メタリカがクラシックになった日

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シンフォニック・メタリカ
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 '81年の結成以来、既に20年近い歴史を誇るMetallica。純粋なるアンダーグラウンドのヘヴィメタルとして衝撃的な登場をした彼らも、今では最新アルバムの曲が、世界中のオルタナティヴ専門ラジオ局のプレイリストを席巻するようになっている。このことだけでも、多くのバンドにとっては大きな展開といえるだろう。
 しかし、MetallicaのJames Hetfield、Lars Ulrich、Kirk Hammett、Jason Newstedの4人にとっては、これも数ある展開のうちの1つに過ぎない。彼らの様々な展開の中でも、近頃最も驚かされたのは、元長髪のロックバンドだった彼らが、San Francisco Symphony Orchestraという、分野の違う長髪のミュージシャン達と共演したことだ。

 ドラマーのLars UIrichが先頃Launchに語ったところによると、彼らにとってメタルの主であることは、どうやらほとんど型にはまった日常仕事になってしまっているらしい。そんな彼らにとって、大勢のミュージシャン達との共同作業に挑戦することは、無視することの出来ない、面白そうな話に映ったというのだ。その結果として誕生したのが『S&M』アルバム。クラシックとメタルの混合をライヴ収録した印象的な作品である。

 このようなジャンルを越えた試みは、ある意味で、'90年代にMetallicaが見せた大きなスタイル面での変化の延長線上にあるものと言えるかもしれない。彼らはその髪を切り、音楽性をよりメロディアスでシンプルなサウンドへと変えた。長い間彼らのファンだった人々は、もし、亡くなったベーシストのCliff Burtonが生きていたらこういう変化は起こっただろうか、と考えるかも知れないが、そのようなファンの存在が逆にバンドの収入を減らしてきたのだ、と言われると反論出来ないだろう。Metallicaはカルト的な人気を誇るバンドから、世界でも最大級の観客動員を誇るバンドへと、見事に変身したのだ。
 彼らは今や、VH1の番組『Behind The Music』の取材対象にまでなっている。しかし、バンドにとって最大の変化は音楽とは何の関係もないところで起こった、とLarsは言う。彼とシンガー/ギタリストのJames Hetfieldが数年前に父親になったという事実こそが、最大の変化だというのだ。彼は言う。

「10年前、俺達の人生でMetallicaは唯一無二の存在だった。でも、今はそうじゃないんだよ」


LAUNCH:
ベルリンやニューヨークでもオーケストラと共演しましたが、『S&M』アルバム用に録音したのはサンフランシスコでのライヴでしたね。内容や違いを比較してもらえますか?

ULRICH:
俺としては、どのコンサートもみんな違っていた、っていうところが気に入ってるんだよね。サンフランシスコの時は大騒ぎだった。レコーディングの機材車やら、撮影用のスタッフも大勢いたし、何しろそれまでやったことのないものだっただろ。失敗したら一巻の終わりって感じだったんだ。でも、ベルリンでやった時は既に1度やった後だったから、俺達も自信があったし。ベルリンでやった時は、(ニューヨークの)マディソンスクエアガーデン同様、コンクリートの建物の中でやったから、そういう意味ではロック色が強かったね。サンフランシスコの時はオーケストラが使うような劇場でやったので、オーケストラ色が強かったけど。

LAUNCH:
なぜ『S&M』用にサンフランシスコのライヴを選んだのですか?

ULRICH:
俺にとっては、あのライヴがまさに究極だったんだ。俺達くらい多くのコンサートをやっていると、時にはドラムセットに座ったまま照明のトラスを眺めているようなこともあるんだよ。4人だけの時は、そういう感じもあるんだ。だけど、90人からという大人数になると、また状況が違うんだよね。サンフランシスコの時はステージ上にいた全員が、とてもいいプレイをしたんだ。信じられないくらい集中していたし、まさに楽器と自分がひとつになったって感じだった。

