【インタビュー】ALICE IN MENSWEAR、マスケラmichi.とラクリマKOJIが合流「大好きな世界が広がっていた」

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■誰もが夢と現実の間でさまよう漂流者
■自分達もそうだという思いを作品へ

──そもそもお二人にとってのスチームパンクの魅力とは?

michi.:スチームパンクが持つ特徴の一つに“レトロフューチャー”という概念がありますよね。これが、時代の狭間にさまよう漂流者、まさに“Alice in Wonderland”にぴったりだと思いました。また、『不思議の国のアリス』に出てくるウサギの懐中時計が象徴するように、“時間”や“時計”というものが大きな意味を持ちます。これらの理由から、“これ以上、自分たちがこれから表現したい世界にマッチしたジャンルは他にないだろう”と感じたんです。なので、世界観を表現するにあたり、重要な要素であるファッションにスチームパンクを提案しました。

KOJI:michi.が提案してくれた世界観はまさに自分のどストライクな世界観だったんだけど、初めてそれがスチームパンクという名前なんだって知った感じです。映画やアニメなどスチームパンクな世界観の作品って多いですよね。

──そして、先ほどmichi.さんから「“Alice in Wonderland”にぴったり」という発言がありましたが、音楽面では『不思議の国のアリス』をテーマに表現すると?

KOJI:「『不思議の国のアリス』というテーマでどうだろう?」ってmichi.から言われた時は俺、しっかりと本を読んだことがなかったから、michi.にいろいろと教えてもらったんです。それを聞いていくうちに、自分の今の思いと重なる部分があって。人っていろんなことで悩んだり迷ったり苦しい思いをすることが多くて、それから逃れるために何かを追い求めるようなところがあるなって思うんです。自分もそういう状態の時に音楽やギターに出会って救ってもらったことがあったし。幸せなことに、それを仕事に出来て、これからも新しいユニットを組んで大好きな音楽を作り、ギターを弾いていくという未来が見えた。ALICE IN MENSWEARは、同じように悩んだり苦しんだりしている人達の支えになれるような音楽、そういう世界観を作っていきたいなって。

michi.:自分にとってもそうですが、『不思議の国のアリス』は普遍的なファンタジーの象徴であり、幼年期にみた夢への憧れだと思っています。そして人は大人になるにつれ、日々目まぐるしく追いかけてくる時間や現実に苛まれるうちに、大切な道標を見失い漂流していく。大人とは、肉体的な大きさや強さを手に入れることができる反面、そういった未知なる孤独感と戦わなくてはいけない場面も多くなることで。その弱さを少しでもごまかすために、まるで鎧でも纏うかのように、今ある自分より背伸びした服装で身を固める。誰もが夢と現実の間でさまよう漂流者であり、自分達もそうなんだという思いを作品に含ませることで、こういった痛みや焦燥感を少しでも分かち合えたなら素敵だな、と。

KOJI:“アリス”で歌詞や音楽、そしてヴィジュアルは“スチームパンク”。とんがってていいねって思う。“スチームパンク”な作品には怪しいとか美しい音楽が必ずと言っていいほど流れていて、そこもいいヒントになったというか。ライブも見えてきたなって。まるで作品のようなライブがやりたいって思っています。

▲KOJI (G / ALvino, La'cryma Christi)

──すでにオフィシャルYouTubeチャンネルでは新曲「Lost Child」のミュージックビデオShort Ver.が公開されていますが、これは映像も楽曲もスチームパンクをイメージさせるものになっていると感じました。

michi.:僕もKOJIはすごいなと思いました。実際、絵で見せるのは簡単かもしれないけど、スチームパンクを音で表現するのは難しいだろうなと思っていたんですよ。だから、KOJIが作った曲を聴いてすごく嬉しくて。

