【BARKS編集部レビュー】オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000のススメ

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2004年11月の発売という、かれこれ8年もの年月が経つモデルゆえに、すでに評価は安定しベストセラーとして多くの人々から愛されているのが、このオーディオテクニカの開放型ヘッドホン(エアーダイナミックヘッドホン)のATH-ADシリーズだ。

◆オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000画像

▲左がオーディオテクニカ ATH-AD2000、右がATH-AD1000。基本的な構造は同じだが、ヘッドバンドの素材やウイングサポートの形状が異なる。もちろんドライバーなど心臓部分は別物。ATH-AD2000が\84,000(税込)、ATH-AD1000が\42,000(税込)と定価はちょうど2倍だ。

▲ハウジング部はパッと見た目はほとんど同じで、一部内部素材の違いを除けば、同一のものに見えるが、出てくるサウンドの違いは歴然。ATH-AD2000は重心が低く心地よいフラット、ATH-AD1000は2000と比べると高域寄りのバランスとなる。

▲左のATH-AD2000のほうがヘッドバンドは細いが、柔軟性に富みながらもどんなに広げても伸びたりせずに元の形状に戻る軽量な特殊合金が用いられている。その強力な弾性が強い側圧を生んでいる。

▲イヤーパッドはどちらも手触りがさらさらとして心地よいエクセーヌが使用されている。そこから見えるドライバーは見た目は全く同じ。

▲左からATH-AD2000、ATH-AD1000、ATH-AD500。さすがにサウンドは比べるべくもないが、それでもATH-AD500は日常生活で大活躍。

今さらながらの紹介でお伝えできる新事実は何もないのだけれど、これまで様々なブランドのエントリーモデルからハイエンドまで多くを手にしてきたことで、感服するような素晴らしいモデル、驚くほどのコストパフォーマンスを見せるモデルなどとの出会いも多く、感動と興奮を覚えることがある。その素晴らしさこそ、時期問わずタイミング関係なく紹介するのがメディアの本分…ということで、今回は唐突ながらATH-AD2000とATH-AD1000の2機種を紹介したいと思う。

以前Takstarのヘッドホンを紹介(※◆【BARKS編集部レビュー】安くて音が良いという噂のTakstar、果たしてその実態は?2012-03-20)した時にATH-AD500を愛用していた旨を記していたけれど、2003年10月に登場したATH-AD500を長年にわたって愛用し、最終的にATH-AD1000とATH-AD2000をも手にして今思うのは、「これらの魅力を際立たせているのは、ATH-ADシリーズ全体が持つ絶妙なバランス」なのではないかということだ。高品質なサウンドとか侮れないコストパーフォーマンスの良さというのは当然のこととして、シリーズ内に存在する個々のモデルの個性がそれぞれに際立っており、どれも他のモデルに負けていない魅力を放っているというプロダクトの見事なバランスが、それぞれのモデルに愛着を持たせてくれる重要なファクターになっていると思う。

これまでの歴史の中でATH-AD5、7、9、10…そしてATH-AD300、400、500、700、900、1000、2000と、多くのモデルが登場し、ラインアップの統廃合も行われてきているが、型番の大きさがグレードを示し価格も上昇はするものの、完全な上位互換(あらゆる点で上位モデルが下位モデルを上回る)ではないところがこのシリーズの最大の魅力でもある。各モデルにそれぞれの愛用者が生まれたことが、シリーズ全体の人気を後押ししたのは間違いないだろう。

各モデルごとに得意とする特徴を持っており、その魅力が上位機種をもたじろがせる事実が何より面白い。小型車が高級大型車よりも小回りが利くように、適材適所に応える各モデルの立ち位置が魅力的だったし、目的や好みによって最適なモデルが必ずしも最上位機種ではないというのは、趣味嗜好で価値観が逆転するオーディオ機器というアイテムにとって、極めて正しいあり方だと思う。各モデルがオンリーワンの個性を放ち、上位機種に引け目を感じることもなく愛用できるのは、消費者にとって健全な愛着心を育む一端となるはずだ。私にとってATH-AD500は、ATH-AD2000よりも装着感がいいし、耳を刺激するトーンが全くないので、ゲームやTV鑑賞には未だ手放せないでいる。

ATH-ADシリーズに共通して言えるのは、まるで帽子をかぶっているような自然な装着感と、妙なクセやアクの強さが全くない自然なトーンであることだ。まさにジャンルも人も選ばないとても使用感に優れたヘッドホンといえる。そして何より発売から長年経つことですっかり市場価格もこなれており、もはやお買い得感がMAXなのである。そもそも定価は結構高いので、発表当時とても手が出なかったという人であれば、今でこそ手にするのもいいだろう。時代遅れとは無縁の普遍的なサウンドを出してくれるヘッドホンだから、気兼ねも気後れもいらない。

さて、今回紹介するのは上位2機種だが、敢えて言えば、私のイチオシは上から2番目に位置するATH-AD1000である。ATH-AD1000を使っていると、なんら不満も生まれず、とても快適に愛用することができるからだ。特に不具合の発生やトラブルでもない限り、普通のオーディエンスであれば買い替えや浮気の可能性は考えにくい。ATH-AD2000を欲しいと思うきっかけもないだろうし、ATH-AD1000で物足りないと思う理由も何も見当たらない。つまりはATH-AD1000を手にすれば、それで幸せなオーディオライフが保証されるということなのだ。