LAUNCH:
メタルの曲をクラシック風にアレンジした中では、インストゥルメンタル曲の「Call Of Ktulu」が一番よくはまっている感じでしたね。

ULRICH:
どの曲もそれぞれに違うし、それぞれの良さがあるけど、「Call Of Ktulu」みたいな曲の方がこの手のことには完璧に向いているのは当然だよね。ヴォーカルがないということで、やれることが広がるし。アルバムのレコーディングの時に、最も難しいのは音像を作り出すことだ…っていうのがわかったんだけど、ヴォーカルとギターソロと分厚いMetallicaのリフの間に音像を作り出すと、音の入る空間が限られてしまうんだよね。そうなると何かを捨てなくちゃならなくなる。これがまた楽な話じゃないんだ。でも、「Call Of Ktulu」のようにヴォーカルのない曲ならゆとりがあるから、そこの部分をオーケストラが使える訳さ。
俺達はこのプロジェクトを始めるにあたって、Metallicaの曲を全部検討し、そこからまず35曲に絞り込んで、中でも一番このプロジェクトに向いていると思える曲を選んだんだ。それから、今度はMichael(Kamen)(指揮者/編曲者)がオーケストラのパートを書いたんだけど、そこで俺達は15曲削って20曲にしなければならなくなった。これが凄く大変だったよ。というわけで、今回アルバムに収録された曲はどれもみな俺達が最強だ、と思ったものなんだ。


LAUNCH:
先頃、SevendustKid Rockとツアーを行ないましたが、最近お気に入りの新しい風変わりなバンドはいますか?

ULRICH:
Kid Rockは素晴らしいと思うね。彼は本当に強力なことをやっている。とてつもなく才能のある奴だよ。それに、昔風のロックスターでもあるし。最近じゃあまり登場しないタイプのロックスターだ。そこが凄く新鮮だね。俺にとってKid Rockは、今勢いのあるバンドの中でも一番面白い存在だよ。

LAUNCH:
Metallicaの世界の中で、家族というのはどういう位置にあるのでしょう? あなたは父親でもある訳ですが…

ULRICH:
ああ。最高だよ。少なくとも俺にとって大きな違いとなっているのは、10年前はMetallicaが自分の人生にとって唯一無二の存在だったってことさ。でも、今は違うんだ。決して悪いことじゃない。いいことなんだよ。今は、バンドの活動を心地よく感じる、あるいはバンドの活動に興味を持つ、という点で、前以上にバンドの中のバランス感覚がよくなったと思うんだ。ただの仕事と感じなくなったしね。数年前までは、ちょっと自分達ではどうすることも出来ないなあ、と感じることがあったんだよ。でも、今はこれまで以上にバンドのことを自分達でうまくコントロール出来るようになったと思うんだ。自分達が何をやりたいのか、いつそれをやりたいのか、どういう風にやりたいのか、何をやりたくないのか、という面で、お互いの意志が調和してきたって感じなんだ。

LAUNCH:
そういえば、あなたと同じ頃、James Hetfieldにも子供が出来たんですよね?

ULRICH:
そう、俺とJamesが同じ時期に子供を持ったということが、俺達の仲をさらに親しいものにしたんだよ。今ではツアーのスケジュールを決めるような時でも、前以上に腹を割って話せるしね。それだけじゃない。色々なプロジェクト…例えばレコーディングとか創造的なプロジェクトが、昔よりもずっと活き活きとして面白いものに感じられるようになったと思うんだよね。
昔は、レコーディングをするということは、ツアーの生活から離れるという意味しかなかった。ツアーの生活から離れるということは、酒を飲んでは酔っぱらい、コンサートをやり、女の子を追いかけ回すという現実逃避のような生活が終わる、ということを意味していたんだ。レコーディングに入るたびにそういう状況だったんだよ。10年前、15年前はツアーだけが目的だったんだ。だけど、今はツアーそのものの魅力はどんどん減っている。逆に、今回のようなプロジェクトや、『Garage,Inc.』(カヴァーアルバム)のようなものの方が、創造的な意味でずっと楽しみになっているんだ。


LAUNCH:
バンド以外のプロジェクトをやりたいという衝動にかられるメンバーはいますか? あなたも含めて。

ULRICH:
俺は今の状態で音楽的には充分満足しているよ。自分のやることを捜している、という状態じゃないんだ。わかるかい?「この空いた時間をどうしたらいいんだろう?」と思いわずらうような状況じゃない、ってことさ。俺には自分のレコード会社もあるし、他にも色々と興味を持っていることがあるからね。来月、Jamesがナッシュヴィルにすっ飛んでいってカントリーのアルバムを作る、というような状況じゃないのさ。少なくとも、俺はそう言われてるけどね。ま、わからないよ。どんなことだって起こる可能性はあるんだから。

LAUNCH:
Metallicaがビジネスを進める上で、インターネットはどの程度のインパクトを持っていると思いますか?

