【インタビュー】sleepyhead「感傷的に世界を見る人生を終わりにしたい」

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sleepyheadの2ndフルアルバム『センチメンタルワールズエンド』がリリースされた。本作はクラウドファンディングによって完全初回限定版が制作された作品の通常盤。SuG解散後、sleepyheadを始動させる引き金になった曲「死んでも良い」、「ぼくのじゃない」が収録され、書き下ろしの楽曲も加えられた全11曲は武瑠の人生と15年のキャリアの集大成であるという。そんなアルバムに“感傷的世界の終わり”と名付けた武瑠の想いとは? デビュー当時から鋭い感性で時代の先をいく楽曲と映像をクリエイトし続けてきたアーティストはコロナ禍の時代のいま、どんなことを考えているのだろうか。悔いのないアルバムになったというsleepyheadの楽曲たちを通して武瑠の今にフォーカスする。

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■子供の鬱から大人の鬱に変わったような感覚。
■敵キャラがちゃんと見えたみたいな


──2ndフルアルバム『センチメンタルワールズエンド』はタイトル通り感傷的なムード。メロディとサウンドは夢と現の狭間を漂っているようで非常に心地いいです。本来は2020年にリリースする予定だったということですが、どんな世界を描こうと思っていたのでしょうか?

武瑠:自分がやっていたバンド(SuG)が消化不良な終わり方をしたことが曲を生む原動力となって、1stフルアルバム『DRIPPING』(2018年)を作ったんですが、sleepyheadを始めるキッカケになったのは今作に収録されている「死んでも良い」と「ぼくのじゃない」という曲なんです。作ったのは4年前で「こういう曲ができるなら音楽続けてみようかな」と思ったんですね。ただ、その2曲が入った『センチメンタルワールズエンド』を完成させる前に昇華しておきたいことがあったんです。それで、いろいろな曲を作ったり、出会った複数の友達をフィーチャリングした曲を生み出したりしていたら、たどり着くまでに時間がかかってしまい、そうこうしている内に新型コロナウイルスの影響でどんどん遅れてしまったんです。

──それぐらい思い入れのある「死んでも良い」と「ぼくのじゃない」を今まで音源化しなかった理由というのは?

武瑠:今回のアルバムを出せる自分になるためには1回、過去を精算して前に進むことが必要だと思っていたんです。不完全な状態ではなく、完全に次のステップに行けたタイミングで『センチメンタルワールズエンド』を出そうと。だから、時間が必要だったんじゃないかと思います。

──1つの完成形にたどり着くまではリリースしたくなかった?

武瑠:そういうことだと思います。

▲『センチメンタルワールズエンド』通常盤

──“人生と15年のキャリアの集大成”というキャッチフレーズが付けられていますが、今作で大きな区切りを付けたいという想いがあったんですか?

武瑠:そうですね。今まではファンタジーな世界観の中に“未来へ向かう人生論”みたいなものを込めていたんですが、今回は自分が大人になるまでに育まれた人生観をテーマに初めて音源を作ったんです。今、アルバムと連動する小説を書いていて、フィクションなんだけど、根底に流れている精神や感情の変化はリアルなんですよ。ずーっと描きたかったことだけど“今じゃない、今じゃない”って思ってきて。でも、ここで1回、自分の人生の編集点を作りたかったんです。

──武瑠さんはSuGの頃から作品と連動した小説を出版してきましたが、音楽も小説も自身の半生に近いということでしょうか?

武瑠:自分の人生で感じたことが根底に敷いてありつつ、自分ではない登場人物のストーリーになっていますね。これまで出した2作の長編小説はファンタジックな要素があったけど、今作では現実にあってもおかしくないことをバンド時代ではありえなかった表現方法で書いています。コロナの世の中になって自分の中に起こった変化も反映されていますね。

──武瑠さんは感性が研ぎ澄まされたアーティストなので、コロナの影響の中、感情の揺れも激しかったのではないかと思います。今作を作る上で歌詞に心情が反映された部分もあったのでは?

