【BARKS編集部レビュー】設計コンセプトに気付けば、Klipsch Reference Oneは名機

ツイート

ギターアンプにマーシャルというドでかいアンプがあるのだが、12インチスピーカーが4発入っているキャビネットの裏パネルを外し、そこに頭を突っ込んで、1959という60年代ビンテージマーシャルのフル10爆音を体感したことがある。ぶんなぐられるような音とはまさにこのことで、極上のギターサウンドに全感覚を完全占領されたようなぶっとび体験は、音フェチ気味な私としては失神するほどに気持ちいい体験だった。

◆Klipsch Reference One画像

▲2012年3月に登場したKlipsch Reference One。2010年12月に初登場したヘッドホン Image ONEとカラーデザインとケーブル仕様を違えて登場となった、オンイヤー型ヘッドホンだ。

▲ハウジングが90度回転するスイーベル(首振り)機構で、可搬性も高い。

▲コンパクトで軽量だが、作りはしっかりとしており安心感がある。

▲逆卵型のイヤーカップ。この形状が装着感に大きく寄与している。

▲付属するケースと、プラグ類。内部ポケットやケーブル留めはマジックテープで自由な位置に配置できる。

▲左がReference One、右がImage ONE。カッパーゴールドとシルバーのカラーリング、ロゴ位置、ケーブルのカラーが違うだけで、基本は同一。

胃液が上がってくるほどの揺さぶる低音の極悪さと身体をつんざく高域は、オーバーロードした芳醇な真空管サウンドそのもので、どでかいトランスが放つ全エネルギーで咆哮するトーンは、理屈を超えて恐畏の念すら呼び起こすような太古の本能に訴える響きを持っている。

耳へのいたわりなど欠片もない恥ずべき若気の至り体験だが、実はクリプシュ Reference Oneをどでかい音で聴いたとき、ふとフラッシュバックしたのがこの時の体験だったのだ。あ、これ知ってる!ってやつだ。

押し出しの強く遠慮のないディープなReference Oneの低域は、後頭部をどつかれたのではないかと振り返るほどの量感だ。かなり低域は強い方で、さほどタイトではないけれど、だからこその心地よい支配感だ。全帯域に対しクリアさには欠けるので、透明感を武器とするハイファイサウンドかと言われれば、それはノーと言わざるを得ない。高品質=高解像度であったり、いい音=細かいディテールの再現性という認識が一般的な評価基準であるとするならば、このReference Oneは分が悪い。

だがここにこそ、Reference Oneの高き志と稀有な存在価値がある。

決して解像度は高くないし、細かい音を聞き分けられるような分解能も優秀とは言い難いが、これは自宅の静かな環境下で、高級ヘッドホンをリファレンスに置いたレビュー環境における評価である。確かにそのような使用用途では、ハイファイ・モニター系に軍配が上がるものの、これが一歩外に出て音楽を楽しむとなると一気に形勢は逆転する。生活騒音や街の雑踏にまみれた環境下では、ハイファイ・モニター系が得意とする繊細なディテールやデリケートなサウンド表現は、一網打尽に一掃されてしまい、非常に大雑把な音の骨格しか耳へ届かない。この時のやりきれぬ音のわびしさは、音楽を楽しむという当たり前の行為を萎えさせるほどのやるせなさだ。

Reference Oneは、騒音の大きいところではマスキングされるであろう低中域の減少をあらかじめ計算に入れてのサウンドバランスが組み込まれていると思う。と同時に、低域の物量に埋もれていたと思しき高域がスコンと心地よく耳に届くようになるのも設計通りなのだろう。2012年2月にはMode M40という、ハウジングの作りからノイズキャンセリング回路搭載をもって本格的に騒音対処にのりだしたモデルをリリースしているが、クリプシュはImage ONEのリリースの時点で、野外使用時に最適化するようなサウンドデザインをパッシブ回路で作り上げていたのだ。

よく考えれば、クリプシュはそもそもスピーカーブランドである。自宅での音楽鑑賞は言わずもがな、スピーカーで楽しんでくれというのが当然の大前提だろう。そしてスピーカーを持ち運べない外出時には、遮音性を重要視したImage X10、X5、そしてImage S4を筆頭としたSシリーズというカナル型イヤホンを世に提示し、絶大なる評価を得てきた歴史がある。そんなクリプシュだからこそ、ヘッドホンを発表するとなれば、それが屋外使用向けであるのは言わずと知れたことだったはず。電車や幹線道路沿いなど騒音の激しい環境下において楽しむならば、どんなサウンドを出力すればよいか…そうやってデザインされたトーンを、自宅の静穏環境で他モデルと比較したところで、それはReference Oneを正しく捉えたとは言えないわけだ。

