【インタビュー】3markets[ ]、虚無から生み出した『ニヒヒリズム』

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「たとえ思ってても言えないこと、きっと言わない方が誰にとってもいいこと」を歌詞にしてしまうバンド、3markets[ ]が1月6日に2ndフルアルバム『ニヒヒリズム』をリリースした。本作は、コロナ渦に翻弄された彼らが押し寄せた虚無感に屈することなく完成させた作品だ。

BARKS初登場となる今回は、収録曲すべての作詞作曲を手掛けたカザマタカフミ(Vo&G)にソロインタビューを実施した。「売れたい」という気持ちを抱えながらも、制作において「どうしてもひねくれてしまう」というカザマ。「売れる曲を書け」というメンバーからのオーダーを受ける一方で、自らのアイデンティティも残した本作には、彼の人間くささがたっぷり詰まっていた。

  ◆  ◆  ◆

■どうしてもひねくれてしまう

──“大型フェスに出れなかったら今年こそ解散する”という決意で2020年に臨んだと資料にあったり、カザマさんご自身『売れないバンドマン』というブログ本まで出されていますが、3markets[ ]ってそこまで追いつめられるほど……ぶっちゃけ売れてないんでしょうか?

カザマタカフミ:売れてないと思ってました。音楽だけで食べていけてないので。でも、今日こうして取材してもらえたり、さっきはテレビの収録もあったりして、“もしてかして売れてるのでは!?”と、最近ちょっとだけ思ってます(笑)。

──良かった! 最新アルバム『ニヒヒリズム』を聴かせていただいて、こんな良いアルバムを作ってるバンドが売れないなんて世の中の目は節穴すぎる!と憤ったので。

カザマタカフミ:ありがとうございます。でも、自分は世の中じゃなく、自分たちの作品が悪いから売れないんだと、ずっと信じてたんですよ。最近は“そんなことないよ”って言ってくれる自分もいますけど。

──でも、ブレてはいないですよね? 売れないのは自分たちの作品が悪いからだという認識があったとしても、じゃあ、変えようっていう発想があったとしたら、ここまで尖った作品は出来ないんじゃないかと。

カザマタカフミ:いや、メチャクチャブレてますよ! いつも自分の内面をバーン!と出してたんですけど、今回、ベースの子が「売れる曲を書け」って言ってきて。

──ええ!? 彼曰く“売れる曲”とは?

カザマタカフミ:若い子向けの、もっとポップでわかりやすい曲を書けって。何言ってるんだ、お前はプロデューサーか!?と思いつつ、売れたいならそういうことをやってみてもいいのかなって、自分のアイデンティティも残しつつ、例えば曲のリズムを見直したりとか、自分なりに挑戦してみました。

──そう言われると、例えば3曲目の「言えなき子」とか、このままドラマ主題歌でもいけるんじゃないか?というくらいキャッチーですけど……。

カザマタカフミ:それですよ、ベースがいいって言った曲! そう感じてもらえるってことは、じゃあ、あいつの言ってることは間違いじゃなかったんですね。

▲カザマタカフミ(Vo&G)

──かもしれないですね。では、逆に自分を貫けた曲は?

カザマタカフミ:4曲目の「A子」は、メンバーみんなやりたくなかったんじゃないかな。だってコレ、自分が童貞だったときの恨み節を描きつつ、でも、初めての人って忘れられないなって言ってるだけの超パーソナルな曲ですからね! みんなメロがあるものが好きだったりするから、曲的にもやりたくなかったんじゃないかな。

──曲というよりポエトリーリーディングに近いですからね。でも、そのぶん抑えきれない感情が噴き出していて、心に響きました。サビの“できるなら返して童貞”とか、今までなら女性目線で歌われてきた内容で新しい男性像を感じましたし、「言えなき子」の“君の名前を半分くれよ”もそう。とても深い愛を感じました。

カザマタカフミ:ありがとうございます。

──とにかく“そこまでさらけ出す!?”と驚いてしまうくらい赤裸々なのがカザマさんの詞の魅力だと思うのですが、ただ、その率直すぎるところが“売れない”理由なのかもしれない……と思ったことも正直ありません?

