【BARKS編集部レビュー】やっぱりよかった、オーディオテクニカ ATH-WS99

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10月27日、28日に開催されたフジヤエービック主催<秋のヘッドホン祭2012>を境に、様々なブランドから多くの新ヘッドホンが発表され、市場は新製品でにぎわっている。多くの注目モデルがしのぎを削る状況ゆえに、高い資質を湛えながらも不遇にもスポットが当たらぬ商品や、立ちはだかる先入観に阻まれ正当な評価が与えらず、いたずらに時だけが過ぎていくアイテムなど、いつの時代も明暗を分ける様々なドラマが生まれているようだ。

◆オーディオテクニカ ATH-WS99

▲非常に美しいデザインのオーディオテクニカ ATH-WS99。53mmの大型ドライバーが搭載されているが、ハウジングは耳乗せの大きさ。

▲ハウジングはスイーベル(首振り)機構で約100度回転するので、持ち運びの際は薄くできる。折りたたみの機構は有していない。

▲頭の大きさや形状で装着感は変わるものの、一般的なものと比較すると側圧は強からず弱からずの絶妙な具合。

▲ふかふかのイヤパッドを外すと、削り出しのアルミハウジングのセットされた53mmドライバーユニットがお目見えする。

今回紹介するのは、オーディオテクニカの新製品ATH-WS99である。同時に発売となったATH-WS77は既存ラインアップATH-WS70の後継モデルだが、このATH-WS99は新設計のニューモデルだ。SOLID BASSシリーズの最上位モデルとして、ドライバーもハウジングも一回り大きくなって新たに登場したものとなる。

ゼンハイザー MOMENTUMやソニー MDR-1R、オーディオテクニカ ATH-ESW11LTDといった、ポータブルにも対応した高級密閉型ヘッドホンに注目と話題が集まる中、何やらATH-WS99にはなかなかスポットが当たらない。「おーい、こちらをお忘れではございませんかー」と、ご注目頂きたくご紹介する次第だ。ちなみにオーディオテクニカに頼まれたわけでもなければ、誰かにそそのかされたものでもなく、100%私の自由意思による執筆なので、いつものように終始独断と偏見にまみれていることだけは予めご理解いただければ幸いだ。

最初にATH-WS99を知ったのは10月16日に行なわれたオーディオテクニカの新製品発表会の会場だった。一通り全アイテムの音を確かめたが、その時にグッとキタのがATH-CKS1000、ATH-AD500X~ATH-AD2000X、そしてこのATH-WS99だった。会場内は非常に騒がしく、いくらボリュームを上げたところで雑然とした会場ではデリケートな特性部分はマスキングされてしまい、細かい音傾向はさっぱりわからない。それでも、ATH-WS99のきらりと光る筋の良さと、十分に魅力的なサウンドであることは伝わってきたわけで、私はひそかに発売を楽しみに待っていた。ちなみにこの会場では当然のようにATH-ESW11LTDが多くの注目を集めていた。でも私は、残念ながらあの騒がしい環境下では、ATH-ESW11LTDの柔らかめのサウンドの魅力はつかみきれず、それよりもメリハリがあり引き締まったトーンながら非常に低い帯域までを余裕で叩き出すATH-WS99の元気あふれるサウンドが、とても好印象に聞こえてしまったのだ。

発売を迎え、新品の箱を開封し十分に聞き込んで感想がぶれなくなるまで使い倒した今、ATH-WS99は、非常に濃密でリッチなトーンを持ち、密閉型で重たく絡みつくような心地よい音色を放っている。「爽やか」の対極で「みちみちでアブラギッシュ」な音とでもいうべきか。アブラギッシュとはあまりいい表現ではないけれど、胸焼けするようなしつこさはなく、オリーブオイルのようなさらっとしたヘルシーさを持った粘りと濃厚さだ。それでいて、キレが良くないと成立しそうもない自然な定位と適度な心地よい広さも確保されているから、ここはちょっとばかり不思議な感覚でもある。

とはいえ、このバランスに落ち着くまでは随分と時間がかかったのも事実。箱から開けたばかりの時は、曇りこそないものの高域が抜け切れず眠たい感じがあり、低域は量は十分なれど締まりが足らずにフォーカスが甘い印象が強かった。これは発表会で聴いたはつらつとした印象とはずいぶんギャップがあるもので、最初は「うわ、やっちまったか」とうなだれたのも本音。こりゃ、店頭の試聴機のコンディションによっては、ずいぶんと理不尽な評価を受けてしまうのではないか。「ま、別に普通かな…」という第一印象のままバッサリ切り捨てられる様子が目に浮かぶ。

