【BARKS編集部レビュー】GRADO PS1000は、原点であり最終到達点

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前回ULTRASONEを紹介したところだが、となるとGRADO(グラド)もきっちり紹介しておかないとどうにも落ち着かない。ULTRASONE edition 8とはキャラも方向性も全く違うものだけど、音の良さという点においては誰の追従も許さない、私にとって頂点に君臨するのがGRADOのフラッグシップ機PS1000様だからだ。2009年夏に登場してから3年近くも経った今更のご紹介でめんぼくないが。

◆GRADO PS1000画像

▲GRADO(グラド)のフラッグシップモデルPS1000。定価は209,475円(税込)という、え?と二度見するほどの価格だが、そのサウンドは間違いなく極上。とにかく気持ちよく迫力のあるサウンドを鳴らしてくれる。

▲ピッカピカに光るハウジングはマホガニーでできたハウジングを外から特殊合金でがっしりとカバーする構造。もちろん、この構造はサウンドを追求した結果のもの。

▲ハウジングは丸い棒に刺さっているだけなのでくるくると自由に回る。一方向に回りすぎると当然のようにケーブルがねじれる。それも愛嬌だ。

▲黒い部分はどでかいスポンジでできたクッション。

「この音のためならなんだって我慢できる」…そのように思わせてしまう、他では得られない極上生肉のようなサウンドを叩き出すのがGRADOというブランドだ。そのサウンドにひれ伏すがごとく、至らぬところも全て許容してしまえるほどの魅力を放つ…それが偽らざるGRADOの真の姿である。ええ、反論は受け付けませんとも。

この音が楽しめるのであれば高価でも構わない、装着感の悪さもいとわない、作りがしょぼかろうと気にしない、重たくたって首が疲れたって音が漏れたって家人から文句言われたって、全ては許そうじゃないか…と思うところに、GRADOユーザーが紳士と呼ばれ、愛しさを持って変態と称される所以がある。何も仁徳があるわけでもなく他人より我慢強いわけでもない。それほどに、圧倒的に心地よくカッコいいサウンドがそこにあり、それを知ってしまった者共の行く末が語られているだけだ。

GRADOサウンドは極めて王道だ。ピュアでごくごく自然な直球サウンドをストレートに出しているに過ぎないと思う。リスニング用に色付けされているとか、スタジオモニタの対極に位置する味のあるサウンドとの評価もよく耳にするが、私には、GRADOサウンドこそ化学調味料もなく人をひきつけるようなスパイスをまき散らすわけでもなく、本来のオーディオサウンドを漏らすことなくふんだんにアウトプットするという、ただただそれだけに見える。ギターアンプでいえば、1968年~1971年製のマーシャル1959と同じ匂いで、全帯域を芳醇に余裕たっぷりに豪快にドライブするというもの。職人が命を懸けて生み出した究極のサウンドには、理屈を超えて皮膚から感動がゾクッと染みわたるものがある。

もちろん反して背負う宿命もある。音こそすべての価値観でありサウンドだけに徹底してこだわるが故に、音質をスポイルする要素はすべて排除・却下されてしまっている。また音に関係のない部分はびっくりするほど簡素だ。飾り立てる意思がないので、スタイリッシュさはゼロ。おしゃれに見せようとか、カッコよく外見を磨こうとする意図はかけらも見あたらず、「そんな暇があったら音を磨け」と職人気質の叱咤が飛びそうな出来上がりとなっている。さしずめ「最高の音を届けるためだけに設計したので、至らぬところがあったら勘弁な」的な声が聞こえてきそうだ。消費者がGRADOを選ぶのではなくGRADOがユーザーを選ぶと言われるのはそのためである。現時点で私からご助言を差し上げるとするならば、「重い?装着感がよくない?音漏れがする?遮音性がない?作りがへぼい?ハウジングがくるくる回る?ケーブルがマックシェイクのストロー並みの太さ?…全て気にするな」ということになる。そしてこれが先陣を切ったGRADO先輩ユーザー方々の総意ではないかとも思うのだ。

謹厳実直・豪放磊落が似合うブランドであり、事実それを全うしている非常にピュアなブランドでもある。ユーザーの声を無視しているわけではないし世情のリクエストに応える姿勢がないわけではないけれど、軽薄なトレンドには振り回されず、ぶれることなくわが道を歩んだ結果、生まれてきたのがPS1000ということになるだろうか。

実のところ、PS1000とはどんなサウンドか。実際老若男女いろんな人にPS1000の音を聞いてもらうフィールドテストを行ってみたところ、「みんな笑顔になる」という絵にかいたような素晴らしい共通点が確認できた。多くの人はどう音がいいのかうまく説明はできなかったが、とにかく「いい音だ」と言い、決まってリズムを取り出す。GRADOの音には、聞いている人に「音楽」そのものを強烈に訴求させる力が漲っている。

圧倒的な低音の質の良さと開放型とは思えない芳醇な量、解像度の高さ、レンジの広さ…と、PS1000の実力はもっぱら語られている通りだが、スペックの高さよりも、GRADOの魅力はその音の質感にあるだろう。CDではなくアナログレコードのようなサウンドとでもいうか、目で見える音とでも表現すべきか、超低音から超高音まで実在感のある鳴りをしており、重量や触感を感じるほどの生々しく活力のある音を出してくれる。切れと粘っこさの高次両立は他のブランドの追従を許さぬものであり、跳ねるように弾むように響く音空間は、不純物の無い素晴らしい音に満たされたGRADO浄土だ。

