【BARKS編集部レビュー】GRADOサウンドをぶち放つ、iGiの不思議

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今さら言うことでもないけれど、市場では次々といろんなイヤホンが誕生、店頭をにぎわせている。どれとして同じものはなく、皆個性をまとい得意なサウンド表現を持ち合わせている。そしてリスナー側も同様に様々な趣味をもち、気分やコンディションでその時の嗜好が変わったりもする。だから多種多様のイヤホンが存在しているし、ニーズに応じて市場がにぎわっている状況だ。

◆GRADO iGi画像

▲GRADO iGi。素材はラバーコーティングされたようなごむごむした感触で、かなり渋い。何から何まで真っ黒でおしゃれ感はゼロ。ハウジングもそれなりの大きさがあるので、女性には大きすぎるかもしれない。写真では見にくいが、シリコン製の真っ白なイヤーチップも付属する。

▲ケーブルもゴムっぽい材質のため滑りが悪く、タッチノイズも盛大に発生するので、ご承知おきを。ジャックはL字でもストレートでもなく、斜め135度の角度がついたへの字形状。

▲パッケージがシンプル&質素なのは、そのままGRADO仕様。

あれもこれも…と複数のイヤホンを所有してしまうのはむしろ自然なことだし、音楽によって最も適切なイヤホンを選ぶのも当然の行為だ。そこに適性があるのも揺るがざる事実で、クラシック向けと言われるヘッドホンでクラブサウンドを堪能してもいまひとつ消化不良に終わるのもよくある話。ラーメンでいえば、しょうゆや味噌、塩、トンコツ味が一番で、チョコレート味やかき氷シロップ味のラーメンはやっぱりミスマッチ。そういうものだ。

大きなダイナミックレンジがあってこそのクラシック堪能にはWestone4、J-POP~ROCKを解像度からトーンバランスまで万能に楽しむにはSHURE SE535、デリケートな高域を心地よく堪能するにはファイナルオーディオデザインのHEAVEN系、頭を揺らすようなクラブサウンドにはSOUL by Ludacris SL99、まったりとBGMとしてやさしく音楽を満たすにはUBIQUO UBQ-ES703、雨の日は逆にアゲていきたいからアトミック・フロイドのスーパーダーツ…とかね。私は、がつがつと攻撃的に音楽に刺激を求めるときにはフィッシャー・オーディオのDBA-02を手にし、何も考えず単なるオーディオリスニング気分にはゼンハイザーIE80を、天気のいい気分晴れ晴れ絶好調のときはオーディオテクニカATH-CK100PROでテンションをさらに上げたりもする。

ただ、そんな音楽や気分傾向カテゴリーに、未だに分類されないどえらい個性派がいる。愛用して1年以上経つGRADO iGiだ。

GRADO iGiのサウンドの傾向はなんといえばいいのか…。まず低域が派手に飛び込む。猛烈な音圧感で刺激的だがギュッと引き締まっているので抜けは非常にいい。高域の伸びもあり心地よく、屈託のない脳天気な音がする。ドスバスドスバス遠慮なく鳴る低域は、邪魔にならないどころか、すこぶるかっこいい音だなあと、ボリュームを上げたくなるノリの良さがある。

そうすると「ドンシャリなのね?」と思われそうだが、中域もクリアに出ており不足感は全く感じない。「ならばフラットなのか」と問われれば、うつむきながら、しぶしぶ「ドンシャリかもしれません」と答えるだろう。低域の豪快な出方を考えるとフラットと言うのははばかれる。

音場はさほど広くないけど、分離はバツグン。音が全帯域塊となって飛び込んでくるくせに、濁りはなくクリアで、聴いていて楽しく気持ちよい。各帯域のチームワークが素晴らしく、音楽を音楽として聞かせる当たり前を地に足つけて体現するような音なのだ。そして何より特徴的なのは、カナル型といえど開放型のような閉塞感のない開放感あふれる音を奏でるところだろう。

