【BARKS編集部レビュー】使い込むほどに魅力がにじみ出るカスタムIEM、Stage93 Stage 6に死角なし

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「カスタムIEM(カスタムイヤホン)が欲しいんだけど、何がいいかな」…そんな相談を受けることが最近とみに増えてきた。ヘッドホン市場の活性化と円高の影響もあってか、カスタムイヤホンの需要が急速に広がっていることを肌で感じるシーンだが、そこでは「今何を使ってんの?」「それのどこが好き?」と好みの傾向を推し測りながら、最適なお薦めモデルを自分なりに探ることになる。

◆Stage93 Stage 6画像

そんな会話を繰り返すことで、逆に自分自身で気付かされることもある。会話の中で「…×××だけど、ね」と、ネガティブワードが必ずおまけのようについてくるのだ。自分の好み自体も揺れ動き、体調によっても音の印象は驚くほど変化することを実感しているので、「常にパーフェクトというアイテムは存在し得ない」という思いがある。万全を期してお薦めするにしても、どこかに生じるその隙が気になって、念押しするようにダメなところを顕在化させてしまうわけだ。

「低域強めの高音質?ならHeir Audio 8.Aで決まりでしょ。うっとおしいほど濃いけど」
「メリハリのあるパワフルな音がいいけど金欠?ならLEAR LCM-2Bだね。ケーブルにクセが付くけど」
「きれいな高域が欲しいならUnique Melody MAGEでいいんじゃない?低域は弱いけど」
「好バランスと高解像度?FitEar MH335DWがいいんじゃないかな。面白みに欠けるけど」

▲シンガポールのカスタムIEMブランドStage93の、最上位フラッグシップモデルStage 6。6ドライバーモデルで、ロー×2、ミッド×2、ハイ×2の3ウェイ。購入時はケーブルは付属していないので、デファクト・スタンダードと言えるWestoneのケーブルを使用して試聴した。

▲透明度も高く、シェルの美しさはトップクラス。そしてそのフィット性、サウンド共に非常に高い完成度にびっくり。

こんな調子なのである。そして、いろんなカスタムIEMを聴き「あれもいい、これもいい」と言いながら、未だ自分は何を望んでいるんだ?と、自問自答をしてみたりもする。最近の私の求める方向性は、超低域から超高域まで目の覚めるようなクリアさを持つちょいドンシャリ風フラットなノリノリのリスニング系なのだけど、言い方を変えれば以下のような感じでもある。

「FitEar MH334にもっとエロさを」
「Unique Melody MAGEにもっと低音を」
「UE 18 PROにヌケと明るさを」
「カナルワークスCW-L51にねちっこさを」
「Heir Audio 8.Aに冷静さを」

アプローチはたくさんあるのだが、要は「…×××だけど、ね」がすっきり解決した状態を妄想しているだけなのかもしれない。そんな心持ちの私が、ここにきて「先輩!こ、これはビンゴっす!」とテンション瞬間沸騰になったのが、Stage93のフラッグシップStage 6であった。低域も中域も高域もしっかり出て高解像度、モニターチックな冷徹さはなくノリノリで音楽に対して前のめりになっていくような親しみやすさがあるサウンドなのだ。

きちんと音源の品質を上げると、それに追従して鮮やかで素晴らしい音を聞かせてくれるという点で、私はUnique MelodyのMAGEを高く評価しているのだけれど、例えばAstell&Kern AK100で再生したMAGEに物足りなさを感じる低域をしっかりと補強し、中域の厚さもちょっぴり加味したというのが、Stage 6の持つトーンバランスだ。ね?理想でしょ?

一方でそのサウンドは、私のフェイバリットのひとつHeir Audio 8.Aの、そのあまりに暑苦しいサウンドをちょっとクールダウンさせたサウンドにも聞こえる。これがまた絶妙においしいポイントで、むしろこちらの方が一般的に支持を得るサウンドなのではないかと思わせるものだ。私にとってHeir Audio 8.Aのサウンドは、ヘッドホンで言えばGRADO PS1000のサウンドをカスタムIEM化させたものという位置付けなのだけど、そういう意味ではStage93 Stage 6のサウンドは、GRADO RS1iをカスタムIEM化させた位置付けにすっぽり収まってくる。こんなおいしいサウンド、他にはないやろー。

Stage 6の低域はどっしりしており非常に深く、その上妙に低域の音場が広い。その音場のせいか、これだけ量感があるのに中高域をマスクせず、中域の滑らかさが秀でている。ちょっとドンシャリ系かもしれないバランスにありながら、むしろ前面に押し出される中域の表現力の豊かさが、モニター調ではなく生々しく肉感的なリスニング向けに聞こえる最大の要因ではないかと思う。私は、UE 5 ProやThousand Sound TS842といった2ドライバーのドンシャリ系ノリノリ・サウンドも大好きなのだけど、往々にして中域は淡白なものとなる。その中域をエネルギッシュに改善させたら、Stage 6のサウンドになるような気がする。

