“ニュートラルなTica”がたどりついた渾身の洋楽カヴァー集

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ニュートラルなTica”がたどりついた渾身の洋楽カヴァー集

Ticaのスタジオ・フルアルバムとしては3枚目となる『Latest Rulesが5月21日にリリースされる。カラフルな前作『Phenomena』から一転、モノトーンのアートワークをあしらった本作は、デビュー・ミニアルバム『No Coast』以来、再び彼らが取り組んだ洋楽カヴァー集だ。ビーチ・ボーイズヴェルヴェット・アンダーグラウンドをはじめとする楽曲は石井マサユキの手で再構築され、もはやカヴァーという表現がためらわれるほど。その選曲の妙もさることながら、ギリギリまで削ぎ落とされたサウンドと、その代償として得られた静謐さの中で武田カオリの声が際立って響く、なんとも大人のアルバムである。その随所から並々ならぬこだわりが感じられるのだが、今回、2人へのインタヴューでその一端を訊くことができた。ちなみに今回のアルバムは連作の第1弾であり、次回作のカヴァー集も秋のリリースが予定されている。

「今回はもう、圧倒的な幸福感のまま作業が終わってしまったんですよね」 

最新アルバム

Latest Rules
V2 Records Japan
2003年05月21日発売
V2CL-6014 2520(tax in)

1 Day One
2 Don't Cry Sista
 feat.NARGO (Tokyo Ska Paradise Orchestra
3 My Jamaican Guy
4 Norwegian Wood
5 Out On The Weekend
6 Natural Resources
7 Caroline No
8 Love Junkyard
9 Twilight
10 Hold Me Right feat.K.U.D.O
11 Holding Back The Years
12 Pale Blue Eyes
13 Resonance Of Organ
14 Dub Me Right



「Don't Cry Sista」

インタヴューにも登場するJ.J.ケイル、'79年のナンバー。英国のクリエイティヴ集団、TOMATOのサイモン・テイラーが手掛けたクールなビデオ・クリップは必見!


インタヴュー・ビデオ



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――タイトルの『Latest Rules』はどこから?

石井マサユキ(以下、石井):そうですねえ、曲の解釈の最も新しいかたちって
いうか。せっかく古い曲だし、それをやるわけだから、それなりに工夫したということです。ひとことでカヴァーとかリミックスとか、いろいろな言い方があるんだろうけど、“Latest Rules”という言い方が一番いいな、という。

――今回、再びカヴァー・アルバムになったのはなぜでしょう?

武田:私としては、今回が再デビューというかそういう気持ちで取り組んだので、もう一度ルーツからやっていこうという気持ちからですね。けっこう前回の『Phenomena』ってアルバムでやりきったかなと。チャレンジチャレンジ、勉強勉強で前回まではやってて。だから、もうだいたい基本というかそういうものも、ちょっとずつ出来てきたし、自分のキャラっていうのも少しずつ見えてきたので、もう今回は感覚、ほとんど感覚のみというか。そういうのでやってみようかなと、うん。

石井:なんとなく、だよね?(と武田を見る) 『No Coast』っていう最初に出したカヴァー・アルバムも、なんとなくだったし。その頃ちょっと煮詰まったんで、そんなことでもやって風通しをよくしようかなみたいなね。今回は、もうちょっと前向きな発想ではあります。煮詰まってというよりは、積極的に。やっぱり『No Coast』を作ったときの感覚がイイ印象だったから、ちょっとあの時に戻りたいなって。それで、5曲くらい選りすぐりのカヴァーをやって、それを弾みに制作に突入しようかみたいな気持ちからはじめて、それがどういうわけか、こういう、まぁまぁボリュームのあるものにだんだんなってったんですけど。

――前作の『Phenomena』でやることはやり切ったと?

