【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第20回 「『All Things Must Pass』とウォール・オブ・サウンド」

僕は、『Let It Be』でのフィル・スペクターの仕事は素晴らしいものだと思っています。もちろんそれが絶対だとは言いませんが、曲の良さをある意味では最大限に引き出しているとも思いますし、散漫だったと言われるセッションを、ここまで作品性・クオリティーともに高い作品にまとめ上げたのは見事としか言いようがないと思います。また『Let It Be』という作品がビートルズの作品の中でもとりわけ多くの人に聴かれているのは、その音楽の普遍性によるものだと思いますが、彼のプロデュースによって、それがよりわかりやすいものに仕上がっているのも事実だと思うのです。
また、前述の『Let It Be Naked』ですが、僕は幼い頃から一般的な(フィル・スペクターによってオーバーダビングの施された)『Let It Be』を聴いていたというのも大きいのかもしれませんが、彼のオーバーダビングを取り除いた『…Naked』には、新鮮さはあるもののやはり物足りなさを感じてしまいます(もちろんこれも素晴らしい作品であることは言うまでもありません)。もし当時この『…Naked』の状態で発売されたとしたらここまでの大衆性は得られなかったのではないでしょうか。やはり『Let It Be』があってこその『Let It Be Naked』だと思います。
さて、『All Things Must Pass』。『Let It Be』でフィル・スペクターの仕事を高く評価したジョージは、解散後初となるソロ・アルバムで彼をプロデューサーに起用しました。この作品でも“ウォール・オブ・サウンド”は健在です。特に驚いたのはA-2のジョージの代表曲「My Sweet Lord」のイントロでのアコースティックギターです。同じコード・カッティングを何本も重ねていて、アコースティックギターの壁を作っています。こんなサウンドはそれまで他に聴いたことがありませんでした。
しかし、僕はこの作品での“ウォール・オブ・サウンド”がどうしても好きになれませんでした。のっぺりとした平面的な音の印象で、せっかくのジョージの佳曲群と、豪華参加ミュージシャン達の素晴らしい演奏が、平坦で無機質に聴こえてしまったのです。大好きな内容の作品なのに、どうしても音が好きになれない…何とももどかしいものでした。『Let It Be Naked』が出たとき、僕は『All Things Must Pass Naked』こそ本当に出て欲しいと願ったものでした。

先日やっと手に入れた『All Things Must Pass』のオリジナル盤は、USオリジナル。本家はやはりUKオリジナルだと思いますが、ちょっと高すぎます…これもお金持ちになったら絶対手に入れるレコードリストに追加することにして、まずはUSオリジナルを手に入れました。これも決して安くはありませんが、UKの半値以下と言ったところでしょうか。ずっと探していましたが、これまたなかなか適当なものにめぐり合えず、先日やっと状態の良いもののセール品に出会って手に入れることができた次第です。
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