【秋の音楽特集】「日常の中にある音楽」

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「日常の中にある音楽」

2001年の猛暑、夏フェスも終わり秋がやってきました。
澄み切った青空に涼しい風を感じる秋、鈴虫の鳴き声が聞こえてくる秋はやはり切なく寂しい気持ちになってしまいますよね。
そんな季節にはちょっぴり切ない、日常を切り取ったような楽曲はいかがですか?

文・選曲●沢田太陽

空気公団が表現したいこと、それは彼らが生きる日常そのもの

最新アルバム

『融』

トイズファクトリー 発売中
TFCC-88178 2,940(tax in)

1 お手紙
2 夕暮れ電車に飛び乗れ  
3 たまに笑ってみたり  
4 動物園のにわか雨  
5 田中さん、日曜日ダンス  
6 ビニール傘  
7 線の上  
8 遠く遠くトーク(スタジオライブ)  
9 うしろまえ公園  
10 融



最新シングル

「夕暮れ電車に飛び乗れ」

トイズファクトリー 発売中
TFCC-87092 1,260(tax in)

1 夕暮れ電車に飛び乗れ  
2 3月16日  
3 ポロンちゃん

空気公団。なんともとらえどころのないフワフワとした名前だ。まるでその実態の判断をそれぞれの人の心の中にゆだねているような、現実なのか夢なのかさえいまひとつ判然としないような抽象的な存在。それは彼女たちの音楽に関しても同様。果たして本当に存在するのかどうかわからない、極めて匿名性の高い存在。一体、空気公団とは何者?

この目に見えるようで見えない4人の若者たちは、女3人男1人からなる4人組。実は山崎ゆかり(Vo)という絶対的なリーダーが圧倒的なカリスマ性を持って全体を引っ張っていたりもするのだが、空気公団本来の魅力はそこにはない。空気公団とはあくまでこの4人の人間からなる一つの共同体であり、この共同体の中で繰り広げられる日常空間、これに他ならないのである。

確かに音楽面はかねてから指摘されているように、'70年代の大貫妙子矢野顕子の登場当時を思い起こさせるほど、高度にソフィスティケイトされた熟成された見事なポップスである。その腕前にはかの山下達郎をして、「駆け出しの頃の自分達より実力は上」と言わせしめたほど。そうした正統派ポップスの作り手として彼らを評価している向きが多いのも大いに納得なのである。しかし、山崎たちの目線の先にあるのはそこではない。実際、彼らは山下達郎のように、リスナーとしての膨大な音楽知識やミュージシャンとしての譜面的な技巧を凝らして音楽を錬金術師のようにあみ出すタイプではない。勿論、彼らにとって音楽は大きな存在ではある。しかし彼らにとって音楽とは彼らが表現したいことのごく断片に過ぎない。空気公団が表現したいこと、それは彼らが生きる日常であり、文化そのものなのだ。

彼らはインディ時代から不思議な存在だった。彼ら自身がステージなどの人前で姿を現わすことなく、自分達が編纂したアートなミニコミ誌を発行したり、CDに絵本をつけて発売したり、ライヴを行なったかと思うとステージにあるのは映像モニターだけで、そこに映る光景に彼らがスクリーンの背後から音を奏でるのみだったり。

そう! 彼らにとって音楽とは、どうやら小さな日常の中で起こることの“心のサウンドトラック”なのである。そして、そんな小さな共同体の日常世界に入り込んで行きたい人の心の中で、そこでのドラマはまるで自分の事であるかのように進行していき、いつの間にかその世界は口伝いに徐々に徐々に広がって行った。

そして、そんな空気公団の世界観はメジャーに移籍しても決して変わることはなかった。6月21日に発表されたアルバム『融』(ゆう)は縦長のミニ雑誌のようなパッケージで世に登場。それはまるで4人の生活の姿をとらえたピクチャー・ブックであり、そこに添えられている歌詞はまるで詩集である。そして、その本の一番末尾にやっとCDが存在する。そのCDにしても一般的な考え方からすれば大幅に常識破り。カッチリと録音された完成度の高いスタジオ・テイクがあると思えば、失敗箇所の多い数曲のスタジオ・ライヴまでが混在している。

普通これではまるで未発表曲集になってしまうのだが、彼らの放つ空気はそういうある種の「歪み」をも日常として受け入れているかのようだ。考えてみればそりゃそうだ。日常において、全てが完璧に全うすることなど本来ありえないのだから。そう考えると、こうしたCDの内容は生々しく人間的である。

それは歌詞にしても同様。その世界は、きわめてパーソナルな日記、または近くにいる友達へとあてた手紙のようなものだ。彼らにとってアルバムが日常生活そのものであるな らば、そこを断面的に切り取った単体としての曲は、役割としては日記、手紙、写真、はたまたデジカメで撮ったちょとした映像のようなものなのかもしれない。7月に彼らとしては初のシングルとなる「夕暮れ電車に飛び乗れ」がリリースされたが、そうしたものとしてこのシングルをとらえると、ただ音楽を聴く以上の愉しみが湧いてくることだろう。

空気公団という存在はやっかいだ。ただ単に良いメロディを聞き流させてくれれば本来それでよいものを、それだけで終わらせてくれないのだから。聴き手をその小さな世界の中に参加させて、その聴き手の中でしかストーリーが終わらない設定になっているのだか ら。しかしだからこそ、その世界が頭からこびりついて離れないのだけれど。 


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涼しくなる季節に聴きたい日常を感じるアルバム
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the band

『The Band』(
1969年発売 )/The Band

緑の木々がそろそろ紅く色づく頃に木の葉が大地に落ちた状態で聴きたいアーティストがこのザ・バンド
大地をグッと踏みしめた ようなコクのあるアーシーなグルーヴと味わいある枯れたメロディはまさに秋。
Nick Drake

『Five Leaves Left』(
1969年発売 HANNIBALレーベル )/Nick Drake

一般的には「暗い」代名詞にされているイギリスのシンガー・ソングライター、ニック・ ドレイクだが、囁くような歌声に希望と不安が混ざりあったメロディに優しいストリングスが加わるこのアルバムはちょっぴり淋しい秋の揺れる心がよく似合う。
Belle&Sebastian

『The Boy With Arab Strap』(1998年9月9日発売 VJCP25383 )/Belle&Sebastian

この上ない極上のメロディを作りつつも存在が匿名的であり、歌詞の世界はまるでひとつの青春映画のひとコマ。
そう! 空気公団に 世界でもっとも近い立場にいるのがこのベルセバ。美しくも痛くもある思春期なお悩みモードが秋の憂鬱っぽくある。
Steely Dan

『Aja』
1977年 9月発売 )/Steely Dan

こちらは秋の夜長に、寒い風が入らないよう部屋の窓を閉めて、洋酒でも飲みながら聴 きたい1枚。
夜の落ち着いたムードがありな がらも、同時にどこかとらえどころがないこ の作品を聴きながら秋を思うのもオツなもの。
Travis

『THE INVISIBLE BAND』 (2001年6月6日発売 ESCA-8325 )/Travis

今現在の音楽シーンにおいて、楽曲をひとつの映像と結び付けて聴きたくなるような強 いメロディを持つ最右翼のバンドがこのトラヴィスだろう。涼しいイギリスの田園風景の中を自転車でもこぎながらこれを聴けばさぞ気持ちがいいだろう。
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