ATH-WS99のサウンドのバランスは、最も強い帯域が中低域、控えめなのが高域ということになるだろうが、マスキングされやすいモバイル環境での使用を考慮すると、これくらいのトーンバランスはむしろ標準バランスで、決して低域が出過ぎたサウンドではないと思う。SOLID BASSというシリーズを冠しているだけに、べらぼうな重低音を期待して耳にすると、Beats by Dr.Dreの方が低域は凄いだの、何々よりも沈み込みが足りないだの、ネガティブな意見を誘発しそうで怖い。実のところ、いたずらに低域偏重の個性を演出するような設計はされていないところが美点であり、あくまで屋外使用時に全帯域においてどこにも不足を感じさせないように十分なバッファーを持って設計した「本格的なモバイルアイテムとして完成させたもの」ととらえると、ATH-WS99の神髄が見えてくる。SOLID BASSなんてシリーズでくくらない方がいいと思うのだけど…。

仕事柄、ライブハウスからスタジアムまで週に2~3回のペースで様々なアーティストのライブに行っているけれど、今さらながらそのサウンドで感じるのは、会場を襲う低域の圧倒的な支配力とそのパワフルさだ。生音を再現することが究極のオーディオの姿とするならば、一般的にフラットと言われているヘッドホン/イヤホンの低域はあまりに弱すぎる。開放型であればGRADO PS1000、カナル型であればアトミックフロイドのスーパーダーツ、カスタムIEMで言えばHeir Audio 8.Aくらいの低域はデフォルトであっていいと私は思う。ライブで聴くPAからの低域は身体で感じる要素も強いので一概に比較はできないものの、生バンドだって低域の音圧は全体のアンサンブルの相当量を占めている。そういう意味では、ATH-WS99のバランスは、熟成された温かみと濃厚さを持った適度にパワフルなサウンドとして、ひとつの完成系にもみえてくる。

ATH-WS99は絶妙な側圧を持ち、装着感は良好だ。前作ATH-WS70よりは明らかに側圧は弱まっているが、遮音性はぎりぎりのところで確保されている点がいい。私は、耳の上に乗るオンイヤータイプはすぐに耳介に痛みが生じるので基本的に敬遠しているのだけれど、ATH-WS99に関しては不思議と痛みがあまり生じず、4~5時間程度つけっぱなしでいられるという奇跡のロングライフを誇る。イヤーパッドは微妙なサイズだけど、非常に柔らかくふんわりと耳を覆ってくれる深さがいいのかもしれない。

▲左がオーディオテクニカ ATH-WS99、右がPHONON SMB-02。ハウジングのサイズや大きさがちょうど同じくらい。

▲大きなケースの中に同梱しているのは、0.8mの延長ケーブルと同じく0.8mのマイク&コントローラー付の延長ケーブル、保証書。本体部分のケーブル長は0.4mだ。

何かと比較してみたいと思ったが、ちょい低域強めながら非常にバランスが取れたサウンドと言えば、手持ちの中ではPHONON SMB-02と似ているところがある。実売で1万円以上の価格差があるだけにサウンドクオリティはSMB-02の圧勝だが、スタジオユースを念頭に置いたSMB-02と比較すると、遮音性や装着感などモバイル環境での使い心地はさすがにATH-WS99のほうが俄然うわてだ。ちなみにATH-WS99からさらに1万円ほどの価格差をもってATH-WS77が最安値9,000円程度(2012年11月現在実勢価格)で存在しているが、やはりATH-WS77とATH-WS99の間にも歴然とした音質の違いがある。この2機種間は好みで選ぶものではなく、ATH-WS99があらゆる点でATH-WS77を上回る上位互換にあると思う。いつかは買い替えを…と羨望を抱きながらATH-WS77を購入するもよし、お小遣いを貯めて一気にATH-WS99を手にするもよし。家でも外でも安心して高音質を楽しめる剛性の高いヘッドホンとして、ひとつお見知りおきを。

text by BARKS編集長 烏丸

●オーディオテクニカ ATH-WS99
25,200円(税込)
・型式:密閉ダイナミック型
・ドライバー:φ53mm
・出力音圧レベル:102dB/mW
・再生周波数帯域:8~25,000Hz
・最大入力:1,000mW
・インピーダンス:37Ω
・質量(コード除く):250g
・プラグ:φ3.5mm金メッキステレオミニ
・コード:0.4m
スマートフォン用マイク
・型式:コンデンサー型
・指向特性:全指向性
・感度:-40dB(0dB=1V/Pa,1kHz)
・周波数特性:50~16,000Hz
付属品
・0.8m延長コード(L型)、0.8mスマートフォン用マイク付き延長コード(L型)

◆ATH-WS99オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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