武瑠:ただ、この体験は大きすぎて、まだ乗り越えた感覚にはなれていないと思うんですよ。

──そうですよね。

武瑠:世界情勢で見たら戦争や紛争があったり、日本でも大地震などの自然災害はありましたけど、自分が真っ只中にいなかったこともあって、どこかリアルに感じられていなかったところがあったと思うんです。戦争も経験していないし、日本が成熟しきった時代に生まれた世代からすると当事者になる初めての経験というか。その感覚に近いのが東日本大震災で、あの時、ミュージシャンは“不要不急”の“不要”の中に入っていることに打ちのめされた人が多かったと思うんですが、それ以上の衝撃だった。自分の指針でしか測れないんですが、個人的には子供の鬱から大人の鬱に変わったような感覚がありましたね。漠然とした不安ではなく、問題点が浮き彫りになった上での不安な状態というか。

──生命の問題という不安もあるし、現実の生活や表現者としての不安もあるし、平時ではないですからね。

武瑠:そういうふうに感じて普通なんじゃないかと思いました。敵キャラがちゃんと見えたみたいな。自分が10代の頃ってなんとなく昇ってきてミュージシャンになれちゃったから不安で、なんなら贅沢病で完璧なのは不安だから、闇を探してみたり。嗜好品としての闇や鬱だった気がするんですよ。現実の世界が闇になってきている今はそういう気分をエンタメにできなくなってきているとすごく感じています。世の中の音楽表現を見ていても、頭を使わずにリラックスさせてくれるものが求められているなって。

──癒されたり、気分を少しアゲてくれる音楽だったり?

武瑠:深層に触れるものはリアルな現実で十分っていう。そういうことはすごく感じていて、今までのように闇を炙り出していくような手法は自分自身もしんどいし、それこそもう少しリラックスさせてあげたり、アゲられる存在になりたいなって。コロナは別にしても、自分を痛めつけるような作品づくりはどこかでやめにしないとっていう気持ちがあったんです。それが『センチメンタルワールズエンド』をリリースする理由でもあったんですよね。

──そういう想いがあってのタイトルだったんですか?

武瑠:そうですね。感傷的に世界を見る人生を終わりにしたいって。バンド時代に掲げていた“ヘヴィポジティブ(無理やり前向き)というテーマに通じるんですが、悲しいことをプラスに変換する、悲劇を喜劇に転換する表現をずっとしてきて、じゃあ、悲しいことがないと幸せになれないのか? っていうのが自分の中にずっと命題としてあったんです。プラスのものからプラスを生み出さないと、どんどん悲しみのオーバードーズになっていっちゃう。

──「死んでも良い」にも“絶望のオーバードーズ”という歌詞が出てきますね。

武瑠:“幸せになっちゃいけないっていう気持ちが根底にあったんです。

──それはアーティストだからですか?

武瑠:そもそも、そういう育ち方をしてきて自分を肯定するために“こういう生き方もある”ってアーティストの方向に進んだので。ただ、どこかで転換しないと感性の限界点が来るなとは思ってました。振り返るとバンドが納得できない終わり方をしたから、ここで音楽をやめるのはイヤだと思っていたし、だけど、逆にやりきった終わり方だったとしたら、すぐには音楽をやらなかったかもしれないんですよ。夢の延長というか、覚めきれない自分というテーマで始めたのがsleepyheadだったんです。

──やっぱり、いろいろな意味で一区切りなんですね。

武瑠:だから、今はいったんノープランにしておくかって。コロナになって組み立てても組み立てても延長みたいなことがたくさんあったから、「実現できなくなったら、全部やり直せばいいや。今は遊んどくか」って。そういう気持ちに初めてなれたかもしれない。立ち向かってもどうしようもないことなら、いったん目をそらして「じゃあ、今、できることしとく?」って大人の鬱との付き合い方にシフトできている感じはあると思います。

──それも変化ですね。『センチメンタルワールズエンド』の1曲目「BABY BABY」から「酸欠都市」への流れで、この作品には物語性があるんじゃないかと感じたので、小説を書いているのも納得です。

武瑠:アルバムの曲の7割ぐらいはsleepyheadを始める前から原型があったんですよ。「死んでも良い」や「ぼくのじゃない」みたいな切なさから生まれた曲はバンド時代は5人でやることでもないと思っていたので書くのを制限していたんです。だから「桜雨」とか「無条件幸福論」とかバンド時代のバラードの代表曲はシングルにはせず、アルバム曲やDVDシングルという形でリリースしていたんだけど、結果、「桜雨」が再生回数1位になっちゃったり。



──今作に収録されている「ぼくのじゃない」は「桜雨」の続編なんですよね。

武瑠:そうですね。当時はバラード推しになるのを避けていたんですよ。SuGが生み出すのはアメコミっぽい世界観なので先にデザインを考えてから曲にしたり。ただ、自己評価みたいな意味あいでバラードはたくさん書いていたんです。シンプルないい曲を書いて自分の中のベストソングが溜まっていって、そういう曲の切なさの根底にあるのは人生観だなと思っていたので、今回のアルバムはコンセプトありきではなく、縛りがない状態で自分が美しいと思って書いたメロディの集合体みたいな。ただ、コロナの時代になってしまったことで、小説にも影響したし、歌詞も書き直しました。

◆インタビュー(2)
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