▲GRADOのプロフェッショナル•シリーズ PS1000とPS500。PS1000がGRADOを代表するフラッグシップ。PS1000は¥209,475(税込)、PS500は69,800円(税込)という、並みの金銭感覚ではとても手が出ない高額モデルだが、日本にはGRADOユーザーは非常に多い。音楽をノリよく聞かせてくれる素晴らしいサウンドを出してくれるからだ。

そう、一言でいえば、GRADOのフラッグシップPS1000に代表されるような、紛うこと無きあの“GRADOサウンド”なのである。どんな音楽に似合うとかどんな気分で使うとハマるかといった基準にはハマらない。「GRADOサウンドを楽しみたい」という価値観一点突破なのだ。生っぽさや臨場感、肉感的な音の熱さを、アウトドアでも楽しみたいというわがままGRADOジャンキーのための必殺悩殺イヤホンがiGiである。

これまで愛用し続けてきた今、iGiを見て思うのは、「遮音性や可搬性を追及するためにカナル型を開発した」のではなく「GRADOサウンドをイヤホンでも出してみようじゃないか」という単純なコンセプトから生まれたものと思えて仕方がないということだ。「GRADOサウンドをイヤホンで再現する」…これだけが最大の目的かつ最終目標であり、決して「カナル型を作りたかった」わけではないのではないか。なぜなら、一般的なカナル型イヤホンが保持する当たり前の機能があちらこちらで欠落しているからだ。

▲デザインそのものや意匠は独特で、他のどのイヤホンとも似ていない。メーカー側はタッチノイズを軽減させることを目的に、耳にかけるいわゆるSHURE掛けを推奨している。

▲ケーブルは若干癖がつきやすいが、適度な長さは使いやすい。

▲聴き比べてみた迫力ある低音を得意とするカナル型イヤホン群。左上からGRADO iGi、Atomic Floyd SuperDarts+Remote、SOUL by Ludacris SL99、下左からKlipsch Reference S4、ファイナルオーディオデザインAdagio III、SONOCORE COA-803、Fischer Audio consonanceという面々。最もクリアでタイトかつシャープな高品質サウンドをたたき出すのがSuperDartsだ。SL99も派手な低域を叩き出すが、中域や高域もしっかり出るのでバランスは非常に良い。その点アダージョIIIは、高域と低域に派手なピークを持つ個性派で、ちょっぴり異彩を放つ憎いやつ。COA-803は一般的なダイナミック型イヤホンに低域だけを5割増しにしたようなわかりやすい低域バランスを持つやんちゃな一品。consonanceは最近登場した新製品だが、引き締まったボンキュッボン的グラマラスな音を聞かせてくれる個性派だ。そして主役のGRADO iGiは、端的に言えばGRADOサウンドそのもの、ということになる。

形状がカナル型だからと言って、iGiに遮音性や密閉性は期待しない方がいい。2段キノコのイヤーチップに至っては超絶な遮音を実現しそうな雰囲気を醸し出しているが、ハウジングにポート穴が開いているので、外の音は盛大に入ってくる。電車内など騒音の大きい場所では音楽はずいぶんとノイズにマスキングされる。また、ケーブルのタッチノイズは盛大で、耳に掛けるいわゆるSHURE掛けをしてノイズを防がないと、どうにもこうにも使い勝手が悪い。さすがGRADO、まさかの変化球で「えっ?」とユーザーを惑わすお茶目さは健在だ。

GRADO iGiは、外にGRADOサウンドを持ち出せる飛び道具と認識するのが正解だと思う。遮音性・音漏れ・重量・可搬性…あらゆる点で、GRADOのヘッドホンは基本的に室内向けに設計されており、屋外使用は不可能に近い。そんなGRADOユーザーに、GRADOサウンドをポータブル環境で堪能できるように提供されているのがiGiゆえ、GRADOサウンドに身を捧げているGARDOユーザーであれば、iGiは絶対に手にするべきアイテムだと思うし、GRADOサウンドが楽しめるイヤホンが画期的であることは、十分に理解いただけることと思う。

