[クロスビート編集部員リレー・コラム] 荒野編「オウズリー」

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4月30日、44歳で自らの命を絶ったというオウズリーことウィル・オウズリーの訃報に接し、才能に見合う成功を手にできぬまま逝った彼の胸中を考えずにはいられなかった。80年代後半にギタリストとしてキャリアをスタートさせたオウズリーは、ベン・フォールズと活動していたミラード・パワーズ(B:現カウンティング・クロウズ)とザ・セマンティックスを結成。後にザ・フーやオアシスでプレイするザック・スターキー(Dr)が加わり、ゲフィンとの契約を得てアルバム制作に臨んだ。ビートルズやトッド・ラングレン、XTCなどの影響下にあった彼らにとってリンゴ・スターJr.の加入は渡りに舟。アルバムにはキラ星のごときポップ・チューンが揃い、バンドの未来は明るいものになるはずだった。

しかし、時折しもグランジ旋風真っ只中の1993年。アルバム『Powerbill』はゲフィンから「売れない」と発売を拒絶され、バンドも解散してしまった。ソロ・デビューした1999年の取材でオウズリーは当時を振り返り「レコード会社にゴミと一緒に掃きだめに捨てられたことは、心に大きな傷を残した。全身全霊を込め、誇りをかけて作ったものが、世の中に発表されることなく否定されたんだ」と心情を吐露している。

この『Powerbill』が日の目を見たのは1996年12月。日本のアルファがゲフィンからマスターを借りる形でリリースし、パワー・ポップの隠れた名盤として広く知られるところとなった(現在は廃盤)。しかし本作は日本以外の国でリリースされないまま現在に至っている。彼が残した2枚のソロ・アルバムも含めて、その類い希なポップ・センスが再評価されることを願って止まない。

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