ボーイバンドの先駆者

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ボーイバンドの先駆者

L.A.にあるたいていの高級ホテルと同様、モンドリアンホテルは夜のほうが見栄えがする(ちなみに、レコードレーベルおよびライヴハウスとして世界的に有名なHouse Of Bluesの隣にある)。

真面目な顔つきで働くボーイたちは、仕事でホテルに来た客と浮かれ気分で見物しに来た旅行者をただちに区別しているようだ。ボーイたちは、客がホテルの正面玄関にたどりつくずっと前から大きいドアを開けて待っており、客の姿を見たとたんエレヴェータ-のボタンを押す準備をする。

Boyz II Menに呼び出されたのは、ロサンジェルスのくすんだ街並みのてっぺんの7階にある、そういう豪華な世界だった。部屋はプレジデンシャル・スイート、それ以下ではない。音楽業界の重役たちが、笑顔でお喋りをしている。給仕が取材記者たちのあいだを回って、さまざまな高級酒やつまみを勧めている。部屋の一角には、30人ほどのパーティー客に対応できる専属のバーテンダーがいる。別の一角では、巨大な映像音響機器が(Universalの)Boyz II Menの最新作『Nathan Michael Shawn Wanya』から何曲かを流している。

コンテンポラリーR&Bの曲がぎっしり詰まったこのニューアルバムは、もはや“必聴盤”と呼ばれるのを待つのみである。

ポップ界が'N Sync98 DegreesBackstreet Boysなどのボーイバンドに注目しているこの時期に、Boyz II Menはそういう作品を発表する。

音楽業界で大人向きの音楽として分類されていくことになるBoyz II Menが今後どういう道を進むのか分からないが、彼らは思い悩まず気ままに未来へ向かっていくようだ。それは、ホテルのパーティーの雰囲気に似ていた。

華やかなパーティーは1時間以上続いていた。

突然Universal Recordsの重役が部屋のまんなかに立って、グループが到着したことを大声で知らせた。すると、写真で何度も見たことのある褐色の肌の男たち3人が、おなじみの上下白づくめの揃いの衣装で豪華な部屋に入ってきた(Nathanはフィラデルフィアで家族の会合があったため欠席だった)。

人前に3年間現れていなかったとはいえ、見たところBoyz II Menはなにも変わっていなかった。

Shawnはあいかわらず細身で背が高く、Wanyaは小さい帽子をかぶり、Michaelはやはり物静かだった。変わったのは、彼らがプレスと話をしようとしていたことだ。

有名な歌手には珍しいことだが、このグループはかつて懸命にメディアを避けていた。アラスカ沖で原油を流出したエクソン・ヴァルディーズ号の船長のように、彼らはインタヴューの申し込みを断りつづけていたのである。

しかしWanyaによると、今回彼らはメディアと話すことを心がけるという。

おかしな話ですけど、ぼくらはプロモーションをやめようと思ったことなんかないんですよ」とWanyaは言った。

いままでだって、ずっとプロモーションはやりたかったんです。ラジオに出るのはやめようとか雑誌の取材を受けないとか、ぼくらが思ってたわけじゃありません。ただ、いつのまにか政治的な話になっちゃって。ぼくらはアーティストなんです。アーティストが政治的な対立に巻き込まれると、対応のしかたが分からなくて失敗するものです。そして今回ぼくらは、いままでぼくらがいかに失敗してきたか気づいたわけです

彼の言う失敗とは、つまりBoyz II Menを取り上げる記事が大幅に減ったことだろう。

全米で多くのライターが、彼らがインタヴューに応じないことに不満を抱きはじめた。そういう感情的なしこりのせいで、Boyz II Menの側からすると、無料で彼らの情報を載せてくれるページがしだいに少なくなったのである。

彼らの売上げは、かつて音楽業界のトップクラスだった。しかし、前回のCDの評判はぱっとせず、その売上げは致命的な打撃を受けた。その結果、彼らはしばらく充電期間を取った。

今回の新譜リリースにあたっては、プロモーションのためのツアーが組まれていた。メディアがインタヴューを申し込むと、ただちに快諾された。この日のパーティーとインタヴューは、メディアを味方につけようというBoyz II Menなりの業界工作だったのだ。メディアを味方につければ、あとは小さい障害物がひとつ残るのみ。それは、いま売れている他のボーイバンドである。

