シンデレラ・ボーイの下積み時代

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シンデレラ・ボーイの下積み時代

 

 

テーマは音楽、そしてCarl Thomasには語るべき物語がある。

みんなに感じてもらおうと思ってやっている。みんなに良いヴァイブを感じてもらって、自分がやるべきことはなんでもやりたいと思っているんだ」。Bad Boy Entertainment所属のアーティストはこう説明する。「このアルバムでリスナーにノスタルジックな気分に浸ってほしい。みんなに“こんなふうに感じたことがあったよ”と言ってほしいのさ。これはBad Boyがこれまでに手を付けたことのないジャンルなんだ

Carl Thomasは一夜にして成功をつかんだように思われているかもしれないが、それだけで彼が貧乏人から金持ちへと至ったストーリーを説明することはできない。このニュージャージーに住む歌手は、大ブレイクを果たすまで東海岸のクラブサーキットでSoul Trainのグルーピーよりも積極的に活動し、さまざまな業界関係者と会っては可能なかぎりコンタクトを維持してきた。やがて、幸運にもあるタレントショウに出演したとき、観客の中にSean"Puffy" Combsが座っていたのである。

Puffyとは'97年にクラブで会ったんだ」とThomasは回想する。「俺はブッ飛ぶようなパフォーマンスを見せて、彼は契約を申し出てくれたわけさ。まずはバックグラウンドシンガーとしての仕事をもらって、それをうまくこなしてみせたんだ。'97年から2000年にかけて40回もゲストヴォーカルをやって、Jay-Z、Tash(Alkaholiks)それにPuffyやChannel Liveなんかの仕事を経験した

シカゴのほこりっぽい都市開発地区に生まれた25歳になるシンガーは、忍耐が最終的には報われると考えていた。「実際のところゲットーには俺のまわりに歌える連中が100人はいるよ」と彼は認める。「だが彼らと俺の違いは、根気とノウハウの差にあるんだ

Thomasの『Emotional』はたしかに印象的なデビュー作だった。自分より地位の高いアーティストのバックで歌うことでキャリアをスタートさせた彼だが、『Emotional』を聞いてみれば、彼がもはやバックシンガーの地位に留まる存在ではなく、立派に主役の座を務められると思えるだろう。しかしながら、Thomasはステージをすっぽかすという悪評を集めており、チケットを買ったファンの多くを失望させているのも事実だ。最近ではオープニングアクトを務めたMary J. Bligeの全米ツアーで何回かのショウに現われなかったことが知られており、BligeはThomasの出演を目当てにやってきた怒ったファンに対して、ステージから謝罪するはめになったという。

だが、Thomasは自分には非難される筋あいはないと弁明している。「いくつかのショウでは出演しないという契約になっていたんだ」。特にロサンゼルスとボストンでのショウをひきあいに出しながら、彼は決然と言い放った。「一部のプロモーターが俺の名前を使ってチケットを売ろうというセコい手を使ったのさ。そんなことは何度も経験している。ものごとの十中八九は本来あるべき姿とは違ったものになってしまうんだ

Thomasは自身にとって、とりわけ曲作りにおいては、誠実さが重要だと主張している。「俺は正直なラヴソングを書こうと努めている」と彼は説明する。「あまり一方的にならずに、ストーリー全体を自分と相手の側から語って、他者への共感を示すのさ」。こうした曲作りにおける誠実さこそ、寛大な女性ファンがThomasの作品を手放しで受け入れる理由なのかもしれない。

「私は彼のスタイルが好き」と語るのは、Thomasに詳しい業界関係者のRene Cooksである。「みんなが彼のことをすぐに気に入ってしまうような、きわどい魅力を持った人だと思うわ。たしかに彼には薄っぺらな奴だという評判があるけど、見まわしてみればパフォーマーの多くは時として傲慢に思えるものよ。マイクの前に立って観客の称賛を浴びればそうなってしまうの。だからといって彼の作品が優れているという事実に変わりはないわ」

 

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