カザマタカフミ:ああ、人が聞きたくなさそうなことを歌っているから……ってことですか? でも、だからって変えてしまうと、どんどんつまらなくなっていくので、そこは絶対曲げたくないですね。一応、歌詞が売りのバンドですし。

──なるほど。歌いたいことは変えず、サウンド面をより受け入れられやすいものにすることで“売れない”問題をクリアしたいと。

カザマタカフミ:まぁ、あとは顔ですね。整形さえすれば何とかなる! 要するに自分の努力が足りないんですよ。あとは手術費。

──それで「整形大賛成」なんて曲も入っているんですね。でも、この曲を聴いて“カザマさんって本当に優しい人だな”と感じたんですよ。大声出す人間を罵倒しつつ“僕はそばにいるんだから、そんなに大声出さなくていい”と歌いかけたり、“どうしようもねぇ”“幸せになりたい”と繰り返す人間のことを“嫌いじゃない ていうか好き”と言ってあげたり。ポエトリーで尖ってる中に優しさがチラ見えしてたまらない。

カザマタカフミ:いや、これはもう自分で自分を認めないと、誰も“好き”って言ってくれないんで! もうちょっと素直な言葉で書いたほうが売れる可能性はあるってわかってるんですけど……。

──リード曲の「愛の返金」からして“お金を返して”という強烈なワードが飛び出す、とんでもなく愛憎が渦巻く曲ですからね。



カザマタカフミ:俺、人を好きになるタイミングって、人生に3回か4回くらいしか無いと思うんですよ。だから、好きという気持ちを持つこと自体が本当に素晴らしいことで、その愛した人と別れても、好きだったという事実は忘れないっていうことを歌いたかったんです。まぁ、小難しいこと言う前に金返せよ!っていう私怨も交じってはいますけど。

──なんで交ぜちゃうんですか。そのままストレートに愛の素晴らしさを描けば、それこそ“売れる”曲になるかもしれないのに!

カザマタカフミ:やっぱり、そういう層に向けて書けないっていう自分の本質があるので。どうしてもひねくれてしまうというか……そこはしょうがない。

──“そういう層”って、いわゆる一般層ってことですよね。じゃあ、逆に一番ターゲットにしてる層、聴いてほしい層はどこ?

カザマタカフミ:自分は落ち込むことが多いんで、そういう人に聴いてほしいなって。聴いて“こういう人間もいるんだな”って楽になってもらえたら、一番有り難い。ま、全然落ち込まない元気いっぱいの人が聴いて“こういう人間がいるんだ”って知ってもらうのもいいですよね。それはそれで世の中のためになる。


──ただ、傍から見ていると別に落ち込むような状況でもないのに、繊細がゆえに落ち込んでしまう人も多い気がするんですよ。例えば2曲目の「OBEYA」に、もうダメだと全部洗濯機にぶち込んだっていう描写がありますけど、私からしたら洗濯機を回している時点で全く“OBEYA(=汚部屋)”ではない。

カザマタカフミ:ははは!(笑)“ちゃんと掃除出来てんじゃん!”って? なるほど!

──要するにネガティブ思考だったり、自己評価が低いだけで、実は全然やれている。カザマさんの詞は、そういう人に刺さるのかなと。7曲目の「罰ゲーム?」にしても、誰もいない部屋に帰るだけの日々に葛藤を感じている曲ですが、同じ状況でも人によっては“自由気ままに暮らせて天国!”と感じるはず。

カザマタカフミ:いや、ホントにそうです。この曲でも割り箸がうまく割れなかったことに対して、1番では悲しんで2番では笑ってるんですよ。同じ状況でも、それをどう捉えるかは、その時々の自分の心次第。そういうことを描いてるんで、タイトルの最後に“?”が付いてるんです。

──ちなみにカザマさんはどちらですか? 一人でもOKなのか、誰かといたいのか。

カザマタカフミ:ちゃんと一人で生活して自立して精神も落ち着いたら、人といるべきだなって。そうすれば倍楽しいと思うんです。逆に不足を埋め合う形だと、やっぱり上手くいかないので、ちゃんと充実してから……って感じですね。

──いや、そこまで自立した思考があるのに、落ち込む必要なんて全く無い! だから一見ネガティブオーラの漂う曲が多いとはいえ、もっと自分自身を尊重して自分で自分を認めてあげていいというメッセージが、このアルバムの根底には流れている気がするんですよね。

カザマタカフミ:言われてみれば、なんか最近元気なんですよ! ちゃんと自分で自分を認められるようになってきたところがあって、そうしたいと考えていたわけではないけれど、こうやって曲になってみると“そうしよう”っていう意志があったんですね。このアルバム8月とかに録り終わってるんですけど、そう言われて今、ちょっと腑に落ちました。

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