【BARKS編集部レビュー】FitEar Parterre(フィットイヤー・パルテール)はスパイラル発症の最前列

ツイート

2013年5月に青山で開催された<春のヘッドフォン祭2013>の会場では、これまで同様魅力あふれる様々な新製品が軒を並べていた。この時に発表となったSHURE SE846も話題をさらっていたし、Westoneは初のダイナミックドライバーの新作イヤホンADV Series Alphaを発表、プレイヤーや周辺機器も熱いバトルを繰り広げていた。ただ、そんな中でも最も安定した好印象と高評価を獲得していたのは、当日発表されたFitEarのParterre(パルテール)だったように思う。

◆FitEar Parterre画像

▲FitEar Parterre(パルテール)。コンパクトなハウジングにまとめられた、人気モデル。

▲カスタムIEMのようにケーブルを耳にかけることで、ポジションの安定とケーブルのタッチノイズを解消することができる。

▲左がパルテール、右がTO GO! 334。大きさも随分と違ってくるが、イヤーピースのサイズさえ合っていれば、遮音性や装着感には問題ない。パルテールは2ドライバーと思われるが、TO GO! 334は3ウェイ3ユニット4ドライバーというハイスペックを誇る。

▲付属品は、ペリカンハードケース、イヤーピース、ソフトケース、クリップ、クリーニングツールに説明書。

会場では試聴を求める列は途切れることなく、一聴して好感の持てるバランスと見通しの良いサウンドは多くの人に素晴らしい1stインプレッションを与えたようで、会場での口コミはもちろん、その後のネット上での肯定的なバズは、さらなる高評価に加速をつけていた。

パルテールは、須山歯研のカスタムIEMブランドFitEarからリリースされたイヤホンで、イヤーピースがセットされたユニバーサルタイプ…いわゆる普通のイヤホンである。耳型を採取しそこから個人個人の耳に合わせた形状を作るカスタムIEMではないので、カスタムIEMのようなパーフェクトなフィット感は得られないものの、そもそも耳型採取が不要なこと、ハウジングがコンパクトなこと、カスタムIEM群と比較すると安価であることなども、多くのイヤホンファンの所有欲をかきたてるところとなった。

ドライバーや内部構造は一切公表されていないが、サウンドを聞くにSonion製の2ドライバー構成で間違いないだろう。物理フィルターを通し低域用ドライバーからは低域のみを出力させるというローパス設計が施されており、イヤーピースが被せられるノズル部はチタン削り出しでできている。軽くて硬いチタンは内部減衰率に優れており音響的に優れた金属として知られている素材で、ギターのブリッジやナットなどにも鳴りを向上させるパーツとして取り扱われている。X JAPANのYOSHIKIがレコーディングで使用するドラムのシェルも全てチタン製だ。その特性上、チタン製ステムを起用することで内部損失が最小に抑えられ、全域でヌケやレスポンスの向上が期待できる印象を持つのだけれど、音を聞く限り、パルテールの場合は、むしろ元気よく暴れすぎるトーンを適度に抑制を効かせ、落ち着きと爽やかさの両立を図っているようにも聞こえる。

市場の評価のとおりパルテールは素晴らしいイヤホンだが、やはりそうなると、気になるのはTO GO! 334との違いだろうか。TO GO! 334は耳型を必要としない汎用モデルとして開発されたFitEar製ユニバーサル1号機で、2012年3月に発売され、今もなおハイエンド・イヤホン界の一角を占める人気モデルだ。FitEarの代表モデルMH334のサウンドをユニバーサル化したものだが、希望小売価格105,000円(税込)のため、実勢市場価格84,800円(税込)のパルテールとは2万円ほどの価格差がある。

そのサウンドを聴き比べるとTO GO! 334の完成度は圧倒的で、雑味がなくスッキリと整理されていながら濃厚さもあるという、次元の違う完成度を見せる。価格差はやはりサウンドの品質の違いをそのまま表していると言え、この2万円の意味は大きい。

ただし、パルテールの方が爽やかで鮮度の高いサウンドに聞こえる一面もある。鈍重さがなく若々しさを感じさせるサウンドのため、多くの人に好印象を与えるトーンでもあろうし、ネガティブな要素を感じる人は少ないだろう。むしろ一歩踏み込んで練りこまれている分だけ、TO GO! 334の方が相性が問われることが多いかもしれない。高額なことも、シビアな評価を突きつけられる一因だろう。

サウンドクオリティという点では間違いなくTO GO! 334の方が上位にあたり、好き嫌い以前にその品質レイヤーの違いは歴然だが、コストパフォーマンスという観点では、両者は肩を並べる好敵手になる。でもだからこそ、欲しい病が発症するFitEarスパイラルの入り口でもあるのでご注意を。

パルテールを愛用している限り、解像度という点でも帯域バランスという点においても不満点は見当たらず、非常に魅力的に音楽を聞かせてくれることだろう。そのままイヤホンへの興味は打ち止めして、パルテール1本で健全なポータブルオーディオ・ライフを楽しむのが幸せの理想形だ。ただし、もしTO GO! 334と比較してしまうと、その実力と魅力にぐいぐいと引きこまれ蟻地獄のように足を取られてしまうのがオチだ。to go! 334を手にするとその次にはマスターグレードを謳うMH334、MH335DWとカスタムの世界へズルズルと足を取られる蟻地獄が待っている。もちろんそこは地獄にあらず、極上のサウンド天国なんだけれどね。

パルテールとは劇場の平土間席を意味し、ことパルテール最前列席はステージから程よい距離で音響的にも優れた座席とされることから、そんな音響空間を提供する優れたイヤホンとして命名されている。そしてこのパルテールは、更なる音を求めてディープな世界へ踏み入れてしまう、恐怖のイヤホンスパイラルへの最前列でもあるのです。いろんな魅惑のサウンドが手招きするギリギリの分水嶺、どちらへ転がるかはあなた次第。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●FitEar Parterre(フィットイヤー・パルテール)
・オープン価格(実勢市場価格おおよそ税込84,800円)
・ユニット構成:バランスドアーマチュアドライバー
・ケーブル:FItEar cable 001
・入力コネクター:3.5mmステレオミニプラグ
・付属品:ペリカンケース、メッシュポーチ、ケーブルクリップ、イヤーチップ(S,M,L,ダブルフランジ)、クリーニングブラシ

◆FitEar Parterreオフィシャルサイト
◆FitEar Parterre特設サイト


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス