【BARKS編集部レビュー】フィリップスが放つフラッグシップ・ヘッドホン、Fidelio L1が濃い

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「フィリップスって、あの電気シェーバーの?」という認識も致し方ないけれど、もともとフィリップスは、医療機器や半導体、音響・映像分野で高い技術力を持つ会社でもある。カセットテープやレーザーディスク、CDの開発の比肩を担った音響のパイオニアでもあり、光学式ビデオディスクの規格提唱者として技術革新を推進させた比類なき企業だ。

◆Philips Fidelio L1画像

▲2012年10月に登場したフィリップスのハイエンド半開放型ヘッドホンL1。Fidelioシリーズとして登場、妥協なき完成度で登場してきた高級ヘッドホンだ。

▲▼ハウジングは90度回転するスイーベル機能付。もちろん個人差はあることだが、私の場合ちょうど耳全体をすっぽりと覆ってくれるギリギリの大きさで、使用感は非常に良い。耳への負担もなく痛みや不快感はほとんど生じない。イヤーパッドももちもちふかふかで心地よい。

▲ケーブルは10cm程度しかなく、そこに付属のケーブルを接続する。付属ケーブルはリモコン&マイク付きのものとノーマルケーブルが付属、いずれも110cm。

▲リモコン部分。iPhone/iPod/iPadに対応したインラインリモコン(再生、一時停止、曲の先送り、ボリュームコントロール)と、着用したまま通話が可能なマイク機能を搭載している。

▲しっかりとしたマットな紙質のボックスに、ケーブル2本、収納袋が付属する。

オーディオ事業で50年の歴史を持つそんなフィリップスが、本気印で立ち上げた音響ブランドがFidelio(フィデリオ)で、フィリップスのフラッグシップ・ヘッドホンとして満を持して2012年10月より発売となったのが、このFidelio L1である。

こと低価格帯でのカナル型イヤホンでの絶大な人気と、抜群のコストパフォーマンスで他ブランドを圧倒する実力を思いはかれば、フィリップスが本気でハイエンドヘッドホンを作ったらどんなサウンドが飛び出すんだ?と興味は尽きない。フィリップス・ブランドの旗艦モデルのサウンドは、どのようなものか、Fidelio L1のサウンドを紐解くべく愛用し始めて、約1ヵ月が経過した。

それなりの長時間を使ってきたが、未だサウンドは成長過程にあるようで、少しずつクリアさが増してきている。どんどん音が良くなっていく感覚の喜びもさることながら、何よりうれしくそして楽しいのは、他のどのヘッドホンにも似ていない個性派であるというところだ。

一言で簡単に言ってしまえば、Fidelio L1はかなりヘビーで図太い音がする。音が重く、特に最初の数十時間は抜け切らずに低域がハウジングにまとわりつくような濃密さが非常に個性的だ。ただしこの状態が数十時間は続くので、この状態のサウンドを店頭で試聴したとしても、Fidelio L1の本当の実力は発揮されていない。

基本的な構造はセミオープン型(半開放型)なれど、密閉型の特性もそこはかとなく持ち合わしているのが最大の特徴で、「開放型の優れた特性を積極的に取り込んだ密閉型ヘッドホン」と捉えると、Fidelio L1の個性を理解しやすい。密度が濃くなめまわすようにぶん回す低域の質感は、密閉型の持つ最大の色気だと思うが、そこに音の広がりと自然な抜けを感じさせてくれる半開放型の構造が功を奏し、息苦しい閉塞感を解消しているようにみえる。ともすれば中途半端になってしまいそうな設計コンセプトだが、各構造の美味しいところをうまく拾い出し、非常にデリケートにブレンドすることに成功したのが最大の勝因であろうか。あまたあるヘッドホンとの性能合戦において、他の何にも似ていない個性を身にまとうことは、そんなに簡単なことではないだろう。50年の歴史という重みは、こういうところに表れるというものか。

Fidelio L1の圧力のある低域の質感は、密閉型の特徴がうまく取り込まれたもの。実際低域の量も多いが、沈み込むような重みは角の丸いトーンから生まれるもので、粘り腰のサウンドを聞かせてくれる。50Hzあたりまでしっかりと再生しながら80Hzあたりに重点がある点が、粘度の高さを感じさせながら、ぼやけさせないポイントだ。