▲左からStage93 Stage 6、Heir Audio 8.A、Unique Melody MAGE。8.AもMAGEも大好きなモデルだが、8.Aをもう少し淡泊&上品に、MAGEに力強さを加えると、Stage 6になるイメージだ。

▲左からStage93 Stage 6、UE 5 Pro、Thousand Sound TS842。5 Proはスタンダードな2ドライバー、TS842はハイブリッドだが、どちらもメリハリがあり2ドライバーらしいタイトさがある。これらにミッドの表現力を注入すると、パワフルなまま広帯域なリスニング機の Stage 6サウンドが出来上がる感覚。

▲付属品はキャリングケースにクリーニングツール、カードのみ。写っているWestoneケーブルは別途自分で用意したもので、ここには付属しない。

Stage 6は3ウェイ6ドライバーの構成で、ロー、ミッド、ハイにそれぞれタンデムで2基ずつドライバーを搭載している。見る限り、ローとミッドは同じドライバーが用いられているようで、6つもドライバーが積まれているものの使用ドライバーは2種類しかない。Heir Audio 8.Aも8ドライバーとはいえ2種類しか用いられていないが、整合性のとれた心地よいサウンドとは関連性はあるのだろうか…。

Stage 6には不得意とする死角がなく、長く使えば使い程じわじわとありがたみと底深さが伝わってくるスルメのようなモデルだ。聴き込み始めて3週間ほど経過したところだが、日を重ねるごとに印象が良くなっていくのが何より嬉しい。カスタムIEMの場合、そのフィット感の良し悪しがサウンド評価や遮音性はもちろん、総合評価に大きな影響を及ぼすものだが、このStage93は、シェルのフィット感も完璧だった。インプレッション(耳型)は1インチほどの高さのバイトブロックを噛んだ状態で採取したものだ。

フィット感は所有カスタムIEMの中でもトップクラスの使用感で、シェル全体がみちっと均一に密着する。きっちりと遮音されるが、何時間つけっぱなしでも痛みは発生しないという、まさに理想的な状態だ。少しでも余裕があると遮音性が落ち歩行ノイズが乗り、少しでも大きすぎると時間とともに痛みが出始めるものだが、このStage93の使い心地の良さは、その日の気分を最高にアゲてくれる。シェル自体も非常にきれいで、透明度高く気泡なども一切見当たらない。ソケットは埋め込み式ではないが、ケーブルの保持力も高く、ストレスはゼロだ。

褒めっぱなしとなってしまったが、では「…×××だけど、ね」というネガティブポイントはないのか? いや、もちろん残念ながら、ある。ケーブルが付属しないので、自分で別途ケーブルを用意しなくてはいけないのだ。サイト上では、99.999%シルバーを用いた自社オリジナル・ケーブルの93SPEC - Premium Silver Cablesを筆頭にいくつかの購入選択肢が設けられているものの、全て別料金なので注意が必要だ。もちろんここでケーブルを購入しなければ、到着するのはケーブルなしの本体とクリーニングブラシに小さなキャリングケースだけという質素なものとなる。「どうせ好みのケーブルに交換するから、逆に好都合」という猛者もいることだろうが、初めてカスタムIEMを購入する人にとっては敷居は高く、総計が思わず高額になってしまうことも考えられる。また送料も別途加算されるので、予算には余裕が欲しいところだ。

Stage 6は1139シンガポールドルなので、1S$≒68円とすると77000円程度となかなかの金額になる。そこにケーブル費用が加算されると眩いハイエンド価格となってしまうが、私はその金額を持ってしても満足度の高いサウンドが手に入った充足感でいっぱいだ。

なお、Stage93は2011年4月に設立されたシンガポールのメーカーで、カスタムIEMブランドとしては比較的新しいブランドとなるが、その歴史を紐解くと個人プロジェクトとしてスタートした1993年にまでさかのぼるという。Stage93というブランド名は、最初の一歩を踏み出した記念すべき年を刻んだものだ。現時点で93-Trio(S$586)、93-Quads(S$768)、Stage 6(S$1139)という3モデルがあり、クリアでバランスのとれた3ドライバー、UE 11 proを彷彿とさせる4ドライバー、そして真のオーディオファンへ向けたというフラッグシップの6ドライバーというラインナップとなっている。Stage 6の完成度をみると、93-Trioと93-Quadsのコストパフォーマンスの良さは、群を抜いているかも。機会を見て93-Trioと93-Quadsにも突撃したいところだ。更なる幸せがそこに待ち構えているような気がするんだよなぁ。

text by BARKS編集長 烏丸

●Stage93 Stage 6
1139シンガポールドル
・Freq Response:20Hz - 20,000Hz
・Integrated 3-way crossover
・Sensitivty:119dB
・Impedence:19.8Ohms
・Noise Isolation:-26dB
・付属品:Clamshell Case、クリーニングブラシ
・30日以内リフィット対応、1年保証

◆Stage93 Stage 6オフィシャルサイト
◆Stage93オーダーフォーム


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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