ULRICH:
色々といい面があるのは当然だけど、その一方で困ることも色々出てくるんだよね。コンピュータのキーボードを叩きながら「よし、本日のMetallicaの噂その7:Kirk Hammettがヘロインをやっている。さあ、これをみんなに送ってやろう」なんて言ってる奴も出てくる訳だし。真実であろうとなかろうと、そういうでっち上げの情報なんかが出てくるのは、馬鹿げてるよね。前日コンサートをやったところのファンがインターネットに寄稿してるせいで、次の街に着いても既にみんなセットリストを知ってたりとかさ。なんだかおかしなことになってる部分もあるよ。俺は現実的な人間だから、そういう状況と戦ったり、疑問を投げかけたりするよりは、「インターネットは既に存在しいているし、みんなはそれを使ってコミュニケートしているんだから、自分もその一部になろう」って感じだね。以前よりは、情報ってものに興味を持たなくなったけど。何しろ、情報のほとんどは噂に過ぎないし、噂に関わるほど俺は暇じゃないからさ。

LAUNCH:
'80年代の初め頃、ニューヨークのジャマイカビルディングで格闘していた頃の思い出は何かありますか? あの頃は凄く大変だったと聞いていますが。

ULRICH:
ああ、もう確かにそうだった。あれは最低だったよ。寒くて臭くて、汚くてさ。俺達は楽器や機材の間で寝ていたんだ。でも、何しろ'83年のことだからね。当時は贅沢も言えない身分だったしさ。結構うまく生き延びたよ。雰囲気もあったしさ。

LAUNCH:
VH1で放映された『Behind The Music Metallica Special』についてはどう思いましたか?

ULRICH:
あの番組で一番よかったのは、5分毎に再放送されたってことだよ。放送時間をほとんど埋めてたんじゃないかな。あれはよかったと思うよ。他よりいいって言えるよ、確かに。時々、ちょっとドラマティック過ぎることもあるけど、みんなはそういうのを望んでるんだからさ。恥ずかしい過去を掘り起こすってのを。有り難いことに、あんまり掘り起こされるような恥ずかしいことはないんだけどね。

LAUNCH:
フェスティヴァルが終わってかなりの時間が経ちましたが、ウッドストック'99に対する見方は変わりましたか?

ULRICH:
来た、やった、去った、だよ。あの夜は、エネルギーにあふれていたし、平均よりはいいショウをやったと思う。Rage Against The Machineの後にプレイするなんて、そうあることじゃないし、あれはよかったな。あんまり気負わなかったしね。ああいう状況は知り尽くしているから、ただステージに上がってプレイして、口を閉じて会場を去る、ってだけで、あれこれ考えないのがいいんだ。今でも俺は、ああいう風に色々なバンドを一堂に集めてやるっていうのは、いつだって素晴らしいことだと思ってるよ。そういう機会をアメリカはもっと作ればいいんだよ。それをウッドストックと呼ぶか呼ばないかは、大して重要なことじゃない。ヴァラエティっていうのは素晴らしいものなんだから。

LAUNCH:
さて、Metallicaの次なる創造は?

ULRICH:
大事なのは、とにかく自分を色々なものにオープンにすること。無理矢理そうするんじゃなくてね。自分から出て行って色々なものを探すというのと、与えられたものに飛びつく、というのは違うと思うんだけど、今回(『S&M』)の場合は後者だった。俺達は、与えられた素晴らしい機会に飛びついたんだ。俺達がきちんとした新しい作品の曲作りというものをしてからもう5年が経つんだよね。その間にも変わったプロジェクトやカヴァー作品などをやってはきたけどね。Metallicaの次のスタジオアルバムに関しては、とにかく時間をたっぷりかけて考えるよ。あらゆることに対してオープンではあるけれど、今のところは、また曲作りに戻るってことに俺自身はとても興奮してるんだ。

by Darren Davis

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