石井:最初の発想から違うんです。『Phenomena』っていうのはある種、武田じゃなくても僕じゃなくてもいいって、そういうアルバムだったと思うんですよね。要するに平均的なクォリティに対するアプローチ、それに対する挑戦っていうのがあって。ほら、ヘタウマとか、そういうところにアーティストのエゴとかカタルシスみたいなものを求めるんじゃなくて、“プロで音楽やってるんだったら”っていうことへのトライっていうか。もちろん、『Phenomena』には自分がああしたい、こうしたいっていう欲求は入ってますけどね。実際、当時ああいう音楽にはまってたし。ていうか今でも全然好きだし。だから、そんなに外れたわけではないんだけど、もっとニュートラルな状態で、Ticaっていう僕と武田のそれぞれのキャラを考えて、で、何か2人でやる価値のあるものを作りたいっていうときに、今回のほうがより素直っていうか……自然に作ったものですね。

――引き続きオリジナルを、という気持ちはなかった?

武田:私的には『Phenomena』で自分に合うものと合わないものがすごくハッキリ出たと思っていて、やっぱり合うものばっかりを追求していったほうが、これからのTicaにもすごくイイと思っていたので。だからある意味ではすごくイイかたちで進んでいってるとは思うんですけど。

――カヴァー曲を選んだ基準というのは何でしょう?

石井:勘、ですね(笑)。やってみて、すげーイイか悪いか。そんなに結果みたいなものを想定していなかったっていうかね。単純に商品として分かりやすくするんだったら、それこそ'80年代の懐かしい曲をTicaなりにリアレンジして出したりすれば、それはわかりやすいわけですよ。でもそういう着地点ていうのは最初から想定していなかったので。だから、うーん……ホントね、いろんな理由はたくさんあるんですけどね……おしなべていうと勘としかいいようがないんですけど(笑)。

――ほかにもいろんな曲を試したんですか?

石井:そう。24、5曲だと思うんですけどね。

――2人で選んだのですか?

武田:ほとんど石井さんですね。だって今回のアルバムの中の曲って、私、聞いたこともなかった曲がたくさんあって。初めて聞いたっていう。J.J.ケイルとか、渋ッ、みたいな、ンフフフ。

――選んだ曲に共通点とかあるんですか?

石井:全部に共通したものはないですね。最終的に入ったものの中には何かしらあるかもしんないけど。どーかなー……'80年代の終わりくらいから全然、曲の作りが変わってるんですよね。ポップスっていうかロックもそうだけど、全部ダンス・ミュージックのストラクチャで作られているから。昔みたいな歌謡曲ってあまり聞かないし、曲の作り自体が今変わってきている。

で、サウンド的には10個くらいコードが出てくるけど、2つくらいにまとめちゃっても耐え得るムードを持ってる曲があって、一方ではその10個のコードを使わないと全然台無しって曲もたくさんあるんです。だから、乱暴に破壊しても、その曲の良さは絶対に残るであろうっていう曲とか。あと、歌の乗り方にも違いがたくさんあって。それこそJ.J.ケイルの曲(「Don't Cry Sista」)なんかは、ああやってビートを作り変えて、もちろん彼女(武田)なりのアイデアというか、歌い方を変えてるところはあるけど、基本的な作りは変わってない。でも、すごく現代的に聞こえるはずなんですよね。で、J.J.ケイル自身は、別にそういう文脈で語られる人じゃなくて、単なる南部のヨレヨレのおっさんで、そういうイメージのギャップも面白いし。そうやってキッチリと収まって、もしその落差が大きければ大きいほど我々にとっては痛快っていう。その2つくらいがポイントです。

――アレンジのテーマとかコンセプトは?

