増田勇一のライヴ日記【11】2007年8月24日(金)SHAME渋谷O-WEST

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フェイヴァリット・バンドの解散や活動休止といったものが音楽ファンにとってどれだけ大きなダメージになり得るかは誰もがよく知っているはずだが、同時に、そうしたバンドたちの再結成だとか再始動といったものが、常に両手を広げて歓迎できるものではなかったりするのもまた事実。その理由は実にさまざまだしケース・バイ・ケースなので簡単には説明できないし、ここでは言及せずにおく。が、単純に言うと、当事者たちがその顔ぶれで音楽することを本気で楽しんでいる事実さえリアルに伝わってくれば、僕は“蘇るもの、拒まず”なのだ。

▲『3RD eye BLINKS』
昨年6月に活動を再開したSHAMEもそんなバンドのひとつだ。今回観たのは、この8月初頭に発表されたニュー・アルバム、『3RD eye BLINKS』に伴うワンマン・ツアーのファイナル公演にあたるもの。ツアーとはいえ全4本というコンパクトなものだし、事実に忠実に書けば、この日の会場も超満員とは言い難い状況ではあった。が、軽く2時間を超えるそのライヴ・パフォーマンスの音楽的密度の濃さと言ったら半端ではなかった。

各自のソロ・パートが用意されているわけでもないのにこれほどの長尺なライヴになるのは、フロントマンを務めるCUTTの喋りが転がりだすとなかなか止まらないからでもあるが、突き詰めて言えば“いい曲”がたくさんあるからである。彼らはかつてのshame時代(そう、昔は小文字表記だったのだ)の看板曲たちも躊躇なく演奏するし、まだコアなファンの間でさえ咀嚼が足りないかもしれない最新作からの楽曲群も遠慮なくぶつけてくる。一体感を確約する大合唱必至系ポップ・チューンもあれば、アコースティックな響きを大切にした繊細な曲もあり、轟音系バンド顔負けのアグレッシヴな面もあれば、スノッブな音楽分析家たちを満足させそうなアヴァンギャルドさをも持ち合わせている。で、そうした雑多さが散漫さに繋がらないのは、言ってみれば「アタマにカラダが追いついている」からなのだろう。単なるアタマでっかちの“やればできるヤツら”ではなく、思考と実践とが一致した音楽を“実際にやってきたヤツら”だからなのだろう。

とにかく僕はこの夜のライヴを、一瞬たりとも退屈を味わうことなく楽しむことができた。そして、もはや懐かしく感じられて当然のはずの楽曲たちが今も新鮮に響くこと、イビツでありながらナチュラルで必然的な成り立ちをした最新作からの楽曲たちが、それらとまったく温度差のない状態で届いてくることに心地よい興奮を覚えた。

余談ながら、この夜、彼らはライヴ途中でどういうわけかMETALLICAの「Enter Sandman」を演奏した。もちろん本当は“どういうわけか”ではなく、ちゃんと理由がある。それを知りたい方は『3RD eye BLINKS』に収録されている「ROCK!!」を聴いてみて欲しい。さらにもうひとつ余談ついでに報告しておくと、この曲が演奏されることを期待しながら、僕はこの夜、METALLICAのTシャツを着て出かけた。ま、そんなことはどうでもいいのだが、どうでも良くないのが『3RD eye BLINKS』である。是非、ご一聴をおすすめしたい。かつての彼らを知っている人にも、まったく知らない人たちにも。

文●増田勇一
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