現在の音楽産業のなかでBoyz II Menはどういう位置にいるのか、と質問を受けたWanyaは、「
うーん」と唸って喋りだした。

たしかに、ぼくらもそういう話をよくしてます。しばらく休んで帰って来て、ぼくらはいま、どこにいるんだろうと。いろんな方々が言ってくれるのは、いま活躍しているバンドのために道を作ってきたのがBoyz II Menなんだから、すんなり溶け込めるだろうということなんですが。でも、ぼくらだって[それ以前の]音楽が作ってくれた道を通ってきたわけでしょう。分かりますか。結局、いまだってぼくらがここでなんのためにこういうことをやってるかというと、音楽のためなんですよ。他のグループがどこでなにをしてても、どういう音楽をやってても、ぼくらは気にしません。けど、どうせやるんなら本物の音楽をやってほしい。ちゃんとした音を出してほしい。聴いてる人間を、ちょっと言葉は悪いですけど、バカにしてんじゃねえよって言いたいですね。その点、ぼくらはBoyz II Menとして一生懸命やってるんですよ。音楽を、いままでとは別のレヴェルに持っていこうとして。もういっかい、音楽が音楽だった地点へ戻そうとして。それが歌だったところへ戻そうとして

Boyz II Menがデビューしたころ、歌声を機械処理で補正するレコーディング技術を使っていないグループを見つけるのは、オバサン女優Pam Grierの等身大ポスターを見つけるより難しかった。

しかし昨今の歌手は、きれいなハーモニーの曲を実際に歌っているし、ときにはBoyz II Menの名を世に知らしめたソウルフルなスタイルをあからさまに真似したりしている。

Boyz II Menは、プレスと会合したビヴァリーヒルズの夕べの24時間後に、同じモンドリアンホテル内のスカイバーで公演を行なった。それは招待客を限定した特別ライヴで、警備員は招待者名簿を二重三重に確認していた。やって来たのは、多くの有名俳優のほか、何人ものスター歌手たちだ。

彼らは、今後のBoyz II Menに期待しているようだった。客席には、98 Degreesのメンバー1人の姿もあった。しかし表情から判断すると、彼は復活したライバルを品定めするためにやって来たようだった。

そしてBoyz II Menは、ライバルが見つめていることを知っていた。ポップミュージック界のプリンスの座につくのは、だれなのか。トップでありつづけるためには、時代に応じて変わっていかなければならないことを、Boyz II Menは分かっていた。

変化という点は」とShawnが考えていることを話しはじめた。

実際、ぼくらのあいだでも問題になりました。いまは意見が一致してますが。見方が違ったんですね。レコード会社の人たちは『分からん。みんなは、こういうものを聴きたいわけじゃないだろう』と考えてたようです。ぼくらがずっと同じことをやってると思ってるみんなは[まちがっている]。でも、実際ぼくらは、いろんなことをやってるんです。なんていうかな…つまり、たとえばこのアルバムでは、ぼくらはハウスの曲をやってるんですよ。結局、みんながぼくらに期待してる方向が、それとどれくらい違うかっていうことが問題なんでしょう。ぼくらはこっちの方向に行きました、けどみんながそれをいいと思うかっていう。でもぼくらは、すくなくともこれはやらなきゃいけないと思ったんです。スローな曲以外にもぼくらはいろんなことをやってるんだとみんなに分かってもらうためには、すくなくともここまでは行かなきゃいけない、と。ぼくらは、ダンスパーティーの曲とか、そういう種類の曲も好きなんですよ

ここでShawnは、Boyz II Menの新しい方向を詳しく話しだした。最初のシングル「Pass You By」などの曲で、彼らは、愛のない男女関係から抜け出せずにいる女性に忠告を行っているのだ。

1番の歌詞でまず、女のコがある男に出会うんです。『やっと見つけた。私が探していたのは、この人だ』っていう感じです。でもしばらくすると、それはまちがいだったと彼女は気づくわけです」とShawnは話しだした。

彼女はだんだん消耗して、周囲の友人から見ると、いままでとは別人のようになっていきます。ぼくのまわりを見回してみても、幸せなカップルっていうのはなかなかいないんですね。でも彼らは別れないんです、『子供がいるから。義務があるから』とか言って

この曲がヒットすれば、多くの不毛な関係が待望の結末を迎えることになるでしょう、とMichaelが冗談を言った。

そのとき、ひとつの視点が浮かび上がった。彼らはBoyz II Menという一種の現代的結婚を、今日まで長続きさせているのだ。一緒に音楽を作るようになって10年経ったいま、彼らは以前より強くなっているように見えた。

いまでも飢えている気持ちはありますよ」とShawnは言った。

やりつくしたっていう感じは、まったくありません。ぼくらはいまでも、みんなの前で歌いたいと思ってます

スカイバーに入場できた幸運な観客たちは、Boyz II Menに大きな拍手を送っていた。そのようすを見ていると、一般の人々もいまなお彼らの歌を聴きたがっていることは明らかだった。

by Vic Everett

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