【BARKS編集部レビュー】カスタムIEMの魅力を最安価で体験、LEAR LCM-1F

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LEARのカスタムIEMに関しては、これまでにパワフルでタイトなロック向けサウンドを叩き出す一番人気のLCM-2B(2ドライバー搭載のベース強化タイプ)とLCM-5(5ドライバー搭載のフラッグシップ)の2モデルをご紹介してきたけれど、ことあるごとに触れてきたのは、LCM-1F(1ドライバー搭載のフラットタイプ)の素性の良さだった。試聴機の音を耳にして「なんだこれ、一番安いモデルなのにバランスと音の良さにビックリ!」と率直に感銘を受けたからだ。

◆LEAR LCM-1F画像

▲LEARの中でも最も安価な1ドライバー搭載のLCM-1F。

▲このシェルのカラーはオレンジ。フェイスプレートには天然ウッドを指定。

▲シェルの美しさは、モデルのランクとは関係なし。

▲最短の導管でつながっているドライバー。シェル内で空に浮いている状態。

▲ウッドプレートの上に電気メッキによるメタリックなロゴが刻印されている。

▲付属品はアルミのボックスにキャリングケース、クリーニングツール、布、取説。

あれから1ヵ月。自分の耳型に合わせて作られたLCM-1Fは、試聴機で受けた好印象を裏切ることなくそのままの完成度で手元に到着した。期待通りの大満足。庶民ゆえに何より安いという事実がさらにその喜びを倍増させてしまう。「使い倒しまくって愛用しちゃうぞ」というハイテンションモードの加速が止まらない。

LCM-1Fは、LEARの全10機種に及ぶラインナップの中でも最安価モデルである。ドライバーがたったひとつ入っているだけという最もシンプルでベーシックな最下位モデルで、特に力説できるようなスペックを有しているわけでもないし、興味をそそるようなストーリーを持っているわけでもない。レビューするにも、ま、特に特筆することはないのですが…という書き出しになってしまう。

使われているバランスド・アーマチュア・ドライバーは、ED(Knowles製 ED29689)という極めてスタンダードなもので、1ドライバーのフルレンジ・バランスド・アーマチュア搭載モデルとして、多くのモデルが使用している安定のスペックだ。最も代表的なものとしては、エティモティック・リサーチのER-4が、まさしくこのED29689を搭載し高い評価を獲得している筆頭と言えるだろうか。

同じドライバーを使用したとしても、抵抗を含めた電気回路の違いや音導孔の長さ/太さなど、設計と製作によってサウンドに大きな違いが出てくるところがイヤホンの奥深いところで、LCM-1Fのサウンドは、ER-4系のもつ切れ味鋭いシャープさとは違い、全域のバランスの良さに秀でている。低域の量と高域の量のバランスは極めて標準的で、中域も特にでしゃばることもなく、適切な量感で心地よいボーカルを聞かせてくれる。安価なイヤホンにありがちな膜を張ったような抜け切れない気持ち悪さもないし、一部の音域のピークにストレスを感じさせるようなお行儀の悪さもない。

突き抜けた高域の表現力はER-4Sに譲るものの、低域の厚さと安定したキックとベースの描画力は圧倒的にLCM-1Fの方が優れており、万人に受け入れられる懐の深さを持っていると思われる。マルチドライバーを誇るフラッグシップLCM-5とシビアに比較すると、あらゆる点で見劣り(聴劣り?)してしまうのは否めないものの、単体に聞いている限りは不満を生じることもないだろう。あらゆる点でバランスが良く、破綻している点や際立って残念な点が見当たらないからだ。

LCM-5と比べて気付かされる最も顕著な短所は「重厚さが薄く音の密度に厚みがない」ところだが、逆に裏を返せば「サクサクとした軽快さがいい」とも言い換えることができる。このあたりは、好みや解釈によって、スペックや価格の壁をあっさりと乗り越えてしまう好例のひとつ。もちろん、どうあがいても克服できない点もある。例えば、超低域の再生力だ。60Hzあたりまで低くなるとドライバーの能力を超えるのか、がくんと聞こえなくなってしまう。ただし、このような帯域が楽曲表現において重要なポイントを担うのかと言えば、一般的な音楽においてはまず関係ないといってよさそうだ。一般的なポップス~ロックにおいて低音域を担うのはキックとベースだが、音程感を感じさせてくれる音域もアタックを伝える音域も、80Hz以上から倍音を含めた数Khzにまでわたっており、低音と思わせるサウンド処理は100Hz~200Hzで表現されていたりするからだ。

現在手元にあるカナル型イヤホンの中では、LCM-1Fに勝るとも劣らない心地よいバランスを聞かせてくれる好モデルにHippo ProOneがあるが、LCM-1Fのアドバンテージは、自分の耳に完全フィットした遮音性と装着感の完璧さにある。いわゆるカスタムじゃないと得られない使用感というものだ。補聴器を扱っているようなところでインプレッション(耳型)を採取したり、それを製作ラボまで郵送したりと、手間も時間もかかる面倒臭さは避けられないが、それを強いてなお得られるカスタムの抜群の使い心地こそ、是非経験いただきたいと思う。

LCM-1Fの価格は標準仕様で32,800円。初カスタムにチャレンジするのにちょうどいい価格帯だ。「カスタムって、最少スペックでもこんな音がするのか」と感動できる、万人にお薦めしたい筆頭モデルなのだ。

text by BARKS編集長 烏丸

◆LEAR LCM-1Fオフィシャルサイト
◆LEARオフィシャルサイト
◆ヘッドホンチャンネル
◆カスタムイヤホン(CUSTOM IEM)専門チャンネル

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◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
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◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
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■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
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