ATH-AD1000は高域寄りのはつらつとしたトーンだが、ねちっこさがなくさらっと爽やかに抜けてくれるような軽快さがあるので、気軽に音楽を楽しむにはとても心地よい。解像度も高く分離もよいので、シビアにサウンドのパーツを聞き分けるような用途にも十分に威力を発揮するだろう。

しかしながら、あなたがヘッドホンマニアならば、話は別だ。今所有しているモデルが何であろうと、物欲はいろんな理由をでっちあげてあなたを襲う…ご存知ですよね? ATH-AD1000を購入してそのサウンドに満足すればするほど「ならばATH-AD2000は?」と、悪魔はささやく。

私見ではあるが、ATH-AD1000とATH-AD2000の間には、歴然とした品質の違いが存在する。ただし、中域から低域の量感が違うので、そもそもトーンの違いが明らかで、この時点で「ATH-AD1000のほうが好きなトーンバランス」という人が相当いてもおかしくないし、その感覚こそ、その人にとっての正解だ。ATH-AD2000よりもATH-AD1000の方が好きという意見が当たり前に存在することが、ATH-ADシリーズの懐の深さなのだから。

しかし音質という面を冷静に見つめれば、そのドライバーから発せられる情報量が全く違うというのが、私の偽らざる感覚だ。ATH-AD2000は非常に鮮明でメリハリのあるサウンドを持ち、立ち上がりの鋭さは世界最高クラス、実体感と力強さを両立させたその音場は、他にあまり例を見ない高品質なものだ。明るく引き締まっているのだけれど、ぶっとくて全くぶれない安定した足場を形成しており、全ての帯域で細かく描画する生真面目さもある。ATH-AD1000よりも圧倒的に低域から中域の量感は多いが、このバランスを持って、私はフラットであると感じる。ATH-AD1000と比べると暑苦しいほどの情報量が流れ込んでくるが、アーティストが作り上げた作品を漏らすことなく享受したいというオーディエンス心理に、真面目に応えようとしているのが、ATH-ADシリーズのフラッグシップに課せられたATH-AD2000の使命なのだと思う。

ただ残念ながら、ATH-AD2000こそがシリーズ内の万能の神かというと、短所と思われる点もある。ひとつは装着感だ。ATH-AD2000のドライバーから放たれる圧倒的な情報量を余すことなく耳へ届けることに妥協したくなかったのだと思われるが、側圧が強められているのである。イヤーパッドはエクセーヌという素晴らしい肌触りの素材が使われているけれど、パッドの薄さゆえ耳介が内側ハウジングに当たってしまい、長時間の使用で痛みが生じやすくなっている。これは全モデルの中で、ヘッドバンドに超弾性特性の形状記憶合金を採用したATH-AD2000だけにみられる、ちょい残念なポイントだ。また、ウイングサポートにも形状記憶合金を採用したことで、頭を動かすと、ピキピキと軋む音が発生するようになってしまった。気にしなければ気にならないものの、ATH-AD2000だけが背負った悪しき性癖といったところだろうか。

私の場合、ATH-AD1000とATH-AD2000の使用頻度はほぼ半々となっている。その日の気分によって手に取るのが違うという使い分けだが、軽く聞きたい時は自然とATH-AD1000を手にしていることが多い。装着感の軽さと適度な情報量が、気軽なリスニングにちょうどいい感じなのだ。一方で、目的を持って音楽を聴くとき、音楽へ正面を向いて対峙するときは、やはりATH-AD2000を選ぶ。短期集中には側圧もかえって好都合、ねじり鉢巻きのごとく気合が入る心地良さだ。

ATH-AD1000もATH-AD2000も、もちろんATH-AD500も含めATH-ADシリーズは、清潔感のあるサウンドを心地よい装着感で自然に聞かせてくれる安心のシリーズだ。ロングセラーにより品質も安定し値段もこなれ、様々な情報もネット上で見つけることができるだろう。最もお買い得でコストパフォーマンスの優れた安心のモデルとして、今でこそATH-ADシリーズをお見知りおきいただきたいと思う。

text by BARKS編集長 烏丸

●オーディオテクニカATH-AD2000
\84,000(税込)
型式:オープンエアーダイナミック型
ドライバー:φ53mm、OFC-7Nボビン巻きボイスコイル、パーメンジュール磁気回路
周波数特性:5~45,000Hz
インピーダンス:40Ω
出力音圧レベル:102dB/mW(JEITA)
質量(コード除く):250g
プラグ:標準/ミニ金メッキステレオ2ウェイ
コード:3.0m(エラストマー/OFC-6N+OFC)
別売:交換イヤパッド HP-AD2000(税抜¥4,500)

●オーディオテクニカATH-AD1000
\42,000(税込)
型式:オープンエアーダイナミック型
ドライバー:φ53mm、OFC-7Nボビン巻きボイスコイル
周波数特性:5~40,000Hz
最大入力:1,000mW
インピーダンス:40Ω
出力音圧レベル:100dB/mW(JEITA)
質量(コード除く):270g
プラグ:φ6.3mm標準/φ3.5mmミニ 金メッキステレオ2ウェイ
コード:3.0m(片出し) エラストマー/PCOCC

◆ATH-AD2000オフィシャルサイト
◆ATH-AD1000オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
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●PHONON SMB-02(2012-05-28)
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●klipsch Mode M40(2012-03-15)
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◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
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◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
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■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
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◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
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■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
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◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
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