【BARKS編集部レビュー】GRADO道を爆走するためのRS1i、SR325is、PS500…ベストバイはどれ?

ツイート

アーティストに「アルバムの中で一番のお気に入りの曲はどれですか?」なんて質問をするもんなら、「自分の子供の中で一番好きな子は?って聞かれても、答えられないでしょ?それと同じよ(笑)」なーんて、言われちゃったりする。私はGRADOとは何の縁もゆかりもないけれど、そのサウンドに惚れているが故にいちGRADOファンとして妙な親心みたいなものも芽生えちゃったりして、「RS1iとSR325isとPS500、どれがいいですか?」なんて聞かれると、「決められるわけないでしょ」と逆切れしてしまいそうな心持になる。えと、…私は何を言っているのだろう。

◆GRADO RS1i、SR325is、PS500画像

▲今回比較するのはGRADOの中でも人気のハイスペックモデル群。左からリファレンス•シリーズRS1i、プレスティージ•シリーズの最上位機種SR325is、プロフェッショナル•シリーズのPS500。

▲御覧のように3モデルはすべてほとんど同じ大きさとデザインを持っており、共通パーツも多い。物理的な違いはハウジングの素材と形態、そしてそれによって生じる重量だ。サウンドはそれぞれに個性あふれるが、共通しているのはドピーカンなヌケの良さとノリの良さ、音楽を楽しく聞かせるというGRADOスピリットだ。

▲GRADO RS1i。特徴的なのはハウジングがマホガニー製であるというところ。非常に軽く、装着感は3機種の中では最もまとも。ヘッドバンドにカーブを付けることで自分の頭のサイズにうまく合わせれば、適切な側圧となり装着感は随分と向上する。手彫りの熊もびっくりの民芸品的な佇まいもRS1iのかわいらしいところ。まさか¥102,900(税込)もする超高級品とはだれも思うまい。

▲無共振アルミ合金をハウジングに持つGRADO SR325is。最も若々しくキレの良いサウンドを叩き出す。ロックを聴くなら全ヘッドホンの中でこれがベストという噂も。3機種の中では最も安価な¥49,560(税込)。

▲GRADOのフラッグシップPS1000のスピリットを確実に受け継いだ、弟分のPS500。ハウジングはマホガニーと金属を用いた無共振ハイブリッド特殊合金だ。凶暴性のある低域をスピード感たっぷりに放つさまは、GRADOのなかでもプロフェッショナル•シリーズならではの魅力。¥69,800(税込)。

▲口径はすべて同じ。最終的にはすべて手にすると極楽のGRADO浄土で至福の音楽を堪能することができる。

今回は、よく質問を受ける「RS1i、SR325is、PS500…どれがいいですか?」に、自分なりの回答を出してみたいと思う。出せないけど。

「全部手に入れて使い分けてGRADOライフを楽しんでください」というのは最終的なオチにするとして、まずはこれら3機種の違いを切り出し差異をクローズアップさせて、どれが自分の好みであろうかを妄想する一端になればうれしい、というのが本稿執筆の骨子だ。

破綻しているようで申し訳ないが、まず最初に言っておかなくてはいけないのは「GRADOの各モデルは、それぞれがオンリーワンでありGRADOの血を分けた兄弟分、良し悪しや優劣を決めるものではない」ということ。それがGRADOの武士道ぞ。ちなみに私がGRADOへ注ぐ一方的な思いは、2012年6月9日ロックの日にPS1000への偏愛記事(「GRADO PS1000は、原点であり最終到達点」)の執筆により公開されている通りなので、GRADO熱にうなされているジャンキーおやじの戯言としてイカレタ発言は大目にみていただきたい。最終的なご判断の際に何らかの一助になれば幸いだ。

ちなみに、GRADO製品は、すべての製品にほぼ共通したパーツが用いられており、エントリーモデルからフラッグシップまでデザイン上の差異が全くないという弩級の個性が貫かれている。この3機種においても、デザインや各パーツは全く同じであり、ハウジングの材質の違いによる重さや見た目の差異は生まれるものの、購入時の検討材料はサウンドと価格の2点に集約されると理解いただくのがひとつのポイントだ。