「外に出てもなおノリよく音楽を楽しみましょう」、あるいは「街の雑踏にもまぎれることなく迫力の低音をも楽しめる軽くて携帯が楽な付け心地の良いヘッドホンはありませんか?」という視点でみれば、今さらながらReference Oneは、素晴らしく完成度の高いコストパフォーマンスも優れた実践型モバイルヘッドホンであることに気付く。

折りたたみこそできないがハウジングが90度回転するスイーベル(首振り)機構で省スペースで持ち運びができ、何より軽量で丈夫に作られている。側圧も適正と思われる。締め付けによる不快感と遮音とのバランスは個人差もあって判断は難しいところだが、イヤーカップの形状がよく考えられており、逆卵形の形状をしている。外耳の外周にこのイヤーカップの最端部分をきれいに合わせるように装着すると、遮音/サウンド/装着感とすべての面でバランスが理想的になる。そこはピンポイントなスイートスポットで、この理想の装着が出来ているかどうかによって、評価も大きく左右するのではないかと思う。カナル型イヤホンでもクリプシュのイヤーチップは外耳道の形状を考慮し楕円形でできており、さりげなくも素晴らしい使い心地を提供するポリシーが貫かれている。このイヤーカップの形状ひとつを見ても、どれだけユーザーの使用感に考慮しているかが類推できるというものだ。

店頭での試聴では、理想の装着など意識しないし、そもそも外出前提の音作りであることなども知る由もないので、元来の実力とは相当にギャップのある評価を食らっているのではないかと思う。その実、私自身がそうだった。Reference Oneは、毎日の通勤や通学、外出時のお供には非常に頼りになる、再評価を心から願う不遇のモデルなのだ。

最後に、Image ONEとReference Oneの違いについて。デザインや色は好みの問題であり、サウンドに影響を与えるものではないので、こちらは好みの問題だ。物理的な違いで確認できるのはケーブルだが、どうやらこちらも被膜の材質が変わっただけで、内部構造に変更はないのではないかと思われる。他にも細かく見直しがなされたとの情報も散見するが、実は、具体的な変更点や改良点は何もアナウンスされておらず、ここはむしろ変更点はないと考えたほうが無理がない。

そして実際のところ、結論から言ってしまえば、私の耳にはImage ONEとReference Oneとの違いは見当たらない。いや、正直に言うならば、先入観なのかReference Oneの方がより洗練されたサウンドに聞こえる気がしたのも事実で、それは否定すべきものでもないと思っている。が、何度も何度も執拗に聞き比べ、自身の体調やらそれまで耳にしていたヘッドホンとの相対関係にも気を配りつつ、比較を7週間にわたって繰り返し続けた結果、同じサウンドであると言わざるを得ないというのが、私の結論だ。情けない話だが、Image ONEからReference Oneへ付け替えると「あ、こっちの方がタイトでダイナミックか?」と感じるのだが、逆にReference OneからImage ONEへ付け替えても、全く同じ感想が湧き起こるのだ。そしてブラインドテストをすれば、両者は違う気がするもののどう違うかその差異を抽出することもできない。要は、違いを挙げることができない以上、両者は同一と結論するしかない。…背理法のようなオチで歯切れが悪いのだけど。

ロットの違いや個体差の可能性を鑑みれば、一概に両モデル間で違いがないと言い切ることはできないけれど、少なくとも私の所有する両モデルに気にかかる違いはなく、色違いバリエーションとして気分で使い分けられるアイテムとなっている。その時の価格やデザインの好みで自由に選べばそれでよしというのが私の結論だ。

とにもかくにもReference One(Image ONE)を耳にして、芳醇な音楽を目いっぱい堪能しながら街へ繰り出そうじゃないか。

text by BARKS編集長 烏丸

●Klipsch Reference One
オープン価格(オフィシャル販売サイト税込価格13,800円)
・仕様:スタイルオンイヤー
・ドライバー形式:ダイナミック・ムービングコイル
・ドライバー:Full Range KG 150 40mmスピーカー
・周波数特性:16Hz-23kHz
・レベル(1mW):110dB
・インピーダンス:32Ω
・プラグ:3.5mm
・重量:138.3g
・カラー:ブラック&カッパー
・機能:Apple製品対応スリーボタンリモコンマイク付
・付属品:専用トラベルケース、航空機室内用アダプタ、1/4サイズアダプタ

◆Klipsch Reference Oneオフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(音茶楽2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をツイート

この記事の関連情報