『LAST LIVE』リリースに寄せて 4人よ、また会おう!

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'89年の夏の終わり、SLIDERSと僕はローリング・ストーンズのライヴを観に行った。

“STEEL WHEELS TOUR”、場所はフィラデルフィアのスタジアムだった。ズズは親戚の不幸があって不参加だったが、今となって考えてみれば、骨折した足首のメンテナンスだったのでは?と思う。ハリー、蘭丸、ジェームス、僕、マネージャーの5人は、夕刻の成田からノースウエスト機でまず、サンフランシスコに向け発った。
機内では、僕と蘭丸とジェームスがウイスキーのオンザロックを静かに呑み、その頃はまだ喫煙可能だったので、座席の灰皿がいっぱいになるまでSMOKINGした。酩酊すると眠った。ハリーは一人窓際に座り、サングラスをかけたまま窓の外ばかりを見ていた。サンフランシスコでトランジット、2時間ほど待って、今度はUS国内線に乗り継いだ。国内線はすでに禁煙だったゆえ、手持ちぶさたになったハリーが僕と蘭丸の酒宴に加わった。しかし、饒舌になることは1ミリもなかった。僕の頭の中では「カメレオン」がリピート再生され、分割されたギターリフのワンパートを弾くような仕草をすると、蘭丸が「盛り上がってるな」と言った。ステキな時間だった。酩酊しながら口は開かず、お互いの心を汲むような時間…それを僕はSLIDERSから教わった。

おそらく、ほぼ間違いなく、SLIDERSはセッションを通してそういうことを演っているのだと思った。フィラデルフィアに着き、一夜が明け、ジェームスは近くのレコードショップをチェック、蘭丸はホテルのプールで泳ぎ、僕は原稿を書いた。ハリーはずっと部屋にいたようだ。幻と遊んでいたのかもしれない。
ストーンズのライヴに出かける前に僕らは集まり、遅い昼食をとりに、外に出た。シーフードレストランの席につき、僕はハリーに聞いた。

「ミックとキースのソロナンバーは演るかな?」と。
ハリー
「いや、演るかもね。なにせ、8年ぶりだから」
蘭丸
「ストーンズは、ちゃんとこの目で確かめるまでは信用できない。前座のリヴィング・カラーが終わって、中止! ってこともあり得る(笑)」

SLIDERSが胸を高鳴らせていた。レストランを出て、まだ明るい空を見上げると、セスナ機が尾翼に横断幕を付けて飛んでいる。そこには“THE ROLLING STONES NEW ALBUM『STEEL WHEEL』”と書かれてあった。不意にハリーが言う…「あんなこと、やっちゃっていいわけ?」。

ハリーが嬉しそうだった。ストーンズのライヴが始まる直前に、ジェームスが持参した双眼鏡をカバンの中から取り出した。「スタート・ミー・アップ」からスタートしたライヴの間中、その双眼鏡は、3人の間を静かに回った。セットリストを全て吐き出した時点で、スタジアムにはワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れ、何十発もの花火が上がった。僕は、明るく照らし出される3人の横顔ばかり見ていた。
SLIDERSのLAST LIVEを収録したCDがリリースされる。どんな気持ちで聴くかは、ファンの数だけあろうが、一つのエピソードをお伝えしておきたい。

「こんなふうにネタをばらすようなことは、ホントはしたくねぇんだけどさぁ」…そう言って、数年前、村越弘明(ハリー)が“自分に影響を与えた1枚”というテーマに則して持ってきてくれたアルバムは、ローリング・ストーンズ'70年代初期の傑作2枚組『メインストリートのならず者』だった。

ハリーがステージでほとんど1曲ずつギター・チェンジをするのは、その曲ごとに“オープンG”などのレギュラー・チューニングではないチューニングが施されているからである。その、オープン・チューニングでのバッキングの可能性を突き詰めたのが『メインストリート~』でのキース・リチャーズだった。

『LAST LIVE』ESCB 2195~2196
NOW ON SALE
「なんつーかさ、このアルバムには“全てがある”んだよ」…ハリーはそう言った。コアファンの多くが見抜いているように、SLIDERSはある意味では3rdアルバム『JAG OUT』で完成していた、と断言できなくもない。しかしながら、一つの完成を越えた瞬間にとてつもない“詩情”が楽曲から立ち昇った。その立ち昇る詩情を僕は愛していた。それを、SLIDERSはロックンロールとリズム&ブルース、レゲエに絞って表現していたが、そのセルフ・セグメントこそが、彼らの限界だったのかもしれない。しかし一方で、その“decision(決定)”こそがSLIDERSの音楽美を生んだのもまた事実だ。“決定のロック、ここに極まれり”…『LAST LIVE』の価値はそこにある。本作を聴く時、僕の魂はインドの石窟寺院やUK・USの裏通り、日本の至る所でSLIDERSと会える。

4人よ、また会おう!
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