KOJI:michi.の声のイメージがあったし、自分もすごく理解できる“スチームパンク”という世界観が明確にあったから。俺は景色とか映像的なものが見えると曲が作れるんですよ。michi.がステージで歌っている姿を想像するだけでもいい。それに、当時の俺は、わりと作曲のスランプ時期でもあったんですけど(笑)、michi.からもらったヒントをきっかけにすぐに脱却できたし。

michi.:僕自身は、あまり提示したつもりはないんですよね。KOJIの吸収力がハンパないというか、曲が出来上がってくるスピードもビックリするくらい早かった。

KOJI:すごくわかりやすくスチームパンクを表現すると、俺の中では『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』といったスタジオジブリの作品もそうなんですよ。ストーリーやアニメーションはもちろん、音楽も素晴らしくて。たとえば、危険なシーンでの絵と音楽の絶妙なリンクとかね。ALICE IN MENSWEARの曲作りで、そういうことをイメージしたらアイディアが沸いてきたんです。だから、曲作りがすごく楽しかった。それに、俺はmichi.が書く歌詞も歌も本当に好きなんですよ。俺は結構トリッキーなメロディーも作るでしょ。半音で上下したり、音程差が大きかったり。公開されている「Lost Child」のShort Ver.も、“愛してよ 愛して”というサビのメロディは最初、ギターのアルペジオで入れたんです。

──ええっ、本当ですか?

KOJI:はい(笑)。それを歌に変換することの難しさは今までの経験上わかっていて。だから、michi.の声でメロディーが乗ったときに、“この人はすごい”と思いました。michi.にデモ音源を渡すときは、「歌えなかったら言ってね」とほぼ毎回伝えるんですけど、「歌えない」と言われたことはないですからね。それだけじゃなく、「どんなメロディでも俺が必ず形にしてみせる」と言ってくれた。michi.はただメロディーをなぞるんだけじゃなくて、ちゃんと歌にしてくれる。もう曲を作るたびにmichi.の昇華力や歌唱力に圧倒されています。

──今回の取材のために、「Lost Child」を含めて4曲のデモ音源を聴かせていただきましたが、ファンタジックさやスタイリッシュさなどをまとった楽曲と表現力に富んだボーカルの取り合わせは本当に魅力的で、強く惹き込まれました。

KOJI:俺はギタリストだから音楽的であるべきだと思う一方で、ALICE IN MENSWEARに関しては声と歌詞で世界観が作られていくんです。サウンドはそれをデフォルメするためのもの。これも俺の経験則ですけど、ボーカリストって、すごくギターに左右されてしまう人と、全くギターを聴かない人、の二通りがあるんです。俺は自由にギターを弾きたいから、そういう観点でいうとボーカリストにはギターに左右されてほしくない。で、michi.は後者だと思う(笑)。いや、聴いているけど、ギターに左右されずに自分の歌を唄うことができる。それも含めてALICE IN MENSWEARの音楽は完全に歌が核になっているんです。

──それは音を聴くとよくわかります。まだ発表されていませんが、ケルトっぽい中世ヨーロッパ感が漂う「ハジマリノウタ」をはじめ、KOJIさんの世界観を構築するスキルの高さも光っています。

michi.:僕もデモを聴いてビビりましたね(笑)。ユニットとしてのトータルバランスを考えて、“こういう曲ができたから、次はこういう曲がほしいね”という提案をするんですけど、そのイメージの何倍もパワーを持った曲が返ってきてたので。

KOJI:「ハジマリノウタ」はAメロから順番にトントンとできた感じだったんですよ。だから、わりとすんなり。michi.と話しているときに、“次は世界観が深いものがほしい”という話になって、Aメロを作ったんですけど、ちょっと暗いかなと思いつつも、なんの狙いもなくメジャーコードを弾いたら繋がりが良くてね。“あ、いいかも”と思いながら、曲作りを進めたら30分くらいで骨格が完成したんです。その後、michi.が歌いやすいキーにするためにサビを転調させたんですけど、サビ終わりまでそのままで、その後に元のキーに戻すことが俺のいつものクセなんですね。でも、この曲はサビの途中で転調から戻していたり。そういうところで新鮮さがありましたね。アレンジも思いっ切り中世ヨーロッパに寄せました。

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