ハーバート、【THE MECHANICS OF DESTRUCTION TOUR】01/11/30@LIQUIDROOM

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僕らを騙して、地球が処理しきれないものを買わせるために、商品を過剰包装しているこの社会において、「破壊」というテーマについて語られることはあまりにも多い。しかし言葉のかわりに、僕は音楽を選んだのだ。

2001年9月18日 マシュー・ハーバート

恒例のイベント<electraglide 2001>が幕張メッセで行なわれた同日、新宿LIQUIDROOMでは、RADIO BOYことマシュー・ハーバートが、来場者全員にアルバムを無料配布するという前代未聞のライヴを行なった。冒頭のメッセージの通り、今回のツアー・テーマは“破壊”。サンプリングマシーンが登場して以来、様々な人の楽曲がサンプリングされ、新たな音の構築がなされてきた。しかし、ハーバートは“他人の音を絶対にサンプリングしない”という頑固な姿勢で制作活動を続けている。資本主義の象徴を自分で「破壊」した音で作ったアルバム。このご時勢にそんなテーマを掲げるとは、なんて大胆不適な人なんだろう。しかもそのアルバムを無料配布、マシュー・ハーバート、恐るべし...!

マトモスが終了するや否や中央ステージのカーテンが開き、遂にRADIO BOY aka ハーバートが登場!!! まるでロックスターのライヴの様に、大歓声と共にステージ前に観客が雪崩れ込む。右の壁から本物のマクドナルドのポテト、チーズバーガー、スターバックスのフラペチーノ、ディズニーのビデオ、そしてハマサキのCD!?!?を、目の前でマイクに叩き付け“破壊”し、リアルサンプリングでどんどんとビートが展開されていく。その手際のよさと、ユーモラスな動きに、誰もが釘付け。中でもステージ上に大きな“テレビ”が運び込まれた時は、ま、まさか投げるのでは…!? という期待と不安で、大いに盛り上がった。結局テレビの音は、飛び蹴りによってサンプリングされ、最後はGAPのボクサーパンツにて締めるられた。アンコールはなし。「もう充分だろ?」と言われても、納得の全力勝負だった。

ハーバートが何より優れているのは、楽曲として成り立つ“音楽性の高さ”だ。彼はステージで物を「破壊」しながら、ホントに素晴らしい「音楽」を作り上げた。自分の伝えたい事を、わかりやすく・しかもクオリティの高い作品で伝える。「表現者」として、これ程幸せなことはないんじゃんないかと思う。<なんでマクドナルドなの?>と言う人もいたし、ただおもしろがっているだけの人も沢山いた。<日本でじゃないとあんな事できないよ>と言う意見もたくさんあった。確かに、ライヴとしては大成功だったが、実際のところ彼の思想を理解した人少ないかもしれない。それでも私は、今回の彼の試みに心から拍手を送りたい。彼の思想が正しいかどうかは別として、いつの間にか日常の風景となっている物たち(マクドナルド、スターバックスetc)へ、ほんの少し疑問の目を向けてみるのもいいんじゃないかと思う。逆に彼の思想に対して、疑問を向けてみるのもよいだろう。『誰かに何かを伝える』のが、表現者の役割なら、この日のハーバートは、まさに「最高の表現者」だった。

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