無難なフラット特性でもないし、女性ボーカルが心地よく響く高域が抜けまくるような爽やかサウンドでもない。しかしながら極悪ハイゲインギターサウンドや脳ミソをかき回すようなド派手なEDMを再生させると、他を寄せ付けない心地よさでぶいぶいとドライブしてくれる。スリップノットやパンテラのようなウルトラハイゲインのサウンドから、スクリレックスのような激烈な極悪振動を、身体ごと揺さぶってくれるような臨場感の心地よさは、他のどのヘッドホンをもってしてもなかなか体験させてくれないところ。こんなガッツあふれるヘッドホンをわざわざ開発するなんて、設計者のセンス、盛大に炸裂してます。深夜のクラブで酩酊しながら聞く極悪大サウンドをそのまま再現するのも、Fidelio L1ならお手の物だろう。

中域の厚さも特筆だ。800Hzくらいのぶっとさがえげつないほど心地よく、ギターサウンドの鳴りで言えば、アルテックでもJBLでもなくセレッション・グリーンバックが放つような、ハイファイではないのにひたすら心地よいトーンと同じ匂いがする。んー、どうにも上手い例えが浮かばないけれど、実はギターアンプで言えばドンズバのイメージがあって、GRADOがビンテージ・マーシャル、ゼンハイザーが往年のフェンダー系、オーディオテクニカのATH-A2000XなどはジャズコーラスJC-120ドンズバとするならば、Fidelio L1のサウンドは、VOX AC30に真正面から符合するんだよなぁ。伝わらんなぁ…。AC30のサウンドは、クイーン(のブライアン・メイ)やU2(のジ・エッジ)の音なんだけど。

ちなみに、デザイン、質感、装着感も素晴らしい。可動部分はアルミが使われ軽量ながら堅牢性も十分、本革が使われたヘッドバンドのフィット感も上々で痛みや不安定さなど特にマイナス面は見受けられない。イヤーパッドも私の場合は耳介(耳殻)全体がギリギリすっぽり覆われるので、みちっと密着し痛みや不快感が発生しない。イヤーパッド自体はもふもふの柔らかさで赤ちゃんのほっぺのような気持ちよさだ。側圧も標準的。ただし、この装着感はまるで密閉型で遮音を求めるときの装着感で、夏場は暑いかもしれない。音漏れや遮音能力はぼちぼちでさほどひどくもないが、自宅以外の使用は控えたほうが無難だろう。

久しぶりにガッツのあるサウンドと出会い気分は上々、あの音楽を聴くからこれを使おうかな、とヘッドホンを選ぶのではなく、Fidelio L1ならば、Out Of Your Mouthを聴こうかなとか、Crucified Barbara、Bullet For My Valentineにいくか、と聴きたい音楽を芋づる式に引き出してくれる個性もある。Tommy heavenly6の「Lollipop Candy BAD girl」なんかも最高にカッコよく鳴らしてくれるんだけどね。

GRADO PS1000などは低音もキレッキレで湿度の低いスピーディーなサウンドだが、Fidelio L1の低域は、まとわりつくサウナの熱風のような重さがある。カリフォルニアヘッドホンのLaredoやクリプシュのImage ONE/Reference One、PHONONのSMB-02なども上質な低域が大盛りで耳に飛んでくるモデルだけど、Fidelio L1の高域がこれらよりも控えめのために、より一層濃厚なバランスに聞こえ、似たバランスで聴かせてくれる他モデルを私は知らない。

ペダルでおつむを直接キックされているようなどっかんサウンドを、上質な音場で楽しませてくれる、そこに「楽しそう!」と感じる人であれば、Fidelio L1は中毒性の高いヤバい相棒になると思う。

text by BARKS編集長 烏丸

●PHILIPS Fidelio L1
オープン価格(市場平均価格28,000円前後)
タイプ:オーバーヘッド、セミオープン(半密閉)、ダイナミック型
ケーブル長:1.1m
接続端子:3.5mmステレオ、金メッキ
再生周波数帯域:12~25,000Hz
インピーダンス:26Ω
感度:105dB
スピーカー径:40mm
最大入力:200mW
本体質量:364g
本体色:ブラック
付属品:iPhone/iPod/iPad用リモート付きオーディオケーブル、携帯ケース

◆Fidelio L1オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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