石井:やあ、やっぱり勘です。勘を信じようっていうのはホント大切で。勘に頼ってると技術が伸びないし、武田がさっき勉強勉強っていってたのもそういうところなんだけど。ただ今回は、単に勘で面白いか面白くないか、それ以外はいいって判断するところはありました。あと、もう少し分かりやすくしようっていうのはありましたね。とにかく複雑で入り組んでると、どんどん分からなくなっちゃう……。今回、みんなに音が少なくて、音がいいですねっていわれるんだけど……それは音が少なければ少ないほど、1個1個の音がよく聞こえるから(笑)、そう思えると思うんですよね。前のアルバムも悪い音じゃない。でも、もっとアレンジが複雑で、モザイク状になってるんですよ。だから、1個1個の音の良さなんて、聞こえないよね。だから、それじゃ意味ないじゃん、て。今回はもう……誰でも分かるっていうか、一聴して、ワッ、こりゃイイ音ですねってわかる、わかるためには、すごいスッキリさせて、それが剥き出しになってればわかりやすいんだろうなって。

――その素材のひとつが武田さんの声であると?

石井:そりゃもう、一番重要。武田の声がないと全部バラバラっていうか、つじつまの合わないものになってしまう気がしますね。

――ヴォーカル・スタイルで変わったところはありますか?

武田:やっとね、自然に歌えるようになったって、それはすごいありますね。歌に関しては憑き物がとれたようなスッキリさというか。けっこう今までって、音程がいいものとニュアンスがすごい良いものがあるとしたら、確実に音程がいいものをとってたんですよね。だから感覚という部分は、あまり意識してなかったというか。で、今回はTicaの制作に入る前にいろんな人のレコーディングに参加させてもらって、けっこうそれが自分の中で大きかったですね。みんなバンドとかやってきた人たちだったから、ホントに感覚を大事にしてるというか、そこで改めてこう、考え直しましたね、自分の中で。

――ゆらゆら帝国のアルバムとかにも参加されたんですよね

武田:そうですね、もうすごいショックでしたね、参加して。すごい大きな衝撃でした。

――印象に残ってる曲とか、苦労した曲はありますか?

武田:ほとんどの曲にいえることなんですけど、今回は、一発録りとまではいわないですけど、ホントにその一瞬でしか出ない声とかそういうのを大事にしたので、なんかそんなに考えませんでしたね、歌入れのとき、細かいことは。今までやってきたことを信じてというか……

石井:感動的な発言!(笑)

武田:(笑)右脳歌入れ状態でした。

石井:まぁ、どれもそうですね。面白かったのは「My Jamaican Guy」かな。かなり昔からやってみたかった曲だったので……楽しかったですね。グレース・ジョーンズがまず大好きなんですよね。あとアイランドっていうレーベルも好きだし、あの頃の雰囲気が全部好き。コンパス・ポイント、バハマ、ナッソー……スライ&ロビー、ロビン・ミラー。もう人名挙げただけでああ、いいなっていう。何ていうか無条件に好きな世界なので、やりたいなぁってことですよね。あと、苦労したのは「love junkyard」かな。トラブルも良かったことも含み、最後までてこずったというか、頭を悩ませた曲ですね。

――それはアレンジとか?

石井:いや、アレンジも歌も実にちゃんとしてたんだけど、機械のトラブルとかね。音楽的には一番すぐ出来たんですけど、その後の作業がすごく大変で……。でも、
全部面白かったよね? 友達みんなに囲まれて作業進められて……もう超幸せでしたよ。感謝っていうかね、感激っていうか。なんか全然孤独な感じがしなくて。わりと、これまでのTicaは密室の作業というか、そういう思い出ばっかりが多いんだけど、今回はもう気心知れた人たちと、圧倒的な幸福感のまま、作業がすべて終わってしまったんですよね。

――第2弾のリリースが予告されてるんですがどんな作品に?
  
武田:これはまた……(笑)。けっこう最近、ていうか今まではもっと古い曲ばかりやってたんですけど、'90年代の曲とか、やってみたりしてますね。

石井:さっきの話と矛盾するというか、その矛盾をわざとやるんですけど。古い曲だと構成があまり確立されてないというか、みんなそれぞれのエゴで音楽作ってる。で、それをどう整理するかっていうのが、発想のきっかけになるんですけど。次に収録するのは'90年代の曲とかあるんで、最初からね、その構成はもう整理されたものなんですよ。それをいったいどうできるんだろうっていう。ちょっとね、より難しいことに挑戦することになります。

取材/文●編集部

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