16人というビッグバンドで、抜群のセンスとユーモアを活かし、投げかけたメッセージとは?

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16人というビッグバンドで、抜群のセンスとユーモアを活かし、
投げかけたメッセージとは?


all photo by アキコ・バルーチャ

「Herbertはただのオシャレな音楽を創っているアーティストではない」
私はMatthew Herbertのライヴ以上のものが現在のエレクトロニック・ミュージック、いやポップスには存在しないと思っている。エレクトロニック・ミュージックのライヴ・パフォーマンスで失いがちなエンターテインメント性と本当の意味でのライヴ的要素を兼ね備え、最高に新鮮なものを常に提案してくれるHerbertは、現在のシーンで最もエキサイティングなライヴ・パフォーマーのひとりだと思う。

今回、彼がビッグバンド編成でのライヴをやると聞いた時、ステージ上で何が起こるのか全く予想ができなかった。そして何故ビッグバンドという形態を用いて、何を伝えようとしているのか頭の上でハテナが点滅したままだったので、直接本人に訊いてみた。「少年期にビッグバンドで演奏していたのが自分の音楽的ルーツだから、今回は自然な流れだったんだよ。コンセプトを直球で訴えかけるだけではなく、婉曲的な表現を用いてコンセプトを表現するほうがより効果的ではないかと考えたんだ」と教えてくれた。

そして今回のコンセプトは“本を読むことの大切さ”だという。Herbertは直接的に反消費主義を煽動するよりも、人がより多くの本を読んで知識を得て、社会の不条理に対してより明確な意見を持てるようになれば、それはより効果的であると考えたのだ。そしてHerbert自身もアートを通じて本気で革命を求めている。もちろん、抜群のセンスとユーモアを用いてより多くの人にメッセージを伝えようとしているからこそ、カッコいいのだが…。彼がただのオシャレな音楽を創っているアーティストではないことをここでハッキリと言っておきたい。それではライヴのハイライトを紹介することにしよう。

まずはHerbertがシャツにネクタイ姿(笑)でトランペットのケースを持って登場。ケースを空けてトランペットを取り出すと無造作に落とし、鈍い音が会場にこだます。そしてその音をマイクで拾いディレイをかける。その後、ゆっくりとトランペットを拾い上げ、今度はマウスピースで先端の広がった部分を叩いて音をマイクで拾う。すると、その音がループになり、リズムを奏で始める。

後日、話を訊いてわかったのだが、これはビッグバンドという極めてコンサバティヴな形態の中で、トランペットを単純に吹いて音を出すだけではなく、様々な方法でいろ んな音を出すことができるのだというアヴァンギャルドな精神を提示するためにこのパフォーマンスを最初にやったのだった。

そしてタキシード姿で16人のビッグバンドが登場。このルックスはかなり滑稽だったが、荘厳(?)な雰囲気の中、ハーバートの音のマジック・ショーの始まりだ。


about Herbert

マシュー・ハーバート。BBCのサウンドエンジニアを父に持ち、音楽とテクノロジーに囲まれた環境に育つ。

音楽とパフォーマンスについて学んだ後、’94年にレコードデビュー。 WISHMOUNTAIN (現RADIO BOY )で実験的作品を、DOCTOR ROCK IT名義では、今は無きエレクトロニカの名門レーベルCLEARからアルバムをリリース。

更にハーバート名義では、ジャジーエレクトロニカ~ハウス、といった具合に作風の異なるプロジェクトを同時進行。2000年には、それぞれの名義の運営管理までを手掛けるレーベルを始動させる。

2001年5月にリリースされたアルバム『Budily Funcitons』をドイツの!K7よりリリース、発売直後から話題沸騰。テクノ~ハウス~ジャズ~ポップなど、複数のジャンル間でチャートに登場し、ハーバート人気を決定付けた。

マトモスと共に、ビョークの最新アルバムに参加した他、マウスオンマーズコーネリマス、BLAZEなどのアルバムにも参加している。
Herbertはビッグバンドの真ん中でサンプラーとビーム・エフェクターをピキピキと動く独特のアクションを交えながら操り、ビッグバンドという形態を弄び、完全に既成概念を破壊してしまった。 そんな思いを巡らせていたら、いつの間にやらメンバー全員が"東京スポーツ"(=新聞紙)を広げている。そして、ゆっくりとそれを引き裂いて、その音で音楽を構築していく。

その意図を知りたくてHerbertに訊くと「ライヴを観た人たちがそれぞれに感じてくれればそれでいい。年末にMatthew Herbert Big Bandのアルバムをリリースしたときに、その意味は伝わるようにするから、それまでは待ってくれ」との答えが返ってきた。…とはいえ、前述のコンセプトを元に考えれば答えはおのずと出てくるだろう。

そしてアンコールでアルバム『Bodily Functions』の「Foreign Body」と「TheAudience」を演奏。ダニ・シシリアンの歌でロアは待っていたとばかりに熱狂の渦に巻き込まれた。ここまで考えさせられた分、4つ打ちのダンストラックがとても地よく骨に響いてきた。忘れることのできない最高の日曜の夜となった。

文●門井隆盛

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