えば陰キャで、そんな自分に音楽という鎧を着せて大人たちと戦っていたように思う。そして大人になった今、新山は鎧を剣に替え、多少の擦り傷は覚悟の上で戦う。傷つくことを恐れていては、人と対話することもできないことを知ったのだろう。最新曲から10年前の曲まで一気に遡っても決して違和感はない。傷つきやすい内面は変わっていないのかもしれない。ただ違うのは、人としての成長があったということだ。


「ちょっとチューニングするので待っててくださいね」と無言でアコギのペグを回し、はたと気づいて「さっきの曲はすごく久しぶりで、当時イベントでもよく歌っていたから、いろいろ思い出しました」と新山。昔のライブでは、ただチューニング音だけが会場に響いていた場面も、今ではトークする余裕も生まれた。観客もまた、彼女のチューニングタイムをライブの一部として楽しんでいたようだ。

「12月に絶対やりたいと思って、密かに取っておいた曲です。この曲で温まってください」と紹介された「ミルクティー」は、ミニアルバム『I’m Here』収録曲。しっとりとしたピアノサウンドと、優しいメロディ、透明感のあるファルセットが、聴く者の心を浄化する。“だから大丈夫 巡り会えた幸せ感じて生きてゆきたいの”という歌詞に、きっと誰もがこの日この場所で幸せを感じたことだろう。


ライブ中盤、カバー曲のコーナーでは、「せっかく12月だし、原点に返って私らしく、まだやれていなかった曲をやっちゃおうと思って持ってきました」と新山。2016年リリースのアルバム『ファインダーの向こう』収録(通常盤Disc2)カバー曲のTHE GROOVERS「現在地」と、THEATRE BROOK「ありったけの愛」を爆音のバンドサウンドと熱い歌声で聴かせた。

そして「急遽もう1曲、私にとって大切な1曲になりました」と、The Birthdayの「ピアノ」を歌った。新山は兼ねてから敬愛するミュージシャンのひとりとしてチバユウスケを挙げており、「ピアノ」のカバーもシングル「今 ここにいる」のカップリングに収録していた。2023年11月にチバが急逝した際もX(旧Twitter)で「私にとって世界一格好いい方です」と言葉を添えて、追悼の意を表明した。この夜の開演前と終演後のBGMはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやThe Birthdayなどのナンバーを選曲。衣装が真っ黒のワンピースだったことは喪に服す思いがあったからなのかもしれない。新山の歌声は、ハスキーなチバの声とは正反対ではあるが、その奥にあるピュアさは同じ。新山はチバがいる空に届けるように淡々と、しかし思いを込めて歌った。


アコースティックコーナーでは、夏に開催した<新山詩織 アコースティックLive 2023 ~夏の終わり Vol.02~>を一緒に回った和久井沙良(Key&Mp)と「Free」を披露。新山自身もマイクを手に歌声を響かせ、楽器から解き放たれたことでメロディや歌声の美しさが一層際立っていた。またバンドでしか披露したことがないという「Keep me by your side」も、ピアノとイシイトモキ(G)のアコースティックギターでしっとりと披露された。

「ライブのタイトルには、来年に向けてどんどん前に進んでいる気持ちを込めました。新曲も気持ちの強いものがいいと思って、この曲を持ってきました。みんなで一緒に、信じ合いながら前に進んで行けたらいいなという気持ちで書きました」──新山詩織

とのMCに続いて、終盤には新曲「Believe in us」が披露された。シンプルで少し明るいムードのある優しさの感じられる楽曲で、ジャズのニュアンスにニューヨークの地下鉄構内で路上ライブをやっているような雰囲気が漂う。心地よいメロディはデビュー当時に戻ったような印象だが、“us”という言葉が付いたタイトルは今の彼女の思い。新山詩織の見据える未来は、みんなが信じ合える未来だ。


「今年はいろんなことがめまぐるしくありました。出会いもあれば別れもあって、生きることと死ぬことは隣り合わせだということも改めて実感した1年でした。だからこそ1日1日を大切に生きて、次に次にと、何がどうあれ私は前に進んでいかなきゃいけない。とにかく来年は、改めて自分らしく走っていきたい」──新山詩織

こう語ったアンコールの最後は、初めて自分で書いた曲だという「Looking to the sky」(1stアルバム『しおり』収録曲)。切なさと明るさが絶妙に配合された1970年代ウェストコーストロックを思わせるサウンドとメロディーが印象的だ。明日の空をまぶたの裏で想像するように目を閉じて“ダメそうな時もあるけど 明日の空に 負けないように”と歌う新山。観客もまた、熱くほてった気持ち冷ますようにゆっくり体を揺らしながら、彼女の歌声に耳を傾けた。


外に出ると、冷たい雨は止んでいた。明日の朝はどんな空が待っているのか。新山詩織がこの日めくった新しいページにはどんな空が描かれるのか。楽しみにしていたい。

撮影◎達川範一(B ZONE)

■<新山詩織 Live 2023『NEXT PAGE』>12月12日(火)@渋谷WWW セットリスト

01. 何者
02. Spotlight
03. 今 ここにいる
04. らくがきちょう
05. 帰り道
06. ミルクティー
07. あたしはあたしのままで
08. 現在地 (THE GROOVERSのカバー)
09. ありったけの愛 (シアターブルックのカバー)
10. ピアノ (The Birthdayのカバー)
11. Free
12. Keep me by your side
13. Believe in us (新曲)
14. わかってるよ
15. New
encore
en1. 約束
en2. Looking to the sky

▼サポートメンバー
和久井沙良(Key&Mp)
イシイトモキ(G)
まきやまはる菜(B)
山近拓音(Dr)

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