▲ヘッドバンドはシンプルだが上質で、使い心地に不便はない。

▲交換イヤーパッドは1ペアで11,865円(税込)。意外にしっかりしているので頻繁な交換は不要。

▲左がPS1000、右はその弟分のPS500。スペック上では劣るものの、PS1000に肉薄する素晴らしいバランスで音楽を楽しく聞かせてくれるのはプロフェッショナル•シリーズ直系のもの。PS1000のほぼ3分の1の価格69,800円を考えるとPS500のお買い得感は高い。

開放型のヘッドホンには冷静かつクリアで端正なものも多いが、それらが繊細な女性的サウンドとするならば、PS1000は間違いなく豪快で剛腕な木こりのようなサウンドだろう。その上で、驚くほど細かい表現にも長けており、そのデリケートな表現力もやはり常人を超えた職人ならではの業とも思われる。実際のところ、武骨に作られたルックスをしているが、ハウジングに手を近づけるだけでもサウンドが変わるという繊細で気難しいところもあり、ハウジングを手で覆うものなら、腰が抜けるほど低音が抜けチープなサウンドになるという爆笑の一面も持っている。

猛烈な音圧感で刺激的なサウンドを叩き出すが、非常に引き締まっているので抜けもよくメリハリが効いている。高域の伸びも十分で心地よくとにかく明るい。音が全帯域塊となって飛び込んでくるけど、分離はバツグンで濁りなく非常にクリアだ。身体にまとわりつくような濃厚さと開放的な爽やかさが両立するという極上のサウンドは、とにかく楽しく気持ちよいもの。低域などは音圧というよりもむしろ風である。ベードラのまん前でブハッと風が来る感じをそのまま体現させるかのヘッドホンが他にどれだけあるだろうか。

一方、音の良さは振り切れているが、使い勝手の悪さも群を抜いている。計量すると本体だけで500g、聴診器のようなぶっとさを誇るケーブルを含めると600gにも及ぶのだけど、側圧は緩いので安定感に乏しい。正直、体力がなければ首も疲れてくるだろう。羽が生えているように軽いモデルも多く存在する中で、この異様な重さもPS1000の強烈すぎる個性のひとつだと笑ってお許しいただきたい。このサウンドのためには避けることのできない素材と構造による重量であろうから、この現実を許容できないとPS1000を愛でる立場に居れないようだ。ヘリウム風船を大量に結びつければ解決できるだろうか。既に変態だが。

PS1000のイヤーパッドは、一見して何これ?というどでかいスポンジ製。ふわふわだが肌が触れる外周部分は一段固い素材になっている。耐久性あるいは密着性の向上かその理由は分からないが、こいつがまたちょっぴりごわごわザラザラしている点はご愛嬌だ。蒸れる感じは最小限に留められるものの、ちょっと肌に当たる感じが、裸に手編みのセーターを着た時のようなチクチク感を思い起こす。しかも消耗品であるそのイヤーパッドは別売り1万円強という破壊力のある価格で、冷やかし連中を一蹴する。

ただ、語っておくべきネガティブポイントはこの程度のはずだ。あとは簡素なヘッドバンドとハウジングが、ただの丸棒でつながっているだけというもので、作りは夏休みの工作レベルのシンプルさ。気の利いた機構もなければ、特筆すべき造作もなく、他には種も仕掛けもない。とにかく頑丈には作られているので、壊れる要素もほとんどないだろう。そもそもパッケージも貧相なほどあっけなく、これといった付属品も特にないのだ。

非常に高額ではあるが、その支払われる投資の全てが「音」に向けられており、そのストイックさこそがGRADOそのものだ。ヘッドホンを購入する目的や選び方にはいろんな基準があるけれど、とにもかくにもサウンドにコストが投じられている点に注目すれば、音を求める人にはGRADOこそが一番お買い得とすら言える。

私にとってPS1000のサウンドは「パーフェクト」なのだけど、十人十色のオーディオの世界ゆえ、こんな濃い音は疲れて嫌だという人もいるだろう。もはやヘッドホンの音とは思えぬ強烈な音圧に付いていけないという感想も十分に理解できる。決してBGM感覚で耳にするモデルではないだろうし、体調が悪いと怒涛の音情報を受け取りきれずに辟易することもあるかもしれない。

GRADOがiPhone対応コントローラーを搭載するとか、ワイヤレス化するのも考えにくいので、一般コンシューマから広く支持される庶民のブランドになることはこれから先もきっとないだろう。でも機会あれば、PS1000のサウンドには一度触れてみてほしい。これほどまでに笑顔を引き出すヘッドホンがこの世にあるんだよ、ということを知ってもらいたいし、そこにこそ「音楽を楽しむ原点の喜び」が確実に息づいている真実を知ってほしいと思うから。

text by BARKS編集長 烏丸

GRADO PS1000
定価:¥209,475(税込)
形式:オープンエア
エアチャンバー:無共振ハイブリッド合金
ダイアフラム:排気型
ダイアフラム口径:40mm
周波数特性:5~50,000Hz
チャンネルバランス:0.05dB
インピーダンス:32Ω
ヴォイスコイル:UHPLC銅線
最大入力:150mW
感度:98dB/mW
接続コード:8芯UHPLC銅線
接続コード長:1.7m
本体質量:470g
総質量:590g
入力端子:1/4インチ標準プラグ
ヘッドバンド:側圧調整板内蔵本皮貼
付属品:4.5m延長ケーブル、ミニプラグ・アダプター・ケーブル

◆PS1000オフィシャルサイト
◆GRADOオフィシャルサイト(海外)

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(音茶楽2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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