日本を代表する美術家のひとり、横尾忠則。ロック・カルチャーに精通するアーティストであり、ザ・ローリング・ストーンズやザ・ビートルズとも交流してきた横尾忠則だが、もはや伝説の域に達しているのは、サンタナが1974年に発表したライヴ・アルバム『ロータスの伝説』だろう。オリジナルLPが3枚組である本作の、前代未聞の22面ジャケットは、ポピュラー音楽の歴史において最も芸術性の高いアートワークのひとつと呼ばれている。

◆横尾忠則画像

「『ロータスの伝説』は当初、2枚組LPになる予定だったんです。ジャケットも見開きのはずでした。でもアルバムは3枚になって、ジャケットも気がついたら22面になってしまいました。製造コストもかかるし、ギャラは2枚組分しか出せないと言われたけど、そんなのはいいから、やりたいようにやらせろ!と」

横尾忠則は同じサンタナの『アミーゴ』(1976年)のアートワークも手がけている。

「『アミーゴ』の時は、彼が求めるダンサブルでカラフルで…というイメージを話してもらって、音も聴いてから描きました。その時は気付かなかったんだけど、歌詞で描かれている世界が、僕の絵にすべて表れていた。校正刷りを見たいというんで、それを持ってメルボルンまで行きましたよ」

そんな作業を経て、横尾忠則とカルロス・サンタナは、仕事を超えた友人となった。横尾忠則のアトリエをサンタナがプライベートで訪れたこともあった。

「『ロータスの伝説』をきっかけに連絡を取り合うようになって、あるとき彼が座禅を組みたいと言ってきて、ちょうど総持寺で僕の展覧会をやっていたんで案内しました。当時の彼は精神世界にどっぷりでしたね。当時の奥さんもインド人だったかな。ソニーが主催した彼の誕生日パーティーで、大きなケーキの中から裸の女の人が出てきたら、目を覆ったりして。ボヘミアンな感じの、幼い精神世界への傾倒でした。本当の精神世界というのは、女性のヌードも受け入れて、お尻を触るぐらいでないとね(笑)」

ちなみに『ロータスの伝説』『アミーゴ』ともう1枚、横尾氏がサンタナのアルバム・ジャケットを手がける可能性があった。

「『アミーゴ』のしばらく後で、ロサンゼルスにいたとき、マネージャーに曲を聴かされたんです。“どう思う?”って言うから、“うーん、今ひとつだね”と答えたら、“お前もそう思うか…”って。で、デザインはしたんだけど、結局アルバム自体がボツになっちゃって。でもサンタナは僕の絵を気に入ってくれて、“せっかく描いてくれたんだし、ぜひ買いたい”と言ってくれました。」

サンタナと同様に、実現しなかったコラボレーションとしては、ボブ・ディランとのものもある。

「ある時、モデル(兼ボディビルダー)のリサ・ライオンから国際電話があって、ボブ・ディランが僕にジャケットを頼みたいと言ってきたんです。やってもいいよと答えたら、マネージャーがすぐに日本に飛んできて、ホテルオークラで打ち合わせしました。ディランは僕の絵を知っていて、こんなイメージで描いて欲しいって、自分でスケッチを描いていたんです。それをマネージャーが持ってきていました。まあ、そのまま描いても、つまらないジャケットになったと思うんですけど。でも僕は翌日からイタリアに行かなくてはならなくて、現地でやるわけにもいかないから、話が流れてしまったんです」

ディランが横尾忠則にアートワークを依頼しようとした作品は、『欲望』(1976年)ではないかとも言われているが、このコラボレーションが実現しなかったのは残念な限りだ。

横尾忠則のアートワークでもう1枚、よく知られているのがマイルス・デイヴィスの『アガルタ』(1975年)だろう。

「マイルスのアルバムは、タイトルを付けてくれと頼まれました。その頃、僕は地球空洞説や、地底王国のアガルタに関心を持っていて、だったら『アガルタ』にして、マイルスのアルバムを通じて世の人々に地球空洞説を知ってもらおうと考えたんです。当時はまだ、一部の神秘主義者にしか知られていなかったからね。それでジャケットの絵は地の底と、海の底にしました」

誤解されてしまったのが、ピンク・フロイドとの関連性だ。

「1970年代初め、ピラミッドとプリズムの絵を、僕がフランソワーズ・サガンの本の表紙で描いているんです。それを基にした絵を2012年にボストン美術館のシャンバラ展に出展したら、学芸員に「これはピンク・フロイドの『狂気』から影響されたんですか?」って言われました。実際には、僕の方が先なんだけどね。その後、ネットを見ていたら、『狂気』を手がけたデザイナー・チーム、ヒプノシスの人(ストーム・ソーガソン)が好きなアーティストとして、僕のことを挙げていました(笑)。だから彼が僕の作品から影響されたのかも知れないし、あくまで偶然だったのかも知れない。流行というのは、同時多発的に起こるものですからね」

それにしても、ストーンズからサンタナ、GLAY、新沼謙治に至るまで、横尾忠則の手がけるアートワーク/ポスター・アートは多彩なミュージシャンを網羅するものだ。彼はどのような基準で、描くアーティストを決めているのだろうか。

「僕は選り好みしないんです。油絵を描いている時は、別のことをやってみたくなる。そんな時にアルバム・ジャケットやポスターの仕事の話があると、大抵引き受けています。ジョン・ケイルや、けっこう有名なジャズの人(注:ファラオ・サンダースと思われる)のジャケットもやりました。ただ最近では、あまり依頼が来なくなりましたね。あまりジャケットをやりたがらないってイメージがあるのかな?新沼謙治の場合は、そんなことは考えずに頼んできたんだと思いますけど(笑)」

2009年に亡くなった忌野清志郎も、横尾忠則と交流を持ったひとりだった。

「清志郎と初めて会ったのは、阪神大震災の後にやった展覧会の時だった。細野晴臣くんに手伝ってもらったんだけど、彼を通じて清志郎に紹介してもらったんです。その後もずっと“横尾さん、何かやろうよ!”って言われて、“じゃあ、一緒に何をするか考えてよ!”って言っていたら、彼は病気になってしまった。自転車が盗まれたとか言っていた時期(2005年)のことですね」

第5回では、横尾氏のYMO加入未遂事件(?)、そして今後の展望について話してもらろう。

なお横尾忠則はBSフジで3月17日(日)深夜25時から放送される「伊藤政則のロックナイト ローリング・ストーンズ50周年スペシャル」に登場しストーンズに関して語る。こちらもお見逃しないように。

インタビュー:山崎智之
撮影:有賀幹夫(横尾忠則美術館におけるライヴペンティングより)

「伊藤政則のロックナイト ローリング・ストーンズ50周年スペシャル」
BSフジ 3月17日(日)25:00~25:55

◆月刊BARKS 横尾忠則スペシャルインタビューVol.1
◆月刊BARKS 横尾忠則スペシャルインタビューVol.2
◆月刊BARKS 横尾忠則スペシャルインタビューVol.3
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