さて本題であるが、思いっきり大雑把に言い切ってしまえば、最も中庸なバランスにあるのがRS1i、高域を強めればSR325is、低域を強めればPS500といったところであろうか。言い方を変えれば、勘違いされずにGRADOサウンドの素晴らしさを最も広く伝えてくれるのがRS1iであり、もっとロック色を強め刺激を強めたのがSR325is、そして棍棒でぶん殴ったような激烈な低域をもって凶暴性を高めたのがPS500だと思う。

RS1iは、素晴らしい表現力を持ち、繊細さと大胆さとノリの良さを併せ持つGRADOが生み出した傑作モデルの筆頭だ。3モデルの中で最も雑味がなく、ゴージャスな音世界を生み出す能力に長けている。SR325isなどと比較するとミッドに微細なピークがあるが、これこそが中域に匂い立つエロさを生み出すポイントで、他モデルでは真似できない艶めかしさを内包している部分だ。音場に広がりはあまりなく、耳のすぐ横で鳴っている感じがするが、これがノリの良さを演出する最大のポイントだと思う。超低域から超高域まで全帯域を音の塊としてガッとまとめてしまい、直接鼓膜に投げつけるかの鳴り方をする。本来であればダンゴになって聞けたもんじゃないが、桁違いの分離の良さを持って、不快なこもりや不明瞭感を一切発生させないという奇跡的なバランスを作り上げてくれるのだ。トップクラスのキレの良さと解像度の高さあってこその音芸で、表現力をスポイルすることなく行儀良さをなくして無礼講に全帯域をイッキする奇跡のサウンドとでもいうべきか。

ちなみに、耳にして音楽を聴いている私の姿を見て「おサルさんみたい」と意味不明なディスが家族から飛んできたが、ハウジングがマホガニーの削り出しという民芸品的な風情がなんとなくの猿テイストな趣きを呼び起こしたようだ。ここは気にしないようにしよう。マホガニー製ハウジングのため、3モデルの中では最も軽量なのがうれしいところである。最も残念なのは、3モデルの中で最高額である点だ。¥102,900(税込)という、なかなか破壊力のある価格となっている。合掌。

続いてSR325is。SR325isは、その高域の抜けと明瞭さ、音の鮮やかさとスピード感を持って、一聴して若々しくフレッシュで爽快な音がする。SR325isの最大の魅力であり、このサウンドを持って最もGRADOらしいと評価する人もいることだろう。一番派手で暴れん坊、つかみの良さはぴかいちだ。サウンドを聞く限り、テンションの高さも一番高いのではないかと思う。逆に言えば、元気すぎてエネルギーを吸われぐったりするという副作用を最も感じやすいサウンドでもある。体力バロメーター的な自分のコンディションを映し出してくれる鏡のようなモデルとでもいえるだろうか。

サウンドに関して厳しい目で切り込むと、3モデルの中では一番軽い音になる。中域の艶めかしさとローの沈み込みが少々控えめといったところ。もちろんこれは3モデル内での比較の話であり、一般的なヘッドホン・サウンドを基準にすれば決して軽い音ではなく、むしろノリ良く抜け良くも重厚であると言えるサウンドであることに間違いはない。3モデルの中に於いて、SR325isは最安価となる¥49,560(税込)である点がなによりだ。

最後にPS500を。PS500の音像は常にどでかく、その低域の描画力はまさに化け物だ。強烈な低域はPS1000直系の心地よさで、これほどの重たい音をスピード感あふれる音像で聴かせてくれるアイテムは、他には見当たらない。低域の強烈なインパクトはその量感の大きさではなく、非常に硬質で引き締まってタイトな音質そのものにあるような気がする。トーンそのものが凶暴なのだ。野獣の咆哮が草食動物を震え上がらせるように、PS500の低域サウンドは有無を言わさぬ重たいブローで、ズシンと腰に来る。この低域の質感はPS1000から見事に受け継がれている最大の武器である。逆に中域や高域はRS1iと同等の品質だと思う。

