【佐伯 明の音漬日記】ポルノグラフィティ新作全曲Review

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2006.11.△

ポルノグラフィティのNEW Albumを熟聴する。
かなり長めの(ほぼ完全な)Reviewを書いてみました。

現在のポルノグラフィティはデビューからおよそ6年半の間活動して
生んできた定型軌道から外れて、新たな軌道へと歩を進めているといっていい。

その音楽的内実をひと言で表すならば“シンプル&王道”ということになろうが、
安易なシンプルさを遠ざけてきたポルノグラフィティだからこその簡潔性は、
僕の耳に「よく考えられたシンプルさ」を提示しているかのようにも思える。
そんな現在の彼らを指し示すニュー・アルバムが完成した。

タイトルを『m-CABI』という。

おそらくはMUSIC CABINETを彼ら流に約した造語であろう。
キャビネットとは、飾り棚、飾りだんすであるから、
貴重品などを収め陳列するタンスのことである。
大切な本を陳列したり、陶器やグラス、置物などを陳列したりする。

今回は初回生産限定盤がCD2枚組、通常限定盤が1枚となる。

ちなみに、初回限定盤の方には、「NaNaNa サマーガール」の向こうを張った
「NaNaNa ウィンターガール」が収録される。そして、DISC-1に収められた17曲中には
「m-NAVI」と呼ばれる短めの(基本)インスト・ナンバーが4曲ちりばめられている。
言うなれば、何曲か曲が進んだところで、一種の場面転換をはかるように使われており、
彼らの遊び心と同時に、音楽的な柔軟さを伺い知れるものになっているのである。
それでは早速、『m-CABI』という音楽陳列棚を体験してみよう。


トラック1は前述した「m-NAVI」の1。「m-NAVI 1 “Ride on!! Blue vehicle!”」(曲は昭仁)は、
少女が「OK? MUSIC CABINET」と言うと、エレクトリック・ギターのワンコードが、
スピーカの左右を踊るように鳴り、薄いシンセ音が頭上を舞う。
そして、イグニッション・キーがひねられ、エンジンに点火される音が響き渡ると
「ハネウマライダー」へと引き継がれていく。

「ライヴにおいて、まだ本性を現していない」(by 昭仁)と言わしめるこの曲は、
リリースされた時にはわからなかったけれど、
ポルノグラフィティにとって事実上の
“変化への開幕”を示すものとなったことは、ほぼ間違いない。

「うしろを振り向かない」という意思表示を、
肩ひじ張らずに聴かせてみせたナンバーなのだろう。
軽快なドラムスのフィルからスタートするトラック3は昭仁:詞曲による「BLUE SKY」。
ソウルフルな8ビートにハモンド・オルガン、
そしてうろこ雲のように薄く何層も重なるストリングス。
アナログ・シンセ的な鍵盤のソロが、聴く者の心を、何か期待のようなものでかき乱すだろう。

詞が晴一、曲をak.hommaによるトラック4の「BLUE SNOW」は、ポルノお得意のサーフ&スノウ・ナンバー。
何気ない日常に点在するサプライズとドキドキを描写したリリックに呼応するように、
サックスのソロが胸のときめきをきらびやかなものにしていくのである。

トラック5は「m-NAVI 2 “Keep on having fun with the MUSIC CABINET”」(曲:昭仁)であり、
シンセのループにアコースティック・ギターのリフがかぶさってくる25秒の曲。
そして、必殺のミドル・バラッド「Winding Road」が響き渡る。

無駄な音は一切ない、しかしながら必要なものは十全にあるこの曲にとって、
「何が必要な音か?」と言えば、過去に残されたたくさんの名曲が
付帯していたものだと言えるだろう。名曲たちが持っていた音を注意深く聴き、
消化し、厳選して作った楽曲が「Winding Road」なのだと思う。
この“消化し、厳選する”行為に関して
ポルノグラフィティは、格段にタフになった気がする。

そして続く「休日」(詞:昭仁、曲:ak.homma)は、
「Winding Road」の重厚感とは真逆の軽快なミドルナンバー。
ピアノもストリングスも出しゃばらずに歌を支えるこの曲の間奏には、
アコースティック・ギターのソロが現れる。

トラック8は、解き放たれた気分を高めていくナンバー「NaNaNa サマーガール」。
トーキング・モジュレータを使ったイントロのギターが
レトロで熱い夏をよみがえらせるようだ。
質実でタイトな8ビートにも一抹の懐かしさがあると感じるのは、
果たして僕だけだろうか。
血流速度が上がって来たところで放たれるトラック9は、
晴一:詞曲による「DON’T CALL ME CRAZY」。
はち切れそうなディストーション・ギターと
スピード感を生むハモンド・オルガンのリフが、
暗く燃える楽曲の感触を生んでいく。