もちろん、おおよそ定価1万円のイヤホンだけに、高額なGRADOヘッドホンと同等のサウンドクオリティが期待できるはずもない。解像度などはとても太刀打ちできるレベルではないが、それでもiGiはPS1000の極上な音空間と同じ匂いをまき散らしている。サウンドクオリティはヘッドホンには全く太刀打ちできないへぼへぼなものなのに、音楽を楽しむという点では、そこは何の足かせにもなっていない。「音楽を楽しむために、高い解像度は必要だと思いますか?」と聞かれれば、私は躊躇なく「必要です」と即答するが、iGiに対しては、ちょっと説明がつかない。

iGiのサウンドはどんなものか。比較するために、低音が魅力なイヤホンばかりと聞き比べを行った。対象はAtomic Floyd SuperDarts+Remote、SOUL by Ludacris SL99、ファイナルオーディオデザインAdagio III、SONOCORE COA-803、Fischer Audio consonance、Klipsch Reference S4、そしてGRADO iGiである。

聞き比べて分かったのは、やはり解像度はさして優れていないということ。この中ではSuperDartsの解像度が群を抜いており、そのあとにSL99、S4、consonance、Adagio III…と続く。残念ながらiGiが最下位かもしれない。ただし音楽の楽しさや感動を抽出し聞き手の感情を揺さぶる魅力にあふれているのはiGiの独壇場だ。解像度の低さが音楽表現を全くスポイルしていないというまさかの真実は、私の知る限りiGiだけの特例で、私の分析スキルでは、GRADOの魅力がどこから生まれているのか、全くわからない。

ノリの良いGRADOサウンドを牽引するのは低域であろうか…。ボトムの質感は比較した各モデル群の中でもiGiが群を抜いて優れている。沈み込みの深さ、跳ねるような弾力性、粘るように均一なトーンをさっとスタッカートさせるキレの良さなど、低域の表現力は他の追従を許さない。

▲iTunesのイコライザー画面。このセッティングが海外で流行った通称「パーフェクトセッティング」。

基本的にトーンの傾向は、派手目でつかみのいいサウンドだ。一時期ネット上でもてはやされたiTunesのEQセッティング例「パーフェクトセッティング」が演出してくれる押しの強さに似ているかもしれない。これは、125Hzと8KHzをピークに1KHzをディップにふたつの山を作るドンシャリ系のセッティングだが、聴感上派手に響き、何でもいい音に聞こえてしまうチューニングで、32Hz:+3、64Hz:+6、125Hz:+9、250Hz:+7、500Hz:+6、1kHz+5、2kHz:+7、4kHz:9、8kHz:+11、16kHz:+8にするというもの。このセッティングを試していいなと思ったら、iGiの魅力もお分かりいただけるかもしれない。

褒めているのか茶化しているのかよくわからない流れになってしまった。欠点も目立つiGiだけど、心を躍らせてくれるダイナミズムに満ち満ちている、非常に魅力的なイヤホンだとお見知り置きいただきたい。理屈じゃなくてね、本能に直結しちゃうようなそんなイヤホンもこの世にはあるということで、私は大リスペクトの一品だ。

ちなみにiGi、アイジーアイと呼ぶ人が圧倒的に多いからなのか、現在では正式名称が「アイジーアイ」になった模様。本当は「イギ」が正式な読みだったんですが…。ちなみにGRADOのGR8は「グレート8」が正式名称になったようだ。こちらも「グレート」が正式名称だったのが、これもなかなか定着しなかったことが原因なのでしょうか。ちなみにGR10は今も昔も「ジーアール10」となっております。

text by BARKS編集長 烏丸

GRADO iGi
¥10,395(税込)
形式:カナル型
ドライバ:ダイナミック
周波数特性:20~20,000Hz
インピーダンス:24Ω
最大入力:30mW
感度:105dB
接続コード:OFC銅線
接続コード長:1.3m
総質量:9g
入力端子:3.5mmステレオミニプラグ(金メッキ)
付属品:S,M,Lサイズ交換用カナル

◆GRADO iGiオフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(音茶楽2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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