私にとってPS500は、最もGRADOらしさが前面に出たモデルのひとつだ。GRADOの中でも結構えぐい低域を出す個性派だが、他のどのヘッドホンとも似ていないワン・アンド・オンリーを体現する稀有なヘッドホンであるというその孤高の立ち位置自体がGRADOのあり方そのものを象徴しているように感じるのだ。低域は実態感のある厚みと艶めかしさを持つにも関わらず、タイトでしつこくないという驚きのバランスを見せる。パンチ力があるのに引き際も鮮やかというPS500/PS1000に触れてしまうと、もはや他のヘッドホンの低域では満足できなくなってしまうことだろう。この質感は、1980年代のハードサウンドでよく見かけるリミッターがバリバリに効いた音圧でまくりのキックの音と制動感が似ているかもしれない。低音が全く出ないラジカセでもキックがドスドス伝わってくるマット・ラングのサウンド(デフ・レパード『ヒステリア』、ロミオズ・ドーター『ロミオズ・ドーター~夢の落し子』など)は、PS500と最高の相性を見せてくれる。ただし、3種類のなかでは最も癖が強く、好き嫌いが分かれるのもPS500であろう。

ちなみにPS1000とPS500の違いは自動車でいう排気量の違いのようなイメージで、音色の特色やトーンの肌感覚は同系統に感じる。低域の押し出しの強さや、キレの良さとぐいぐいとドライブさせるねちっこさの不思議な両立など、その遺伝子の濃さは健在だ。なんでこんな音が鳴るの?と素朴に感嘆する圧倒的なトーンは、化け物と呼ぶにふさわしい。PS1000が¥209,475(税込)という軽い脳震盪を起こす価格であることを考えると、PS500の¥69,800(税込)は素晴らしいお買い得感を提供してくれる。

駆け足の紹介となったが、この3モデルに限らずGRADOは呆れるほどにドピーカンな音を出すロックなヘッドホンだ。広大な音場の中で振れ幅広いダイナミックレンジが活きるクラシック鑑賞や、淡々と実務を遂行するミックスやエディット作業などには、GRADOはキャラが濃すぎるかもしれない。ただ、思わず身体が動き出してしまうような、屈託なく音楽を楽しむという音楽鑑賞の根源を揺さぶる魅力が、どのモデルからもあふれている。

無類の喜びをさくっと垂れ流すGRADOに身をゆだねれば、細かいスペックなんてどうでもよくなってしまう。だから実は、どのモデルを購入してもきっと不満は生じないと私は信じている。だって音楽鑑賞って、元来そういうもんでしょう?

text by BARKS編集長 烏丸

●RS1i
¥102,900(税込)
・エアチャンバー:無共振ソリッドウッド
・周波数特性:12~30,000Hz
・本体質量:180g
・総質量:250g
・付属品:(1)ミニプラグ・アダプターケーブル(2)4.5m延長ケーブル

●SR325is
¥49,560(税込)
・エアチャンバー:無共振アルミ合金
・周波数特性:18~24,000Hz
・本体質量:230g
・総質量:350g

●PS500
¥69,800(税込)
・エアチャンバー:無共振ハイブリッド特殊合金
・周波数特性:14~29,000Hz
・本体質量:340g

※3機種共通スペック
・形式:オープンエア
・ダイアフラム:排気型
・ダイアフラム口径:40mm
・チャンネルバランス:0.05dB
・インピーダンス:32Ω
・ヴォイスコイル:UHPLC銅線
・感度:98dB
・接続コード:8芯UHPLC銅線
・接続コード長:1.7m
・入力端子:1/4標準ミニプラグ
・ヘッドバンド:側圧調整板内蔵本皮貼

◆RS1iオフィシャルサイト
◆SR325isオフィシャルサイト
◆PS500オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をツイート

この記事の関連情報