転調したサビは、鬱屈した感情を一気に反転させるような効果を見せ、
こうしたタイプの楽曲を書くと、晴一は持てるスキルを高次元で放出するのだなと感心した次第。
最後のサビが出てくる前のロマンティックに燃焼するギター・ソロも必聴だ。

そしてトラック10の「ジョバイロ」(詞:晴一、曲:ak.homma)は、
本作に収録された楽曲の中で、「NaNaNa サマーガール」に次いで
“発表されてからの時間を吸った”ナンバーだ。
今、改めて味わってみると、フィドル(ヴァイオリン)の音が
やはり晩秋にピッタリだと思われる。

晴一&hommaのラティーノ系楽曲は、こうした“胸のささくれ”を
哀愁で焼き焦がすようなものになることが多い。
トラック11「m-NAVI3 “Ready? Silvia,Geronimo,and Lily?”」は、
「m-NAVI 1」で聴けたギターのアタック音が登場し、さらに詞を晴一がつけ、
昭仁が歌っているのだが、リリック(歌詞)がシュールにして可笑しい。
曲は途中から半ば強引な“三連”になり、シュールさを倍加させていく。
これは、機転が利くポルノグラフィティを
はっきり感じさせる曲になっていると言っていいだろう。

トラック12「月明かりのシルビア」は、テレコのボタンを押す音からスタートする楽曲で、
何となくスタジオ・ライヴを演っているような音像を持ち合わせている。
トラック13は詞曲とも昭仁による「Mr. ジェロニモ」。
低音弦のエレクトリック・ギターのリフが基調になり、
ホーン・セクションも絡んでくるsexy&toughな楽曲だ。

昭仁のシャウトがピーク=上限値をさらに上げていく。
イントロで聞けるエレクトリック・シタールの音が叙情性を醸し出す
「横浜リリー」のリリックは晴一(曲は ak.homma)だ。
ストーリー・テリングの上手い晴一がこの曲で切り取ったのは、
港町の女性が過去に辿った悲しい恋の行方である。

トラック15「m-NAVI 4 “Let’s enjoy till the end”」は、
音の成分を変えながら英詞で歌われる短い楽曲。
歌詞に顔文字が入っているところもおもしろい。

ピアノとストリングスが緻密に絡む「ライン」は詞:晴一、曲:昭仁による
“深いムード”を携えたナンバー。9月に行なったインタヴューにおいて、
晴一は“自分たちの楽曲の中のストリングスの特徴”について語っていたのだが、

「ライン」で聴けるギターとストリングスの共立は、
進化したポルノの明確な到達点であるような気がする。
したがって、個人的に「ライン」がアルバム全曲中で最も好きな曲である。

そしてDISC-1の最終トラックは詞曲とも晴一による「グラヴィティ」。
アコースティック・ギターのメロディック・タイプ・オブ・リフを骨格にする
「グラヴィティ」は、流れゆく日常の一瞬が、芸術的な一瞬に生まれ変わる局面を、
恋愛感情をモチーフにして描いてみせたナンバーだ。

楽曲内主人公を女性にした、いわゆる女歌で、揺れそうでいて揺れない
大切な感情を見事に音楽にしている。

マーチング・ワルツになったエンディングは無限ループを描くように、
つまりは本作『m-CABI』のリプレイを促すように終わるのだった。

さて、初回限定盤のみに収録された「NaNaNa ウィンターガール」にも
耳を傾けてみよう。タイトルからもわかるように「NaNaNa サマーガール」で登場した
女性が時を経てレディになった様を描いており、アレンジはかつて“Wall of Sound”の
主と形容されたフィル・スペクター、あるいは大瀧詠一の音構築を彷彿とさせる。

このように『m-CABI』はシングル楽曲を一つの物語軸に沿って再編し、
さらに昨年から今年にかけて進化のための殻を脱いだポルノグラフィティの
現在形を余すところなく封じ込めた重量級のアルバムだと断言できる。

彼らが音楽に向けた情熱をどのように進化・変貌させたのか、
その道程と結果が一切の偽りなく書き込まれているように僕には思える。
彼らは、間違いなく、変わったのである。


『m-CABI』トラック・リストはこちら
2006年11月22日発売

●通常盤
SECL-458 ¥3,059(tax in)

●限定盤
SECL-456/7 ¥3,200(tax in)
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